日々暮らすだけでときめく街、「都立大学駅」エリア|文・誠子

書いた人:誠子

1988年生まれ。兵庫県出身。大阪NSC30期生同期の渚(現・ナ酒渚)と尼神インターを結成し、「オールザッツ漫才2015FootCutバトル」優勝。2024年3月にコンビを解散し、吉本興業から独立。

新たなチャレンジを、新たな街とともに


(写真:石田ダダ)

はじめまして、誠子です。

今の私の肩書は「フリー芸人」です。 今年の3月でコンビだった尼神インターを解散し、15年間所属していた吉本興業を退所しました。

私にとってこの選択は新しいチャレンジであり、人生という冒険の始まりです。大好きだった吉本からの卒業は寂しいし、これからは全て自分で行動して仕事をしていくので、先が見えない不安があります。

でも今の私、予想できない未来にとてもワクワクしているんです。新しい出逢いが増えて、見るものや耳にする言葉、全てが新鮮でキラキラと輝いています。

なんでもなかった景色がかけがえのない宝物になり、こんなにも日々が楽しく思えるようになったのは、思い返せばこの「都立大学駅」エリアに住むようになってからです。 この街に出会っていなければ、私の冒険は始まっていなかったかもしれません。

この静かで緑のある街なら、自分の心に向き合える

上京して初めて住んだ街は、中目黒でした。 ドラマ「ロングバケーション」が好きで、山口智子さんになりたかった私は、撮影のロケ地になった中目黒を選んだのです。 オシャレで人気な街なので休日は人も多く、そこで暮らし始めたばかりの私はすっかりシティガール気分でした。

そこから数年が経ち、33歳になった時に、新型コロナウイルスが流行。仕事や暮らしのペース、当たり前だと思っていた日常が急激に変わり、人生はいつ終わりが来るのかわからないんだと実感しました。

もともと、30代はプライベートの時間を削ってでもバリバリ仕事をして、ゆっくりするのはもっと先でいいかなと漠然と考えていたけれど「今やりたい事は、今やろう」と心に決めました。

そう決めた時に引越した街が、「都立大学駅」エリアなんです。

中目黒に住んでいた頃から、仕事が休みの日はよく東急東横線沿いの街を一人で散歩していました。賑やかなテレビの世界とは少し違う静かな世界に行きたくて。祐天寺駅、学芸大学駅、都立大学駅。このあたりの街は、東京だけれど、流れている時間や歩く人の速度がゆったりしている気がしました。

なかでも都立大学駅の近くを歩いた時は、とても穏やかな気持ちになったんです。中目黒からは同じ東急東横線で三駅離れただけですが、比較的人通りは少なく、飲食店の数も中目黒ほどは多くありません。

初めて都立大学駅で降りた時の印象は「おっとりした街」でした。駅から少し離れると、閑静な住宅街が広がり本当に静か。駅からは長い緑道が続いていて、いろんな草花が植えられています。この緑道を初めて散歩した時に「ここに住みたい」と思いました。

私の父と母は登山が趣味で、幼い頃はよく日本各地の様々な山を家族みんなで登りました。その時に感じた雄大な自然と生命への感動をこの緑地で思い出し、懐かしさで胸がいっぱいになりました。

この街で暮らしたら、ちゃんと自分自身の心と向き合える。そんな気がしました。それから半年後。部屋の更新時期に合わせて、私は都立大学駅エリアのマンションに引越しました。

料理のモチベーションを上げてくれる、「ここで買いたい」と思えるお店たち

都立大学に引越して、自分に向き合う時間と心のゆとりを持った私は、「本当は好きになりたい」とどこかでずっと思っていた料理を始め、数年前からは想像もできないくらい料理が大好きになりました。

そしてこの街には、私のお料理のモチベーションを上げてくれるお店があります。

もちろんスーパーも何軒かあるんですが、私は「八百屋さん」とか「お肉屋さん」で食材を買うのが好きです。店頭に新鮮なものが並んでいるし、お店の人が品物について声をかけてくれるのが素敵だなあと思います。

柿の木坂にある八百屋さん「八心(やしん)」と出会った時は、とてもワクワクしました。店頭に並ぶ色とりどりの野菜や果物たち。添えられている手書きのダンボールのポップには、産地や、農家さんたちのこだわりや、おすすめの調理方法などが丁寧に書かれています。

八心で「普通の玉葱より甘く、丸ごと煮物やオーブン焼き、ピクルスなどにどうぞ!」というポップを見て買った、北海道の玉葱を丸ごと入れて肉じゃがを作った時は、感動するくらい美味しかったです。それから煮物やお味噌汁を作る時は、玉葱を丸ごと入れるようになりました。

私がじっと人参を見ていたら、「この人参はすごく甘いよ。葉っぱは天ぷらにしたら美味しいよ」と教えてくれたり、常連になってきた頃にはお店に入るとすぐ「今日は蓮根がおすすめだよ」と、まるで実家に帰った時の「おかえり」の温度で話しかけてくれたりと、店員さんもとても素敵なんです。「ここで野菜を買いたいから料理をする」という、新しい感情をくれた八百屋さんです。


(写真:石田ダダ)

よく行くお肉屋さんは「原田畜産商店」。一人暮らしには有り難く、少量単位で、各地の新鮮で美味しいお肉を安く買うことができます。買ったお肉を藁半紙で包んでくれるのも温かみがあってうれしいです。

