住宅にはさまざまな設備があります。家を新築する際は、キッチンや浴室などの水まわりのほか、空調や電気など、数多くの設備について計画をしなければなりません。住まいに導入してから後悔しないためにも、知っておきたい、それぞれの設備の耐用年数や、選び方のポイントについて、生活デザイン設計室 サンク(一級建築士事務所)の古屋茂子さんに伺いました。
普段何気なく使用している住宅の設備ですが、その一つ一つが日々の暮らしを支える大事な役割をもっています。まずは住まいにはどのような設備がそなわっているのか見ていきましょう。
水まわり | システムキッチン | 調理台、シンク、コンロなどが一枚の天板で一体化したキッチン |
---|---|---|
システムバス | 浴槽、床、壁、天井などセットで製造したものを組み立てた浴室 | |
洗面化粧台 | 洗面ボウルや水栓、コンセント、鏡、照明、収納などを備えた設備 | |
トイレ | 住宅のトイレでは従来のタンク式とタンクのないタンクレス式が一般的 | |
給湯機器 | 水をお湯にして供給する機器。熱源はガス、石油、電気などがある |
居室 | 冷暖房機器 | エアコン、床暖房など |
---|---|---|
換気設備 | 換気扇や換気システムなど室内の空気を入れ替える設備 | |
電気設備 | 照明器具のほか、コンセントやスイッチ、分電盤など | |
建具 | 開口部に設けられた戸や窓、ドアなどとそれを支える枠など |
玄関 | 玄関ドア | 開き戸や引き戸などがあり、玄関錠も設置される |
---|---|---|
インターホン | 来訪者が室内の人の呼び出しなどに使用する通話装置 | |
その他 | 太陽光発電・蓄電システム | 太陽光で発電した電力を蓄電池などに充電し、家庭内に電気を供給するシステム |
エクステリア | 門扉、ポスト、フェンスなど |
水まわり周辺のシステムキッチンやシステムバス、洗面化粧台やトイレ、また居室内の冷暖房機器などは、住宅の設備といってすぐに思い浮かぶものかもしれません。そのほかにも、玄関まわりやエクステリアまで、住宅には実にさまざまな設備がそなわっています。どこまでを住宅設備と捉えるかは明確な定義はありませんが、大きなショールームなどでは屋根材や外壁などの建材まで展示されているところもあります。
住宅の設備を選ぶ際、まずはカタログやインターネットで予算に合わせて気になるデザインや機能のものを探すことが多いと思いますが、ショールームに足を運ぶと、実際の設備を見たり触ったりして確認することができます。
「ショールームは実際に設備を見て、確認をする場所です。ショールームに行くと、標準的な仕様から高機能なもの、豪華な最新設備までありとあらゆるものが展示されています。そのため、テンションが上がり、実際に自分の家に合うものを確認したり、選んだりするのがおろそかになってしまうこともあります。そもそも、気に入った設備でもサイズが合わなければ導入することはできないので、自分の家に取り入れられる設備のサイズや予算を把握した上で、見学に行くのがおすすめです」(古屋さん、以下同)
・LIXIL ・TOTO ・Panasonic ・クリナップ ・タカラスタンダード ・ウッドワン ・DAIKEN ・YKK |
「大手の住宅設備・建材メーカーのショールーム以外にも、アドヴァングループやサンワカンパニーなど、輸入商材などを取り扱う商社のショールームもあります。また、主要都市部以外など、各メーカーのショールームがない地域に住んでいる場合は、住宅展示場などでも実際の設備を体感できるので、設備選びの参考になると思います」
カタログを見たり、ショールームへ足を運ぶと新居への夢がふくらむものですが、注文住宅を建てる場合でも、基本的な仕様が決まっていて、設備などは決められた範囲内で選ぶというケースも少なくありません。
「“注文住宅”といっても、依頼した建築会社の商品の中で設備がいくつか決められていて、その中から設備を選ぶケースのほうが多いかもしれません。また、いわゆるフルオーダーの注文住宅の場合は好きなものを選ぶことはできますが、予算や優先順をヒアリングし、希望条件に見合ったものを絞って、選択肢をご提案することも少なくありません」(古屋さん、以下同)
カタログやショールームで気になる設備があったとしても、依頼する工務店やハウスメーカーによっては新居に導入できないこともあります。どうしても取り入れたい設備がある場合は、早い段階で相談をして、導入が可能かどうか確認しておきましょう。
