芸人のすべてを受け止めてくれる街「中野」|文・伊藤幸司(ランジャタイ)

著: 伊藤幸司(ランジャタイ)

(画像/PIXTA)

中野の地下では、いつもしょうもない事件が起きている

「てめえ!ふざけんじゃねーぞ!」

怒号がなかのzero視聴覚ホール地下2階に響く。小坊主が、首根っこをつかまれた。

「やめろ〜!」

小坊主の正体はガロインというコンビのツッコミの薗田。薗田をつかんだのは、あるライブの主催者の女性だ。

「なんだ〜!ふふふ」

強がりなのか、つかまれたことが面白いのか、なぜか半笑いだ。

「ぜってぇ許さねえからな!ふざけんな!」
「怒りすぎだろ〜、ふふふ」

楽屋から引きずり出された。

「すぐ電話するからな!待ってろ!」
「なんだあ、やめろ〜。ふふ」

ぷるるるる、ぷるるるる。かちゃ。繋がった先は、グレープカンパニーだ。

「御社所属のガロインさんが、ライブ出演でもないのに、勝手に楽屋に侵入して、ケータリングのお菓子を食べてたんです。ガロインさんは、うちのライブ出禁にさせていただきます。それでは。失礼します」
「ひどいだろ〜」
「なにがひどいんだてめぇー! 二度とツラ見せんじゃねーぞ!」
ぐっと首を持ち上げる。
「あはは、なにするんだ。やめろ〜」

そうして、ガロインはあるお笑いライブ団体の全てのライブを出禁になった。そんな中野!

(ガロインとは、ランジャタイとソニー・ミュージックアーティスツで同期で、僕のお笑い人生の前半においてほぼ一緒の道を歩いていた友達の芸人である)

楽しみも悲しみも中野にあった

2010年代の前半、僕はほとんどの時間中野にいた。中野で起きて、中野でバイトをして、中野の劇場に出て、中野でご飯を食べ、中野で寝た。

家の中でも色々なことがあった。部屋に入ってきた野良ネズミと目があった瞬間に一目惚れして、餌付けして仲良くなって「ジャスティン」と名前をつけて一緒に暮らしたりした。ちゃんと病院に連れていって飼えるようにしてもらったので、良い子良い大人は真似しないように。

ジャスティンが寂しそうにしていたので、ペット用のネズミを2匹お仲間に迎えて、金髪の子をひばりくん、黒髪の子を響子ちゃんと名付けた。ひばりくんは『ストップ!! ひばりくん!』の大空ひばりくんから、響子ちゃんは『めぞん一刻』の音無響子さんからとった。ジャスティンは「グランディア」の主人公だ。

この子たちは、部屋の中を縦横無尽に動き回った。インターネットの線を噛み切ってネットが繋がらなくなったり、中古で頑張って揃えた5.1チャンネルサラウンドのスピーカーを全部噛みちぎって音が出なくなったりと、大変なお転婆ぶりをかましていた。

手の中に抱えて、「もう! ダメでしょ!」と言うと、「ごめんね……」と、キラキラした目で訴えてくるのだ。そうすると全てを許してしまう。

3年一緒に暮らしたけど、最後は何も食べなくなって、それぞれみんな僕の手の中で死んでいった。僕が食べてたアイスだけ、あげたらペロペロ舐めてた。嫌だ泣ける。また来世か前世か今世かどこかであおーね。

劇場が多く、お笑いの街でもある

中野にはお笑いの劇場がたくさんある。是非劇場に行ってみてほしい。

なかの芸能小劇場

よく出てた。座席が階段状になっている劇場で、2015年のM-1グランプリで決勝に行った年のメイプル超合金を一番後ろの席で立ち見していたら、大爆笑が起こり、お客さん全員がのけぞって笑った時にそのお客さん達全員の顔が見えたことがあった。

なかのZERO視聴覚ホール

ガロイン薗田がお菓子を盗み食いしてつまみ出された場所。

Studio twl

ガロインと一緒に、君の瞳にトランスフォーマーというライブをやった。あと浜中雄平商店さんの主催ライブによく出てた。

中野Vスタジオ

モグライダー主催の東部第33部隊というライブで、菊門早見せ選手権(正式名称は覚えていない)に出て、僕はパンツを脱いで菊門をガパッと開いてエンジンコータローさんに見せた。エンジンコータローさんが何故か門の開きを認めてくれず負けた。もちろんお客様には何にも見えないようにしてますよ。そしてこないだモダンタイムスかわさんの結婚披露宴をした場所。

みんな行ってみてください!

