人生を盗まれない「ナリワイ」と正気を失わない「イドコロ」のつくり方を、モンゴルのゲルを畳みながら聞く【いろんな街で捕まえて食べる】

著: 玉置 標本 

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社会生活の基盤を組み立てる上で、誰もが考えないといけないのが、お金をどうやって稼ぐか、どこでどのように暮らすかだ。私は未だにその最適な答えを見つけられていない……なんて青臭いことを考えたりする。

自分に合ったお金づくりと居場所づくりの方向性を探すヒントを求めて、「ナリワイ」と「イドコロ」というキーワードでそれぞれ本を出している伊藤洋志(ひろし)さんに、モンゴルの遊牧民が使うモバイルハウスであるゲルを畳みながら伺った。

小さな仕事「ナリワイ」をいくつもつくるという働き方

伊藤さんは1979年生まれ、香川県丸亀市出身、京都大学大学院農学部卒。何度かお会いしたことがあり、常に飄々としているイメージの方だ。

何をしている人かというと、さまざまな場所でいろいろな仕事をしている人となる。といってもフリーターや何でも屋とは違い、コンパクトな個人事業を自分主体でいくつも並行してやっているのだ。

f:id:tamaokiyutaka:20210521154106j:plain伊藤さんの著書「ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方」、「イドコロをつくる 乱世で正気を失わないための暮らし方」

伊藤さんは「個人レベルではじめられて、自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事」をナリワイ(生業)と呼んでいる。お金を稼げて自分のためにもなるスモールビジネスだ。

一つの仕事を突き詰めて専業化するのではなく、あえて複数のナリワイを組み合わせることで、独自スタイルの自営業者として12年間暮らしている。

――伊藤さんがやっている具体的なナリワイを教えてください。

伊藤洋志さん(以下、伊藤):「農家業、モンゴル武者修行、全国床張り協会、ブロック崩し、シェアオフィス、たまに本などの執筆とか。このモンゴルから輸入したゲルのレンタルや販売、着ているオリジナル野良着の生産もしています」

――本当にいろいろですね。関連性があるんだかないんだか。

伊藤:「最近は甘夏を売ったりしています。ナリワイの主力の一つが、農作業を手伝って販売すること。『遊撃農家』といって、収穫と販売だけする非常勤農家。

果物の収穫を手伝いつつ、そのバイト代はもらわずに、オンラインで販売させてもらう。手伝うからといって安く売ってもらうのではなく、どこよりも高く買い取る方針です」

f:id:tamaokiyutaka:20210521154822j:plain和歌山でミカンの収穫をする伊藤さん(写真提供:伊藤洋志)

――農家のバイトとして時給なり日給なりをいただくのではなく、収穫した果物を独自ルートで販売して利益を得る形なんですね。

伊藤:「ミカン(柑橘類)とウメは和歌山、サクランボとモモは山形にある農園です。なるべく自分が収穫したものをネット通販でお届けする。それぞれ1~2週間くらいの滞在で、作物によって収穫のタイミングが違うから、時期をずらしながら掛け持ちできるんです

――渡り鳥みたいな生活だ。農家側としても一番忙しい時期に収穫を手伝ってくれて、さらに買い取って自分で販売もしてくれるのなら助かりそうです。

f:id:tamaokiyutaka:20210521154909j:plainダンボールにメッセージを書いて発送している(写真提供:伊藤洋志)

伊藤:「品質を決めるのが僕のミッションのひとつで、自分が美味しいと思えるものを売る。収穫をしていると果物に詳しくなり、どういう売り方をすると一番おいしく届けられるかを考えることができます」

――販売だけでなく、収穫を自分でするからこそ自信を持って品質の保証ができると。

伊藤:「一般的な品質基準だと、味よりも見た目が優先。でもうちは中身重視。サクランボだったら、大きさごとに分けて綺麗に箱詰めするのは大変なので、味がよければ細かいサイズは関係なし。畑の作業場でバラで詰めて、すぐに発送する」

――まさに産地直送だ。買う側からの信頼さえあれば、それが一番新鮮で手間の掛からない方法ですね。贈答用ならともかく、自宅用ならバラ詰めで問題ないし。

f:id:tamaokiyutaka:20210521154831j:plain規格ごとにサイズ分けするは大変な手間で、それだけ代金が高くなる(写真提供:伊藤洋志)

f:id:tamaokiyutaka:20210521154840j:plain手間を掛けずに発送することで、新鮮なものを安く提供できる(写真提供:伊藤洋志)

伊藤:「僕が手伝うのは中規模の農園で、美味しい果物をつくることで手いっぱい。独自販売まではなかなか手が回らないんです。多くは問屋さんや農協に出していますが、販売ルートがたくさんあることは、農家の人にとってもプラスになります。

農作業を長年やってちょっとずつ詳しくなっているので、収穫だけでなく、なにかあったときに手伝えるようになってきました。洪水で畑が砂で埋まったときは、一週間ひたすら砂を運び出したり」

遊びのお裾分けの延長線にナリワイがある

――『モンゴル武者修行』というのは何ですか?

