家を売る、モノを整理する、住み替える。暮らしにまつわる大きな決断のときこそ必要なのは、正しさよりも話し合う姿勢。
2011年に45歳差婚で話題となった加藤茶さんのパートナー・加藤綾菜さんは、夫の介護を見越して住み替えをしたそう。
今は暮らしをダウンサイズし、モノが少ないスッキリとしたリビングで、ふたりの暮らしを楽しんでいるのだとか。
大切な思い出とともに生きるふたりの住まいから、家族と暮らしを見つめ直すヒントを伺いました。

記事の目次
不動産の整理から始まった暮らしのダウンサイズ

ーー加藤さんご夫妻は、マンションの住み替えで、暮らしを大幅ダウンサイズしたそうですね。
加藤綾菜さん(以下、加藤):はい。家の広さが、以前の4分の1くらいになったんです。これまでは加トちゃんが頑張ってきた証としてのモノがたくさんあって、不動産も何軒か所有してたんです。それを一気に手放しました。
ーーさすが昭和の国民的スター、スケールが大きいですね。
加藤:でも実際、本人が使っていないから空き家だし、賃貸にも出していなかったんです。
当時は加トちゃんも忙しかったし、5年に1回も行かないような物件ばかり。それで管理を人に依頼したりとか、修繕費がかかったりとか、膨大なモノや服を保管するための倉庫も借りていたりとか、とにかくお金が出ていく一方でした。
住んでいる家があるのに、また別に賃貸物件も借りていて……。
ーー……なぜでしょう?
加藤:2006年に大動脈剥離で大きな手術をした後、加トちゃんのライフスタイルや考えも少し変わったみたいです。
昔は螺旋(らせん)階段がある3階建ての大きな一戸建てに住んでいたんですが、本人も「広過ぎると大変」と、感じるようになったみたいで、賃貸も借りていたんですよ。
ーー物件の管理費などは、御本人は全貌を把握していたんでしょうか?
加藤:いえ。全然。結婚して数年目に、いろんな場所から管理費や修繕費用の郵便や相談が来るようになったんです。支払うためによく見てみたら「◯◯区!? なにこれ!?」って、知らない物件が出てきて。慌てて加トちゃんに話を聞いたら「おう、昔に買った!」とか言うんですよ。
ーーすごい話ですね。
加藤:加トちゃんが75歳くらいの頃に「老後を考えよう。やっぱり大きな家を維持するのは大変だよ。90歳になったら働けなくなって維持費も困るし、住み替えよう!」と話し合いをスタートしました。加トちゃん説得プロジェクトです。
説得のカギは「あなた」ではなく「私」軸

ーー話し合いはどんなことから始めましたか。
加藤:最初は「使っていない家なのに、管理費と修繕費が大変なことになっているんだよ」と、そのまま伝えてみたんです。
すると加トちゃんは「いい、俺は払えるし」とか言うんですよ。狭いところに住む発想がなかったみたいで、抵抗して「むりむりむり」ってなっちゃいまして……。
ーースターならではの考えですね。
加藤:「これ、どうしよう?」ってなって。そこで説得を一旦ストップして、さり気なく芸能人の方のお片付けとか、ミニマリストの動画を流してみました。
ーー地道ですね……!
加藤:あとは「加トちゃんの老後が心配」じゃなくて、「私」を主体にして語るようにしたんです。「加トちゃんがいなくなったらどうしよう。お金もなくて、ひとりになって、家も維持できなくなって……その時、私はどうしたらいいの?」と。「固定資産税や家賃を考えて」「私がひとりになっても、ギリギリ維持できる家にしてもらわないと困っちゃう」と。
ーー加藤さんの反応は?
加藤:「たしかに、綾ちゃんに迷惑はかけられないな」「整理しよう」と、ようやく売却に納得してくれました。

ーー芸能人のおうちって、プライバシーの観点からも売却が難しそうなイメージがあります。
加藤:そうなんです。マンションは、普通にSUUMOに出して売ったんですよ。さすがに加トちゃんの家だとはバレないだろうと思って。
一戸建ては加トちゃんの自宅だともうバレちゃっていたから、不動産情報サイトなどには公開せずに、業者さんに直接売りました。でも、SUUMOに出したらもっと高く売却できたかもな、と思いました。
ーーなんとSUUMOで売却を……ありがとうございます。別荘もお持ちだったそうですね。
加藤:ハワイの物件は大変でした。売るまでに時間がかかるし、英語で書類が届くし、契約の時は現地に行かなきゃいけないし……。どうにか手放すことができましたが「これまでかかった管理費を考えたらホテルでよかったじゃん!」って思いました。
ーー総額を考えると、ゾッとしますよね。
加藤:本当に。ほかに国内にあった別荘は、若いご夫婦が買ってくださったんです。契約の時はさすがに本人が行くので、後から加トちゃんの家だとわかったみたいで。
ーーお相手も驚かれたのでは。
加藤:「めっちゃ縁起いい家じゃ〜ん!うれし〜!」ってよろこんでもらえて(笑)。そのご夫婦の姿を見て、加トちゃんもやっぱりうれしかったみたいです。そこから、空き家の整理がどんどん進みました。
ーー紆余曲折あってたどり着いた今のお住まいはどんな物件なんでしょうか?
加藤:今は低層マンションに住んでいます。購入後、完全バリアフリーに工事しました。家で過ごす時間が長いなら、やっぱり日当たりが一番だと思って。テンションに直結しますから。それで、リビングの半分が窓の、明るい物件を探して、今の家にたどり着いたんです。
モノは減らして、記録は残す。夫婦がたどり着いた整理のかたち

