友光雅臣さんが選ぶ「新馬場」の好きなところ〜私がこの街に住む理由〜

取材、執筆: 小野 洋平(やじろべえ) 

あなたが、その街に住んでる理由は何ですか? 商店街の雰囲気がいい。すてきなカフェがある。交通アクセスがいい……。きっと、住む人それぞれに“街の好きなところ”があるはず。今回は東京都品川区の寺院、常行寺で副住職を務めながら、寺社フェス『向源』を主催する、僧侶・友光雅臣さんに新馬場の魅力を教えてもらいました。


f:id:SUUMO:20181212143059j:plain

新馬場……東京都品川区北品川2丁目に位置する京浜急行電鉄本線の駅。東京屈指のビジネス街である品川駅までは3分(2駅)の立地条件を誇り、近年では多くの高層マンションやオフィスビルが建設されている。また、かつては東海道五十三次の第一宿「品川宿」として栄えたエリアで、今でも多くの神社仏閣が残っている。

◆◆◆

f:id:SUUMO:20181212143141j:plain


「新馬場に暮らしてから、もう12年ぐらい経つのかな。妻の実家がこのあたりのお寺で、僧侶になったのが住み始めたきっかけです。正直、妻と付き合い始めた高校生のころは新馬場に降りたこともなければ、聞いたこともなかったです(笑)。でも、檀家さんをはじめ、優しい住民の方々が多いので、今ではとても居心地の良い街になりました」


理由その1.普通の大学生から僧侶の道へ。居住するきっかけとなった「常行寺」

f:id:SUUMO:20181212143215j:plain


「初めて降りた新馬場は落ち着いた街だなって思いました。品川駅から近いので、勝手に都会を想像していたんですけど、当時は高層マンションも建っていなかったですし、近隣の大崎や大森に比べてのどかな印象でした。

それと、各駅しか止まらない駅だったので電車がなかなか来なかったり、間違って特急とかに乗ってしまうと多摩川を越えて川崎まで行ってしまうリスキーな駅だとも思いました(笑)。

驚いたのは駅の南口。駅を挟むようにお寺が密集しているんですよ。ホームに漂う線香の香りが、今でも思い出されますね」


f:id:SUUMO:20181212143245j:plain


「街を歩いてみると、やはり神社仏閣が多かったですね。彼女からも実家がお寺とは聞いていたのですが、いざ到着すると想像以上に荘厳で敷地も広いなって思いましたね。門を見たときなんて、お義父さんは厳しい方なんだろうなって緊張しました(笑)。実際は優しい方で安心しましたけどね。でも、あの時の自分からしたら、まさか今、僧侶になっているなんて想像もつかないでしょうね」


f:id:SUUMO:20181212143316j:plain


「お義母さんから『お寺に入らないか?』と誘っていただいたのは、僕が大学生のころ、就職活動で悩んでいるときでした。

お盆やお彼岸の時期にお手伝いには来ていたんですけど、僧侶になろうとは微塵(みじん)も思っていなくて。なんとなく楽しいなってくらいでした。でも、急に現実味を帯びてくると、自分が僧侶に向いているかも分からないですし、やりたいのかさえも分からなかったんですよね。仏教に特別な興味を抱いていたわけではなかったですから。しかも、僧侶=結婚になるじゃないですか? 彼女とは相当、話し合いましたね。

結果、覚悟を決めた僕は仏教の大学に通い始め、比叡山にも修行しに行きました。その後、帰ってきたタイミングで結婚、そして僧侶となり、新馬場へ住み始めました。今思うと、僕の人生において妻の存在はかなり大きかったですね」


  • 天台宗常行寺
    • 東京都品川区南品川2丁目9−18
    • 03-3471-8773




理由その2.仏教のいろはを教えてくれた「正徳寺」

f:id:SUUMO:20181212143346j:plain


「今、向源*1を行っているなかで、DJとしてのルーツは渋谷にあるのですが、僧侶としてのルーツはやはりこの街にあります。なかでも、正徳寺の平松さんには僧侶としての働き方や仏教の考え方を教えていただきました」


f:id:SUUMO:20181212143418j:plain

▲正徳寺の住職・平松さん(右)


