新築住宅への省エネルギー基準の義務付けを含む建築物省エネ法の法改正が2022年6月に国会で成立しました。
そこで、省エネルギー住宅とはどんな住宅のことなのか、法改正によって目指しているのはどういうことなのか、省エネルギー住宅のメリットやデメリット、省エネルギー住宅を建てるともらえる補助金や減税、さらに今注目されているZEHについても紹介します。
省エネルギー住宅とは、どのような住宅のことをいうのでしょうか?
実は省エネルギー住宅には明確な基準があります。最初にそれを知っておきましょう。
オイルショックを機に1979年に制定されたのが「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(略称:省エネ法)。この法律に則って、住宅の省エネルギー基準が定められてきました。現在は建築物省エネ法に移行しています。
省エネルギー住宅とはこの省エネルギー基準を守って建てられた住宅およびこの基準を上まわる性能の住宅のことです。
省エネルギー基準の内容は、断熱を大きな柱にしています。
外気に接する床、壁、天井(または屋根)、窓など開口部の断熱性を一定レベルに上げることで、家から逃げていくエネルギーを少なくし、外からの熱気をできるだけ遮断するのが目的です。
初めて省エネルギー基準ができたのは1980年で、現在から見れば不十分な厚さですが壁や床などに断熱材を装填(そうてん)することになりました。
その後、断熱材も厚くなり、窓に複層ガラスを用いる、夏場の日射を遮蔽(しゃへい)するなどの基準も加わりました。さらにエアコンや給湯など省エネ設備も基準に含めるなど何度かの改正を経て現行基準に至っています。
省エネルギー基準は現在まだ義務付けられてはいませんが、2025年以降には新築の際に義務化されることが決まっています。
それによって全ての新築住宅は省エネルギー住宅になります。
これから建てる人はそれを見越して、省エネルギー基準かそれ以上の性能をもつ住宅にするのが良いでしょう。
住宅性能表示制度は、住宅の性能を統一の基準で客観的に評価し、その結果を等級であらわす制度です。
耐震性や耐火性、耐久性など10種類の性能を評価しますが、省エネルギー性もその一つです。
現行の性能表示制度における断熱等級は、等級1から等級7まであります。
数字が大きくなるほど性能が高く、このうち省エネルギー基準に相当するのが等級4です。
つまり、2025年までに省エネルギー基準が新築住宅において義務化されると、現在の等級4が新築住宅の最低基準になります。
性能表示制度の断熱等級は以下のとおり。
等級7 | 2022年10月1日施行 |
等級6 | |
等級5(ZEH水準の断熱性) | 省エネルギー基準が義務化されると、等級1~3は新築では不可となる |
等級4 (省エネルギー基準相当) |
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等級3 | |
等級2 | |
等級1 |
長期優良住宅は国の認定制度に基づく住宅です。
耐久性や耐震性など住宅を長持ちさせる認定基準となっていて、省エネルギー性も基準の一つとなっています。
省エネルギー基準は断熱など省エネルギーだけの基準ですが、認定長期優良住宅は住宅の幅広い性能を含むものになっていて、減税などの優遇措置が適用されます。
長期固定金利の住宅ローン【フラット35】には金利が一定期間低くなる【フラット35】Sも用意されています。
【フラット35】Sは省エネルギー性、耐震性、バリアフリー性、耐久性・可変性の4つの性能の中から1つ以上の基準を満たす場合に利用ができます。
省エネルギー性については省エネルギー基準を上まわる性能が必要です。
性能によって金利が下がる期間および金利に差があるので、詳しくは【フラット35】のホームページをご覧ください。
省エネルギー住宅は床・壁・天井(屋根)に断熱材を入れ、開口部も複層ガラスや断熱ドアで断熱するのが基本です。
断熱性の高い素材で覆うことで、住まいを魔法瓶のような保温性の高い空間に変えます。
エネルギーロスが少ないので(つまりそれが省エネの所以です)、冬は暖房効果が高く、夏は冷房効率が良く、ともに快適に過ごせます。
窓を断熱することで、冬の寒い日でも窓辺付近が冷たくならず、空間を広く有効に使えるというメリットもあります。
また、悩ましい結露対策にもなります。サッシやガラス、北側の壁の結露も十分な断熱によって防ぐことができます。
家の中の温度差が少なくなるのもメリットの一つで、部屋から廊下に出たときの寒さに悩まされず、ヒートショック(※)を予防して健康被害のおそれを少なくできます。冬場お風呂に入るときも安心です。
※お風呂やトイレなど、家の中の急激な温度差より、血圧が大きく変動し、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす現象のこと
以上のようにメリットの多い省エネルギー住宅ですが、デメリットはあるのでしょうか?
