「奈良県民はみんな地元愛が強いんだろうな」THE ORAL CIGARETTES 山中拓也さんが語る奈良の魅力

編集: 小沢あや(ピース株式会社) 構成: 伊藤美咲 撮影:曽我美芽

大型フェスで大トリを務めたり、2022年10月にはさいたまスーパーアリーナで主催イベントを開催し約3万人を動員したりと、今やバンドシーンに欠かせない存在となった4人組ロックバンド「THE ORAL CIGARETTES」。メンバー3人が奈良出身で、2022年には奈良市の魅力を国内外に発信する奈良市観光大使に就任しました。

結成時から奈良出身であることを掲げながら活動を続けてきたボーカル&ギターの山中拓也さんに、奈良の魅力や思い出のお店を伺いました。

オーラルの音楽をつくった街、奈良

―― オーラルは奈良出身のバンドとして活動していますが、思い出のライブハウスやよく通っていたスタジオはありますか?

山中拓也さん(以下、山中):生駒RHEBGATEはよくライブ会場やスタジオとして利用していて、バイトもしていました。上京してデビューした後も、3〜4年くらいは楽曲制作期間のたびに奈良に帰って、RHEBGATEにこもって曲をつくる生活をしていて。奈良の後輩バンドたちも、よくそこで楽曲制作しているみたいですね。

あと、今はなくなってしまったんですが、大和西大寺駅のそばにあるスタジオ「Harts」もよく使っていました。

―― 上京後も奈良に通っていたんですね。やっぱり地元の方が制作が捗るのでしょうか?

山中:東京だと気持ちが焦っちゃって、なかなか集中できなかったですね。田舎者はソワソワするというか(笑)。緑のある地元に帰って、RHEBGATEでメンバーと話しながら進めた方がいいものがつくれると思っていました。

―― 奈良での経験がオーラルの音楽に影響している感覚はありますか?

山中:高校生のころから奈良のライブハウスシーンにずっといたので、そこで出会った先輩の存在は大きいです。ただ単に影響を受けたというより、反骨精神もありました。当時はメロコアがすごく流行っていたんですけど、「他のバンドと同じことをやっても面白くない」と言って、僕らはパンクをやってみるとか。

それで他のバンドも「この人たちがこれをやってるから、僕らはこうしよう」という状況が生まれて、奈良のバンドシーン全体が活性化していました。地元で切磋琢磨してた時期があったからこそもっと頑張ろうと思えたし、今のオーラルがあるのかなと。

奈良の思い出が詰まったお店たち

―― ライブの打ち上げなどでよく行っていたお店はありますか?

山中:県外のバンドが奈良に来てくれたときは、打ち上げの前後でよくラーメン屋に連れて行ってましたね。ウケがよかったのは「まりお流らーめん」。一番濃度が高いラーメンにすると、お箸がスープに立つんですよ。めちゃくちゃ有名なお店なので、奈良の人ならみんな知ってるんじゃないかな。

―― 学生のころによく行っていたお店は?

山中:オーラルのベース担当のあきら(あきらかにあきら)が高校時代からのツレなので、よく一緒に「ならファミリー」に遊びに行きました。受験前は学園前駅のミスタードーナツで勉強したりしてましたね。商業ビルでいうと「奈良ビブレ」もよく行っていたので、閉店時はすごくショックだったのを覚えています。

近鉄学園前駅北口(画像:PIXTA)

あとは富雄駅はめちゃめちゃラーメン屋さんがあるので、地元の友達と「今日はここに行ってみよう」といろんなお店に行っていました。富雄駅のラーメンは、今でも奈良に帰ると絶対に食べに行きます。

―― CDなど、音楽関連の買い物はどんなところで?

山中:奈良市内の「奈良もちいどのセンター街」というレトロな商店街の中にポツンとあるレコード屋さんによく足を運んでいました。

それと、ヒップホップは西大寺にあるB系ファッションの専門店のお兄ちゃんに教わりました。僕らが高校生のころに閉店しちゃったんですけど、「90年代から2000年代ならこれ聴いてこい」って、よくCDを貸してくれてたんです。奈良の人たちはゆるくて接しやすいので、お店の人と仲良くなることも多かったですね。

奈良に帰るたびに新しい場所を開拓

―― 山中さんが奈良に帰ったら絶対に立ち寄るスポットは?

山中:ライブハウスには絶対行きますが、それ以外は毎回積極的に新しいお店を開拓するようにしています。意識して歩いてみると、知っている道でも意外と「近所にこんなイタリアンができたんだ」とか「細い道に入ったところに居酒屋あったんだ」といった発見があるんですよ。

―― 今、奈良のカルチャー好きが集まるような場所ってどこかありますか?

山中:僕の後輩が奈良駅周辺につくった「TwinTail」というバーに、若い子が集まってるみたいですね。僕も奈良に行ったときは遊びに行ったり、奈良の後輩バンドであるAge Factoryのメンバーが、ラッパーを連れてイベントを開催したりしています。

あとは、「LAMPBAR」と「LIGHT」も人気みたいですね。僕もまだ行けてないんですけど、後輩もおすすめしてたお店なので今度行ってみたいと思ってます。

―― 新しいお店もどんどんできているんですね。県外から奈良に訪れる人におすすめのお店はどこでしょう?

山中:ちょうどこの前、奈良のおすすめを友達に聞かれたんですよ。そのときに薦めたのは、僕らもよく打ち上げで使っていたおでん屋さんの「竹の館」。あとは、自分のエッセイに載せる写真の撮影で奈良に帰ったときに出版社の方が連れて行ってくれた釜めし屋さんの「志津香」も美味しかったので、おすすめしますね。

奈良に誇りを持っている奈良県民

―― 上京後に感じた奈良の特有の空気感や良さって何かありましたか?

