池袋という“ベルサイユ宮殿”から10分。マンガの神様の街「椎名町」でBLに囲まれて暮らす【オタ女子街図鑑】

著: 劇団雌猫 

二次元、ジャニーズ、宝塚にアイドル。次元もジャンルも異なれど、オタク女子にとって趣味は人生の重要な一部。趣味を満喫するうえで、実は大切なのが「暮らす街」。オタク女子はどんなことを考え、どんなことを重視して街と家を選ぶのか?

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『浪費図鑑』『悪友』が話題の4人組オタク女子ユニット「劇団雌猫」がお届けする連載「オタ女子街図鑑」。今回、ご紹介していただく街は「椎名町」……って、なんだか聞き慣れない名前ですね。「思い立って10分以内で同人誌を買いに行けないと嫌!」にこだわる彼女が住む街は?

本日の語り手 アメリカザリガニさん

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終わらない「豊島区すごろく」

就職のために上京して15年以上、豊島区内で転居を繰り返してきた。引越しの条件を何より愛する池袋から離れないことに設定している私の現在の住所は、西武池袋線の「椎名町」駅周辺だ。

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実は椎名町という地名はもう残っていないのだが、池袋駅からは1駅2分(逆方向だと3分)、池袋駅西口からは直線で1.5km程度の距離なので、仕事や飲み会で自宅最寄駅までの終電に間に合わなくても、どうにか池袋までたどり着ければタクシーに乗って1000円前後で帰宅できる。

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ターミナル駅からたった1駅でこの下町情緒


私がこの終わりのない「豊島区すごろく」を始めたきっかけは、新卒で入った出版社が通勤時間30分以内の場所にいくつか社宅を所有しており、会社に言われるがまま入居したのが豊島区内の1Kだったことだ。オートロック・宅配BOX付き・24時間ゴミ出しOKの物件ながら、1カ月の家賃は破格の1万8000円。断る理由は何もなかった。

地方出身のオタクだった私にとって、右も左も分からない東京での初めての一人暮らしの解放感と日常の激務の心の支えになったのは、社宅から地下鉄に乗れば5分以内・自転車でも10分程度の距離にあった池袋だ。

池袋、そこはベルサイユ宮殿

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オタク活動に金銭的・距離的な制約があった学生時代とは一変して、家族の目を気にすることなくいつでも好きなときに大型書店や同人誌専門店に行き、欲しいだけ本を買える環境は、例えるならベルサイユ宮殿の近所に引越したようなものだった。社宅のおかげで家賃負担が格安だったこともあり、毎晩着飾って舞踏会で踊り狂うマリー・アントワネットのごとく、ハマった対象には息をするように浪費してしまう癖がついたまま、現在に至っている。

例えば、休日に自宅でだらだらインターネットを眺めているときに、気になるサークルのすごく好みな同人誌を見つけたとする。どうしても今欲しいすぐ読みたい、通販なんて待てない我慢できない、という衝動はオタクであれば身に覚えがないだろうか(私にはよくあります)。

そんなときでも、椎名町駅から西武池袋線に乗れば池袋駅まで1駅3分、さらに東口に面した改札口を出ると徒歩3分でとらのあな、徒歩6分でアニメイトに到着する。もし自宅が駅前にあり、在庫が確認できれば、欲しいと思い立ってから最短10分でさっきまで存在も知らなかった同人誌を手に入れることも可能なのだ。

10分といえば、例えば東京ビッグサイトで開催される同人誌即売会の場合、最寄りのゆりかもめ国際展示場正門駅前を出発してからお目当てのサークルスペースにたどり着くまでよりも早いのではないだろうか。

映画も演劇も買い物も

豊島区が文化事業の一環としてPRに力を入れているせいか(アニメイトの店舗画像が区役所のHPに乗っている自治体がほかにあるのだろうか)、池袋=アニメ・マンガコンテンツの街としてのイメージが強い。しかし実際はあらゆるオタクにとって懐が深い土地だ。

例えば、個性的なラインナップを上映するミニシアターなら新文芸坐、シネマロサ、シネ・リーブル池袋がそろっているし、2019年夏には都内最大級のシネマコンプレックス「グランドシネマサンシャイン」が完成予定で、常設の映画館としては国内最大のIMAXレーザーシアターが目玉になる。

