
首都圏からのアクセスも良く、静岡県内でも屈指の観光地・温泉地として知られる伊豆市修善寺。関西からこの街に移住し、アウトドアショップ「SANKAKU STAND」を営むのが通称もじゃまる夫婦、山崎和可奈さんと翔悟さんです。YouTubeチャンネル「山好き移住者の日記 by もじゃまる」 ではアウトドアや登山の魅力を発信しファンを着実に増やしてきました。そんなご夫妻に、移住のリアルと伊豆の暮らしについてお話をうかがいました。
伊豆の自然に魅力と可能性を感じて移住を決断

―― お二人は関西のアウトドアショップの同僚だった時代にご結婚されて、静岡県の伊豆市に移住されていますが、関西から伊豆というのもあまり耳にしないケースかと思います。そもそも移住はどんなきっかけだったのでしょうか。
翔悟さん(以下敬称略):僕らは2016年から2020年1月までの4年間、大阪市内の大手アウトドアメーカー店に勤めていて、付き合っているときから「将来、どんなところでどういうふうに暮らしていこうか」と二人で考えるようになりまして。お互い仕事にするくらいアウトドアが大好きだったので、自然豊かなところに住みながら、今勤務しているようなアウトドアのお店がやれたらいいねと話していました。
和可奈さん(以下敬称略):大阪に住んでいる頃から、いろんな移住先の候補を立てては二人で休みの日に下見に行って、を繰り返した時期が一年間くらいありました。たとえば、山好きの王道で長野とか、山梨とか、あとは新潟とか神奈川県にも足を延ばしたりとか。
―― それでもピンとこなかったと。
和可奈:そうですね。もちろん、どこも魅力的な場所ではあるんですが、たとえば山好きとはいえ、山深すぎるエリアだと自分たちの理想とはちょっと離れてしまうかなと思ったり。
翔悟:移住者の受け入れ具合とか、生活に必要なスーパーとか病院がどれくらいあるのかとか、暮らす上で必要な情報がうまく手に入らなかったのも決め手に欠ける理由だったのかなと思います。景色は見事でも、そこで生活するイメージまでに至らないんですね。
―― わかる気がします。では、そこから「静岡県の伊豆」というのはどの段階で候補に浮上してきたんでしょう。
翔悟:2019年10月に東京・有楽町にある移住相談窓口になんとなく立ち寄っていろんな県のブースを見て回った時「お二人、静岡県のブースとかもちょっと話聞いてみたらどうですか?」って言われて。
和可奈:で、なんとなく静岡県のブースでそれとなく担当者に相談してみたところ、「あなた方だったら伊豆が合っているんじゃないか」って言われたんです。予備知識はまったくなかったんですが、そこにあった伊豆の風景とか自然の写真を見ていたら二人ともピンとくるものがあったんですね。
翔悟:それから伊豆半島の下見を重ねた後に職場を退職し、伊豆で住む物件を探したり、現地で使う車を買ったり、大阪の物件を解約したり、着々と準備を進めたんです。実際に伊豆に移住してきたのは、その翌年(2020年)2月ですね。

―― 伊豆というと、ダイビングとかサーフィン、釣りとか、従来は海のレジャーのイメージが強い一方で、登山はそこまでメジャーじゃなかった気もしますが……。
翔悟:確かにそうですよね。移住を決めた当初、周囲からは「伊豆に登山客はあんまりいないよ」と聞いていたので、多少の不安もありました。ただ、自分たちが移住前に調べた感じだと、比較的登りやすい低山がコンパクトにまとまっていて、魅力がすごく詰まったフィールドだと確信していたので、むしろチャンスかなとも思ってワクワクしながら移住に踏み切った記憶があります。
店舗オープン前の準備期間は地域に溶け込むことに努めた
―― 伊豆に移住されたのが2020年2月で、そこからはすぐにお店をオープンされたんでしょうか。
和可奈:いえいえ、実際にお店をオープンするまではそこから1年ちょっとかかるんですが、いちばん最初はアクシデント続きで普通に生活すること自体が大変でした。
翔悟:まずは自分たちの住居用にと伊豆で当初契約していた物件が、「退職中だから」という理由なのか保証会社の審査が通らなくなってしまって、家なき子状態で数日間車中泊をすることになりまして。最終的にはなんとか空き家を貸してくださる方にたどり着けたんですが、あの時期ほど家のありがたみが身にしみてわかったことは後にも先にもないですね。