ーー以前よりコンパクトなマンションへの住み替えが決まり、いざ引越し! となると、モノの整理も大変だったのでは。
加藤:大変ですよ。やっぱり加トちゃんは戦時中の生まれなので、モノがなくて苦労してきた世代ですから。
ーー世代が違う家族のお片付けは、感覚的には実家じまいに近いのかもしれませんね。
加藤:洋服とか家具は、加トちゃんが高級品をそろえていて。「お金をかけているから手放したくない」というスタンスでした。逆に私はミニマリストなので「処分したらいいじゃん」って説得していましたね。
逆に、私が加トちゃんに「絶対手放さない方がいいよ!」と伝えたものもあります。
ーーなんでしょう?
加藤:コントの台本とか、ドリフや加トちゃんのグッズです。原宿でお店をやっているときのサンプルや在庫がたんまりあったんですよ。加トちゃんは「それは捨てていい」と言うんだけど、私は絶対に嫌でした。捨てたくないので、倉庫を契約しました。
ーー昭和の歴史的なアイテムでもありますよね。
加藤:まさに! 今年『ザ・ドリフターズ展』が開催されているんですけど(現在開催中。会場や日程は公式サイトでご確認ください)そこでも展示しています。捨てなくて、本当によかった……!
ーー綾菜さんの判断力、さすがですね。処分するもの、残すものの基準は何ですか?
加藤:「将来、加トちゃんミュージアムに展示したいかどうか」です。あんまり着ていない私服なんてファンの方もみんな見ないでしょう? 志村けんさんとの思い出の品とか、台本とか、そういうものは嵩張っても絶対に残します。
ーー加藤さんを説得できて、そこからは無事に引越し作業もはかどったんでしょうか。
加藤:大変でした。私、加トちゃんに片付けや引越し作業を一切させていないんです。眺めが良いホテルを3日間予約して「ちょっとリゾート気分で休んできてね」と送り出して、その間に一気に荷物の整理をしたんですよ。
ーーモノを処分する様子を見て、惜しくなっちゃうかもしれませんしね。
加藤:そうなんです。なにより加トちゃんには1ミリも負担をかけたくないし、「引越しはしんどい」とか「モノを捨てたり片付けたりするのは大変」って思っちゃうと、また渋っちゃうから……。
ーーたしかに。
加藤:大昔のお洋服や衣装は、保管状態が悪くてカビているものもあったんです。「大切なものだけ残して、あとはきれいなうちに、慕ってくれる後輩に配ってあげようよ」と、説得しましたね。
ーー後輩も大興奮だったのでは。
加藤:「早いもの勝ちだからウチに来てね!」「いらなくなったらフリマアプリで売っていいから!」って声をかけて。本当にフリマアプリに出した子もいました(笑)。でもいいんです。私が出すのも大変だし、捨てるより絶対にいい。後輩のためになったんだから。
ーー不要になったら手放してもいいよ、と一言添えるのは、モノをもらってもらう側の優しさでもありますよね。
加藤:はい。あまり背負わせちゃうのもよくないですし。
そうこうあって1500着くらいあったお洋服を200着くらいまで減らして、今のマンションに収納しています。
家を小さく、心はゆったり──ダウンサイズ引越しで満たされた生活

ーーマンションでのミニマルな暮らしにシフトした今、綾菜さんのお気持ちは?
加藤:快適です。前は家が広すぎて、顔を合わせる時間が短かったくらいなんですよ。今の家では、加トちゃんの部屋と私の部屋は1秒で行き来できる。加トちゃんの健康を見守るうえでも、良い選択ができたと思います。
年の差夫婦の、お互いを想いあった住み替えストーリー。暮らしをダウンサイズしつつも、ふたりの生活はむしろ豊かになったそう。ふたりのコミュニケーションの秘訣(ひけつ)は、実家じまいなどにも参考になりそうです。
取材・編集:小沢あや(ピース株式会社)
撮影:小原聡太


