大阪でマイホームを買うはずだった僕が、滋賀県暮らしを楽しんでいるワケ

著: 吉本ユータヌキ 

大阪で家を買うはずだった……のに!

ちょうど4年ぐらい前から大阪で家を探し始めた。賃貸ではなく、マイホーム購入で。

理想の家の条件は、リビングが広いことと、陽があたること。それは10年近く暗くて狭い1DKで一緒に暮らしていた僕と妻にとって、最低限の理想だった。だって、当時住んでいた部屋は、ベランダを開けても隣のマンションの壁で昼か夜かの区別もつかなかったんですもん。

しかし、そんな最低限だと思っていた理想と、会社員生活の短かった僕の現実はうまく噛み合わず(かっこいい言い方したけどローンがなかなか通らなかっただけ)。予算の都合もあって、大阪市内を諦めて郊外を探すも、結局不便になってしまう。どこに買ったらいいか、わからなくなってきてしまった。

そんなある日、妻の地元である滋賀県へ行ったタイミングで何の気なしに車でうろうろしてると、「販売中」と書かれた一戸建てが目に飛び込んできた。家の前に建てられた看板には部屋の写真や設備が載っていて、これ以上ない理想の家。

近隣を見渡してみると新築ばかりで同世代が住んでいる感じ。大通りから離れていて車も少ない。公園もある。徒歩圏内にショッピングモールもある。庭もある。リビングも広い。陽あたりなんて良好すぎる。しかも、物件価格は大阪の2/3。なによりも、子どもたちを育てる環境として最高だと思った。

数日後、すぐに内覧させてもらって、その日に仮押さえして帰宅。こうしてぬるっと、僕たち家族の滋賀県彦根市への移住が決定した。

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想像以上に快適だった、交通の便

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「ぬるっと」とは言ったものの、滋賀移住を決断するまでの間には、色々考えることがあった。生まれてから30年近く過ごした大阪から離れる寂しさ。仕事の打ち合わせや、お世話になっているイベントに顔出したり・友達との飲み会とかに参加ができなくなってしまうこと。正直、これが一番悩んだかもしれない。悩みに悩んだけど、最終的には『まあ、僕のライフスタイルだったら、友達との飲み会もせいぜい月1回くらいか』と気がついた。

「滋賀移住」というと、おおごとに感じられるけれど、実は彦根駅からはJR新快速で大阪まで1時間半、京都までは1時間あれば着く。引越したばかりのころは、大阪に向かう電車に乗る前は、仕事ができる様にとMacBookとペットボトル2本飲み物をリュックに入れて、気持ち的には小旅行。

……そんなつもりだったけど、実際は乗り換えもいらないし、彦根市から京都・大阪方面に向かう電車は、ほぼ座れる。Netflixで長い映画を観ようもんなら、オチ寸前で到着してしまい、拍子抜けするくらい近い。大阪に住んでいたとき、滋賀は遠い国だと思っていたけど、交通の便がとても良いのだ。

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さらにいえば、「月に1回くらいの移動なら、場合によっては新幹線もアリだな」と考えるようになった。米原から新大阪までなら片道4510円、たった35分程でついてしまう。月々のローン返済額が抑えられた分を交通費に回しても、十分なお釣りがくる。新幹線なら今はWi-Fiもあるし、座席の座り心地もいいし、サクッと仕事するのにもちょうどいい時間。まあ、僕は大体YouTube観て終わるんですけど……。

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結果的には、移住後すぐに新型コロナウイルスが猛威を振るうことになり、打ち合わせもイベントも飲み会もすべてオンラインに移行。結局、仕事をするうえでは一切の不自由ない状況になった。どこに住んでいても同じ状況だったかもしれないと感じている。

彦根移住後、濃厚になった人付き合い

彦根に住んですぐ、偶然彦根の会社からお仕事の依頼が来た。当時はまだ、彦根に住んでいることを公表していなかったので、依頼主も大阪在住と思っていたらしい。『10分あれば今からでもお伺いできます!』と伝えると、先方もびっくりしていた。

大阪にいたころは、お仕事の依頼をもらってもこんな風にダッシュで行くなんてことなかったのに。今思えば、先方のメールの内容から熱量みたいなのを感じたのかもしれない。どこか不慣れで不器用で、すごく恐縮してくれている感じとか。引越ししてすぐに、家の近所の会社から連絡きたことが、僕にとっては運命的だと感じたのかもしれない。

声をかけてくれたのは、彦根市にあるイベント制作などをしている『株式会社いろあわせ』という小さな会社。伺ってみると、彦根城の城下町のすぐ横にある、歴史ある古民家を再生したオフィスだった。

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これが僕にとって初めて『あ、ほんまに彦根に移住してきたんやな』と感じた瞬間だったかもしれない。