芝居やコンサートなら東京芸術劇場、あうるすぽっと、サンシャイン劇場など既に大小さまざまな規模の「現場」があるが、豊島区役所本庁舎跡地に建設中の新複合商業施設「ハレザ(Hareza)池袋」の中に2019年秋にオープンする新ホールでは、宝塚歌劇と歌舞伎の公演がこけら落とし期間に予定されているというから、今までに池袋には馴染みのなかった、日比谷・東銀座エリアを聖地とされているジャンルの方も今後は足を運ぶ機会が増えるのではないかと思う。

さらに、池袋は渋谷や新宿に比べて副都心のなかでも「夜が遅い」街でもある。繁華街であれば深夜早朝まで営業している飲食店は珍しくもないが、某家電量販店の歌でおなじみの「東は西武で西東武」の池袋駅直結の百貨店2つは平日21時まで、大型書店も東口のジュンク堂書店と三省堂書店は22時まで営業している。閉店時間ギリギリだけど明日になるまでにどうしても手に入れたいコスメや服や本がある多忙なオタク女子が駆け込むのに優しい街だ。

なお、西武池袋本店地下2階の高級スーパー「ザ・ガーデン自由が丘」は22時まで営業しているので、「デパ地下は閉まっちゃったけどちょっと良いご飯を買って帰りたいなあ」というときにもさっと立ち寄って運良く割引されたお惣菜をゲットしたら、そのまま電車に乗ることもできる。

椎名町ってどんな街?

池袋への愛が強すぎて、つい後回しにしてしまったが、もちろん椎名町に住むメリットが「池袋から近い」だけにあるわけではない。

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椎名町駅北口すぐの赤門テラスなゆた(Wi-Fi無料)。2階ではヨガ教室なども開催されている


椎名町はたった1駅離れただけで池袋の喧騒とは打って変わった、商店街と住宅地が広がる下町エリアだ。まず駅の北口を出ると500年以上の歴史がある「金剛院」というお寺の鮮やかな赤門が目に入る。そこに隣接するカフェ「赤門テラス なゆた」では境内の緑を眺めながらいただける、栄養バランスが考えられたフードメニューのほか、アルコールも用意されている。晴れた休日の昼間にお寺の木漏れ日の下で飲むビール! 最高である。

この金剛院の境内には「マンガ地蔵」という非常にユニークなお地蔵様が建立されているのだが、椎名町は手塚治虫、石ノ森章太郎、藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐ、赤塚不二夫が青春時代を送ったトキワ荘があった街としても知られ、お地蔵様はかつてトキワ荘のあった方角を見つめていらっしゃるそうだ(なお、豊島区の文化事業の一環として、元の土地付近に原寸大のトキワ荘を復元したミュージアムが2020年3月に開館予定だ)。

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金剛院のマンガ地蔵。撫でるとマンガのネタが浮かぶかも


そんなマンガ界のレジェンドたちが暮らした昭和の面影が色濃く残る商店街がある一方で、駅前には大型スーパー「サミット」が深夜1時まで営業しており、金曜日の夜に突然思い立って時間のかかる煮込み料理などをつくりたくなったときに重宝している。 

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トキワ荘の住人たちに愛された「中華料理 松葉」も健在


ちなみに椎名町駅から徒歩10分の距離に「ファミリーイン西向」というゲストハウスがあるのだが、商店街も途切れた住宅街の中にあるにもかかわらず、ある旅行サイトの海外旅行者が選ぶ日本国内人気の宿泊施設部門で常に上位にランクインしている。宿泊者の口コミを見ると、池袋までの利便性と並んで、都心の高級ホテルステイでは味わえない地元商店街の面白さなどが挙げられており、自分が住んでいる街の魅力を国境に関係なく分かってもらえるのはやはりうれしい。ミシュランガイドに掲載された庶民的な江戸前ずしや、住宅街の中にいきなり店外に行列が伸びているとんかつ屋など、地元の人に長く愛されている名店も多く、一人でふらりと立ち寄っても楽しめる。

椎名町駅から北に約10分歩けば有楽町線・副都心線の要町駅、南に12,3分歩けば大江戸線の落合南長崎駅も利用可能だ。大江戸線を利用すれば新宿駅まで13分、六本木駅まで22分だし、落合南長崎駅前にある南長崎スポーツセンターは豊島区在住であれば月額3500円でプールやトレーニングルームが使い放題になる。

