中庭のある家に憧れるけど、実際にはどんなメリットやデメリットがあるんだろう?
中庭のある家をつくるのに、知っておくべきことは何だろう?
など、未知への疑問はつきものですね。
この記事では、特に中庭を素敵につくるためのアイデアを建築の専門家と庭づくりの専門家に伺いました。
中庭とは、文字どおり建物や壁の間(中)の庭のことです。一戸建ての場合は、ロの字型やコの字型、またはL字型の建物や建物と外塀で囲われた庭を指します。「建物の形だけでなく、外壁なども含め、周りから見たときに、プライバシー性やセキュリティ面が高く確保された独立性のある庭について、中庭と言います」(窪江建築設計事務所・窪江健さん)。小さなサイズだと、坪庭と言われることもあります。
ちなみに、コートハウスの”コート”や”パティオ”も、それぞれ外国語で中庭を指す言葉です。それぞれの国の建築様式で芝生やタイル、噴水などイメージするものが違うかもしれませんが、意味は同じです。
中庭は、建物の形や外壁に囲まれることで生まれる庭なので、家の内と外がより密接になり、間取りプランに大きくかかわります。そのため、かなえるチャンスは注文住宅の新築や建て替え、大がかりな一戸建てのリフォーム時となります。中庭を希望する場合は、土地探しや建築会社選びなど、家づくりのスタート時点から伝えておくとスムーズです。どのような家にしたいか、中庭はどのように使いたいかなど、家と中庭は併せてプランナーに相談していきます。建築会社の方針により、中庭づくりまで請け負うかどうか対応はさまざまですが、少なくとも進め方は教えてもらえるはずなので、並行して進めましょう。
中庭があると、家の表面積が増えて開口部を設けやすくなり、光や風を家の中に取り入れやすくなります。一般的に、日本の住宅は日当たりを考えて南側の庭に面して大きな窓を配置することが多いものですが、奥まった位置では、日が差し込まない場所も出てきます。建物が中庭を囲むつくりなら、中庭に面した部屋にはまんべんなく光や風が入りますので、方位や周辺環境をあまり気にせずとも良くなります。開口部が増えるので、空間の開放感が増し、広く感じるのもメリットと言えるでしょう。
建物で囲われた中庭は、外を通る人の目を気にせずに過ごせる庭です。家からは見守りやすく、外からの目は届きにくいので、子どもの安全な遊び場として使い勝手がよい空間です。また、開口部が外向きでない分、家の中にいるときのプライバシー性も保たれやすくなるので、隣の家との距離が近い都心部では安心できる場所を確保しやすく、メリットが大きいプランです。
大きな開口部を中庭側に設ければ、隣家や通りに面した外側には小さな窓などでも十分な採光と通風を確保できるので、防犯面に優れます。建物がL字型などで外壁を高くして庭を囲う場合は、一度侵入されると中が見えにくくなってしまうため、壁の一部に穴が開いているデザインブロックやスリットを入れるなど、少し庭の様子がうかがえるような工夫をしておくと安心です。
庭に面する部屋が多く、家の中と外が近いので自然を身近に感じられます。家の床と中庭の高さや、床の素材の雰囲気を合わせておくと、ひと続きの空間のように広く使うことができます。セカンドリビングとして使うなど、家族の憩いの場や来客時のおもてなしに重宝します。
部屋が向かい合せになり、窓が大きいので、離れた部屋にいても家族の気配が感じやすくなります。一方で、外を挟むので、適度な距離感を持てるという面も。その時々でちょうどよい家族との距離感を選びやすくなりますので、生活時間帯に差がある二世帯住宅では、良い距離感をつくりやすいプランです。
まず、中庭がつくれるだけの土地の広さが必要になります。また、凹凸のない単純な形の家に比べ、ロの字型やコの字型の家は壁の表面積が広くなり、窓が増えるので、外壁代やサッシ代が高くなります。そのため、中庭のある家は、一般的な家よりも建築単価が高くなります。つまり、同じ予算で比較すれば家は狭くなり、同じ広さで比較すれば建築コストは高くつくということです。ただ、窓が多い分開放的になり広く感じますし、中庭自体を一部屋のように使えることを考えると、単純な形の家と同じ床面積でつくらなくても十分な満足感が得られることもあるでしょう。なお、建築コストは高い方から順に、ロの字型>コの字型>L字型となるので、予算と欲しい広さから、建物の形を相談すると良いでしょう。
窓が多いため、断熱性能は不利になります。住んでいれば慣れてしまう部分ではありますが、冷暖房効率が落ちる分、光熱費が上がることも考慮しておきましょう。
中庭を突っ切れば短く機能的な動線であっても、雨の日など家の中をぐるりと回らないといけない場合は、動線が長くなります。キッチン、洗濯機置き場、洗濯物を干す位置など間取りプランを練る際にはよく考えましょう。
塀で囲まれた中庭は、空気がとどまりやすく、奥の方は日当たりが悪くなりがち。湿気や熱がたまりやすく、水はけが悪くなるので注意が必要です。雨水を流しやすいよう勾配をつけたり、雨水を下水に流すための集水マスを増やすなど、排水設備をしっかり設けるようにしましょう。また、外壁の一部に隙間をつくり、湿気や熱がこもらないようにするのも有効です。
