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お部屋を借りようと不動産検索サイトを見ていると、目につくのが「敷金・礼金」という文字。初めてお部屋を借りる人は「敷金って何?」「何のために払うんだろう?」と疑問に思うはず。そこで、年間240組の部屋探しを成功させている(株)アエラス船橋店の望月裕貴さんに取材。敷金・礼金の意味や相場から、気になる地域差、敷金・礼金ゼロ物件がある理由やメリット・デメリット、注意すべきトラブル事例までをわかりやすく解説します。
賃貸でお部屋を借りるときには、「初期費用」が必要になります。敷金・礼金もそうした初期費用の一部です。ただ、それぞれの意味合いが異なりますので、ひとつずつ解説していきます。
「敷金」は、契約期間中に滞納があった場合の家賃債務や、部屋を損傷させた場合の修理費の担保として、先に預けておくお金のことです。契約が終了して部屋を退去する際、敷金の額から「家賃の滞納分や借主に責任のある損傷の修理費など(賃貸借期間に生じた借主の金銭債務の額)」を差し引いた金額が返ってきます。家賃1カ月分が目安ですが、最近は敷金がゼロの物件も増えてきています。
2020年の民法改正で、「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義されました。つまり敷金とは、部屋の貸し借りの際に借主が負うことになる金銭債務(家賃の滞納など)を担保するため、借主が貸主に支払うお金、ということです。
改正後の民法では、原状回復義務の範囲について、通常の使用によって生じた損傷(家具の設置による床・カーペットのへこみや設置跡、テレビ・冷蔵庫等の電気ヤケ、破損・鍵紛失のない場合の鍵の取り替え等)については原状回復義務を負わないことが明記されました。そのため、家賃の滞納やタバコのヤニ・臭い、飼育ペットによる傷や臭いなどの借主に責任のある損傷の修理費を差し引いた敷金は、原則として返ってきます。
※2020年4月に施行された「改正民法」(第622条の2)なお、改正民法が適用されるのは、原則として「施行日(2020年4月1日)より後に締結された賃貸借契約」となり、それ以前の契約については改正前の民法が適用される。
「礼金」は文字通り、部屋を所有する大家さんに対して、お礼の意味として支払うお金のこと。敷金と違って、退去時に返金されることはありません。こちらも家賃1カ月分が目安ですが、最近では礼金なしの物件も増えています。
「礼金は、賃貸のお部屋が少なかった時代に、大家さん(賃貸人・貸主)に対して『貸してくれてありがとう』という気持ちで払っていたものです。でも、お礼の気持ちなのに、あらかじめ払う金額が決まっているのもヘンですよね。賃貸物件が増えた昨今では、礼金の意味合いが弱まっているのだと思います」(アエラス船橋店 統括課長 望月裕貴さん。以下同)
敷金 | 礼金 | |
---|---|---|
お金の意味 | 貸主への金銭債務(「家賃の滞納」や「部屋を損傷させた場合の修理費」など)を担保するため、借主が支払う | 大家さんにお礼の意味で払う |
返還の有無 | 契約が終了して退去する際、それまでに生じた金銭債務を差し引いた分が返還される | 戻ってこない |
相場 | 家賃1カ月 | 家賃1カ月 |
最近よく見かける“敷金・礼金ナシ”のお部屋。実際に、望月さんが担当している千葉エリアでは、敷金・礼金ナシのお部屋、いわゆる「ゼロゼロ物件」が増えていて、ひとり暮らし向けの部屋の約半分がゼロゼロ物件だといいます。
ただ、どのエリアでもゼロゼロ物件が増えているかといえば、そうではありません。東京では敷金・礼金としてそれぞれ家賃の1カ月分支払うことが一般的なのだそう。一方、関西エリアでは、現在は減りつつあるものの、敷金と似た性格の「保証金」という名目のお金がかかることもあるといいます。
言葉(方言)や文化などが違うように、同じ日本であっても地域によって不動産の商慣習は異なります。前述した「保証金」は関西地方や中国地方、九州などの一部地域でよく使われるもので、敷金と完全に同じではなく、“お礼”のような意味合いが込められています。このほか、関西地域には「敷引き」というお金も。これは家賃滞納分や退去時の原状回復費用として保証金から差し引かれる費用で、返金はされません。
