受け入れてくれる街・大塚は変わりつづける:インバウンドでインクルーシブなインターナショナルシティ

著者: 矢代真也

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大塚駅南口のサンモール大塚商店街には、和食屋、ベトナム料理屋、インド料理屋が入ったビルがある。

2018年、東京の大塚に進出したものが2つある。星野リゾートとドン・キホーテである。前者は「旅のテンションをあげるホテル」というコンセプトを掲げる星野リゾートの新ブランド「OMO」。大塚駅北口から徒歩1分、オシャレなカフェや内装を備えた宿泊施設で、大塚店が都内の1店舗目となる。

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大塚北口の「OMO5 東京大塚」。ガラス張りのカフェやパン屋などが入る。

後者は、ディスカウントストア「ピカソ大塚北口駅前店」。「近隣のホテルに宿泊する人の需要に応えられるよう気軽に手に取れる日配品や日用雑貨品などの品ぞろえを強化」したという。こちらも大塚駅北口を出てすぐのところに、2階建ての店舗ができた。

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大塚駅北口すぐのディスカウントショップ「ピカソ」。日用品だけでなく、東京土産も扱う。

いずれの施設も、生まれた背景には「インバウンド需要」がある。観光客の需要を取り込むために、宿泊施設としてのホテルや、気軽に消費できるディスカウントストアをつくる。いま日本中で行われているインバウンド施策のひとつが、大塚にも本格的に上陸したとみて間違いない。ただ、2014年から2017年まで大塚でルームシェアをしていたわたしは、大塚で起きたこの動きをどう解釈していいのか分からなかった。

京都出身のためか、ここ10年のインバウンド需要による実家周辺の変化を家族から耳にすることが多い。徒歩10分圏内に5軒以上のホテルが建ったという。自分が住んでいた街が変わってしまうのかもしれない。そんな心配と同時に、なぜ大塚に?という感覚があった。

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北口の商店街にオープンしていたタピオカ専門店。多言語対応はインバウンドのためか。

星野リゾートが「OMO」という新しいホテルのブランドを東京でスタートするにあたって、大塚という場所を選んだ背景には何があるのだろう。ターミナル駅である池袋から1駅というアクセスのよさや、都内にしては家賃が安いことに象徴される物価の安さだけが理由なのだろうか。そんなことを考えながら、3年ぶりに大塚の街を歩き回り、自分が住んでいたころの記憶を思い返した。

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南口にあるクリーニング店。筆者が住んでいた当時はワイシャツ1枚のクリーニング料金が100円で、その安さに驚いた。

外国人と感じなくてよい街

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南口の商店街にある、食料品店。アジアのさまざまな国の品を扱う。

もともと大学でフランス文学を勉強していた関係で、2013年から1年間スイスに留学していた。帰国後、東京の大学に復学するタイミングで、現地でできた友人・オレリアが日本へ留学するため、一緒にルームシェアをすることにした。両者の大学の中間地点にあったので、住み始めたのが大塚という街だった。

1年間日本を満喫したオレリアが「大塚は東京で一番外国人であることを感じなくてもよい街」とよく言っていたのが印象に残っている。確かに当時から大塚には外国人がとにかく多い印象があった。北口を出たところに、英会話バー「Speak Easy」があって、そこでよくオレリアは「スイスのチーズが食べたい」とクダを巻いていたらしい。

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南口の商店街を抜けたところにある、イスラム向けの食品を扱うハラールショップ。

個人的には引越した当初、近所のコンビニの店先で缶チューハイを片手に酔っぱらっていたアラブ系の人に驚いた。アラビア語とおぼしき言語で楽しそうに友人と話している彼を見ながら、この街に住んでいるのは日本人だけではないのだという当然の事実に気づいた。これまで東京・京都で見かけた観光を楽しんでいる「外国人」とは違って、彼は大塚で自分の生活を営んでいる。そんな事実を目の当たりにし、日本という国を「日本語を話す日本人」というマジョリティを前提にした世界と捉えていた自分の感覚が恥ずかしくなった。ただ、住んでいるうちにすぐに、その世界の変化は心地よいものだと思うようになっていた。

「ひとり」でも居心地のよい街

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南口すぐに立ち並んだビルの1階には、中華、牛丼のチェーン店が軒を連ねる。

大学最後の1年と、新卒として社会に出てからの2年を大塚で過ごした。その間は、1人で外食することが多かった。卒業論文を書いたり、慣れない仕事で深夜に帰宅したりと、自炊をする時間がなかったからだ。ただ、大塚という街ではその必要も感じなかった。変則的な生活時間に疲れ、毎日吸い込まれるように外食をしていた。とにかく1人で入りやすい店が多かったのだ。「外国人であること」だけでなく、「おひとりさま」であることも、感じることが少なかったともいえる。

カレーの名店「カッチャル バッチャル」は、全国屈指のインドカレーを食べられる予約必至の人気店なのだが、1人で座れるカウンター席が空いていることも多くフラっと寄れることが多かった。サラリーマンとおぼしきおひとりさまと隣り合わせになりながら、自分も1人で「白い牡蠣カレー」を食べていた。自宅から徒歩5分の場所で、こんなにおいしいカレーを食べられる大塚は本当に最高だと思った記憶がある。

