資産運用というと、お金を増やすためのものと思っている人も多いと思います。もちろんそうなのですが、実は、万一に備えるためにも役立つものなのです。今回は、資産運用についての基本的な考え方についてまとめたいと思います。
まずは、なぜ資産運用が必要なのかを考えていきましょう。
基本的に、一生涯にわたって毎年の支出額を上回る収入が継続して得られるなら、貯金をする必要はありません。もちろん、資産運用を考える必要もないでしょう。しかし、残念ながら、一般的な多くの世帯にとってそのような状態を持続させることは困難です。教育費がかさむ時期や老後生活の時期などにおいては、年間の収入よりも年間の支出額のほうが多くなってしまうのが通常で、貯蓄を取り崩したり、一時的にローンなどの借り入れに頼ったりするのが一般的です。
つまり、限られた収入や資産の範囲内でゆとりのある生活を送るためには、お金(家計)の“やりくり”を考えなければならないわけです。その“やりくり”において、預貯金や債券、株式、投資信託などといった金融商品を利用した資産運用が必要になってくるのです。
当然ながら、住宅ローンを返済中の人も資産運用は必要です。万一の場合の出費などに備えて、一般の会社員世帯であれば手取り月給の3、4カ月分くらい、自営業者であれば月収の6カ月分くらいは手元に資金を置いておくべきですし、その際は、預貯金などを中心に他の金融商品との組み合わせによる運用を考えていくべきでしょう。
物価上昇や円安が起きると、実質的または相対的にお金の価値が目減りします。その目減りする分を受取利息でカバーできるのであれば、預貯金だけでも目減りは防げますが、常に安全確実かというと一概にはいえません。また、預貯金を取り扱っている金融機関等の破綻によって、一定額(原則として、1金融機関当たり1人につき元本1000万円とその利息)までしか保護されないというリスクもあります。
このようなことから、預貯金以外の金融商品もそれなりに必要だといえるわけです。
物価上昇(インフレ)に備える観点では、モノの値段以上の値上がりが期待できる商品として、昔から株式や不動産、金などが有効だといわれます。どんなときでも100%有効かというと一概にはいえませんが、ある程度は有効だろうと考えられています。
というのも、過去の歴史においては、物価が上がるときは景気のいい状態であることが多く、企業業績もよく、会社員の給与も順調に伸びていきます。企業業績の先行きの見通しが反映される株価も順調に上がっていくことが予想されます。また、不動産についても、景気に連動するかたちで需要が高まり、土地や建物の価格上昇や、賃貸住宅の家賃の上昇が起こりやすい状態となります。さらに、金については、金そのものが実物資産(モノ)なので、物価上昇の影響が金価格にも反映されると考えられます。
また、円安に備える観点では、さまざまな通貨の外貨預金をはじめ、外国の債券や株式などの利用を検討する必要があります。米ドルや、ユーロなどの主要通貨だけでなく、新興国の通貨などにも資産を分散しておくことで、将来の円安に備えることが可能になるでしょう。
ただし、一般的な会社員世帯が、たくさんの個別銘柄の株式を買ったり、複数の不動産を買ったり、外国のさまざまな債券や株式を直接買ったりするのは困難でしょう。したがって、それらの商品に少額から分散投資できる投資信託(ファンド)を検討するのが無難な方法だといえます。
投資信託には、国内債券、国内株式、外国債券、外国株式、貴金属や穀物などの商品(コモディティ)、国内不動産、外国不動産など、さまざまなものを投資対象とした多様なファンドが存在します。それらの複数のファンドを組み合わせて保有することで、将来のさまざまな万一に備えることができると考えられます。
どの程度の金額で利用すべきかは、将来の経済情勢を正確に予測することが困難なので、明確に提示することはできません。ですが、とりあえず将来のインフレが心配なら、国内株式で運用するファンドを少し買ってみる。そして、将来の円安が心配なら、外国債券や外国株式で運用するファンドを少し買ってみる。といった感じで、1万円程度の金額から利用できる投資信託を少しずつ利用してみるのはいかがでしょうか。
くれぐれも、短期的な値上がりを期待するスタンスで購入するのではなく、将来の万一のインフレや円安などに備えるつもりで、10年先、20年先のために買っておくといったスタンスが無難でしょう。
なお、住宅ローンを返済中の人の場合は、基本的にはローンの返済を優先すべきなので、月給3、4カ月~半年分の万一の出費に備え貯蓄は、換金性(流動性)の高い預貯金を中心に考えるスタンスでも問題はありません。ただ、10年先、20年先のことを考えた貯蓄(または投資)の必要性は、ローンの有無にかかわらず、多くの人に共通のものですので、資産の一部でさまざまな商品を保有しておくことは大切だといえるでしょう。
イラスト/杉崎アチャ