こう聞くと、「関東のほうが初期費用を安く抑えられそう」と思ってしまいますが、一概にそうとは言えません。関西をはじめとする西日本エリアでは2年ごとの更新料がないケースもあり、長く住み続けることを考えると東日本よりもお得かもしれません。
「現在では、インターネットの普及で情報が集めやすくなり、関東と関西、地方による商習慣の違いはなくなっています。ただ、地域によってお金の名目や意味合いが異なることも。まずはたくさん物件を見て、自分が住みたい地域の家賃や初期費用の相場を知るとともに、不明な意味合いのお金については不動産会社に質問するのがいいでしょう」
新生活にかかる費用を抑えられる敷金・礼金「ゼロゼロ物件」はとても魅力的。では、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。事前に知っておくべきデメリットもあわせてチェックしていきましょう。
これまでお話したように、ゼロゼロ物件とは敷金も礼金もいらない物件のことです。
「例えば千葉エリアで部屋を探すとなると、東京まで通勤通学時間がかかり、1回2回と乗り換えが発生することがあります。そのため、敷金・礼金があるとなかなか借り手が見つかりません。大家さん・不動産会社からすれば長期間の空室は避けたいもの。そのため、少しでも早く借りてほしいという事情で、敷金・礼金をゼロゼロにしているのです」
一見、借主にばかりメリットがあるように思えますが、実は貸主にとってもメリットがあるのです。
ゼロゼロ物件に住む最大のメリットは、やはり初期費用が大幅に安くなること。例えば、月8万円の物件に住むとして敷金・礼金が1カ月分かかると、初月の家賃と合わせて24万円もの出費になります。その点、ゼロゼロ物件であれば約16万円の節約に。「初期費用を抑えて安く引越したい」「短期間で引越す可能性がある」という方には特にうれしい物件なのです。
「ゼロゼロ物件だからといって、ココがダメというデメリットは、はっきり言ってありません。初期費用が抑えられるので、住みたい部屋に住めるメリットのほうが大きいと思います」と望月さん。ただし、敷金・礼金がゼロだからといっても、全く初期費用がかからないワケではないことは知っておきましょう。
「敷金と同じように、原状回復費用に充てるお金として、部屋のクリーニング代を設けているところがほとんど。目安は1m2当たり1000円程度ですね。例えば、25m2のお部屋なら2万5000円だと考えておくといいでしょう。また、エアコンがあればクリーニング代がかかり、1台7000~8000円程度。結果として、部屋のクリーニング代として、敷金1カ月程度のお金はかかると思ってください。個人的には敷金よりもクリーニング代のほうが、内訳がしっかり明示されているので、安心してお借りいただけると思っています」
とはいえ、敷金・礼金ゼロゼロをマスト条件として探していると、選択肢が少なくなるのは事実。特に人気エリアでは、ゼロゼロ物件自体が少数なので、物件が見つからないこともありそうです。
また、ゼロゼロ物件は、初期費用がかからない分、家賃が相場よりやや高めという傾向も。周辺物件の家賃相場も確認したうえで、トータルでお得な物件を見極めましょう。
「預けておく」敷金は、本来何もなければ戻ってくるものと考える人が多いよう。ところが実際は、退去時のハウスクリーニングやクロス張替えなどの原状回復費用として引かれ、敷金が返金されない、敷金を上回る金額を請求されたというケースもあるようです。実際に、国民生活センターに寄せられた相談内容を見てみましょう。
※国民生活センターHP「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」より
このようなトラブルを未然に防ぐには、契約前に書類の内容をよく確認することが大切。特に禁止事項、修繕に関する事項、退去する際の費用負担に関する事項や、特約について必ず確認しておきましょう。