挨拶をするや否や、僕に依頼をくれた方が『あの漫画が好きです!』と何年も前に描いた作品を褒めてくれた。僕が漫画家として活動し始めてすぐのころからフォローしてくれていたようで、くすぐったくなりながらも嬉しかったことを覚えている。

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「ここで打ち合わせをしたり、みんなで会議したりするんです」と、オフィスを案内してくれた。田舎のおばあちゃんの家に行った時の様な安心感があった。

彦根市では古民家を再生したお店・会社が多く、昔ながらの街並みの中に突然オシャレなカフェが出てきたりもする。

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ここは、キャッスルロードという城下町の商店街。

いろんな飲食店やお土産屋、喫茶店、佃煮屋などが並んでいて、彦根に観光に来た方のほとんどはここでランチやお茶をする。その中でも、僕の1番のオススメここ。

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近江肉うどん・赤鬼うどんの『ちゃかぽん』さん。

うどんをいただくのも良いが、もしいろんなお店を食べ歩きたいという時は、ぜひこれを食べてほしい。

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近江牛握りである。なんとこれが

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手のひらサイズのえびせんに乗って現れるのだ。世界一贅沢なえびせんと言っても過言ではないが、もちろんメインは近江牛握り。えびせんはお皿代わりという、なんともエコな発想である。

味はもちろん最高。口の中でじわーっと広がるお肉の脂と、とろけるような食感。これは絶対に食べてもらいたい。

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ちなみにここは、いろあわせのすぐ近くにある生のカカオを低温調理してつくるローチョコレイト専門店『ハレトケト』さん。文化遺産にもなっている"足軽組屋敷"を使ったお店。ヴィーガンやオーガニック食材にこだわる方から多くの支持を得ている。チョコレートの概念が覆されるような美味しさ。

話は戻って、その時の依頼は滋賀県にまつわる冊子に掲載する漫画の作成だったが、この機会をキッカケにこの『株式会社いろあわせ』とお仕事させてもらうことが増え、なんと今では週1社員として雇ってもらっている。僕は琵琶湖の東側を走る「近江鉄道」というローカル線を舞台にした謎解きイベントの運営も行うことになった。

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2両編成のローカル線「近江鉄道」の魅力

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大阪にいるとわからなかったが、地方には地方の悩みや苦労、そして熱量がたくさんあることを知った。地元をもっと盛り上げたい人。都会へ出ていく若い人が多くて働き手の足りない企業。大手チェーン店に価格で勝てず、お客さんを持っていかれる地元の居酒屋。赤字だけど必要としている人がいて、潰れることができないサービスもある。

まさに、先程紹介した近江鉄道は27年連続の赤字で、経営状況はかなり厳しいものになっているそうだ。電車は2両編成で、日中は1時間に1本だけ。通勤時以外は、乗客がぽつりとしかいない。乗っているこっち側まで心配になってしまうのだが、地元ではこの電車を必要としている人たちが多くいる。

なので、24年度からは近江鉄道の経営負担を減らすため、線路や駅などの施設を自治体が管理することになったそうだ。また、地元企業とのコラボでイベントを開催したり、地元学生が盛り上げるべく、近江鉄道を舞台にした映画を撮影しようという試みもある。

近江鉄道に乗ってみると車窓から見える田園風景に癒やされるし、揺れはするけど静かでのんびりした時間を過ごせるし、ちょっと昔にタイムスリップした様な気持ちになれる。

……と思ったら、突然自転車を押して乗り込んでくる人たちも。最初は僕も驚いたけれど、なんと近江鉄道は自転車ごと乗り込みOK(一部区間)。大阪では『なんでやねん』が飛び交いそうな瞬間も味わえる。

地元の本気に触れて、僕も滋賀にコミットしたくなった

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不便な部分もある。けど、だからこそ感じる人のあたたかさや熱量がある。みんな滋賀のことが好きで、本気で滋賀を盛り上げたいと思ってることが、痛いほどわかる。それでも、彼らは宣伝活動が上手くできない。「SNSの使い方がわからなくて、チラシやポスターをつくることしかできない」という地元の声も、たくさん聞く。

彦根の会社に勤めて、行政や地元企業の人たちと付き合いが深まっていくと、よくわかってきたことがある。まず、みんなが人の繋がりをすごく大事にしている。ネットで探せばSNSコンサルや運用をやってくれる人なんていくらでもいるのに、「できる限り地元の企業同士で成り立たせたい」という想いを感じる。

強い団結力や、地元力のようなものが素晴らしいが、ある意味では新しいものを受け入れられない不器用さもあると思っている。

せっかく滋賀にご縁ができたからには、自分が大阪や東京の仕事で得たマーケティングやプロモーションに関する知見や経験で、地域貢献に役立ちたい。今は自分ができることがあれば、できる限り協力したいと思っている。