―― アウトドアの前に、まずはインドアの環境が先決だったと。知らない土地で住むだけでも大変なのに、ましてやビジネスを立ち上げるのは相当ハードル高いですもんね。
翔悟:そうなんです。だから、まずは自分たちの住居を確保した上で、ショップ開店に向けた店舗物件探しを始めました。ただ「ここ、空き物件とちゃう?ええんやない?」という物件を街中で見かけても、じゃあすぐに借りられるかというと、最初はなかなか難しい面もあって。なので、移住してしばらくは地元になじむためにアルバイトさせてもらったり、商工会関連の会合とかに参加したり「修善寺の人」になるよう努めました。それでちょっとずつ関係性を築いた時に、やっと「二人を応援してるから、あの物件使ってみないか」と声かけてもらえたんですね。
和可奈:移住したての頃はちょうどコロナ禍でなかなか身動きが取りにくかったのも、物件探しを一層難しくしたところがありますね。移住と開業用に貯めていた資金をなるべく減らさない ようにするのに必死でした。
―― そもそも修善寺の雰囲気とか空気感は、移住者に対してどんな感じなんでしょう?
翔悟:基本的にめちゃくちゃ歓迎ムードですね。特に伊豆の中でも修善寺は昔から観光地ということもあって、よそから来た人を受け入れやすい土地柄なのかもしれません。
和可奈:遠巻きに見ている感じじゃ全然ないんですよね。
翔悟:印象深いのが、移住したての頃、市役所の観光窓口みたいなところに行ったんですよ。そしたら担当の方が「地元の人を紹介しますよ」と言って、その場でいろんな方を紹介 してくださって。どこの土地にも、キーマンみたいな人っているじゃないですか。
和可奈:ご紹介いただいたお茶屋さんでアルバイトさせていただいたりもして、それが後々商売をする上で本当にありがたかったですね。
修善寺は「ほどほどの規模感」でちょうどいい

―― 移住して1年ちょっと経って、ようやくアウトドアショップ「SANKAKU STAND」のオープンにこぎつけたわけですね。
和可奈:お店のオープンは2021年4月だったのですが、それもすんなり決められたわけじゃありませんでした。実は当初候補にしていた物件が下水道がひかれてなくて断念せざるをえなかったり、本当に紆余曲折あったんですが、地元の方を通じて良い物件に巡り会えて無事にオープンできたという感じでしょうか。
―― なるほど。移住して6年半ほど住んでみて、改めて良かったと感じることはどんな点でしょうか?
和可奈:不便というほどじゃないけど、ほどほどの規模感ですごくちょうどいいところだなと感じてます。普段の買い物とか、病院とか、生活に必要なものも身近にあってすぐに行けるし、観光地なので飲食店とかおしゃれなカフェなんかもありますし。もちろん、周囲には自然も豊富ですし。全部のバランスがちょうど自分たちには合っていたなって思います。
―― 逆に、意外に想像とギャップがあったところってありますか?
和可奈:観光地・温泉地としての修善寺は盛り上がってるんですけど、いざ地元に住んでみると、思ったよりは地域の方々と関わる機会がないように感じています。いわゆる昔から続いている商業地は高齢化のせいで、店じまいするお店も増えていて。
翔悟:修善寺駅自体もきれいで、駅前の商店街の立地はすごくいいし、移住当初はもっと発展していくのかなと想像していましたが、まだ思ったほどではないですね。ただ一方で、空き家情報もちょこちょこ出てきてて、移住者が新たに宿とかお店を出したりとか、そういう動きもあるにはあります。
山・絶品蕎麦・温泉が近場で楽しめる幸せ