伊藤:「香川に住んでいた高校生のころからモンゴルに行きたいとずっと思っていて、大学最後の年にボランティア活動で行ったんです。行ったら楽しいんですよ。それで自分が毎年モンゴルへ行くついでに『モンゴル武者修行』という遊牧ワークショップを企画しています。

参加者は遊牧民の見習いとして、まず馬に乗れるまで特訓をする。馬に乗ると体幹が鍛えられるし、日本とは考え方が全然違うし、やっぱり気分が晴れますね(遠くを見つめながら)。

――仕事の一環というよりは、遊びの延長っぽいですね。

伊藤:「遊びのお裾分け、行きたい人がいたらどうぞっていう感じ。商業ベースでやると、モンゴルの遊牧文化を伝えるのは難しいんですよ。ちゃんとスケジュールが組めないのでパッケージにならないし、なかなか思い通りにいかない」

――そんな旅でもよければ一緒にどうですか、と。

f:id:tamaokiyutaka:20210522233957j:plainモンゴルで馬に乗る伊藤さん(写真提供:伊藤洋志)

f:id:tamaokiyutaka:20210522234047j:plainモンゴルに行ったメンバーでZINE(同人誌)をつくったりもしている

f:id:tamaokiyutaka:20210522234056j:plainなんとモンゴル武者修行の割引券が挟まっていた

伊藤:「モンゴルの延長で、タイでアカ族の人と竹だけで家を建てるワークショップをやったりもしています。ただコロナの影響で、しばらくはどっちも開催が難しそうです」

モンゴルの遊牧民見習いもタイの竹を使った家づくりも、直接的に役には立たないであろう企画に、ちゃんと興味を持つ人が集まって実行されているのが最高だ。まさに遊びのお裾分けである。

伊藤さんが一人でやるのはもったいないことを、ナリワイという形で提供することで、また次の企画につながっていく流れがちょっと見えてきた。お裾分けではあるものの、無償だと続かないからこそのナリワイという考え方なのだろう。

f:id:tamaokiyutaka:20210521154738j:plainタイでアカ族と建てた竹の家(写真提供:伊藤洋志)

f:id:tamaokiyutaka:20210521154900j:plainタイで学んだ竹の家づくりワークショップを日本でも実践している(写真提供:伊藤洋志)

ナリワイを生み出すコツ

『床張り協会』の取り組みは以前に取材させてもらった。空き家の増加が問題になる状況下、セミプロとして床張りの知識を持つ伊藤さんが、床を張り替えてほしい人(家主)と、床張りの技術を身につけたい人(参加者)を結び付けるワークショップだ。

合言葉は「床さえ張れれば家には困らない」。家主は自分で選んだ床材を使って安く張り替えができて(ただし素人による作業であることを理解した上で自身も参加するのが条件)、参加者は一生使える知識が体験を通じて学べ(参加費を支払う)、伊藤さんとしてもナリワイ(お金)になる、みんなが得する仕組みはとても勉強になった。

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f:id:tamaokiyutaka:20210521154802j:plain自宅や実家をリフォームしたい人、いつかは田舎暮らしを計画している人などが参加する床張りワークショップ(写真提供:伊藤洋志)

f:id:tamaokiyutaka:20210521154749j:plain耐震性などに問題があるブロック塀をハンマーで壊す会も、場所さえあれば開催している (写真提供:伊藤洋志)

伊藤:「シェアオフィスは、自分の仕事場をつくるついでにやっています。古いビルの広い物件を借りて、自分たちでリノベーションして自分たちの仕事場にしつつ、余っているスペースを貸し出す。ほぼ倉庫扱いだった部屋を塗装したりして、仕事場につくり変えました。

ナリワイの考え方は、自分の生活の延長でお裾分けできるものを仕事にする。でも質重視で拡大志向じゃないし、まだ市場規模も小さいものが多い。だから一つじゃ売上としては小さい。ならば理想を追求しつつ何個もやる」

――お裾分けするものが、自分が収穫した果物だったり、床張りのノウハウだったり、魅力的な遊びだったり、バラバラなのがおもしろいです。一つのことを突き詰めたほうがお金は稼げそうですが、もしかして飽きやすいんですか?

