予想外の楽園 中年がひとりで住む未来都市・多摩ニュータウン

著: ココロ社

多摩ニュータウンの景色

多摩ニュータウンと言えば、何を想起するだろう。

例えば、街ごと高齢化しているであるとか、都心から遠いであるとか、楽しいイメージはあまりないのかもしれない。「SUUMO住みたい街ランキング2019 関東版」を見ても上位に入っているわけでもなく、厳密には多摩ニュータウン外になる聖蹟桜ヶ丘がやっと156位である。また、ポジティブなイメージを持っている人も、「ファミリー向けの街」と思っている人が多いのではないだろうか。

それらのイメージがまったくの嘘だと言うつもりはない。ただ、ここでわたし(=大阪出身・中年・ひとり暮らし)は、「多摩ニュータウンがひとりで住むのに最高に楽しい街である」とみなさまにお伝えしたく、筆を執った次第である。

未来都市・多摩ニュータウンとの出会い

多摩ニュータウンは、東京都西南部に位置する、八王子・町田・多摩・稲城の4市にわたる東西14km、南北2~3kmに及ぶ日本最大規模のニュータウンだ。高度経済成長期に都心の住宅不足を背景に計画され、急増した人口の受け皿として、1971年から入居が開始された。

多摩ニュータウンの地図

わたしはと言えば、上京してからは中野や調布に住んでおり、大方の人と同じく多摩方面に住むことにさほど関心はなかった。それが諸事情により急遽引越しの必要に迫られたとき、「家賃が安くて広いところ」という条件で物件を探していたら多摩ニュータウンの部屋たちと出会ったのだ。

少し古いが、調布で住んでいた部屋とほぼ同じ家賃で倍の面積の部屋があり、「多少都心から遠いけれど、家の居心地を最高にして外出せずに過ごせばええやん……」と、多摩ニュータウンの南部、京王線沿いに引越した。

しかし、いざ引越してみると、ニュータウン暮らしは想像以上に楽しく、広くて住み心地最高の部屋があるというのに散歩がやめられず、なかなか家に帰れない有様になった。

老朽化しているように見えるニュータウンは、住んでみるとロマンチックで機能的な未来都市であり、歩いているだけで昭和後期の遺跡巡りをしているようでもあり、毎日とてもフレッシュな気分で、かつ大変落ち着く。

いきなりカモンというわけにもいかないが、多摩ニュータウンに暮らす楽しさについて手短に説明させていただくので、適宜共感などしていただければ、わたしのニュータウン愛も行き場を失わなくて済む。

散歩が日本一エキサイティングな街

散歩がやめられないと先述したように、多摩ニュータウンはとにかく散歩がすごい

わたしは仕事終わりに平気で10kmの道のりを歩く、ある種の「散歩狂い」であるが、散歩の楽しさでいえば、個人的に多摩ニュータウンは日本で一番だと思う。以下、その理由を説明させていただく。

「歩車分離」された日本一長い遊歩道

まず、散歩するにあたり重要な遊歩道のスケールが桁違いである。都心だと、川のあったところを暗渠として緑道公園のようにすることがよくあり、それはそれで楽しいけれども、さあこれから……というところで、ビル街が登場し、甘美な散歩が強制終了させられてしまう。その点、多摩ニュータウンの遊歩道は総延長40キロ超。マラソンができる。遊歩道の長さは日本一*1だ。

しかも、ただスケールが大きいだけではなく、どの遊歩道もかっこいいのだ。例えば、多摩ニュータウン南部に位置する、唐木田駅近くの「まろにえ公園」に至る遊歩道を歩いていると、パリ郊外ってこんなのかしら……と思う(フランスに行ったことはないけれど……)。