―― 修善寺に移住されてから、登山の頻度や自然に対する考え方に関して、関西にいた頃と比べて変化はありましたか?
和可奈:とにかく自然との距離感が近くなったので、山に出かける機会も増えましたね。
翔悟:移住前は有名な山とか人気のトレッキングコースを探して、がっつり予定を組んで遠出することが多かったんですけど、今は身近に自然がたくさんあるので気軽に行けますね。小さなエリアの中でも楽しめる場所がすごくたくさんあって、飽きないです。
―― もじゃまる夫婦のお気に入りスポット、教えてもらえればうれしいです。
翔悟:しょっちゅう足を運んでいるのは、達磨山(だるまやま)と金冠山(きんかんざん)ですね。二つが連山になっていて、標高も1000メートル未満で比較的歩きやすいので、ビギナーとかお子さん連れのファミリーにもおすすめです。何より、山から眺める景色が素晴らしくて、駿河湾越しに富士山が見えるという。伊豆って、地形的には半島なんですけど、俗に「島山」と呼ばれるように島の中に山があるような景色が見えるのが特徴なんです。
和可奈:下山後に修善寺へ戻る途中で「やまびこ」というお蕎麦屋さんがあって、そこの蕎麦が絶品です。天ぷらもボリュームがあって、行くと必ず寄ってしまいますね。あとは修善寺温泉が近いので、温泉にはこと欠かないところも気に入っています。
―― 登山、温泉、おいしいものがすぐ近所で同時に楽しめるのはうらやましい限りです。
翔悟:あとは天城山の方にある「八丁池」ですかね。辿り着くには、結構苔むした森の中を歩くんですが、道中にブナの巨木があったりして、ちょっと秘境感があるんです。僕らもびっくりしたのが、真冬にいくと結構凍っていたりすること。伊豆自体は温暖な気候なんですけど、八丁池の周辺の山のエリアに限っては雪景色を楽しめるのが意外な発見でした。
和可奈:冬以外でも、春は山桜が咲いてたり、秋は紅葉がすごかったりして、四季を感じる場所としては格好のスポットだと思います。

理想のライフスタイルと「田舎度」のすりあわせが肝心
―― YouTubeやSNSでお二人のことを知って、「自分も自然豊かなところに移住してみたい」と希望する人も多いような気がします。そんな人たちに対してどんなアドバイスをされますか?翔悟:「自分は移住先で何をしたいのか」「田舎暮らしのどこに憧れてるのか」の見極めが大切ですよね。たとえば僕らの場合、お店を持って仕事をしながらアウトドアも楽しみたかったので、あんまり田舎度が強すぎず適度に商業エリアのあるところを探したのですが、しっかり農業を軸にしたいならやはり山間部の方が理想的かもしれません。結局は「田舎度」が重要なのではないかと。
和可奈:スローライフとか、素敵なライフスタイルに憧れて移住しても、仕事や作業に追われすぎると暮らし自体に精一杯になりすぎて、全然ゆっくりできないこともありますし。

―― 自分としっかり向き合わないと、どんな暮らしがしたいのか見えてこない、と。できそうでいて、なかなか難しいような。
翔悟:まぁでも、あまりややこしく考えるよりも、若いうちは直感とか勢いでもいいんじゃないでしょうか。「畑やりたい」とかでもいいと思うんですよ。
それと、独断で決めずに「思い切って人に聞いてみる」のも有効な手ですね。僕らの場合、移住相談所で伊豆を勧めてもらったのは本当にたまたまだったのですが、自分たちだけで探してたら、登山のメッカが多い長野とか山梨にしか目が向かなかったろうなと。なので、個人的には「最初からエリアを絞りすぎない」方が希望の移住先が見つけやすいような気がしますね。
和可奈:結局、独力で探そうとすると自分たちが行ったことあるようなところにまた行くだけになっちゃうので。やっぱりその道の専門家に直接話を聞くと視野も開けてくるように思えます。
―― なるほど。では最後に、どういう瞬間に「自分も伊豆の人になったなぁ」と感じますか?
和可奈:イベントや登山でいろんな地方に行って帰ってきた時ですかね。伊豆の山とか海とか、そういう自然の景色が見えてくると「あぁ帰ってきたな」って、ホッとします。時間が経つごとにその感覚は増してますね。
翔悟:お店のお客さんから「伊豆のおすすめないですか?」って聞かれて、めちゃくちゃ熱を入れて楽しそうに話してる時ですね。後から我に返って「もう俺、伊豆の人になったんやなぁ」って。
和可奈:あと、関西人の夫に関して私が個人的に思うのは「以前よりせっかちじゃなくなった」ところですね(笑)。伊豆のゆったりしたリズムがそうさせてるんだと思います。
お話を伺った方:もじゃまる夫婦
山崎和可奈(通称:まる)
北海道出身。学生時代は山岳部として3年連続インターハイに出場。大学卒業後は大阪でアウトドアメーカーのショップに勤務し、当時同僚だった夫・翔悟さん(通称:もじゃ)と出会う。その後、結婚を経て伊豆・修善寺に移住し、夫婦でアウトドアショップ「SANKAKU STAND」https://www.instagram.com/sankaku_stand/を立ち上げた。
山崎翔悟(通称:もじゃ)
学生時代に奥穂高に登り、登山の楽しさに感銘を受け、アウトドアメーカーに就職。職場で出会った和可奈さんと結婚し、夫婦で移住・独立を果たした。夫婦でYouTubeチャンネル「山好き移住者の日記 by もじゃまる」を運営
編集:株式会社GUINGA
