はじめに
皆さん、引越ししてますか?
SUUMOタウンらしいあいさつで入らせていただきましたが、私は26歳の終わりに上京してから「浦安」(2年)→「戸越銀座」(4年)→「三ノ輪」(3年)といったあんばいで移り住んでいます。
人生の節目、節目で必ず訪れる「引越し」。誰しも一度は経験するライフイベントといえるでしょう。就職のタイミングで故郷を離れて「上京」。会社の辞令で「転勤」。強制的な機会もあれば、結婚や子どもができたタイミングで「より住みやすい環境」へ移り住んでいくものです。
そんな「移り住む」「引越し」も時代とともに言葉が変わっていくもので、気付けば「移住」なんて言葉が、地方創生ムーブメントのタイミングでパワーワードのように叫ばれています。
では、ここであえて言わせてください。
一回だけ。一回だけでいいから。
なんか「移住」って言葉を使った途端、大げさな印象を受けませんか。移住先への誓いを立てないといけない空気感。ちょっと息苦しい気がします。気に入らなかったらすぐ戻ればいいだけ。みんな気軽に引越しましょう。
というわけで今回は、東京の「三ノ輪」に家を借りながら、「長野」にも家を借りて「憧れの二拠点生活」にチャレンジする男の話をしたいと思います。えー、引越し以上にハードルの高いことに乗り出してしまいました。
全国47都道府県のローカルを取材するにつれて「二拠点にチャレンジするしかない」と思い立った理由なんかも触れつつ、生々しい気持ちの変化をお伝えできればな、と思います。
結論、めっちゃ大変です。
なぜ、地縁のない「長野」なのか?
突然ですが。5月1日から長野県長野市に家を借りることになりました。牛に引かれてでおなじみの「善光寺」から車で10分ぐらいの場所です。
この決断をしてからいろんな人に「なんで長野なの?」と質問される場面が増えています。そもそも、大阪出身で地縁のない土地なので当然といえば当然。その質問をされるたびに順序立てて整理する必要があり、「めんどくせーな」と思うので、次から「なんで長n」と脳が認識した瞬間に「この記事読んどいて!」とかぶりぎみにURLを送り付ける。この瞬間のためにSUUMOタウンを介して記事を書いている次第です。
さて、私が長野と出合ったのは30歳ごろ。それまで超がつくほどのインドア派で、貧しい家庭で育ったがゆえの「井の中の蛙」。「金のない家は旅行しない」の定義にぴったりハマっていたため、外の世界を一切知りませんでした。映画「バットマン ビギンズ」の序盤みたいな環境といえば伝わるでしょうか。
ところがある日、何を思い立ったのか「30歳だし、今までやったことないことをやろう!」と一人旅を決意。長野に単身乗り込んで、背筋力を鍛えるために薪割りを6時間やる機会に恵まれました。
田舎で育った人は「薪割りの何が楽しいんだよ……」と引き気味かもしれませんが、都会育ちの人間からすると、まき割りの奥深さは武道にも通ずるものがあるくらい楽しい体験でした。
木の年輪を把握し、的確におのを真下に振り下ろす。イメージと身体が一致すれば気持ち良いくらいにパーンと音が鳴る……。「おもしれぇぇ!」と感動したものです。
大地と一体化して斧を振る。私にとって都会で暮らしてきた価値観が揺らぐほどの体験で、身体を動かした後にもぎたてのトマトやキュウリで水分補給する感覚は感動モノでした。
それがまぁ、理屈抜きにしておいしいのなんのって。振り返ってみると、「こういう世界もあるんだな……」と知らない世界に一歩踏み出した瞬間だったんだなと思います。
さらに大自然と音楽が口説いてきたわけで
そこから松本⇔白馬をつなぐローカル電車「大糸線」に乗って大自然の風景を眺めて、今でも大好きなアーティストの曲「いい時間 / EVISBEATS」を聴いていたら鳥肌が。
「うおおおお、曲と風景が一致しすぎてる……!」
さらに初めての白馬で、天候に恵まれた環境でのラフティング、夜は満点の星空を眺めることができました。「おいおい、こんな世界があったのかよ……。これまで誰も教えてくれなかったやつ……」と、たった4泊5日の旅だったんですが、大学生のバックパッカーがアジアで気付くような衝動を覚えたんです。長野で。30歳で。
「遅すぎるだろ!」と思うかもしれませんが、この経験すらしていない人が世の中にはたくさんいるんですよね。大自然が当たり前になりすぎてる人もいれば、大都会が当たり前になっている人もいる。価値観の振り子運動のように「真逆の世界」を「適切なタイミング」で体験することがないと、根本的な物差しは変わらないわけで。その点、私は運が良かったんだなと今でも思います。
これが長野を好きになった初期衝動のすべて。
この体験がベースになってもっと全国を知りたい!と思って形になったのが、今でも編集長を務めるローカルメディア「ジモコロ」です。小さな体験がどう転ぶか分からない。気付けば初期衝動から累計30回以上も長野に通っていたので、何がどうって理屈じゃないんですよね。
通っているうちに「大好きなスポット」「毎年訪れたい土地」「定期的に会いたくなる友だち」が積み重なっていく。縁が縁を呼んで、気付けば「ここに住みたい」と思い至ったわけです。
最初のハードルは「嫁の説得」
さぁ、いつか長野に住むという心構えをしたところで、最初の関門にぶつかります。後に虎牢関(ころうかん)の戦いとも言われる「嫁の説得バトル」です。全国あちこちを取材する職業かつ、好奇心旺盛な私は、どこに住んでも生きていく自信があるんですけど、嫁は正反対の超保守派。新しい環境に飛び込むのが超苦手……。
結論から言えば、説得に丸2年かかりました!