街路樹の紅葉

先日訪れたときは、街路樹の紅葉がまっさかりだったが、冬は冬で枝だけになっている寒々しさがいとおしく、つい時間さえあれば歩きに出てしまう。

長池公園(好きすぎるので後述)から始まり、京王堀之内駅近くへとつながる「せせらぎ緑道」も最高だ。

せせらぎ緑道

樹木が生い茂る中を季節を感じながら歩き始め、しばらくすると遊歩道は都道155号線と交差するのだが、ここはそこで遊歩道を終えるのではなく……。

せせらぎ緑道

歩道橋にも川を流すという荒業をやってのけてくる。

せせらぎ緑道

遊歩道はさらに続き、滝のようになっているところや、住宅地を縫うように流れている道を経て、京王堀之内駅近くで終了。一口に「川沿いの遊歩道」といっても、いろんな表現の方法があるんだな……と夢中で流れを追ってしまう最高の遊歩道である。

そして、これらの遊歩道は完璧なコンセプトのもとにつくられている。途中で車道とクロスして信号待ちを余儀なくされ、地味なストレスに体を蝕まれる遊歩道はよくあるが、多摩ニュータウンについては、基本設計が「歩車分離」である。

歩くのが好きな人は車道とクロスすることなく、足が棒になるまで散歩を楽しむことができるのだ。尾根幹線道路などの大規模な道路を横切る際には、斜張橋(しゃちょうきょう)と呼ばれる橋が用意されているという手厚さである。

多摩ニュータウン

お気に入りの斜張橋「一本杉橋」。ここを散歩しながら、尾根幹線道路の分離しすぎた中央分離帯の丘を眺めるのが最高なのだ。

多摩ニュータウン特大の中央分離帯

デザインされた団地の神々しい風景

計画当初、未来都市であることを自負していた多摩ニュータウンであるが、散歩しながらイマジネーションをたくましくすると、整然とデザインされた住宅群に神々しさすら覚えてしまうのが楽しいところ。

例えば、熊野古道を歩いた果てに熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)と那智の滝を見たら、熊野古道の階段の段差が容赦ないなどの道中の感想はすっかり忘れて感動するものだが、多摩ニュータウン南端の里山を歩いた果てに出会う風景も、さすがに同じとは言わないまでも、不思議なスケール感を覚えて圧倒されてしまうので紹介しよう。

まず、京王線若葉台駅近くの「みはらし緑地」というゆるい名前の丘。

若葉台駅の北口を出て、都道19号のポプラ並木の通りをじりじりと登っていき、住宅街に入り、さらにうねうねと曲がりながら登ると到着。緑地に着いて振り向くと、自分がいままでけっこうな上り坂を歩いてきたのだなと実感する。

ここからは、90年代以降に建てられた、新ニュータウンと呼ぶべき景色が見える。

若葉台パークヒルズ

6棟のマンションは「若葉台パークヒルズ」。初期のニュータウン建築の倍近くの高さがあり、これもまたニュータウンの姿なのか……とスケール感に圧倒される。ここから見ると、丘の高さに合わせてゆるいカーブを描いていて、多摩丘陵の存在を感じることができる。

給水塔

丘を降りると、防災無線の多摩稲城中継所と、仮面ライダーの撮影でも使われたことがあるという連光寺給水塔が間近にある。ニュータウンを見下ろすようにそびえ立つ2つの給水塔の無骨な存在感、そしてその間にある、2棟共通の螺旋階段の可愛らしさに感動する。

ただ、「ニュータウンの絶景をひとつだけ」と言われたなら(誰にもそんなこと言われたことがないが……)「防人見返りの峠(さきもりみかえりのとうげ)」、またの名を「多摩丘陵パノラマの丘」を選ぶだろう。古代の名前だけでなく、現代版の二つ名を持っていて不思議に思うが、名前がひとつでは足りない感じなのは行ってみると分かる。

歩くのがそこまで好きではない方は、京王永山駅から南へ30分程度歩けば着くが、わたしは唐木田駅から丘を目指し、「よこやまの道」経由で行くことをおすすめする。この道は、新日本歩く道紀行「歴史の道」100選に選ばれているのだが、この100選の中には先述の熊野古道もあり、同じくらいすばらしい……と思うことにしている。

