菊地成孔さんがジャニーズアイドル「キンプリ」に心奪われた理由【楽しい大人の暮らし方】

インタビュー: 劇団雌猫 構成:芦屋こみね 写真:飯本貴子

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好きなものがあると、毎日はもっと楽しい。

劇団雌猫がオタク趣味に生きる人に好きなこと、好きな街や暮らしについて聞くインタビュー企画「楽しい大人の暮らし方」。

今回のゲストは、ジャズミュージシャン、文筆家の菊地成孔さん。昨年末に惜しまれながら終了したTBSラジオ「菊地成孔の粋な夜電波」では軽妙なトークでリスナーを魅了し、今なお“夜電波ロス”を公言する人がいるほど。

「この子たちはパラダイムシフトだよ!」と絶賛する「King & Prince」の話、14年住み続けた新宿・歌舞伎町の話。菊地さんの多才さ、興味の幅広さが伝わるさまざまな「楽しい大人」の顔、のぞかせていただきました。

オタクは異教徒に優しくなれるか?

――菊地さんは劇団雌猫の同人誌『悪友』を、かなり早い段階からラジオやブロマガで「面白い」と紹介してくださっていたんですよね。うれしくも恐縮だったのですが……そもそもなぜご存じだったのでしょう?

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劇団雌猫が2016年末のコミケで頒布した同人誌『悪友 vol.1 浪費』(左)。さまざまなジャンルにお金を費やすオタク女性たちの匿名エッセイ集。『浪費図鑑』(小学館)として書籍化し、菊地さんから「いまの日本で一番おもしろい本」と帯文をいただいた。

菊地成孔さん(以下、菊地):コミケにもよく行っているK-POPオタクの知人が「こんな面白い同人誌が!」とワナワナしていて(笑)。ちょっと見せてよって読んでみたらめちゃくちゃ面白かったんですよ。今の時代を上手に切り取っているなと思って。

――なんと、まさかの初コミケから! 具体的にどんなところが琴線に触れたんでしょうか?

菊地:「可処分所得を全部趣味につぎ込むオタク」というと、「部屋が汚くて自分も汚いけど、とにかく漫画だけを愛してる」みたいなスタイルがステレオタイプのイメージだったけれど、今は違うんだ、と。

「推しに会うならキレイにしていきたい、おしゃれやコスメに気を遣う」という風に変わってきているんじゃないかとは、確かに自分の観測範囲でも感じています。だから、そういう変化や、今まで見過ごされてきたタイプのオタク女性を統括的にルポライトしている本があったら面白いなと、常々思っていたんです。

――なるほど、ルポ本として読んでいただいたんですね。

菊地:そうですね。現場に潜入しているというか、深くコミットメントしている人の話は面白いですからね。僕もこういう仕事をしていますから、「可処分所得を全部僕につぎ込む」ファンの方がいたこともありますし(笑)。そういう人はどうやって生活しているんだろう?って確かに不思議に思っていたんだよね。

――というと、「理解できない人のことを理解できた」感覚ですか?

菊地:いや、そんなことないですよ。「カスタマー」はこうなっていくだろうなというのは予想していました。X JAPAN信者の人が、代々木の駅いっぱいにいる光景、とかも見てきているわけだしね。

そうなっていったときに、最前線の問題として先鋭化したマニアが異教徒に冷たくなっていく「タコツボ化」があるなと思っていたんですよ。自分が好きなジャンルにだけハマって、感度も下がって、別の宗教をもつオタクに対して冷たくなっていく。

昨年末まで僕がやっていたラジオ番組では、流す音楽のジャンルを毎週変えていたんですが、例えばK-POPを特集すると「じゃあ来週は聞かない」って人が、それはそれはたくさんいたんですよ。あと日本語ラップ。この2つはダントツで拒否反応が大きかったですね。だから、しつこく何度もやったんだけど(笑)。

ラジオは、音楽ジャンルではなくてパーソナリティと番組を信頼して聞いてくれる人がいる媒体ですからね。「何回も聞いてたらちょっと印象変わってきた」という人がいたらいいなと。

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――K-POPも日本語ラップは、好きな人は好きなジャンルですから、逆に「その週だけ聞く」というファンもいそうですね。

菊地:そうそう、Twitterの反応なんか見ててもリスナー総入れ替えみたいな感じでしたね。そのときに「オタクはみんなタコツボだ、ほかのジャンルにはみんな興味ないんだ」と思ったんです。多様性と寛容の世の中って言われているのに。

――自分のハマっているジャンル以外は見えなくなる。

菊地:「タコツボでもいいじゃん」っていう考え方も、もちろんありますよ。「異教徒は気持ち悪い」は、もう人類普遍の法則なので。自分が信奉する神以外を信奉している人に対して、どうしても反感が出ちゃう。