ごはんが美味しいから、飲まなくても外食が楽しめる

『飲みに行ってる?』

新型コロナウイルスが猛威を振るう前のことだけれど、僕のことをよく知っている友達から、よく聞かれた。大阪にいた20代のころは、週末は必ずと言っていいほど飲み歩いていたから。

結論から言うと、飲みに行くことはほぼなくなった。もともと6年前、妻の妊娠がわかったタイミングで、夫婦で一緒に断酒を開始。頑張ってやめる感じではなく"一緒に飲む人がいないなら別にいっか"みたいな感じで。そして、滋賀県移住した後は、街全体が車社会。

『じゃあ、もう全く飲まなくなったの?』

と聞かれると、実はそうではない。子どもたちも大きくなってきて、妻もお酒を解禁したので、週末になるとたまーに家で嗜む程度に飲むようになった。ひとつ変わったのは、量ではなく味を堪能するようになったこと。

そのキッカケがこれ。

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今年の春(21年)、彦根市にできた醸造所がつくっているクラフトビール。

地元の麦を使ってつくられているという話を耳にしたので、地産地消に少しでも貢献できればと思い、飲んでみると。フルーティーで爽やかな香りと、スッキリした苦味がまぁ美味しい。週末の疲れを癒やしてくれる。

ふるさと納税の返礼品にもなっているので、クラフトビール好きはぜひチェックを。

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おっとりした県民性は、育児に最適?

「子どもを育てるにはどう?」

これも、親になってから、よく聞かれる。僕から見た彦根市民はみんなおっとりしていて、良い人ばかり。そして、自然の多さや安全面で言うと、都会にいた時代よりも圧倒的に滋賀に移住してからの暮らしを快適に感じている。人で混雑することもないし、少し車で走れば郊外には大きな公園、運動場があって、子どもと一緒に思い切り遊ぶことができる。

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また、市が各地に子育て支援センターを設置してくれているのも、めちゃくちゃありがたい。完全無料。助かる。ほんと神。

遊具やおもちゃがあるだけではなく、時間になると施設の人が子どもたちを集めて、踊りを教えてくれたりもする。ワンオペ育児をするときの味方でしかない。親同士の交流の場にもなるし、子どもにとっても、新たな出会いの場になるかもしれない。もちろん、施設の方に育児相談をすることもできる。情報提供もしてもらえる。最強じゃないですか。

ちなみに、妻と娘も、支援センターで話しかけて仲良くなった親子と幼稚園で再会するという奇跡を起こし、今ではその子が一番仲良いお友達になっている。

彦根にあるショッピングモール『ビバシティ』にも支援センターが設置されていて、買い物終わりのちょっとした休憩にも利用できて、すごく助かっている。なによりありがたかったのは、保育園に入れたこと。我が家の子どもたちは、大阪ではずっと待機児童だった。生活も大変だったし、保育園という環境でこそ学べることや経験できる機会を与えてあげられないことに後ろめたさもあった。

今は3人の子どもを同じ保育園で預けることが出来ている。もし、待機児童が多い自治体に住んでいたら、運良く入園できたとしても、全員バラバラの園になっていたかもしれない。

滋賀移住は妥協? いえいえ、最高! 120点です!

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滋賀県に移住して2年。よく『地方移住どう?』と聞かれるけれど、ここまで書いたように、地方とはいえ、山奥でなければ田んぼに囲まれるような地域ではない。車移動の生活に変わったものの、なんの不自由もなければ特別な地方感も感じてはいない。たまに近隣でクマは出たりするけど、徒歩10分圏内にスタバがオープンしたりもするし、ジムも駅もある。Wi-Fiが飛んでるふかふかソファのカフェも、サイゼリヤもなか卯もある、映画館もボーリング場も。大阪で頻繁に利用していたお店は、なんだかんだで大体ある。

あ、バス釣りのできる琵琶湖もあるし、浸かって遊べる川もあった。

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地元の若い子は『遊ぶところがなくて退屈』と言う。たしかに、僕が20代だったら、同じことを言ってたかもしれないなと思う。けど、3人の子を持つ親になった今は、美味しいものを食べて、安心安全な環境でおっとりと暮らすほど幸せなことはない。

彦根市は一戸建てが並ぶ街で、高い建物はほぼない。これは彦根市の景観条例によって、一部区間以外は高い建物が建てられないことになっている。奇抜な建造物もなく、穏やかで色味も落ち着いた、住み心地の良いまちづくりをしている。

うちの2階の窓から見える景色もほとんどが広い空。滋賀移住、滋賀での出会い、断酒……と、あらゆることが良いタイミングで。転がるように過ごしてきたけど、いい感じ。滋賀、120点。


著者:吉本ユータヌキ

吉本ユータヌキ

大阪生まれ、滋賀在住。3児の父親をしながら何気ない日常を切り取ったエッセイ漫画やイラストを描くお仕事をしている。滋賀へ移住して唯一悔やんでいるのは、阪神タイガースの野球中継が少ないこと。

編集:小沢あや