山中:奈良はめっちゃスロータイムですね。ゆったりした時間が流れているからなのか、奈良の友達は大阪や京都の人に比べて喋るのが遅い気がします。

あと、奈良はどうしても京都と比べられがちなんですけど、全くの別物なんですよね。お寺や重要文化財がたくさんあるところなどは同じかもしれないけど、空気感が全然違う。県外の方々がなんとなくのイメージだけで「京都に行った方がよくない?」と思ってしまうのは、もったいないと思っちゃいます。

―― どちらにも違った良さがありますよね。奈良県民がよく行くご当地スーパーや飲食店は?

山中:「ハッスル」ですかね。家から一番近いスーパーで、「原価を度外視してるんやないか?」というくらい安かったので1番行ってました。

あと高校生のころよく行ってたのが、「BABY FACE」。飲食店なんですけど、900円くらいで3人のおなかいっぱいになるくらいのオムライスが出てくるので、学生の味方でした。

―― 奈良特有のライブの空気感ってありますか?

山中:僕らはずっと奈良出身と言っていて、お客さんもオーラルのことを知ってくれている状態で来るので、すごくノってくれますね。オーラルに限らず、奈良のバンドのライブはめちゃめちゃ盛り上がります。

山中:奈良のお客さんは、奈良出身であることに誇りを持っている人が多いと思います。僕らも奈良の先輩バンドであるLOSTAGEのライブを観ていたときは、スタートからすごい熱量でしたし。奈良県民はみんな地元愛が強いんだろうな、と感じました。

家賃もお手頃!1万8千円のワンルームで住んでいた一人暮らし時代

―― 山中さんは、大学生のころに一人暮らしをされていた時期もあるそうですね。どんな暮らしをしていましたか?

山中:奈良市内の中山町にある、20畳ワンルームで家賃1万8千円のところに住んでいました。奈良はめっちゃ家賃相場が安いんですよ。当時は近くの川沿いの一本道をよく散歩していたんですけど、今でもたまにそのころの思い出と今の環境を照らし合わせながら歩くことがあります。

―― 奈良から大学がある神戸まで通ってたんですね。通学時の印象的な景色はありますか?

山中:オーラルに「瓢箪山の駅員さん」という曲もあるんですけど、「瓢箪山駅」からの景色を見るのがすごく好きでしたね。あとは、鶴橋駅で電車が停まってドアが開いた瞬間に焼肉の匂いがして起きるとか、甲子園で阪神ファンのおっちゃんたちが「六甲おろし」歌ってるとか(笑)。通学も楽しかったですね。

近鉄瓢箪山駅(画像:PIXTA)

―― 学生さんが一人暮らしするときのおすすめのエリアを教えてください。

山中:西大寺駅ですね。周辺は商業施設や居酒屋さんが多いんですけど、線路を挟んだ逆側には住宅街が広がってるので住みやすいと思います。

この前、西大寺駅隣の菖蒲池駅周辺を散歩してたんですけど、そこもめちゃくちゃ良くて。遊園地があった場所の再開発が進んでいるので、東京で例えると二子玉川みたいな空気感ですね。山も池もある環境なので、めっちゃおすすめです。

みんなで集まれるような、カルチャーの拠点になるビルをつくるのが夢

―― 今後、奈良でやりたいことはありますか?

山中:過去のツアーのMCでも話したんですが、奈良にビルをつくるのが夢なんです。ステージ上であがめられるのが苦手なので、気軽に友達や音楽好きな人が集まって話せるような場所をつくれたらいいなと。

1階はみんなで集まれる場で、2階に東京や奈良にいる仲良い友達のブランドの服を置くとか。奈良は服を買えるところが全然ないので、「ここに来たらおしゃれな服が手に入る」という環境がつくれたらいいですよね。3階はスタジオで、4階はドッグランみたいな(笑)。

―― すてきですね。奈良出身バンドとして活動してきて、「奈良の人に届いてるな」と感じることはありますか?

山中:奈良のライブハウスに戻ると、必ず若いバンドマンが待ってくれていて。「いつも聴いてます」とか「次〇〇に観に行きます」って言ってくれるのはすごく嬉しいですし、僕も頑張ろうと思えますね。

あとは、中学や高校のころの友達がめっちゃ連絡してくれます。もう何十年も経つのにいまだに応援してくれるのはありがたいです。

―― 最後に、奈良の次世代のミュージシャンに向けてメッセージをお願いします。

山中:僕も学生時代は「奈良は遊ぶところがない」と思っていて、奈良の良さに気づけてませんでした。でも、いざ東京に出てみたら「山がないとソワソワするな」って思ったし、ないものねだりになっちゃうんですよね。

東京で10年過ごしたからこそ、奈良に帰ってきたときに、これまで見落としてたものがたくさんあったことを実感しました。奈良は奈良市だけがピックアップされがちですけど、いろんな場所に古き良きものがたくさん隠れているので、それを見つける楽しみがある場所だと思います。それを見つけるまでの道中もすごく面白いと思うので、ぜひ奈良を楽しんでほしいですね。

お話を伺った人:山中拓也

1991年3月2日生まれ。奈良県出身。ロックバンド・THE ORAL CIGARETTESのボーカル&ギター、作詞作曲を担当。2020年にリリースした『SUCK MY WORLD』はオリコン初登場1位を獲得。2021年には初の著書となるエッセイ『他がままに生かされて』を上梓。2023年2月からは2MAN VS TOUR「MORAL PANIC」を全国7箇所で開催予定。2月8日にはデジタルシングル「Enchant」をリリースする。 https://theoralcigarettes.com/

編集:小沢あや(ピース)