でも僕は、異教徒に対して優しくしていくしか、平和への道はないと思っているんですよ。「信じている神様は違うけど、神を信じているという点においては一緒だよね」と、オタク同士が連帯意識をもっていけば、日本の何かが変わるんじゃないかと思っていて。

そのときに、同人誌のタイトルである「悪友」という言葉が、僕の中にスッと入ってきたんです。そういうオタク同士の関係は、要するに「悪友」なんだと。われわれはつぎ込んでいる、対象はK-POPかもしれないしジャニーズかもしれないし、坂東玉三郎かもしれないけど、お互い様でしょ、「悪友」なんだと。

――そ、そこまで感じていただけるとはありがたい限りです……!

菊地:そもそも人類が異教徒に対して寛容なら、これまでの戦争の多くもなかったわけだし。だから「悪友」という概念には、ものすごい希望を感じました。世界平和のカギなんじゃない? まぁ、最初はただ単純に内容が面白かったんだけど(笑)。

何かにハマり込んでいる人の姿は美しいですからね。殉教者が美しいのと一緒です。最近はインスタで検索の仕方を覚えてキンプリ(King & Prince)オタクの主婦の投稿を毎日見たりしてるもん(笑)。

『シンデレラガール』は2番のダンスがヤバい

――キンプリ! ラジオでもちょくちょく言及されていましたよね。その度ジャニオタのあいだでも話題になっていました。

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菊地:今、メンバーの一人である岩橋玄樹くんが、パニック障害で休養されていますよね。僕自身、パニック障害になった経験があるので、「休んでちゃんと治しましょう」ということも含めてお話したんです。「パニック障害って何?」と思っているファンの方もいただろうから、反響があったのかもしれないね。

あと「大学の音楽の先生」というパブリックイメージがある僕が、「キンプリの曲は、これこれこういう風にいいのです!」って言ったから、喜んでもらえたのかも(笑)。

――意外な人から推しを褒めてもらえると、ファンもうれしいですよね。元々、ジャニーズには詳しかったんですか?

菊地:いえ、キンプリからです。それまでは、ジャニーズはSMAPくらいしか知りませんでした。デビュー曲の『シンデレラガール』を聞いたら、「パラダイムシフトだよ! この子たちは!」と思いました。

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――熱がすごい(笑)。とにかく『シンデレラガール』という曲にビビッときたんですね。

菊地:ダンスもいいんだよね、スキルが高くてカッコいい。平野紫耀くんにヒップホップの経験があるのも効いていますよね。ちなみにダンスに関しては、『シンデレラガール』の2番が最高ですよ。

――え、2番そんなに違うんですか?

菊地:2番、違いますよ!全っっ然違いますよ!!テレビでは1番までしか歌わないのが普通なので、2番のダンスはなかなか見られないんですが、NHKの『ザ少年倶楽部』では見られるの!(笑)。

2番と、2番に向かう間奏がすごいんだよね。スキルフルで神がかってるんです。最高ですよ。何回も巻き戻して見ちゃったもん。

――へええ~! 今度見てみます……!

菊地:『シンデレラガール』は、マダムのファンを肯定したっていう面でも革新的だったと思うな。若い女の子を対象にしていたジャニーズ事務所のタレントが<いつになっても、幾つになっても>と歌ってくれたのは革命ですよ。

――なるほど!? その視点はありませんでした。

菊地:あれがひとつの暗号というか、合言葉なんですよね。マダムへ門戸を開いたほうが、売り上げアップすることは自明だけど、「どの年代の方も好きになってください」と作品で示すのは、すごく難しかったと思うんですよ。

例えばSMAPは「箱舟型」でそれを実現したわけです。デビューしたときは10代の女の子だったファンが、長く活動を続けたおかげで、母親になってもファンでいてくれる。それは昔からあることなんですよ。山下達郎さんもそうだし、サザンオールスターズさんもそうだし。

キンプリには「デビューシングルの一発目から、幅広い年代を対象にする」っていうミッションがあったんじゃないかな。だから<いつになっても、幾つになっても>って言ってくれたんだと思います。この2行だけで表現したんですよね。

――でも確かに、「今までジャニーズに興味なかったけど、キンプリで初めてハマった」という方も少なくない気がしますね。

菊地:歴史の転換だと思いましたよ! 案外王子様っぽさ一辺倒でないところもいいですよね〜。

『Funk it up』っていう曲では、『シンデレラガール』で着ていた王子様風の衣装じゃなくて、ちょっとヤンキーっぽい恰好をしていて。平野くんはサングラスをかけて、アロハシャツの下にY字のインナーを着て、要するに湘南にいそうな感じですね。

――……菊地さん、結構本気で予想以上にがっつり、キンプリお好きなんですね!?