もちろん公共交通機関だけでも十分に利便性の高いエリアだが、アップダウンの少ないこの街に住むならぜひ自転車を暮らしの足として活用してほしい。

路線に沿った移動が「線」なら、自転車は駅から徒歩○分という制限がなくなるので活動範囲を「面」に広げることができるのだ。10~15分も走れば愛する池袋はもちろんのこと、個性的なお店がたくさんある目白や江古田エリアも十分に行動圏内に入るし、運動不足も解消できるかもしれない。

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商店街の中にある民家をリノベーションしたゲストハウス「シーナと一平」。元とんかつ屋さんである1階のカフェはワンドリンクでミシンが利用できる


家賃を上げて、見えてきた世界

気になる家賃についてだが、この地域であれば6.5万~7.5万円程度で一人暮らしの女性オタクが求める大体のニーズに合った物件が見つかるのではないだろうか。ただし、現在私が住んでいる物件の家賃は9万円台後半で、地域の相場から見れば決して安くはない。

しかし、池袋を中心に約1,2kmの範囲で住む地域をスライドさせてみるという引越し方法を採用している私にとって、日常でお世話になるスーパーやドラッグストアやクリーニング店は変わるが、今まで住んでいた街と地続きという安心感がある一方で、それを繰り返すうちにどことなく物足りなさも感じてくる。

今までは自宅の居心地は必要最低限と割り切って、利便性と家賃の安さを優先して生きてきたが、数年前に思い切って前の家賃より2万~3万円相場を上げて部屋探しをしたところ、同エリアでの平均的な一人暮らし用の物件に比べて大幅に部屋のグレードが上がった。

上京したときからずっと手放さなかった段ボール数箱分の殿堂入り同人誌コレクションや、推しを思う存分堪能するために42インチのTVモニターを置いても広々としたスペースが確保できるワンルームは床暖房完備で、寒い季節には同人誌即売会から帰宅すると、床に戦利品を積み上げ、それを片っ端からぬくぬくと堪能する至福の時間が約束されている。

部屋のグレードを上げたことのメリットは床面積の広さだけではない。特に内見の際におすすめされたのが防音性の高さで、この部屋に引越してきてから一人暮らしの悩みにありがちな隣人の立てる生活音が一切気にならなくなった。

また、契約アンペア数の問題で一人暮らしにおいてやってしまいがちな、電子レンジとドライヤーなどをうっかり同時に作動させてしまい、録画中のレコーダーや作業中のPCがシャットダウンして暗闇の中で声にならない叫びを上げるという失敗も過去の話だ。

食生活の面でも、以前の部屋は冷蔵庫に水しか入っておらず、全てコンビニと外食で済ませていた私が友人を招いて手料理をふるまうようになり、毎朝ギリギリまで寝ていた日常から脱し、朝食の準備をして出勤前にコーヒーを飲む余裕まで手に入れることができた。この部屋への引越しが生活サイクルまで変えてしまったのだ。

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ちなみに私の勤務地は渋谷区だが、現在の住まいと同条件の物件を探すと15万円以下ではまず見つからなかった。職場周辺は雑誌やインターネットで頻繁に紹介され、上質な暮らしを営むBLカップルを思わず妄想したくなるようなお洒落な店が立ち並ぶエリアではあるが、今すぐ欲しいと思い立っても10分以内で同人誌を買いに行けないのではしょうがない。

東京での生活も15年以上が経過し、やっと巡り合えた今の部屋を非常に気に入っているので引越す気は全くないのだが、おそらくまた数年後には新たにサイコロを振って豊島区すごろくを続けるのだろう。もちろん、お宝同人誌の詰まった段ボール数箱とともに。





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<劇団雌猫による「オタ女子街図鑑」、次回は12月後半に更新予定です!>




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■オタ女子街図鑑 過去の記事

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著者:劇団雌猫

劇団雌猫

アラサー女4人の同人サークル。「インターネットで言えない話」をテーマに、さまざまなジャンルのオタク女性の匿名エッセイを集めた同人誌「悪友」シリーズを刊行中。その他、イベントや執筆活動などもおこなっている。同人誌を元にした書籍『浪費図鑑』『シン・浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』が発売中。

Twitter:@aku__you

ブログ:劇団雌猫

※記事公開時、池袋駅からとらのあな、アニメイトまでの距離に誤りがありました。読者様からのご指摘により、11月27日(火)15:00に修正いたしました。ご指摘ありがとうございました。