伊藤:「床張りの問い合わせは結構あるんですが、毎日床を張らなくてもいいじゃないですか。ただの仕事になってしまうと苦痛になる。たまにみんなで集まってやるのがおもしろい。

コロナ禍でモンゴルやタイに行けなくなっても、空いた枠で他の仕事をすればいい。だから種類をなるべく分散させないといかんなと。田舎に移住する人の生活調査によると、3つくらい掛け持ちで仕事をしている人が多く、そういう人が定着しているそうです。公務員や会社員みたいな仕事なら、わざわざ移住しなくても都会でできますから」

――掛け持ちがリスク回避になるんですね。ナリワイで生活を成り立たせるコツはありますか。

伊藤:「人を雇わなければ成り立つ。先行投資が必要だったり、固定費が発生するものはやっていない。そして一つのナリワイを大きくしない。固定の支出を排除していくと、必然的にそれなりの規模になります。

毎月の固定費があると、嫌でもモンゴル行かなきゃいけないとかになって、それはやりたくない。一回だけ7月、8月、9月と三カ月連続でモンゴルに行ったんですけれど、日本に帰ってきても3週間したらまた行くってなると気持ちが落ち着かないし、これは飽きてしまいそうだと察知してやめました。

自分ができなければ社員を雇うかとなるが、雇用して人を縛ることはしたくない」

――やっぱり自分が楽しくなければ、伊藤さんの考えるナリワイではないですか。次に考えているナリワイは何かありますか。

伊藤:「この夏に専門学校に通って寿司職人の特訓をしようと思ってます。一次産業の仕事をしているので加工にも興味があって、その点で寿司はおもしろいなと思いました」

f:id:tamaokiyutaka:20210521154215j:plain今回のインタビューは、熱海に設置してあるゲル(モンゴルの遊牧民が住む移動可能な家)を撤収しながら行った

f:id:tamaokiyutaka:20210521154240j:plain天窓があるので中で火鉢やコンロが利用可能。火を使うことでゲル内の湿気を飛ばしてカビを防止するそうだ。長持ちさせるには火を使うことがポイントなのである

f:id:tamaokiyutaka:20210521154249j:plain夏は裾を捲ることで風を通すこともできる。遊牧民の知恵が詰まっているのだ

f:id:tamaokiyutaka:20210521154301j:plain夜はこの天窓から星を見上げることも可能。いつか泊まってみたい

伊藤さんのナリワイは、てんでバラバラのようだがどこかで繋がりも感じられる。それは『伊藤さんが好きそうなこと』という共通点であり、だからこそナリワイ同士の相乗効果もあるのだろう。

それは技術的な話だけではない。お客さんの共通点は『伊藤さんの考え方や行動に興味があること』だろうから、床張りに参加したメンバーが季節の果物を買ってくれるとか、モンゴルまで一緒にいっちゃうとか、お客さんがナリワイを横断するようになる。かといって強固な結びつきのあるコミュニティではなく、もっとフラットで対等な関係。それがナリワイの根底にあるのだ。いきなりナリワイをやろうとしても、やっぱり難しいかな。

伊藤:「生活の中でいろんなチャレンジをして、それが仕事になったり、ならなかったり。直接的な収入にならなくても、何か得るものがあるじゃないですか。どうせお金を使うなら、おもしろそうな方を挑む。同じ家賃を払うのならば、自由にできる物件をみつけて改造してみるとか。

それがナリワイをつくるコツで、生活費すなわち研究開発費に置き換えていけばノーリスクで実験できます。やってみて失敗しても、どうせ同じ生活費が掛かっている訳ですから。

ナリワイは連想ゲームみたいに増えていきます。農業をやっていたら野良着を開発したくなったり、床張りをやっているとモンゴルの遊牧民から断熱材用の羊毛を輸入する話になったり

f:id:tamaokiyutaka:20210521154321j:plain布をすべて外した状態。4人いれば二時間程度で組み立てできるそうだ

f:id:tamaokiyutaka:20210521154502j:plainコンパクトになる特別なゲルなので、周囲を囲む木枠が上下に分割可能

f:id:tamaokiyutaka:20210521154520j:plain一番大きなパーツである天窓も小さくなった

f:id:tamaokiyutaka:20210521154529j:plainバッグ3つ分に収納されたゲル。大きめの車なら問題なく運べるサイズだ。このゲルを車に積んで日本各地を移動しながら暮らしてみたい