友光さん「平松さんとの出会いは品川仏教会で行った青年部の勉強会です。

僕が僧侶になりたてのころ、お釈迦様の生涯が書かれた『仏教聖典』という本の読み合いを行いました。書かれている言葉が僕には難解だったんですけど、平松さんは怒ることなく全て教えてくれたんです。そのおかげで仏教の教えも自分ごととして理解していき、知識として詰め込むのではなく自分で解釈しながら楽しんでいいんだとも思えるようにもなりました。

そこから、だんだんと自主的にも学ぶようになり、今度は僕が身近な人にも伝えたくなっていったんです。そして、2011年の9月から、『向源』を開催したんです」


f:id:SUUMO:20181211125121j:plain

▲2013年の向源の様子。各宗派と住職の特色を活かしつつ、神社で座禅を組んだり、お寺でテクノを聞いたり、精進料理を弁当にしたりと、街歩き型の体験イベントを行った


平松さん「私自身も近所の寺同士で街を盛り上げていきたかったんです。向源に参加した若者からは『初めて寺の門をくぐった』という声もあって非常に面白かったですね。ご先祖様がいない寺にはなかなか入る機会もないですもんね。だから、若い方々が初めて仏教や神道、伝統文化に触れるイベントを一緒にやらせてもらえたのは貴重な経験でしたね」


友光さん「檀家さんに案内をしたわけではないので、参加者の半分以上は別の街から来てくださりました。街の消費を増やしたってわけじゃないですけど、あまり人が訪れない新馬場にも、あの時は活気があったと思っています」


f:id:SUUMO:20181212143511j:plain

▲新馬場で生まれ育った平松さん


平松さん「でも、私が幼いころは生活に密着した個人商店が多く、東海道一の宿場町でしたから、芸者さんのための三味線屋や呉服屋があったんです。しかし、20年ほど前、その商店街はシャッター通りになりかけてしまいました。今でこそ、少しずつ商店街に活気を戻す動きがあり、軒をつくったり、簾(すだれ)を統一させるなどの試みも行われました。それから、人が商店街に戻るようになっていったんです」


友光さん「街にオフィスビルや高層マンションが建設されてからは、住人のためのお店、行き来するサラリーマンのための飲食店が増えた印象です。また、ここ10年の街の移ろいをみると、若い子育て世代が増えましたよね。0歳児の人口も右肩上がりだそうですし」


f:id:SUUMO:20181212143541j:plain


平松さん「私自身、新馬場は古い人たちと新しい人たちが上手く生活できているなと思っています。新馬場のお祭りって意外と盛んなんですけど、古い人は町内会に入っているので結束力が固いんですよ。かと思えば、新しい人がお祭りや地域の催し物に参加しても、分かれることなく一緒になって楽しんでいるように見えます。そういった古い人と新しい人がつながりやすいのは新馬場の特徴かなって思いますね」


友光さん「つながりで言うと、特にお寺は場所を動くことがないので、地域のつながりがとても大きいと思うんです。例えば、どんなに仲良い友達でも末代まで同じ関係性が続くことはないですけど、寺と寺、寺と檀家さんの付き合いは自分の代だけじゃなく、次の代、その次、その次と何百年も続いていく。この距離感の人間関係は、僧侶ならではで面白いですし、大切にしていかないとって思います」

  • 正徳寺
    • 東京都品川区北品川2丁目9−26
    • 03-3471-3938



理由その3.行き詰まったときにはカロリーのある食事「肉汁ラーメン 公」

f:id:SUUMO:20181212143612j:plain


「焼肉とかトンカツのような、カロリーのある食べ物が好きなんです。特にラーメンは多いときだと、週5、6回のペースで食べてしまいますね(笑)。もちろん、この新馬場でも行きつけのラーメン屋は多いです。まず、家系ラーメンだったら『まこと家』さん。10年近く通っているんですが、もちシコ麺に絡む濃厚とんこつ醤油が堪りませんね。それと『丸直』さんもオススメです。ラーメンは何種類もありますし、不定期の限定ラーメンによっては『二郎系』や『富山ブラック』のようなご当地ラーメンも提供してくれるんです」


f:id:SUUMO:20181212143636j:plain

▲ラーメン中盛り、チャーシューダブル


「そのなかでも今回は『肉汁ラーメン 公』を紹介します。ここには僕が悩んだり、気分が乗らないときに食べにくることが多いです。というのも、どうしても行き詰まると、食べきれないほど食べてやるって気持ちになっちゃうんですよ(笑)。ラーメンを食べると、パワーがみなぎるじゃないですか?」


f:id:SUUMO:20181212143701j:plain


「僕は精進料理でも米2合を食べてしまう。今年で35歳になるのですが、高校時代から食欲が衰えていなくて、気をつけないと食べすぎちゃうんです(笑)。最近は、胃を小さくするように気をつけながらダイエットを始めました」

