地味だがとても便利なヤツ。文化系オタクに優しい街・西日暮里の魅力を5000字使って語る【オタ女子街図鑑】

著: 劇団雌猫 

二次元、ジャニーズ、宝塚にアイドル。次元もジャンルも異なれど、オタク女子にとって趣味は人生の重要な一部。趣味を満喫するうえで、実は大切なのが「暮らす街」。オタク女子はどんなことを考え、どんなことを重視して街と家を選ぶのか?

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4人組オタク女子ユニット「劇団雌猫」がお届けする連載「オタ女子街図鑑」。

今回ご紹介していただく街は、山手線の右上、上野駅から3駅にある「西日暮里」。地味な存在ですが、実は「文化系オタクに優しすぎる」街だそうで……? 読んだら絶対、行きたくなります。

本日の語り手 オオワシさん

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山手線なのに「地味」

私が住む西日暮里は、東京都荒川区にある。東京のいわゆる東側、下町地区である。

山手線の中では比較的家賃がお手軽な駅の一つだ。そして、山手線の駅ランキングでは「地味」と言われてあまり存在感がない。しかしこの西日暮里、住んでみるとなかなかの穴場なのだ。

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西日暮里駅

谷根千への憧れから

私が住処を西日暮里に決めたのは、いわゆる「谷根千」地区に住んでみたかったからである。

谷根千は、「谷中・根津・千駄木」のあたりの総称で、下町っぽい情緒が残っていて散歩が楽しい街だ。休日は地図を持った観光客が街歩きをし、ここ数年はテレビなどでもメチャクチャよく見るようになった。こち亀64巻の「下町交番日記」がまるまるこの辺りを舞台にしているので、ぜひこち亀を読んでほしい(息を吸うようにこち亀を勧める)。

もともと、学生時代を台東区、文京区近辺で過ごしており、程よく便利なのにのんびりした空気のこの辺りが肌に合いずっと住んでみたかった。下町生まれ商店街育ちなので、古い街並みが性に合っており、うろうろしているとリジェネ(注:ゲームにおける回復効果や魔法のこと)効果がある。

ただ、近年の谷根千ブームで地名がブランドのようになってしまい、賃貸の価格も上がっているらしい。なので、谷根千から少し離れるが、徒歩範囲内で山手線が使える駅を探した。

候補としては、日暮里、鶯谷もあったのだが、西日暮里にはJRに加え、地下鉄千代田線が通っていることが決め手になった。学生時代の友人もこの近辺にたくさん住んでいるのも良い。

少女文化を愛して幾年か…突然の供給過多に大騒ぎ

ところで、私が愛しているのは、80年代や90年代のファンシー文化や少女文化である。

サンリオにソニー・クリエイティブのキャラクターグッズ、雑誌でいうと「りぼん」に「ぴょんぴょん」。当時掲載されていた「ときめきトゥイナイト」や岡田あーみん作品、ちびまる子ちゃんなどが大好きで、漫画に付録に応募者全員サービス、いまでも当時のりぼんの話だったら何時間でも語っていられる。

遠征や接触イベントがないこのジャンル、そう、公式からの供給が現在では「ほぼない」のである。最盛期は255万人もの読者がいたのに、ガッツリ話すとなるとなかなか難しいのだ。

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増えていくりぼんグッズコレクション

「ときめきトゥナイト読んでた!」という人に「なるみのおばあちゃんが魔界の花を飲んで若返ったときに着てたト音記号のワンピースが超可愛くなかった!?!?めっちゃ憧れた!!」とか食い気味で言っても「へえ、よく覚えてるね……」とか言われちゃうのである。

なので、外ではあんまり己を出せていない。戸愚呂で言ったら20パーセントだ。だがインターネットのおかげで、こういう細かい話がガッツリできる人々にたくさん会えたのはうれしい限りである。まさに水を得た魚、インターネットを得たオタクである。

というわけで、日々インターネットの人たちと記憶というスルメを焚き火であぶりながら美味しいよ美味しいよと地味に楽しんでいるようなジャンルなのだが、ここ数年ほど、グッズを出してくれたり原画展をしてくれたりと日照りの村に雨が降ったどころではない。地面掘ったら石油と温泉が湧いて川では砂金が取れ空から光が差し花が咲き乱れ小鳥たちは歌い出したくらいのお祭り騒ぎであった。人間長生きするもんである。年々体力は落ちていく一方だが、次の祭りまで生きねばならない、と強く思う今日このごろだ。