伊藤:「ついでついでで人も仕事も繋がる。でも大きくはしない。ある人類学者が、顔見知りの限界人数を調べていて、顔がパッと思い出せるのは150人くらいだと。僕がやっているナリワイも、最大150人程度を相手にしている。それを突破しようとすると、ブランディングとか広告のテクニックが求められる。

そこまでやろうと思わない方がナリワイっぽくてよい。規模拡大を目指しているうちに、人生を盗まれることって多いですからね」

――あくまで知り合いとそこからの口コミの範囲内で完結させているんですね。伊藤さんから果物を買う人も、床を張りたいという人も、150人程度の潜在的なメンバーがいて、その中で都合の合う人が参加すると。

伊藤:「この規模なら丁寧にやってさえいれば、お客さんがついてきてくれる。果物を買ってくれた人の名前を見ると、だいたい顔が思い浮かびます。インターネットのおかげで全国から注文をいただきますが、紙のチラシでもいいのかもしれない。知り合いのおじいちゃんは、最近までファックスのやりとりで柚子を売ってましたから」

伊藤さんは大学院を卒業後、ベンチャー企業の立ち上げに参加したそうだが、そこはかなりハードな会社で、優秀な人がどんどんおかしくなっていき、伊藤さん自身もストレスでハーゲンダッツをやけ食いする日々を送った。

健康と時間を犠牲にして稼いだお金は、家賃と食費とストレス解消に消えていき、なにも残らない生活を一年間耐え、『ナリワイをつくる』という人生を盗まれない働き方に辿り着いたのである。

不安や孤独で正気を失わないための免疫系『イドコロ』

もう一つのキーワードである『イドコロ』についても話を伺った。

伊藤:「今は油断するとおかしくなりやすい、正気を失いやすい世の中だと思うんです。なんでかなーとずっと考えていて、リテラシーを高めればいいという話もあるけれど、そういうレベルではもはやないなと。冷静な状態だったら気にも留めない陰謀論とかを信じたくなる精神状態が、往々に発生している。

正気を失わせる原因となる不安や孤独を病原菌とみなして、人間の免疫機能と同じようなものが必要なのではと考え、思考の免疫系を『イドコロ』と名付けました。

体を守る免疫細胞にはいろいろな種類があって、たくさんあるからさまざまな病気や怪我に対応できる。イドコロにも型を考案しまして、自然免疫的な『自然系イドコロ』と、獲得免疫的な『獲得系イドコロ』の二つがあります。

自然系イドコロは生活していると自然にできる集まり。家族、友人、同僚といった意図せずできる人間関係。それに対して獲得系イドコロは、自分で探す仲間や場所のことです」

f:id:tamaokiyutaka:20210521154552j:plainなんで熱海にゲルを建てていたのかというと、友人が建設中のアトリエを手伝うために何人か通っていて、その宿泊スペースにするから

伊藤:「世の中が間違っているという不満は誰しも少しは持っている。政治や社会に関心が高い方がいいけど、敵を殲滅しなければと正義感が暴走すると、事実をベースに判断する冷静さを失ないやすい。それを修正するのが免疫となるイドコロです。

例えば、人をおかしくさせることが目的のサイトは、信じさせる能力がすごく高い。自分が考えてもしょうがないところ、確認のしようがないところで憑りつかせて広告収入で稼ぐ。最近は嘘の情報にも正しい情報をまぶして、いろんな情報を満遍なく調べた結果として自分で導いた結論だという錯覚を狙う記事もあります。手強いですよ」

――インターネット上で触れる情報って、結局自分がフォローした人やサイトという窓口からしか入ってこないから偏って当然であり、それがすべてだと錯覚するとズレますね。ネットと離れた場所で人と触れ合って、考え方を調節したり、クールダウンする必要性は確かに感じます。

f:id:tamaokiyutaka:20210521154618j:plain家主の新居幸治さん。伊藤さんはここでなら床張り以外の経験が積めそうだと半年ほど通っていた

――具体的にはどういうものが、獲得系イドコロになりますか。

伊藤:「趣味の集まりだったり、居心地が良いいきつけの店、公民館みたいな公共スペースとか。ふらっと来られる場所。コミュニティみたいな強い繋がりをつくるのではなく、とりあえず居られて、おしゃべりができるのが大切。公園とかでただ一人で座って、周りの人を眺めているだけでもよい。このアトリエもそうかもしれません。