菊地:(笑)。なんちゃってファンでも、リップサービスでもなく、ガチの♂ティアラ(読みはオスティアラ、キンプリの男性ファンの呼称)ですよ! 「少クラ」、毎週録画予約していますからね。

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キンプリオタ主婦のインスタをウォッチする理由

――ちなみに、菊地さんの担当は?(※担当=ジャニオタ用語で一番好きなメンバーを指す言葉。“推し”とほぼ同じ意味)

菊地:まぁそれは、平野紫耀くんですよね。世代的に「この子が推し!」とかって言う年齢でもないので、強いて言えばですけどね(笑)。彼が一番バカっぽいじゃないですか。僕、バカが好きなんだよね。

――同じく平野くんが好きなファンの方のインスタをチェックしてるんですか?

菊地:別に平野くん好きが共通だからチェックしてるわけじゃないんですけどね(笑)。とにかくアツいんですよ、「旦那がいるけど何とか時間を捻出して、キンプリのコンサートに行くんだ」とか「あと10分で旦那が帰ってくるから、ギリギリまで映像をリピートして平野くんの笑顔を見よう」とか。必死さが違いますよ。

――キンプリに生かされている感……!主婦の方を特にウォッチしているのは理由があるんですか?

菊地:一通りハッシュタグでウォッチして、面白い人をブックマークしたらそうなりました(笑)。なんだろう、年を重ねている人のほうが、女性としての経験値が高いのかもしれません。感動したり、疑似恋愛したりするときの表現力が高い!

今度開催されるアリーナツアーが、ものすごいプラチナチケットだったでしょ? それを運よく手に入れた主婦のティアラさんが「このチケットは私だけのものじゃない」って言っていたんですよ。「ティアラさん全員の共有物のうちの1枚が、偶然ここにあるだけ。みなさんの分も楽しんできます」と。

――日本代表選手が試合に向かうレベルの熱さですね。

菊地:そのレトリックもすごいでしょ? やっぱ半端ないんですよ。そういうファンたちを見ていると、もうラジオの台本書いている暇なんかないんだよね(笑)。そのくらい入り込んじゃってる。

――菊地さんはこれまでも、キンプリに限らず、音楽や食、本などいろんな「好きなこと」について語られていますよね。特定の「これだけについて語る」ジャンルがあるわけではなく。

菊地:そうですね。僕は典型的な「趣味を仕事にしてしまった人」なので。音楽はもちろんだけど、実家が飲食店で親父が板前だった育ちもあって飲み食いも大好き。スポーツ観戦も好き。「これは仕事にする」「これはしない」っていう区分けはないです。

だから、「どんなことでも自分の好きなようにできる場所」をつくり出すことが、僕の仕事のはじめの一歩なんです。ラジオ番組も「スポンサーのために、この話をしてくれ」みたいなことがあるならやらないよ、と言って始めたんですよね。何をしゃべったっていい、突然キンプリの話を2週ぶっ通しでしてもいいって言われないと、やらないです(笑)。

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歓楽街じゃないと生きられない 新宿・歌舞伎町への愛

――思い入れのある街の話もおうかがいしたいのですが、やはり14年間にわたってお住まいだった新宿が一番思い出深いですか?

菊地:東京では、新宿と銀座が一番好きですね。青山とかオシャレな街がね、どうもダメなんですよね。

――そもそも新宿・歌舞伎町に住んだのは何かきっかけがあったんですか?

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画像:写真AC

菊地:歓楽街の真ん中で生まれて育ったので、騒がしい街にノスタルジーがあるんですよ。静かな住宅街なんかにいるとちょっとドキドキしちゃう(笑)。

夜シーンとしてると逆に全く落ち着かない。ガヤガヤしてないと眠れないから、歌舞伎町に引越したんです。「すしざんまい」の上に。

――住んでみてどうでしたか? 危ないこととか……。

菊地:楽しかったですよ、めちゃくちゃ! 普通の人が全くいないんで。こんないいところがあるのかって。

危ないことは、意外とないですよ。まだ大久保の治安が悪いときに、夜中にパーンパーンと聞こえて「あ~撃ってるな~」と思いながら寝たりしていましたけど、まぁそれくらい(笑)。

――最悪じゃないですか! 歌舞伎町に引越す以前はどちらに?

