駅出てすぐにちょうどいい商店街があること。わたしの理想のまち大和郡山|文・百島 純

著: 百島 純
駅を降りたら商店街がある。


そんな立地に憧れがある。


かといって、奈良でいうところの「ひがしむき商店街」、大阪だと「天神橋筋商店街」。東京ではどうだろう……。高円寺とか? そういう巨大で活気溢れるようなものではなく、もっと慎ましやかなサイズ感で十分なのだが。というのも、私自身が、とある私鉄沿線の駅前商店街で店をしている家庭に生まれたからというところも大きいのだと思う。八百屋があり、豆腐屋があり、喫茶店がある。小銭を握りしめ、おつかいにも行った。お寿司を出前で取ったときは、まだかまだかとワクワクして待ったものだ。子どもの頃から商店街に慣れ親しんだ私にはそれが普通の世界だった。

大学から地元を離れ、就職後も地元には戻らず数回の引越しを経験したが、住んだ場所には商店街と呼ばれるものはなく、ロードサイド店やスーパー、ショッピングセンターで買い物をすることが当たり前の生活。それは今の生活スタイルに合っているし、巷に溢れる○○モールや○○タウンはなんでも揃って大変にありがたい。

そんな中、縁があり奈良県の大和郡山市に足繁く通うことになった。この街には近鉄郡山駅を中心とした商店街が広がっている。昔は映画館もあり、足の踏み場がないほど賑わっていたと地元の人から聞いたことがある。今でも商店街主催の「柳神りゅうしんくん祭」改め「金魚ストリート祭り」の際は多くの人が集まり、大変な盛り上がりとなるので、ぜひ足を運んでほしい。

大和郡山は江戸時代から武士の副業として金魚の飼育に力を入れており、市内のあちこちに金魚の養殖池がある。市としても金魚を使ったPR活動を盛んに行っていて、夏に開催される「全国金魚すくい選手権大会」は今年で30回を数え、北は北海道から南は九州で予選が開催されるほどの規模の大会であり、夏の風物詩としての地位を確立している。商店街としてもその波に乗るべく、各店舗で多くの品種の金魚が飼育・展示されていて、週末はそれ目当てであろう観光客の姿も見られるようになっている。その結果、商店街には昔ながらのお店と新たなお店が混在するという良い循環が出来ているように思う。そんな商店街で出会った魅力的な店は色々あるのだけど、全部羅列するわけにもいかないので、地元民の気分を味わえるお店をいくつか紹介していきたい。


よく見ると金魚がモチーフになっている看板

全大和郡山市民納得のソウルフード


アーチ看板ところっけのハヤシ

駅を降りると「ふれあいの街 郡山駅前商店街」のアーチ看板が目に飛び込んでくる。アーチ看板好きとしてはここで既に興奮してしまうところであるが、今回最初に紹介するのはアーチの下に店を構える『ころっけのハヤシ』。揚げるそばからどんどん売れていくコロッケを始めとした揚げ物類は、大和郡山市民なら一度は口にしたことがあるだろう。揚げたてをそのまま食べてもうまい、冷えてもうまい、何をどうしてもうまい。近隣の高校生も部活帰りに買い食いしていく。こんなお店が青春の1ページにあるなんて、なんて贅沢なんだろうと嫉妬してしまうほど。時間帯によっては行列が出来ているが、回転率が早いのでそれほど待たずに購入できる。何よりもお財布にやさしい値段設定も人気の秘密。

ここのコロッケとハムカツは我が家の夕食でも度々登場しているので間違いなく子どもたちの思い出の味になるだろう。いつか家を離れてほかの土地で暮らすことになっても、この味を求めて帰省するに違いない。そういう密かな野望(希望)を込めて今日もまた私は行列に並ぶのである。


揚げたてのコロッケ

ご主人との会話が弾む旧き良き陶器店

大正時代の在庫の話がさらりと出てくることから創業はゆうに100年を超える『山本陶器店』。店先に掲げられた看板も信楽焼のものだという。戦前のお茶碗や昭和レトロポップなグラス類が店内に所狭しと並べられた姿は圧巻のひとこと。今の若い人からすると一周回って新鮮さがあるかもしれない。

店主は話し好きで、店の奥から値段がつけられない珍しい品々を持ってきては見せてくれる。戦時中に製造されたNoritakeが出てきたときは腰を抜かした。店主の丁寧な説明を聞きながら、陶器の歴史や背景に触れる時間は、まるでタイムトラベルをしているように錯覚してしまう。ここに立ち寄るとついついデッドストック品を購入してしまうのが玉に瑕だが、飾るのではなく、ちゃんと日常遣いするように心がけている。

今自分が一人暮らしを始めるのなら、ここで全食器を選びたいと思わせてくれるそんなお店。陶器好きの方はもちろん、特別な贈り物を探している人にもおすすめのスポット。ぜひ、お気に入りの一品を見つけて欲しい。きっと、あなたの暮らしに彩りを添える素敵な出会いが待っていると思う。