僕の場合は、おもしろい論文を見つけてきてTシャツにするサークルとか、モンゴル語オンライン勉強会とか。自分で企画するのではなく参加するだけのイドコロも多いです。

孤独は人をおかしくする。寂しいと心の隙間になにかが入り込んでしまう。イギリスで話題になった研究があって、孤独はアルコール依存よりも健康を破壊するリスクが高いそうで、甘く見てはいけません」

f:id:tamaokiyutaka:20210521154606j:plainファッションと建築を繋げる新居さんのアトリエは、大胆に自然を活用している

――伊藤さんって都内在住ですよね。どんな家に住んでいるんですか。

伊藤:「賃貸の古い一軒家です。冬は寒いので自分で二重窓にしました。ちょっとした庭があるので野菜を育てたり、バーベキューをしたり。他人を受け入れる余地がある家を選べると、単に集まってご飯を食べるだけでもイドコロになります。

それが無理なら公民館や公園を上手に使えばいい。団体登録が必要だったり、ルールが細かかったり、面倒な部分もあるけれど、ローコストで遊べる知られざる公共施設は結構ある。風雲たけし城みたいなアスレチックがある無料の区営公園とかも探すとあるんですよ」

――僕も最近になって市営の調理室を安く使えることがわかって、遊びの幅が広がりました。

伊藤:「提案としては、ずっと家に籠もっていないで、たまには場所を変えることで、思考の健康を損なうリスクを低減させたほうがいいのではと。そこでの雑談の中で自分とは違う意見を聞くことができる。イドコロを探すぞっていう意気込みで物事を見るようになると、視界が変わってきます」

f:id:tamaokiyutaka:20210521154651j:plain斜面に立つアトリエなので、山側の壁は土だ

f:id:tamaokiyutaka:20210521154705j:plain伊藤さんは焚火をするために来ている部分もあるとか

伊藤:「元気がなくなっていくのはイドコロが不足しているから。元気がないとナリワイどころじゃない。僕の場合はあんまり自覚せずにやってきたけど、そういう精神的なベースを整えるのは必要だなと本にしました。

ナリワイもイドコロも、ギブアンドテイクというか、完全な等価交換は意識していないですけれど、お互いに居心地のよい関係であることが大切。モンゴルのゲルでは、誰が訪ねてきてもお茶を出すっていう風習があります。ゲルは個人で管理している共有スペースという感覚で、夜は家族の寝室になるけど、昼間は公共空間でありみんなの休憩所。

そういう場所や関係性が増えるといいですね。自分で何か所もイドコロを所有する訳にはいきませんから」

f:id:tamaokiyutaka:20210521154721j:plain美味しいご飯をご馳走していただいた

伊藤:「とにかく今の社会は孤独になりやすい。イドコロをいくつも持って、まともに考える力を保ちながら、健康的なナリワイをみつけて実践することが必要ではないか。イドコロとナリワイは両輪であり、両方が機能すると連動してうまくいくイメージです。

コロナも含めて世の中大変だと思いますけど、おかしいことにはおかしいぞと言いつつも、暮らしは楽しくやっていきましょうってことが言いたいですね。僕も平時よりは疲れます。こんな状況で正気を保てていたら敢闘賞ですよ。

時間が無いからイドコロどころじゃないという人でも、3分くらいならどうにかなる。四股(しこ)を踏んでみてください。毎日四股を踏めば元気になるかもしれません」

f:id:tamaokiyutaka:20210524214449j:plain四股を踏む伊藤さん。私もやってみたが全然できなくて驚いた

伊藤さんは著書の中で、イドコロを「人が一緒にいられる淀み」という表現をしている。居心地がよく、義務やプレッシャーの発生しない、なんとなく居られる場所だ。私も淀みに集まってダラダラするのが大好きだ。そんな時間も人生には必要なんだと肯定されたようでうれしい。気軽に集まりにくい状況はしばらく続きそうだけど。

当たり前だが暮らし方には向き不向きがある。伊藤さんには仕事も場所も一つに固執しない遊牧民的な生き方が向いていて、その逆を生きるのもまた人生。

伊藤さんが実践している生き方のエッセンスをちょっと気にしながら暮らしてみようかなと改めて思った。とりあえず四股でも踏もうかな。

よいしょー。


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著者:玉置 標本

玉置標本

趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺づくりが趣味。『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。 実はよく知らない植物を育てる・採る・食べる』(家の光協会)発売中。

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