  • 肉汁ラーメン 公
    • 東京都品川区北品川2丁目-25-10
    • 03-6433-9952
    • 平日・土11:00~23:00/日・祝日11:00~22:00
    • 無休



理由その4.運河を見つめて頭の中をリフレッシュ「京浜運河緑道公園」

f:id:SUUMO:20181212143727j:plain

▲約2.5kmの緑道公園


「最後のお気に入りスポットは『京浜運河緑道公園』です。街にも公園は点在しているんですけど、住宅に囲まれているので、ここまで自然豊かではないんですよ。それに、ここは住民の方もあまり来ないのでリラックスするには最適なんです」


f:id:SUUMO:20181212143752j:plain

▲緑道公園に沿った京浜運河


「DJとしてミックスをつくったときには聞き直したり、仏教の講演があるときには何を話すかイメージしたり……。僕は家でじっと考えているよりも、芝生の感触や海の香りを感じながら考えたほうが頭の中が整理できるんです。特に夜中や明け方は真っ暗で、本当に静かなので考え事するときにはピッタリ。それに、僕は元々江東区で生まれ、荒川や隅田川が近かったので、川越しに見るビルの夜景が好きなんです」


f:id:SUUMO:20181212143818j:plain


「今の新馬場界隈ってどんどんオフィスビルや高層マンションが林立し、発展してきてますよね。でも、ちょっと前までは小さな工場が街のいたるところにありました。なじみ深い風景が変わるのは寂しくもありますが、『変化し続けること』が街の文化なのかなとも思います。店の入れ替わりが激しかったり、昔見た景色と違うなんてどの街にも言えること。ここからの景色を眺めていると、つい俯瞰して街を見てしまうんですよね」

  • 京浜運河緑道公園
    • 東京都品川区八潮1丁目、5丁目
    • 03-3790-2378(大井スポーツセンター)

◆◆◆


最後に、改めて友光さんに「新馬場の好きなところ」を聞いてみると……。


f:id:SUUMO:20181212143847j:plain


「昔からの伝統は重んじるべきですが、移ろうことが当たり前っていう認識が新馬場の住民にはあるのかなって思います。

特にこのエリアは神社仏閣が多いですけど、寺の生まれじゃない僕にも『入ってくれてありがとう』と言ってくださるのは新しいことへの変化にも慣れているからだろうし、向源のようなイベントを行う際も『常行寺はそんな場所じゃない』なんて言う人がいないのは、きっとこれからの世代に対して意味のあることだって理解があるからだと思うんです。

そういった街の姿や住む人の変化にも柔軟に対応する新馬場が好きですね。だからこそ、受け入れてくれた人のためにも僕なりの方法で仏教は普及し続けたいですし、変化し続けたいです」



賃貸|マンション(新築マンション中古マンション)|新築一戸建て|中古一戸建て|土地


今回の案内人:友光雅臣

友光雅臣1983年生まれ東京都出身。常行寺の副住職。また、寺社フェス「向源」を主催するほか、仏教を組み合わせたイベントのプロデュースや講演会も行っている。12/23に代官山で開催されるキャンドルイベント代官山ノエルの運営もサポート

取材、執筆:小野 洋平(やじろべえ)

小野 洋平(やじろべえ)

1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服がつくれず、ライター・編集者を志す。譲れない条件は風呂・トイレ別(温水洗浄便座)。SUUMOなどで執筆しながら自身のサイト、小野便利屋を運営。

Twitter


関連記事

suumo.jp

suumo.jp

suumo.jp

*1: 「仏教と音楽」を軸に2011年9月からスタート。寺社を会場に宗教や宗派を超え、日本の伝統文化を体験できるイベント。