廃ガソリンスタンド 唯一無二の場所で頂ける珈琲

閉店し、長く使われていなかった廃ガソリンスタンドを活用したユニークな外観と、こだわりのコーヒーで知られる『K COFFEE』。2014年にオープンし、同商店街における新規開店の先駆けとなったお店で、ここを目当てに大和郡山を訪れる人も多い。オープンスペースながらガソリンスタンド時代の屋根があるので、雨の日でも濡れずにコーヒーを頂ける。私はロードバイクで足を運ぶことが多いのだけど、ちゃんとスタンドが用意されているのもうれしい。

元事務所跡の窓口でコーヒーを注文。コーヒーが出来るまでの間に店主と何気ない話をするのも良いし、焙煎機の音に耳を傾けて流れてくる香りに鼻をくすぐられるのも贅沢な気持ちになる。以前、コーヒーが苦手という友達も連れて行ったところ、ここのすっきりタイプのコーヒーはそんな友達もびっくりするくらいサラサラ飲めたと言っていた。ほろ苦タイプもあるので、その日の気分で選択するのも良いだろう。ちなみに私の子どもはここのコーヒーソフトが大好きである。

今、我が家にはここで購入したコーヒー豆がある。素材を重視した豆は素人が淹れても十分においしい。こんなお店が商店街にあるなんてなんと幸せなことか。旅先で様々な喫茶店を巡ることも多いが、ここのコーヒーが私のホームであると勝手思っている。

カカオの香りが届ける新たなる風

2024年9月に新規開店した『Filament』は地元出身のショコラティエがいるチョコレートのお店。元歯科医院だった町家を大胆にリノベーションした柳町フラット内にある。ダークな色を基調とした施設は大和郡山ではあまり見かけないモダン&スタイリッシュな外観だけれど、勇気を出して入って欲しい(私は最初、めちゃくちゃ勇気が必要でした(笑)。)。

ボンボンショコラと呼ばれる、中にフィリングが入ったひと口サイズのチョコレートはまるで宝石と見間違えそうなくらい艶々に輝いている。店主は国内のコンテストで受賞するほどの技術の持ち主。当然おいしくないはずがない! アーモンドやキャラメルなどの定番を合わせたものだけでなく、奈良産の抹茶やほうじ茶、和紅茶などの苦みを活かしたラインナップは大人にもぴったりだ。

特に驚いたのは大和橘やまとたちばなを用いたもの。大和橘は非時香菓ときじくのかぐのこのみとも呼ばれ、古事記、万葉集などにも登場する日本在来種として知られる。昔、この実をもらったのでどうにかして食べてやろうと思ったのだけど、皮はびっくりするほど苦いし、果肉はどうしようもなく酸っぱかったので、諦めたことがある。最終的に小さな鏡餅の上にだいだいの代わりにのせるくらいしか利用価値のなかったあいつがおいしくなってそこにいた。

そんな魔法をかけられるショコラティエのいるお店。そう遠くない将来、この商店街を代表するお店になっているだろう。

商店街の要石 老舗中の老舗

この商店街を語るうえで外してはいけないお店、それが『本家菊屋』だ。

創業は安土桃山時代の1585年、豊臣秀長が入城 した際に初代菊屋治兵衛じへいを連れてきたとされており、秀長が兄の秀吉をもてなす茶会で献上された菓子は御城之口餅おしろのくちもちとして400年を超えた今も看板商品として販売されている。2026年にはNHKの大河ドラマで『豊臣兄弟!』の放送が決定しているので、そのエピソードが盛り込まれないか今から楽しみだ。

私が何かお土産を携えていく必要があるときは決まってここで購入する。御城之口餅はもちろん、菊まん(どら焼き)は誰に送っても喜ばれる。夏ならわらびかんが涼しげで好評だ。敢えてのカステラも子どものいる家庭では取り合いになる。一方、家庭用に季節の和菓子を包んでもらうこともあるし、金魚の形の入った琥珀糖は一瞬で食べてしまう。前述した金魚ストリート祭りではその日限りのぜんざいが振る舞われる。

そんなケの日、ハレの日を彩ってくれるお店がこの老舗という贅沢をこれからも享受していきたいなと思っている。

さいごに

商店街にはまだまだ沢山店があるし、私が入ったことのない店の方が多い。

先日は初めて青空包丁研ぎ屋に包丁を研いでもらったし、路地奥にある喫茶店にも入った。昔からある時計屋に止まって動かなくなった腕時計を修理できるのか聞きに行ってもみたい。柄じゃないけどサプライズとして花屋で記念日に花束を買ってもみるのもいいだろう。一度は離れた商店街での日々。これからはここで積み重ねていこうと思っている。


著者:百島 純(ももしま じゅん)

百島 純(ももしま じゅん)

有人島・無人島を含めて国内の300近い離島を訪問している。
デアゴスティーニから出版された『週刊 日本の島』で執筆。
島についての講演や執筆、撮影した写真の提供なども行っている。
島に渡ると通常の100倍くらい幸せホルモンが出ている。
最近は奈良の投稿が多いが、島のことにはすぐ食いつきます。
X:https://x.com/momoshima_jun
発売中の『島図鑑 歴史と文化でたどる日本の有人島』(日本文芸社)にて撮影した写真が掲載されております!
https://www.nihonbungeisha.co.jp/book/b655644.html

編集:ツドイ