「ホテル代も馬鹿になりませんし、仕事の度に何度も行き来するのもしんどかった。ある程度まとまった日数、こちらに滞在できる場所があればいいなと思っていました。そんなとき、川崎市の大家仲間が所有する空き部屋を『DIYリフォームすることを前提に』安く貸してもらえることになったんです」（山岸さん）

それがこの部屋。もとはマンスリーマンションだったが当時は空室が目立ち、オーナーにとって、やや持て余し気味の物件だったようだ。もうすぐ法定耐用年数を迎える物件ということもあり、数年以内には建て替えか取り壊しを考えないといけない状況。ならばと、大家さんは取り壊しまでの数年間、ここを使って何か面白いことができないか探っていたという。そのひとつが、部屋づくりに関して何かしらのアイデアを持った人にこの部屋を相場より安く貸すこと。自由にカスタマイズして暮らす楽しさを外に発信してもらい、かつマンション自体のブランディングにもつながれば御の字と考えていたそうだ。

「12月は全体のコンセプトと壁紙を決めたくらいで、本格的にこっちに住んで作業を開始したのは1月の上旬あたりからですね。追い込まれないとやらないタイプなので、2月上旬をゴールに設定し、そこに向けて1カ月で仕上げようと決めました。ただ、札幌での大家業もありますし、DIY自体未経験なので一人ではとてもムリ。大家さんの知人のつてを頼って、いろんな人に協力を仰ぎました」（山岸さん）

例えば、床張りや腰壁の造作は近隣のDIY工房「中原工房」（神奈川県川崎市中原区）にサポートを依頼。家具づくりは中原工房で木材のカットなどの下ごしらえを行い、塗装や組み立てはワークショップとしてイベント化することで人手を賄った。SNSで参加者を募ったところDIYに関心のある20人弱が集まり、ダイニングテーブル、イス、冷蔵庫ラックを1日で完成という。

「大家さんや妹のほか、川崎の大家仲間にもかなり助けてもらいました。大家さん自身が建材や工法にも詳しいですし、リフォームの細かいところまで熟知されている方なので心強かったです。私が雑誌やネットから拾ったイメージを大家さんに伝えて、それを形にするアイデアをいただきながら進めていった感じですね。私のぼんやりしたイメージに対し、具体的なアドバイスをもらえたのは有難かったです」（山岸さん）

「大家さんとのお約束通り、私がここでの生活を発信していくことで、DIYでこんなことができるんだと多くの人に感じてもらえる場になればいいなと思っています。ここに来てくれたお客さんには皆さんから教わったDIYのノウハウを実物を見せながら伝えることもできますし、そういう意味ではカスタマイズ部屋のショールーム的な役割も果たしているのかも。そのためにも、この部屋ではあまり生活感を出さず、キレイに住んでいきたいですね」

DIYの作業中には大変なこともあったが、トライしてみれば思ったよりもハードルは高くなかったと振り返る。そうした体験者ならではの思いも、ここから伝えていくつもりだ。

「私も本業は大家ですから、自分らしく部屋に手を加え、居心地の良い空間に変える楽しさを、より多くの人に知ってもらいたいと思っています。いくらDIYが流行っているといっても、入居者の立場からするとやはりハードルが高い。最初のイメージづくりもそうだし、具体的な作業の段取り、各所の寸法を測って必要な材料を集めたり、工具を集めたり…。やることが多く、いかにも大変そうですよね。特に、体力がない女性にとっては難しい部分も多い。でも、私のように周囲の皆さんにサポートしていただきながら、無理なくカタチにしていく方法があることが分かりました。これからも住みながら少しずつ手を加えていき、お部屋を自分の手でカスタマイズする楽しさを広く伝えていきたいですね」（山岸さん）