そりゃ、容易ではありません。雪が多くて、冬はマジで寒い。それが一般的な長野のイメージですし、別に間違ってもないですからね。女性は寒さが天敵。床暖房でもあれば別ですが、費用面でハードルが高い。そこで地道に、2年かけて嫁対策で積み上げてきたことがこちらです。参考になるかもしれません。
●何度も通って土地のコミュニティに入り込む
2016年は月に2回、長野を訪れていました。取材はもちろん、遊びも同様。友人きっかけで人を紹介してもらい、行くたびに顔を出す。ゲストハウスに泊まって、飲み屋で地元の情報収集をする。そんな積み重ねで町の特長を把握し、気に入った町の好きなコミュニティを見つけます。
●そこで得た情報や実体験を都度都度、嫁に報告する
例えば長野市は冬でも山間部に比べて寒さがマシで、雪もそこまで積もらない。町から車で1時間半圏内でアウトドア系の遊びは全部できる。ロードサイドの大型店舗が充実しているから、買い物には困らない……などなど、住んだときのメリットをマメに提案しました。
●その上で嫁を計5回以上「長野」へ連れて行く
いくら口で情報を伝えても、実体験に勝るものはありません。「旅費は出すから!」と説得して5回以上は長野旅行に出かけました。現地のおもしろい人たち、温泉や自然の魅力、個性的な飲食店などに連れ回して「ここに住むのも悪くないな」と感じてもらえるようなプレゼンに徹しました。
●「俺が頑張って稼ぐから、無理して働かなくていいよ」と宣言
上京してからずっと働き続けてきて、生活に余裕のない生活を送っていた嫁にとっては結構刺さった印象です。もちろん二拠点生活なんていう私自身のワガママに付き合ってもらう謙虚な気持ちもありますし、このままの状態で家庭を築いていけるのか不安でもありました。お互いに「機嫌のいい状態」をちゃんとつくってみたかったんです。
●全国あちこちに出張する仕事で、不在時に何かあったらヤバい
仕事が忙しくなればなるほど家を空ける時間が増えて、この不安が増していました。引越しと同時に、住環境を今住んでいる場所よりアップグレードすること。日当たりが良くて、風が入ってきて……人間的に居心地の良い空間を用意すれば、きっと納得してくれるであろうと考えました。
などなど、あらゆる手段と言葉を用意して「まぁ、しゃーないか」と渋々納得してくれたわけです。いやー、長かった。承認が下りれば、あとは物件探しです
物件探しの難しさ
通い続けることでなんとなく土地勘はあったわけですが、実際に物件を選定する作業は難しいものです。
上京にも通ずるものがあるんですけど、圧倒的に物件を見る機会が少ないこと。そして東京と違って、ローカルの良物件はあまり表に出てこないこと。この2点は実際に動いてみて気付きました。
ほかにも
・「プロパンガス物件」ばかりで「都市ガス物件」は貴重
・「プロパンガス」は冬場=月2〜3万円、都市ガスはその半額ぐらい
・契約一時金(賃料の一カ月分など)が必要な物件が多い
・東京のように鉄道が発展していないため、地域によっては車が必須になる
などなど、現地で情報収集を始めてから「え、そうなんだ!」と驚くこともしばしば。大阪と東京にしか住んだことがないため、物件探しのコツがなかなかつかみきれない印象でした。
ここで私が取った行動は、譲れない条件をハッキリ明確にし、ネット経由で、2週間ほど物件情報を集めること。不動産会社のPDFデータは明記されている情報が少ないこともあったため、物件名と地名で複数の不動産サイトを検索し、情報のウラを取りました。
その上で良さそうな物件データのみを印刷し、長野在住の知人にどの物件だったら住みたいかアンケートを取ったんです。なかでも貴重な情報を得られたのが、結婚していて子どものいる女性。駅までのアクセス、最寄りのスーパー情報、近隣に保育園や病院があるかどうかなど、シビアな主婦目線の声が参考になりました!ありがたい!
そして、本命物件だった……
約80平米のキレイな戸建て(家賃10万円)をその場で契約を決断しました!
しかし、その後の展開が超大変なんです。引越し?移住?二拠点生活?言葉の聞こえはいいものの、当事者になると想像できなかった苦労が待っていました。
(続く)
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著者:徳谷 柿次郎 (id:kakijiro)
株式会社Huuuu代表取締役。おじさん界代表。ジモコロ編集長として全国47都道府県を取材したり、ローカル領域で編集してます。趣味→ヒップホップ / 温泉 / カレー / コーヒー / 民俗学など。
Twitter:@kakijiro