よこやまの道

写真を見ただけではピンと来ないかもしれないが、この道の魅力は、ニュータウンの境界をなしているという点につきる。幹線道路のそばを通っており、片側に車の音を感じながら、もう片側は里山の自然、という不思議な場所なのだ。道の一部は古道を含んでいて、リュックを背負って歩いていると、昔の人は薪を背負ってこの風景を見て歩いていたんだな、と思えてくる。

しばらく歩くと、右手に丘が見えてくる。

多摩ニュータウンの団地

古代において、大宰府に向かう防人はここで来た道を振り返ったのかもしれないが、現代においてはこの丘から多摩ニュータウンの初期の建物を見渡すことができる。

団地

整然と並ぶすばらしいデザインの団地に、訪れるたびに感動してしまう。初めてここに来たときは、冬の夕暮れ時だったのだけれども、夕日に染められた団地群に、懐かしい気持ちになってしまった自分に驚いた。わたしは団地に住んだことがないのに。

宇宙を感じさせる風景

多摩ニュータウンは、神々しさだけにとどまらない。街を歩いていると、随所に「宇宙」を感じさせるデザインが配置されていて、日常生活に潤いが与えられる。

給水塔

まずは、小田急永山駅近くの「愛宕団地(あたごだんち)」付近にある給水塔。機動戦士ガンダムの宇宙コロニーのようなデザインに思わずうっとりしてしまう。

給水塔

お次も給水塔。先ほどの一本杉橋からほど近い「一本杉公園」の奥にあり、悠然と構える姿が大変かっこいい。ここから来る水を飲みたくなってしまう出で立ちだ。

くじら橋

そして、稲城中央公園にある「くじら橋」。その曲線がまさにクジラをイメージさせる巨大な橋だが、現役の歩道橋として使われている。

くじら橋

日曜の昼間なのだが、人はこれくらい。スケール感が好きで、来たときは用もないのに何往復かする。

「地球には海という、大きな水たまりがあって、そこには、くじらという、それはそれは大きな生き物がいたんじゃ……ちょうどこの橋のようにな……」と、宇宙コロニーに移住した地球人の設定で誰かに話しかけたくなってしまう。

多摩センター駅

そして極めつけは、多摩都市モノレールの起点・多摩センター駅だ。真ん中の丸いエンブレム、機能的に意味があるのかどうかは知らないが、未来的である。

オシャレと思うかどうかは人によると思うが、SF映画やアニメに出てきそうなデザインがあちこちにあり、自分が未来人になったかのような気分で毎日過ごせるのは多摩ニュータウンならではの魅力ではないだろうか。不思議なもので、もはや道路を走る車が車輪のない未来の車に見えてくる。

随所にある不思議な公園

さて、散歩に疲れたときは、公園で休むに限る。多摩ニュータウンは多摩丘陵を切り拓いてつくっているので、開発されなかった場所≒里山≒公園であり、魅力的な公園が互いに驚くほどの近距離に用意されていて、くつろぐための公園を選ぶときに本気で目移りしてしまう。

ドラマのロケ地に時々使われる鶴牧東公園、ワイルドすぎて山なのか公園なのか分からない境地に達している豊ヶ丘北公園、東の端には素晴らしい高さの展望台を擁する城山公園。適当にローテーションを組んでいるうちに1年が過ぎてしまうのだが、多摩ニュータウンの魅力が凝縮されている公園といえば、京王堀之内駅と南大沢駅の間にある長池公園にとどめを刺す。

公園には広々とした芝生広場のほか、長池・築池(つくいけ)の二つの溜池に、人工の姿池もそろう。公園の名前にもなっている長池は、南北朝時代に浄瑠璃姫が薬師如来像とともに身を投げたという伝説が残っており、なんともロマンチックだ。