どんな設備も、いずれは古くなり、故障したタイミングなどで交換が必要になります。どの位の期間使用できるかは使い方や使う頻度、メンテナンスによっても異なりますが、国税庁の「主な減価償却資産(時間の経過によって価値が減少する資産)の耐用年数表」では、建物付属設備の電気設備や給排水、衛生設備は15年とされています。
減価償却資産の耐用年数がその設備の寿命というわけではないため、耐用年数が15年といっても、そのタイミングで必ずしも大掛かりな設備のリフォームが必要になるわけではありませんが、やはり20年~30年経過すると設備のリフォームを検討するケースも少なくありません。キッチンや浴室全体のリフォームになると100万円単位での支出が発生するため、リフォームに備え、費用を準備しておきましょう。
設備ごとに交換のタイミングやコストなどは異なります。まずは主な水まわりの設備について、それぞれのポイントを見ていきましょう。
「システムキッチン全体のリフォームを考えるのは20年、30年というタイミングだと思いますが、ビルトインの食洗機やコンロなど、一部分だけ故障することもないとはいえません。一部分だけ交換したいという場合は、同等品でメーカーの取り扱いがあれば交換は可能ですが、あまり古くなってしまうと幅のサイズが合わなかったり、部品などが製造されていなかったりすることもあるため、交換ができないケースも少なくありません。また、最新のものに交換したいという場合も、サイズの問題で対応できない場合が考えられます」
また、システムキッチンの価格については扉の面材などが異なるだけでも価格は大きく左右されるため、スタンダードなものとハイグレードなものでは価格に幅があります。気に入ったデザインや機能のものがあると予算アップしがちな設備ではありますが、住まいづくり全体の予算とのバランスを考えて選ぶのがおすすめです。
浴室もキッチン同様、豪華な設備などをそなえたハイグレードなシステムバスは、価格がスタンダードなものの数倍になることもある設備です。
また、リフォームや交換については、システムバスは浴槽や床、壁、天井などをセットで製造したものを組み立てた浴室のため、不具合が生じた場合は浴室全体のリフォームを検討することになります。
「システムキッチンと同様、システムバスについても20~30年程度は問題なく使用できると思います。システムバスについては各パーツがその浴室のサイズに合わせてつくられたものなので、蛇口など、部分的な交換を行うケースはあるかもしれませんが、例えば浴槽だけを交換するというのは難しいと思います」
浴室全体のリフォームを検討するほどではないけれど、浴槽の汚れや傷が気になる場合は、塗装などの方法で対応する場合もあります。
住宅のトイレではタンク式のものと、タンク部分のないタンクレス式のものが一般的です。また、タンク式の場合もタンクと便器、便座など、それぞれのパーツが組み合わさっている分離型と、すべてのパーツが一体となっている一体型があります。
「タンク式のものでもタンクレス式のものでも、節水や抗菌、オート洗浄など、さまざまな機能をそなえた製品が販売されていますが、多機能なものほどやはり価格は高くなります。
尚、タンクレスはすっきりとしたデザインで省スペースですが、手洗いがないため、手洗い場をつけるスペースが必要になります。また、洗浄にはある程度水圧が必要になるため、2階以上の上層階など水圧が低い場所には設置できないこともあります。
また、すっきりとしたデザインが好みの場合は、タンク式でもタンク一体型トイレがお手入れもしやすくおすすめですが、一体型はすべてのパーツが一体となっているため、ウォシュレットが壊れてウォシュレットだけ交換したい場合も、部分的な交換ではなく、全体で取り替える必要があります(※)」
(※)品番によっては部分的な交換も可能な場合がある
設備概算工事費 一式(円) |
キッチン | 浴室(一坪程度) | トイレ | 洗面 |
---|---|---|---|---|
ハイグレード | 145万円 | 185万円 | 40万円 | ー |
スタンダード | 100万円 | 95万円 | 30万円 | 30万円 |
水まわり以外にもさまざまな設備がありますが、光熱費にも影響が大きい冷暖房機器や太陽光発電についてもポイントを見ていきましょう。
床暖房は熱源の方式に温水式と電気式の2種類があり、特徴が異なります。温水式は床下にパネルを設置し、そこに温水を循環させて部屋を暖める方式で、水を温めるのにガスや電気などを用います。一方、電気式の場合は電気を床の仕上げ材と一体化した電熱線に通して暖める方式です。