食にこだわらない僕を夢中にさせたお弁当

僕は食にそんなにこだわりがないのだが、信じられないほど美味しかったのが、佐藤精肉店のお弁当だ。毎日自転車を飛ばして買いに通って、40種類あるメニューを全て制覇した。

卵で閉じた牛丼が、確か570円で、今まで食べた牛丼で1番美味しかった。そしてそれは今も更新されていない。

唐揚げ弁当もめちゃくちゃ美味しい。オムレツ弁当も、シューマイ弁当も何度も食べた。
佐藤精肉店中毒になり、やがて耐性がつき、一個のお弁当じゃ我慢できなくなって、毎回2個買うようになってしまった。

ある日国崎君に、「顔丸なったな」と指摘され太っていることに気付き、体重計に乗ると70キロあった。これはまずいと思った僕は、
服をぱんぱんに着込んで汗だくになりながら毎晩10キロほど中野の街を走り、48キロまで落とした。今は60キロくらい。また食べたくなってきた。

毎回、お店のおじちゃんがオリジナルのポエムも一緒につけてくれる。そのポエムが調味料となって、読みながら食べるとより一層弁当が美味しく感じた。佐藤精肉店が家の近くにワープしてこないだろうか。今1カ所だけワープホールを設置できるなら、佐藤精肉店を選ぶかもしれない。佐藤精肉店には気をつけて。

あと、アイスが好きすぎて31アイスクリームでバイトもしたよ! 他のバイトは、ほぼ全員女の子。ある時、女子大生から「そろそろ敬語やめてください」と言われて、どうしていいかわからず「僕には無理なんです」と返してしまった。(業務を円滑にするためだけに敬語をやめろと言ったのに、それすらも出来ないんだな、こいつはどうしようもないのだな)という顔をされたことをよく覚えている。苦い思い出だけど、もちろんアイスは 美味しいので是非行ってみてね。

中野ブロードウェイはアニメ漫画が好きな僕にはたまらなく、秋葉原と池袋と中野ブロードウェイに行くと否応なしにテンションが上がる。中野ブロードウェイには、ありとあらゆるサブカルチャーが詰まっているのだ。

地下に行けば刺身寿司肉から服やら100均まで生活に必要なものが全部揃えられて、2、3、4階と上に行けば行くほど精神がどんどん充実していく。漫画、アニメ、ゲーム、コスプレ用品、電子機器、占い、UFO、オカルトと、この世の全てがそこに置かれている。僕も集めたい漫画ができたら中野ブロードウェイのまんだらけで大体揃えた。

中野サンモール商店街の入り口には、いつもマスオチョップの西園がカラオケbanbanの看板を持って立っていた。

中野セントラルパークではよく飲んだ。とてつもなく広い公園だ。広ーいその公園の真ん中で、芝生に寝転んで空を見上げると、星空がキラキラと輝いていた。売れてなくてお金もなくて好きな女の子がいなくても、世界を独り占めした気分になったものだ。

中野のはなまるうどんでは、マスオチョップの拓郎がいつもうどんを作っていた。


(画像/PIXTA)

引越したけど、やっぱり中野いいとこ!

2016年、住んでいたアパートが取り壊しになるということで、僕は中野から引越した。

2023年、中野サンプラザが建て替えのため終わりを迎えるということで、50年の歴史の集大成として、『さよなら中野サンプラザ音楽祭』と題した盛大な音楽の祭りが、5月から7月の間、約2カ月にわたって行われた。

僕はその祭りの中の、サンボマスター×銀杏BOYZのツーマンライブに行った。ゆらゆらと踊りうねる中野サンプラザのなかで、僕は1人立ち尽くしてその光景を見ていた。

最高だった。そのまま中野セントラルパークに行って、お酒を買って、糖質ゼロビールにトマトジュースを入れてレッドアイにして飲んだ。芝生の中心に寝転んで、夜空を見上げた。星空がキラキラと、輝いていた。

中野いいとこ!

著者:伊藤幸司(ランジャタイ)

1985年11月18日生まれ、鳥取県岩美郡出身。2007年に国崎和也とともにお笑いコンビ「ランジャタイ」を結成。M‐1グランプリ2021では決勝出場を果たす。著書にエッセイ本『激ヤバ』がある。YouTubeチャンネル「ぽんぽこちゃんねる」でも発信中。
X(旧Twitter):@ranjyatai11

編集:小沢あや(ピース株式会社