難しい言葉が並ぶ賃貸借契約書。つい流し読みしてサインをしそうになりますが、理解せずに契約を結ぶのはのちのトラブルのもとになります。特に、注意して確認したいのが、以下のポイントです。
なかでも、禁止事項や違約金は入居後によくトラブルにつながる要素です。部屋の修繕やペット飼育、楽器の演奏、同居人の増加など、細かな部分の規定まで確認しておきましょう。
また、ゼロゼロ物件において、特に注意したいのが「定額クリーニング代」。定額をうたっているものの、含まれるクリーニングの内容がまちまちで、なかには退去時に想定以上(敷金1カ月分以上)の金額を請求されるケースもあるそう。契約書を読み、どこまでが「定額クリーニング代」に含まれるのか、不明な部分があればしっかりと内容を書き込んでもらうと、のちのちのトラブル防止になるといいます。
上の実例にもあったように、退去時の清算に関しても注意が必要。借主は「原状回復義務」を負いますが、通常損耗や経年変化、借主に責任がない損傷についてはその対象ではありません。清算内容をよく確認し、 納得できない点は貸主側に説明を求めましょう。また、「入居時の物件の記録」や「入居中のトラブルの即時相談」も退去時のトラブルの予防になります。
では、敷金・礼金(もしくはクリーニング代)は誰にどのタイミングで支払うのでしょうか。
敷金・礼金は、物件の契約を結んでから入居までの間に支払う必要があります。
「敷金・礼金は入居前の賃貸借契約時に、不動産会社を通じて支払うのが一般的です。部屋を借りたいけれどまとまった貯金がない場合は、クレジットカード払いに対応している不動産会社があるので、担当者に相談してみましょう」
事前相談なしに入金が遅れると、信用問題にも関わり、場合によっては希望する物件に入居できなくなる可能性もあります。支払い期日もしっかり確認しておきましょう。
クレジットカード払いであれば、分割払いなど支払い回数を選ぶこともできるほか、ポイントも貯められて一石二鳥。賃貸の初期費用は数十万円以上かかるケースが多いので、一挙にポイントが貯まります。クレジットカード決済が可能な物件も増えつつあります。
クレジットカード利用について詳しくはこちら
賃貸の初期費用や家賃がクレジットカード払いできるって知ってる?
また、敷金・礼金ナシのゼロゼロ物件であれば、その他の初期費用(前家賃や仲介手数料、火災保険料など)だけで済むので、負担はぐっと軽くなります。
なお、不動産会社は賃貸借契約の成立をサポートする宅地建物取引業者(宅建業者)をさしますが、2020年成立の賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)に基づいて賃貸住宅管理業者が敷金などを預かる場合もあります。
「賃貸では、部屋を借りたい人が集まるハイシーズン(1月~3月)は敷金・礼金がかかる物件が増え、逆に人が集まりにくい夏などは、敷金・礼金ナシのゼロゼロ物件になることも。貯金がないけど引越しを考えている人は、部屋探しの時期を少しずらすのも賢い手ではないでしょうか」
敷金・礼金の初期費用が抑えられるのであれば、引越しもぐっとしやすくなります。「更新が近づいてきたけど、思い切って引越したいな」「もっと広い部屋で暮らしたいな」-敷金・礼金を抑えた物件であれば、そんな思いも気軽にかなえられそうです。
敷金とは、貸主への金銭債務を担保するため、借主が支払うお金
礼金とは、部屋を所有する大家さんに対して、お礼の意味として支払うお金
不動産の商慣習には地域差がある。西日本では「保証金」や「敷引き」という制度も
借り手が見つかりにくいエリアでは、敷金・礼金がかからない「ゼロゼロ物件」に出会えることも
敷金・礼金は一般的に入居前の賃貸借契約時に不動産会社に支払う
敷金・礼金のクレジットカード払いは支払い回数を選べるうえ、ポイントも貯まる
●監修
中城康彦
明海大学 不動産学部 教授
一級建築士・不動産鑑定士・FRICS(UK)・博士(工学)
建築設計、不動産鑑定評価、不動産コンサルティングの実務を経て大学教員になる。著書に『建築プロデュース-土地・建物・権利・価値を総合的に考える-』(市ヶ谷出版社)などがある。