初めて買ったのは鶏もも肉100グラム。「いい女になるには煮物を極めよう!」と思い、当時はよく筑前煮を練習していました。注文すると、目の前でお肉を量ってくれるのですが、「あ、ちょっと多くなったけど入れとくね」と少しおまけして包んでくれることもあります。

原田畜産の豚バラは旨みと脂身のバランスが良いので、このお店に通うようになってからは、肉じゃがを作る時に豚バラを使う頻度が高くなりました。他にも「牛味噌漬け」と「自家製焼豚」もおすすめ。お肉にも味付けにもこだわっているので、お店のような味が、家庭でお手頃な値段で楽しめます。

散歩中に立ち寄りたくなるときめきスポットがたくさん

緑も豊かな都立大学は、お散歩するにもぴったりな街。私が都立大学駅エリアをお散歩する時によく立ち寄る、ときめきスポットをいくつかご紹介します。


(写真:石田ダダ)

まずはパン屋さんの「タクパン」。駅から4分ほど歩いたところにあります。ここのパンは優しい美味しさで、見た目も味にも温かさがあります。曜日ごとに焼かれるパンもあって、毎日でも通いたくなるような街の人から愛されているお店です。

お店の前には木が一本柱のようにあり、内装も木彫り。照明も木漏れ日のような温かみのある光で、まるで森の中にいるような気持ちになり、焼きたてのパンの香りと共に癒やされます。 ショーケースに並んでいる形やサイズも可愛らしいパンたちを眺めているだけでも幸せです。

特におすすめなのが、生地がふわふわで素朴な味わいの「丸パン」。そして何種類かあるクリームパンのなかでも、一番好きなのは「かぼちゃ豆乳クリームパン」です。もう、女子が好きなものしか詰まってないような夢のパンです。かぼちゃと豆乳の優しい甘さで、1個食べるのがあっという間です。

「八雲食パン」は生地はしっとりだけれど、ずっしりと食べ応えがあり、小麦の味が鮮明に感じられます。食パンは、どれも好きな枚数と厚さにカットしてくれるのもうれしいです。

イートインはなくテイクアウトのみですが、店前に1つ木のベンチがあるので、そこでおやつにパンを頬張るのもいいと思います。近くの緑道にもたくさんベンチがあるので、そこで花と緑に囲まれながらピクニックするのも素敵です。

ちなみに、都立大学駅からすぐのカフェ「コントワー(COMPTOIR)」のカフェラテは、ミルク多めでパンによく合います。ぜひ一緒に楽しんでみてほしいです。

次におすすめなのが、駅徒歩1分の「totto Cafe&Bar」です。こちらはお昼はカフェ、夜はバーとしても楽しめるお店。野菜をたくさん使ったスイーツやごはん、米粉パスタなど体にも優しいメニューがうれしいです。ここのスイーツが大好きで、よく散歩途中にちょっと一息つくために立ち寄ります。

大切な友達が都立大学駅エリアまで私に会いに来てくれることになった時に、カフェと可愛いものが大好きなその人が喜んでくれるお店に連れて行きたいと思い、ネットで検索したのがきっかけでこのお店を知りました。このお店が入っている建物の前はよく通っていたのですが、2階にこんなに素敵なカフェがあるとは知らず、驚きました。

恐らく私のような人は多いようで、休日でもあまり混んでおらず、静かで落ち着く空間。「穴場カフェを見つけた!」と、とてもうれしかったのを覚えています。

いざ友達と出かけ、初めて注文したのは自家製チャイでした。私はチャイが大好きで、いろんなカフェのチャイを飲んできたのですが、tottoのチャイはスパイスと甘さのバランスが絶妙。どちらもちゃんと感じられるので、チャイ好きにも自信を持っておすすめできます。

そして、なんとチャイの横には、猫ちゃんクッキーが一枚添えられています。なんとも言えない優しい表情の猫ちゃんは、食べるのがもったいないほど可愛いけれど、美味しいのですぐに食べチャイます。

一緒に訪れた友達は「クルミのキャロットケーキ」を頼み、美味しいと喜んでくれました。他にも「いちごのブリュレ」も、見た目も可愛くプリンも濃厚で、おすすめです。夏にはかき氷、冬には焼きマシュマロのココアなど、季節に合わせたメニューもあるのでいつかいただいてみたいです。

タクパンや原田畜産商店が並ぶ「八雲十中通り」を歩いていくと、奥にはひっそりと「氷川神社」が佇んでいます。外から見るよりも奥行きがあるこの神社は、拝殿に近づくにつれて静寂が増し、風と風に揺れる木の葉の音が鮮明になるような気がします。

ここに来ると、日々の生活や混沌とした社会から少し離れて、自分そのままでいられるような気持ちになります。静けさの中、鳥居から拝殿までの長い石道を歩いている時には、「この街に出逢えてよかった」と心から思います。

好きな街で暮らすことで、好きな自分に出会えた

住む街やお家は、本当に大事だなと改めて今の私は実感しています。

毎日歩く場所、毎日帰る場所。暮らしの中で自分が触れたり、目にするものは少しでも自分が好きなものがいいなと思います。それだけで日々の暮らしがときめくし、気持ちが穏やかになります。そうなると、人にも優しくなれる気がするんです。

私が憧れるのは、周りの人に優しくできる人。都立大学の日当たりのいい部屋に住み、いくつもの好きなお店に立ち寄ったり、お料理をしたりする暮らしは、自分をそんな人に近づけてくれている気がします。


(写真:石田ダダ)

著: 誠子

編集:ピース株式会社