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南口から巣鴨に向かう小道にある居酒屋「種子島」。

1人で入れる飲み屋も多い。南口から巣鴨へ向かう道の途中にある居酒屋「種子島」は、おかみさんと娘さんの2人でやっている小さなお店。奥にある4〜5人用のお座敷はどこかの居間そのままという趣で雰囲気が最高なのだが、1人でカウンターに座るのもよい。お酒を飲んだ後、シメにご飯とお味噌汁を食べられるのもありがたかった。外食しているのに、生姜焼きや焼き鳥といったおつまみが、食卓のおかずになった。

日本酒の街として知られる大塚は、1人でお酒を飲むお客さんを受け入れるために必然的にカウンターのある店が多いのかもしれない。常連の人が多い店もあるが、そこに1人でいても誰も干渉してこない雰囲気がある。新しい店を開拓するのに勇気がいらないのだ。もちろん、飲み以外にもラーメン屋、定食屋にも事欠かない。卒論を書いていて部屋にこもりきりだったときは、夕食に何を食べるか決めるのが楽しみだった。

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北口の繁華街にある焼肉「龍園」。深夜2時まで営業していて、1人でも入りやすい。同じビルには洋菓子教室が入っている。

実は「日本」が多い街

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南口の都電沿いには、一軒屋を使った外国人向けゲストハウスと合気道の道場が並んでいる。

大塚の魅力に思いを馳せながら、昨年オープンしたOMO5のサイトを見ると「大塚の街は、昼は昭和レトロな雰囲気に包まれていますが、夜は大人の遊び場に姿を変えます」と書かれていた。たしかに、この街は「よい古さ」と「アダルトな雰囲気」に満ちている。

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南口にあるバッティングセンターの裏側。ラブホテルと病院が隣接している。

「よい古さ」と「アダルトな雰囲気」は、大塚では混じり合うように存在している。大塚という街は、ザックリいうと北側の繁華街、南側の住宅地に大別されるが、北口の繁華街のどまんなかに仏具店があったり、南口の商店街にスナックがあったりする。さらに、そこに在日外国人向けのお店が混じり合う。大塚には、都内に9カ所あるモスクのひとつがあるのだが、隣のビルの1階にはラーメン屋、2階にはエステがある。

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南口の商店街奥にあるモスク(写真右)。1999年から、この場所にあるという。

自分が住んでいたころ、スナックに通うことも、仏具店に行くことも、モスクに行くこともなかったが、複数の文化が雑然と混じり合った雰囲気が好きだった。キッチリとエリアが区切られているのではないだけで、そこにいる自分が誰なのかを気にする必要がなくなるからだ。大塚に住んでいた当時、大学を卒業して社会人となり新しい肩書きと向き合っていた自分が、そんな大塚という街の懐の深さに惹かれていたのは、間違いない。

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北口繁華街の中心にある仏具店。

インクルーシブな街

新卒で入社した会社を離れ、いつの間にか大企業との仕事が増えた結果、ここ2、3年インクルーシブという言葉を耳にすることが多くなった。多様な文化・人を分け隔てなく「包含」する姿勢を示すこの形容詞は、2015年に国連が制定した「持続可能な開発目標(SDGs)」のなかで繰り返し使われ、日本の企業にも文化的な指針として採用されつつある。ただ、わたしはインクルーシブと聞くたびに、大塚のことを思い出す。外国人、おひとりさまを受け入れ、さらには異文化をも受容する雑然さ。この街に溶け込むのは容易だ。

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北口の繁華街にオープンしていたベトナム食料品店。店先でドリアンが売られていた。

この原稿を書くために、ルームシェアを解散して引越してから3年ぶりに大塚の街を歩き回った。南口にドラッグストアを備えた新しいホテルが営業中、アパホテルも建設されるようだ。見慣れないタピオカ店もできている。インバウンド需要に向けて、この街はさらなる変化をとげつつある。北口のメインストリートに最近オープンしたらしいベトナム食料品店では、軒先でドリアンのたたき売りが行われており、単なる日本の観光地とは異なる趣が確かにあった。

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北口の繁華街にあるラーメン屋「ぼたん」。本格的な博多の豚骨ラーメンが食べられる。Suicaで支払えるのが嬉しい。

街を歩いたあと、懐かしいラーメン屋に入って注文を待ちながら、OMO5がオープンすると聞いたときに感じた、「大塚が変わってしまうのかもしれない」という心配は的外れだったと思い至った。もし「インクルーシブ」という姿勢が大塚に備わっているのであれば、新しい文化を受け入れるための変化にこそ、その「居心地のよさ」の理由がある。

大塚の変化を心配することは、大塚の良さを否定することなのかもしれない。どこからやってきたのか知るよしもない外国人の隣でラーメンをすすりながら、1人で大塚の心地よさを噛みしめ、この街を後にした。

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星野リゾートだけでなく、南口にはアパホテルも建設中だった。


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筆者:矢代真也

矢代真也

大学卒業後、2012年にクリエイターエージェンシー、株式会社コルクに入社。三田紀房のマンガ『インベスターZ』の立ち上げを担当し、投資関係の取材、マンガコンテンツの編集・プロモーションを行う。2015年から『WIRED』日本版編集部で、海外取材を含む雑誌・ウェブ記事制作、イベント企画・運営などに携わる。2017年に独立、合同会社飛ぶ教室を設立し代表を務める。写真:西田香織

編集:ツドイ

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