「初期費用を抑えられるのは電気式ですが、光熱費が高くなるため、ランニングコストは温水式よりもかかります。立ち上がりは早いので、小さな面積で短時間の使用を考えている場合に向いています。
一方、温水式はガス給湯器などの熱源機や配管部材が必要になるため、電気式よりも導入費用が高くなりますが、ランニングコストは電気式よりも抑えられるので、リビングなどで長時間使用したい場合は温水式がおすすめです」
エアコンについては、新築時に部屋の広さや数に合わせて一度に購入するため、台数が多ければ、その分費用もかさむ設備です。また、同時に購入するため、交換のタイミングが一度に重なる可能性もあります。
「エアコンは後から増やそうと思っても、電気の容量が足りなかったり、設置するためのエアコン用スリーブ(室外機と接続するための配管を通す穴)やコンセント、室外機の置き場がないと難しいため、新築する段階で、どこに何台置くのか、きちんと計画しておきましょう」
また、エアコンではなく、家の中の空気を丸ごと調整する全館空調を採用する場合もありますが、その場合は住まい自体の気密性、断熱性を高くしておく必要があります。
「気密性、断熱性が低い家に全館空調を導入してしまうと、ランニングコストが高額になります。全館空調を検討する場合は、かならず気密性、断熱性も考えた上で、自分の住まいに適したものかどうかをよく考えて導入しましょう」
エコな暮らしにつながる太陽光発電は、近年住宅に取り入れられることの多くなった設備の一つです。昔から使われていた太陽熱温水器は、太陽熱で、タンクに貯めた水をお湯にするシステムですが、太陽光発電は太陽光を電気に変えて利用するシステムです。
「太陽光発電については、補助金などを利用すれば初期費用はゼロで導入できる地域もあります。住まいの電力をまかなえ、余剰分は売電することもでき、蓄電池に電気を貯めておくことで、停電時などの安心にもつながります。また、発電モニターを設置すると電気の使用状況などを目で見て確認できるため、省エネの意識も高まると思います」
住宅設備には通常1年のメーカー保証が付いていますが、保証期間の延長を検討する人もいます。
「初期の故障などはメーカーの1年保証がついているので対象となります。有料で保証期間を延長するサービスもありますが、通常不具合が生じるのは何年も先です。また、一般的に延長する期間が長くなる程、料金も高くなります」
実際に交換が必要になるタイミングまで保証期間を延長すると、通常、その分費用も高額になるものです。保証期間を延長するかどうかは自分なりの“安心”と“コスト”のバランスを考えた上で、冷静に判断するのがいいでしょう。
また、設備の交換は10年、20年、ものによってはそれ以上先のことではありますが、いずれ交換費用などは必要になります。同じような時期に、一斉に修理や交換が必要になることもあるので、ある程度備えとして積立などをしておくと安心です。
住宅設備だけでなく、住まいづくりにはさまざまな費用がかかります。住宅設備は日々進化しており、便利な機能をそなえたものは魅力的なものです。しかし、やはり機能性が高いものは標準的なものよりも価格が高くなります。自分には必要のない過剰な機能でコストアップしていないか、また使い続けていくことができるランニングコストかどうかという観点は、設備選びにおいて後悔を防ぐ大事なポイントです。
「家を建てる時は限られた予算の中で、自分たちの暮らしに必要な“価値”を選択しなければなりません。便利な機能でも利用しないのであれば、予算をアップしてまで付ける必要はありませんし、さらに、床暖房など、ランニングコストのかかる設備については出費を想定しておかないと、使わなくなってしまうこともあります。
また、どんな設備もいずれ寿命を迎えることを考えると、玄関や建具など、建物自体に関係する交換しづらいものについては優先順位を上げて、比較的簡単に交換できるようなところは優先順位を下げておくというのも良いと思います」
暮らしの快適性を左右する住宅設備ですが、選び方次第で家の予算も、暮らしにかかるコストも大きく変わります。機能やデザイン性で選ぶことももちろん重要ですが、設備の寿命や交換費用などの視点を加えて検討しておくと、より満足度の高い住まいになりそうですね。
水まわりのほか、電気や空調など、住宅にはさまざまな設備がある
耐用年数は設備によって異なるが、キッチンやバスは20~30年程度は使用できることが多い
住宅設備の寿命に備え、修理や交換費用を考えておくことは大事