特に岡田あーみんグッズなんて「これを逃したらもう二度と手に入らねえぞ!」の精神で買いまくってしまった。我々の浪費が作家の方々に還元されてると思うとこんなにうれしいことはない。今まで課金しようにも課金先が不足していたのだ。ちなみにオタクはトートバッグが増えがちではないか。うちにも千手観音でも一度に持ちきれないくらいのトートバッグがある。

「自分の好きな作品が展示されたら最高」な推し美術館

……さて、そろそろ西日暮里がオススメの理由だが、とても「文化系オタクに優しい」のである。それは「文化施設へのアクセスがめちゃんこ良い」のだ。

隣の千駄木にある「往来堂書店」、ここはそんなに大きくない「町の本屋さん」なのだが、本のセレクトが面白く、つい寄りたくなるお店だ。最近では漫画「A子さんの恋人」の作中にも登場している。

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店主の方のセレクトで、本棚ごとにテーマがあり、数珠つなぎに本がつながるような並び方をしている。本の内容を知っていないとできない並び方だ。「文脈棚」と呼ばれているそうで、業界では有名な書店だそうだ。実際、北海道の書店勤務の友人も名前を知っていた。行けば何かしら面白い本が見つかる、ネット通販じゃない実店舗の楽しさを感じることのできる本屋さんである。

そして、私の「推し美術館」である根津にある「弥生美術館」は電車で2駅。もちろん自転車でも行ける。

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こちらは色々な少女カルチャーの展示を多くやってくれて、高校生のころからよく行っている美術館だ。大正時代からの「かわいいもの文化」や、少女漫画家の原画展など非常に多く、学芸員さんの解説もとてもいい。「自分の好きな作品がここで展示されたら最高!」と常々思っている。個人の邸宅だったところが美術館になっており、非常に静かで穏やかな雰囲気でゆっくりと見ることができる。ここんちの子になりたい。

近年の展示をほんの一部あげると、内藤ルネ、藤井千秋、田村セツコ、水森亜土、松本かつぢ、安野モヨコ、やなせたかし、中原淳一、陸奥A子、原田治、山岸凉子、森本美由紀、大和和紀、一条ゆかり(敬称略)……一部だけでもこの錚々たる顔ぶれを分かっていただけると思う。つい先日は「GALS!」の藤井みほな先生のトークショーにも参加することができた。まさに少女文化好きの聖地のような美術館だ。

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期間中に出してくれる図録やオリジナルのグッズも素晴らしくて、いつもたくさん買ってしまう。10月から「なかよし」の65周年記念展があり、こちらも超楽しみにしている。

nakayosi.kodansha.co.jp

上野の美術館だけじゃもったいない、オタクにうれしい施設たち

千代田線で10分程度で御茶ノ水に出れば「米沢嘉博記念図書館」がある。

コミケ創設者の1人である米沢氏のコレクションの漫画やサブカルチャーの書籍を読むことができ、またこちらでもさまざまな企画展がある。歴代のコミケのカタログなんかも置いてあるので、昔人気のあったジャンルの空気を感じることができてとても面白かった。

www.meiji.ac.jp


国立東京博物館国立西洋美術館など、多くの美術館がある上野公園まで自転車なら15分ほど。散歩がてら丁度いいので、よく仕事帰りに歩いたりもしていた。都会のど真ん中なのに緑が多く、タヌキも見たことがある。

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上野公園の隣には東京藝術大学があり、秋になると「藝祭」という学園祭がある。アートマーケットでは学生が手づくりのアクセサリーや陶芸品などを売っていて、最近はここでばかりアクセサリーを買っている。かわいくて安いのだ。

音楽学部ではクラシックのコンサートを無料で楽しむことができる。最近はゲーム音楽オーケストラの公演なんかもあって、整理券が出る人気のようだ。

上野公園を出て日暮里方面に少し行ったところにある、「国立国際こども図書館」もおすすめだ。

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色々な絵本が楽しめたり、絵本関連の企画展も良いものがやっているのだが、児童書研究資料室という大きな自習室のようなスペースでは国立国会図書館のデータベースにアクセスして、申請すれば複写してもらうことができる。絶版になっている雑誌なども所蔵されていれば見ることができる。

やたらと調べ物をすることが多い評論ジャンルの人間にとっては大変にありがたい施設である。私はここで「ちゃお」に吸収される形で無くなってしまった漫画雑誌「ぴょんぴょん」の創刊号を複写してもらい懐しさにむせび泣いた。

中にはカフェテリアもあり、学食みたいな値段で定食が食べられる。明治に帝国図書館として建てられたルネサンス様式の建物も、「さっすが学のある人たちが使っていた建物は違うなあ」と見ているだけでアガる。しかも入場無料、どういうことだ。