菊地:その前は自由が丘の、緑道沿いの一番オシャレなあたりに住んでたんです。渋谷系が流行ってた時代。「俺もオシャレに生きていこう」と思って自由が丘に住んでみたものの、合わなすぎてパニック障害になってしまった(笑)。

――そ、そんなにストレスだったんですね、住宅街が……。

菊地:「もう無理だ」ってなりながら、なんとか治して。そのころ、本の執筆作業を進めるために缶詰になるホテルを編集さんに探してもらったんですよ。「新宿がいい」って伝えたんだけど、「すみません、ないです」「ないわけじゃないけど、歌舞伎町しかないです。嫌ですよね」って言われて。「いやいやいや! 歌舞伎町がいい! そのホテルにして!」ってお願いしました(笑)。

――ようやく水の合う街に戻ってこられた!

菊地:外国人しかいないヤバい感じのホテルでしたねぇ。夜、執筆が煮詰まると、夜中の歌舞伎町をブラブラしてたんですが、それがものすごくよくて……。もう抗えない、自由が丘の家を出るしかないって思いました。

あとは、伊勢丹ですね。新宿には伊勢丹があるので。伊勢丹に行かないと、ちょっと具合悪くなっちゃうタイプでして(笑)。

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画像:写真AC

――伊勢丹! メンズ館でお買い物されるんですか?

菊地:いや、メンズ館にはそんなに行かないんです。本館が好きなんですよ。ファッションショーの音楽批評をやっていたこともあって、女性服やコスメが好きなの。

化粧品売り場がある1階をうろうろして「あっ!イヴサンローランが、水色のアイシャドーを出してる!」とか思うわけですよ。

――へえ〜、化粧品売り場! 素敵です。

菊地:新宿伊勢丹って、中二階みたいな場所があるんですよね。そこから見下ろすと、コスメフロアが階下に広がっていて、たくさんの方が美容部員さんにメイクしてもらってるのが見えるの。しばらく同じ人を見ていて「あっ、きれいになったな」なんて思ったり(笑)。

そこから上のファッションフロアに移動して、ショーで見たコレクションラインが、どれくらい置かれているのか見ながら散歩するのも好き。

――買い物ではなく、伊勢丹を見て回るのを楽しんでいるんですね。

菊地:そう、眼福なんですよね〜。靴売り場もいいですよ、ルブタンの靴でできたシャンデリアなんかを見ているとだんだん興奮してきちゃう(笑)。

ひとしきり靴エリアの散策を満喫したころには、興奮で喉がカラカラじゃないですか。そこに待っていましたと言わんばかりに、シャンパンが飲めるバーカウンターがあるの! ちょっと飲みすぎて酔っちゃっても、下の階に行けばコールドプレスジュースを売っているから、酔い覚ましもできる。

――伊勢丹、そんな味わい方が!

菊地:買わない僕が毎日行って飽きないんだから、買う人なんか毎日楽しくてしょうがないだろうな。なんというか、波動が合う。中毒とも言えるけど(笑)。服も靴も鞄も、買わないのに見てしまう!

僕がこうやってうろうろ歩きたいのは、やっぱり新宿伊勢丹なんだよね。ネットショッピングだと感じられないものがある、これを全部メルカリやZOZOTOWNにしちゃったらもったいないですよ。というわけで、精神を浄化するために、伊勢丹をふらつくの、オススメです。

――まさに「楽しい大人の暮らし方」ですね。伊勢丹散歩、やってみます!



<劇団雌猫による連載、次回は8月後半に更新予定です!>


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お話を伺った人:菊地成孔

菊地成孔

1963年、千葉県生まれ。音楽家、文筆家。DCPRG、菊地成孔とペペ・トルメント・アルカラールを主宰するほか、ジャズ・ドミュニスターズ、SPANK HAPPYとしても活動。著書に『スペインの宇宙食』『歌舞伎町のミッドナイト・フットボール』『ユングのサウンドトラック』『時事ネタ嫌い』『レクイエムの名手 菊地成孔追悼文集』『菊地成孔の欧米休憩タイム』など多数。最新刊は、ラジオのトークをまとめた『菊地成孔の粋な夜電波シーズン9-12 安定期と母の死そして女子力篇』。


聞き手:劇団雌猫

劇団雌猫

アラサー女4人の同人サークル。「インターネットで言えない話」をテーマに、さまざまなジャンルのオタク女性の匿名エッセイを集めた同人誌「悪友」シリーズを刊行中。その他、イベントや執筆活動などもおこなっている。編著書に『浪費図鑑』『シン・浪費図鑑』『まんが浪費図鑑』『だから私はメイクする』『一生楽しく浪費するためのお金の話』。7月に新刊『本業はオタクです。シュミも楽しむあの人の仕事術』が発売した。

Twitter:@aku__you

ブログ:劇団雌猫

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