しっかり断熱を行った省エネルギー住宅は一般的に建てられるようになっているので、それによって建築コストが大きくアップするようなことはありません。
しかし、省エネルギー住宅を一歩進めて、太陽光発電や蓄電池などのエコ設備を搭載するようになると、設備導入コストがかかってきます。
省エネルギーにつながる設備はランニングコストを削減してくれますが、経済的メリットと導入時のコストのバランスをよく検討する必要がありそうです。
また、断熱施工や日射遮蔽などをきちんと行うには高い技術力や経験が必要なので、会社を選ぶ際には、省エネルギー住宅の実績が豊富な会社を選ぶ必要もあります。
2025年までに義務化される省エネルギー基準が省エネルギー住宅の最高峰かというと、そんなことはありません。
実は省エネルギー基準を上まわる基準がすでにあります。
「認定低炭素住宅」は国の認定基準があり、断熱性能と一次エネルギーの消費量が省エネルギー基準を上まわる住宅です。
また「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」は、省エネルギー住宅に太陽光発電など創エネルギー設備を搭載することで、家庭で使う一次エネルギーの消費量を差し引きゼロにする住宅です。
ZEH住宅は、断熱性の向上や高効率な給湯などの設備を用いることで、省エネルギー性能が認定低炭素住宅をさらに上まわる性能にすることが基本。それに加えて太陽光発電などの創エネルギー設備を導入してつくります。
なお、これらの省エネ基準より上位にある基準もより省エネ性の高い方向に引き上げていく方針です。
ZEHは省エネルギー性能を引き上げた上で、太陽光発電など創エネ設備を搭載し、HEMS(ホーム・エネルギー・マネージメント・システム)を活用して消費エネルギーを最適化し、エネルギーゼロまたはゼロ以下を目指す最先端のスマートハウスでもあります。
省エネルギー住宅は国の施策に則った住宅なので、国からの補助金や、減税制度もあります。
また、地方自治体でも独自に補助・助成を行っているケースも多いようです。
ZEHにはスタンダードなZEHとより性能を上げたZEH+(プラス)などがあり、以下のような補助金が用意されています。
※予算に上限があります
対象 | 新築住宅の建築・購入 |
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補助額※ | 55万円/戸(設備加算あり) |
対象 | 新築住宅の建築・購入 |
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補助額 | 100万円/戸(設備加算あり) |
国が地球温暖化対策の一環として進めているLCCM住宅(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス住宅)は、ZEHを一歩進めて、建築から廃棄まで住宅のライフサイクルを通じてCO2 の収支をマイナスにする住宅のことです。
LCCM住宅の補助金は以下のとおりです。
補助額 | 最大140万円/戸 |
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住宅ローン減税(住宅ローン控除)は、年末のローン残高の0.7%が13年(新築住宅・買取再販住宅)、10年(既存住宅等)にわたって控除される制度です。
控除の対象になる年末ローン残高の上限額が住宅の性能ごとに定められていて、性能が高くなるほど限度額が増えます。2024年の税制改正では、新築住宅等を購入する場合の子育てファミリーと30歳代までの夫婦世帯の控除額が上乗せされることになりました。
一方、一定の省エネルギー基準に適合しない新築住宅は、2024年7月1日から住宅ローン控除の対象外となります(2023年12月末までに建築確認を受けた住宅を除く)。
以下は、新築購入した新居に、2024年1月1日~2025年12月31日までに入居する場合の住宅ローン控除の控除額です。
対象と控除期間 | 住宅の種類 | 子育て世帯・若者夫婦世帯(※1) | その他の世帯 |
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新築住宅〈13年〉 買取再販住宅(※2) |
長期優良住宅 低炭素住宅 |
5000万円 | 4500万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4500万円 | 3500万円 | |
省エネ基準適合住宅 | 4000万円 | 3000万円 | |
その他の住宅 | 新築住宅/0円(※3) 買取再販住宅/2000万円(※4) | ||
既存住宅〈10年〉 | 長期優良住宅 低炭素住宅 ZEH水準省エネ住宅 省エネ基準適合住宅 |
3000万円 | |
その他の住宅 | 2000万円 |
省エネルギー住宅の優遇税制はリフォームでも実施されています。
既存の住宅を省エネルギー基準レベルに断熱性を上げるリフォームを行った場合、リフォーム減税が適用されます。
最大控除額は62.5万円(太陽光発電を搭載する場合は67.5万円)。
制度の期限は2025年12月31日まで。
さらに固定資産税の減額措置も受けられます。
家屋120m2相当分の翌年分の固定資産税が3分1減額されます。
制度の期限は2026年3月31日まで、
省エネルギー住宅の新築やリフォームについては、地方自治体でも独自に助成を行っているケースがあります。
例えば神奈川県横浜市では、高水準の省エネルギー住宅の新築やリフォームに対して補助金を出しており、その額は新築では最大100万円となっています。
※2024年度以降は未定
リフォームについて東京都では、高断熱窓への改修に対して最大100万円/戸、高断熱ドアへの改修に対して最大16万円/戸、太陽光発電の搭載に対して15万円/kW(3kW以下の場合)などの補助金を出しています。
※2024年度以降は未定
お住まいの地域の役所に問い合わせるか、ホームページを確認してみましょう。
2025年までに省エネルギー基準が新築住宅に義務化され、基準を下まわる住宅は建てられなくなる
省エネルギー基準を上まわる性能基準もできて、日本の家の省エネルギー性能はますます高くなる見込み
省エネルギー住宅の新築やリフォームには国や自治体からの補助金や減税制度がある