長池

今は動植物保護のため長池周辺は立入禁止になっていて、草も生え放題水も濁り放題で、本当にここ東京都なの……と思う。ここが里山として利用されていたころは、必要に応じて樹木は適宜伐採され使われていたことを考えると、ひょっとしたら江戸時代よりもワイルドな風景になっているのかもしれない。

近くには、ニュータウン造成に伴ってカタクリの花を移植したコーナーもあって、移住させられつつも根を張って元気に育っているところに胸が熱くなるのだが、移住させられたのは花だけではない。

見附橋

こちらの見附橋は、なんと大正時代に四谷にあった橋を移設復元してしまったという代物である。あいにく撮影時は修理中だったが、橋の上は道路として現役で使われている。

土地があるからといって、橋をまるごと移築してしまおうという発想に驚く。つくられたときは路面電車が下を通っていたそうだが、現在はなんとも印象的な姿池が下に鎮座している。

公園

「第3宇宙コロニーのNippon州には地球時代、Yotsuya地区にあった橋をそのまま移築し、付近の固有植物も合わせて移植した」……という物語を空想して楽しんでしまう。わたしは夜に行くのが好きなのだが、まったく誰もいなくて、この宇宙に自分一人……みたいな気持ちになっている。

家賃が安いのに交通の便が(わりと)よい

ここまで延々と多摩ニュータウンの散歩のすごさを紹介してきた。最後に若干現実的な話もしておきたい。

まずは家賃について。試しに23区で気になる地域の家賃をざっと見てから、多摩センターや南大沢、若葉台の家賃を確認してみてほしい。冒頭にも申し上げたが、同じような条件でおそらく半額から1/3くらいになっているはずである。

次に通勤・アクセスについて。都心勤務の人に、京王線で人気の駅といえば調布や仙川だろう。例えば、新宿方面に出勤するとなると、多摩ニュータウンの場合、往復で30分~40分ほど通勤時間が増えることになるが、ラッシュアワーでもさほど混雑していないという利点がある。また、家賃が安いぶん駅チカ物件を選びやすく、そうなると実質的な時間差は縮まるのではないだろうか。

また、永山~多摩センターは小田急多摩線・京王相模原線が並走していて、京王相模原線に乗れば、橋本から横浜方面に行け、新横浜から新幹線に乗れる。おまけに多摩センターは先述の多摩都市モノレールの起点でもあり、中央線方面へ抜けることもできる。

最後は買い物面について。多摩センターはそごうや三越が閉店し、規模はかなり縮小してしまったけれども依然多数のお店を擁する。南大沢にはアウトレットパークもあるし、若葉台も最も若いニュータウンとして駅周辺が急速に発展している。引越してきたころは、毎週末新宿に買い物に出ていたが、いまは多摩センター、ちょっと足をのばして立川で十分事足りている。

**

友達の多い人は都心に住んでいる友を家に呼ぶのに躊躇してしまうかもしれないが、わたしのような性格の暗い一人暮らしの中年にとってはニュータウンは天国のような場所である。いきなり引越すのはハードルが高いにせよ、多摩ニュータウンにしかない名所があるので、気になったらぜひ一度遊びにきてみてほしい。歩いてみれば、その魅力は必ずや伝わるだろう。


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著者:ココロ社 (id:kokorosha)

ココロ社

大阪生まれ。東大文学部卒業後、テレビゲーム製作を経て平凡な窓際サラリーマンとなる。傍らで珍妙なブログ「ココロ社」を運営。書籍の執筆もしており、著書に『マイナス思考法講座』(阪急コミュニケーションズ)『モテる小説』(阪急コミュニケーションズ)『忍耐力養成ドリル』(技術評論社)など。好きな犬はヨークシャテリア。

ブログ:ココロ社

編集:はてな編集部

*1:多摩市HPを参照