魅力いっぱいの中庭のある家ですが、このようにデメリットへの対策もいろいろと必要になります。予算と自分のしたい暮らしをきちんと伝え、プランをしっかり練って、満足度の高い「中庭のある家」を目指しましょう。
中庭は、家から愛でる場であり、内と外をつなぐ空間であり、外で過ごすためのスペースです。家との関係が密接で、役割が多い空間でもあります。
「中庭は、いわばコントロールされた自然ですが、手ごろなサイズ感で自分らしいつくり込みがしやすく、忙しい日常の中にちょうどよく自然を取り込めるので、ニーズがあります」(窪江さん)
例えば、タイル張りやウッドデッキの中庭は、一見無機質に感じるかもしれませんが、シンボルツリーを1本植えたり、ところどころに植物を配置すれば、少しのお世話だけでグッと自然を身近に感じられます。草むしりの手間もなく、手軽に自然を取り込むには良い方法でしょう。
中庭はオーダーメードなので、プランは家の数だけ。先輩たちの家づくりから、自分たちらしい中庭のヒントを見つけましょう。
中庭を憩いの場として使うなら、テーブルセットが置きやすいタイル張りやウッドデッキにするのも手。家事の書類整理や在宅ワークの気分転換などにも重宝します。来客が多い家なら、リビングの床と中庭の高さを同じくらいにしておき、素材の印象をそろえておくと、ひと続きの広い空間としておもてなし会場にも。また、家の中と外をひと続きの印象にすると、室内からの眺めも地続きになり、グッと広く感じるようになります。
子どもを外遊びに連れていくのが難しいときでも、家事や仕事をしながら見守れる中庭なら、安心して遊ばせることができます。子どもからも親の姿が確認しやすく、安心して遊べるでしょう。中でも、芝生の中庭は、見た目が美しく、心地よい草の感触も楽しめます。よちよち歩きの時期には転んでも安心ですし、地面にオモチャを広げたり寝転がったりして遊んでも、ドロドロに汚れることがないのもうれしいところです。
ロの字型など、外側に面した開口部を減らせる中庭のある家は、外部からの侵入経路や視線の入口が少ないので、安心・安全に過ごせます。また、周辺環境の影響を受けにくいのもメリットです。シンプルな外観は一見閉鎖的に見えるかもしれませんが、明るい家の中や中庭のとのギャップに、「ただいま」とほっとできる家となるでしょう。
中庭は家全体の一体感をもたらす共有の憩いの場でもありますが、外を挟むことで部屋を程よく分ける効果も期待できます。生活時間帯がずれやすい二世帯住宅なら、家族の気配を感じつつ少し独立した環境になる中庭のある家はさまざまなシーンに対応しやすい家と言えるでしょう。独立性を高めるなら、間に背の高い植物を配置すると自然と視線がさえぎられます。
中庭に接する空間は、リビングとは限りません。つくり込みがしやすい坪庭のような小さな空間では、室内から愛でることを目的に、思いきりこだわって設えるのも楽しいでしょう。特別な空間なら、中庭やテラスをバスルームとつなげたバスコートとして使うのもアイデアの1つ。入浴しながら中庭の景色を楽しめ、自宅にいながら非日常的で贅沢な気分を味わえます。また、開口部を大きく設けておけば、サッと換気できるのも便利です。
水を使った中庭のアイデアとしては、水盤やプールが挙げられます。水面にキラキラと光が反射して美しいだけでなく、気化熱で家に涼しい風が入るので、夏場に重宝します。また、プライバシー性が高い中庭は、プールをつくる場所としても適しています。ただし、常に管理しておかないと虫が発生する原因にもなりますので、ライフスタイルに合うかよく検討しましょう。
最後に、素敵な中庭をつくるために、どんなことを注意しておけばよいか、庭づくりの専門家に伺いました。
「さまざまな形がありますが、中庭に植物を取り入れる場合は、オープンスペースに比べ湿気がたまりやすいこと、地面まで光が届かないことを考慮して選ぶ必要があります。オリーブなど日差しや乾燥を好む植物は向きません。また、大きな木を取り入れたいと思っても、ロの字型など建物や開口部の形状により、木や材料を運び込めないこともあります。まずは、どのような中庭をつくりたいか考えておくと、搬入経路の確保なども考えやすく、イメージに沿いやすいと思います」(ミドラス・伊藤竜弥さん)
植物を取り入れた中庭をつくる際は、選ぶ植物で仕上がりが異なるので「葉っぱ中心にしたい」「木を植えたい」「日陰でも明るい印象にしたい」など、“どんなイメージか”、「四季の移ろいを感じたい」「花や実が成る植物が欲しい」など“どんな目的か”、「自分たちができる手入れはこれくらい」といった“ライフスタイル”など、要望や条件をプロにしっかり伝えて相談することが大切です。植物の世話がしやすいよう、中庭には水栓を設けておくとよいでしょう。
シダ類、クサソテツ、ホスタ(ギボウシ)、アジュガなど
花が咲く植物(ホスタ、ティアレラ、シャガなど)や斑入りのカラーリーフ(ヒューケラ、エゴポディウム、ラミウムなど)など
・花、紅葉、果実、落葉など、季節で変化するタイプ(ナツハゼ、マユミ、イロハモミジなど)
中庭は建物で囲まれた庭。どのようなプランにするか家づくりと一体で進めよう
中庭がある家は、優れた採光や通風、プライバシー性や防犯性が高いというメリットがある
建築費が高くなるなどデメリットもあるので、どんな暮らしがしたいのかをよく考えてプロに相談しよう