上野から歩く途中で通る谷中霊園は、桜並木になっており、春になると景色が素晴らしい。

最近は場所取りをしてのお花見は禁止になってしまったのだが、ビール片手に近所の友人と桜を見上げながら歩いて帰るのは最高にオツである。ここはめっちゃ偉い人のお墓がたくさんある霊園で、徳川慶喜のお墓もあるので佐幕派の人にオススメだ。

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隣の田端には、「田端文士村記念館」がある。芥川龍之介をはじめとする、田端に縁がある文豪たちの企画展があり、最近では文豪が活躍するコンテンツの若いファンたちで昔よりも俄然活気がある。

23区で唯一スタバがないけどおいしいものはたくさんある

文化施設だけでなく、おいしいものも多い。谷中霊園近くにあるイナムラショウゾウのショコラティエには店頭販売の他にカフェがあり、中でも美味しいチョコレートのお菓子を楽しめる。

www.inamura.jp

駅前にはチェーン居酒屋もあるが、少し行くとよみせ通りという大きな商店街もあり、個人経営の美味しいご飯屋さんも多い。最近はビアパブとかバーとか、やたらとおしゃれなお店もできてちょっと驚く。小さいスナックが立ち並ぶ、すずらん通りがあったり、お酒が好きな人が楽しめる街だと思う。

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私が好きなのは隣の魚屋さんが実家のご店主がやっている「彬」だ。魚屋さんだけあって魚がなんでも美味しいのだが、特に名物の焼きサンマでご飯を包んである焼きおにぎりが泣くほどうまい。

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www.sendagi-osakana.com


西日暮里のある荒川区は、令和元年現在23区で唯一スタバがない区なのだが、スタバがなくても商店街には「やなか珈琲店」がある!コーヒー豆屋さんの中のイートインで美味しいコーヒーが飲めるぞ!

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なんだかんだで隣の田端駅にスタバもあるので季節のフラペチーノが飲みたい人はそっちに行くのもアリ。

田端のアトレの中の本屋は夜の12時までやっているので、遅くなったけど今日どうしてもあの新刊が読みたい!というときも安心だ。田端からも10分以内で歩けるので、その日に行きたい店によって降りる駅を使い分けることができるのがこの辺りの便利なところである。

家から出たくないってときには、本郷にある有名なハンバーガー店「ファイヤーハウス」でデリバリーを頼む。店舗の近くの地域じゃないとデリバリー範囲外になってしまうのだが、西日暮里はギリオッケー! 超美味しいアボカドバーガーを食べながらダラダラDVD上映会だ。

www.firehouse.co.jp

新幹線も飛行機も地味に便利!遠征民にもおすすめ

近場で楽しめるだけでなく、主要な駅への交通の便もいい。

東京駅までは約15分、東北新幹線が通っている上野までは5分程度。出張が多い私にとって新幹線にさっと乗りやすいのは本当に助かる=遠征が多い人にもぴったりだと思う。池袋も秋葉原も15分以内だし、お隣・日暮里の全国的に有名な生地問屋街なのでコスプレイヤーの方におすすめだ。

オタクにおなじみの場所へのアクセスの良さをさらにあげると、劇場が多い日比谷までは千代田線で約13分。舞台沼の人から「都内なのに遠征みがある」と言われまくってしまう北千住の「1010シアター」までも千代田線でたった6分である。今月は「幽☆遊☆白書」の舞台があるので北千住に降臨する鈴木拡樹氏を拝んで来ます。

西日暮里、地味だがとても便利なヤツなのだ。魔法でいうなら土魔法である。

派手な街ではないけれど、文化系オタクにはとっても住みやすい街だと思う。静かな住宅街なので、帰ってきたときにオンからオフに切り替わる感じが安心する。特に東京の東側を拠点にしたい場合には、ぜひ一考していただきたい。近所の散歩だけでも地味に楽しい、めくるめく東京イーストサイドライフを楽しもうではないか。



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著者:劇団雌猫

劇団雌猫

アラサー女4人の同人サークル。「インターネットで言えない話」をテーマに、さまざまなジャンルのオタク女性の匿名エッセイを集めた同人誌「悪友」シリーズを刊行中。その他、イベントや執筆活動などもおこなっている。編著書に『浪費図鑑』『シン・浪費図鑑』『まんが浪費図鑑』『だから私はメイクする』『一生楽しく浪費するためのお金の話』。7月に新刊『本業はオタクです。シュミも楽しむあの人の仕事術』が発売した。

Twitter:@aku__you

ブログ:劇団雌猫


<劇団雌猫による連載、次回は9月後半に更新予定です!>


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