女と男が出会い、愛を育む街。大阪の「十三」【関西 私の好きな街】

取材・執筆: 吉村 智樹 

関西に住み、住んでいる街のことが好きだという方々にその街の魅力を伺うインタビュー企画「関西 私の好きな街」をお届けします。

 

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十三で愛を育み、結婚した女性に聞く、この街の魅力

 

十三(じゅうそう)には、いい呑み屋さんがたくさんあるんです。私たちは毎晩のように居酒屋やBARで飲んで、語りあって、ときには喧嘩をして、そうして夫婦になりました」

 

十三で恋愛の日々を過ごしたという古里雅美さん(44歳)は、独身時代を振り返り、そう語ります。

 

関西に住む人々に、想い入れがある場所への愛を語っていただく連載「関西 私の好きな街」。今回スポットをあてる街は、大阪の「十三」(じゅうそう)です。

 

大阪市淀川区にある「十三」は、「住みたい街ランキング2018関西版 穴場だと思う街ランキング」において10位にランクインした街。大阪の中心地「梅田」から阪急電鉄でたったの2駅。さらに阪急各線ほとんどの特急停車駅。交通利便性の高さにおいて、関西で屈指の街と言えるでしょう。

 

緑豊かな淀川河川敷。川の向こうは大都会

 

阪急「十三」駅は、淀川に面しています。駅のすぐそばに広々とした淀川河川公園があるのも、十三の魅力のひとつ。毎年夏には河川敷で「なにわ淀川花火大会」が開催され、おおいに盛り上がります。

 

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淀川をはさんで「梅田スカイビル /新梅田シティ」など大阪のランドマークといえる建物がずらりと並ぶ

 

 

淀川の向こう岸に見えるのは梅田の超高層ビル。近距離に都心があるため、電車ではなく「自転車で通勤する」という会社員も少なくはないのだそう。

 

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 淀川にかかるアーチ橋「十三大橋」と並列に走る阪急電車

 

緑豊かで散歩やジョギング、自然観察にはうってつけ。花火まで観られて眺望バツグンな淀川河川敷を擁する十三ですが、なぜ数字の「十三」が地名となり、それをなぜ「じゅうそう」と呼ぶのか、その理由は諸説あり、定かではありません。

 

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ジョギングコースが整備されている淀川河川敷。東へまっすぐ行くとバーベキューも楽しめるエリアが現れる

 

十三名物、俵型のアツアツ「みたらし団子」

 

有力なのは、明治時代まで淀川には渡し船があり、「上流から数えて13番目の場所がここだった説」。

 

渡し船とともに発展した街なので、船が着くあいだに小腹をいやした和菓子の名店も、十三にはいまなお数多く残っています。特に駅の西口を出てすぐの場所にある「喜八洲(きやす)総本舗」本店の重厚な構えは、十三の顔と呼んで大げさではないでしょう。

 

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「酒饅頭」で名高い喜八洲総本舗。酒蔵のような豪壮な造りの店構え。酒樽を表した看板が貫禄

 

古里「十三といえば、喜八洲さんの『みたらし団子』! おいしいですよね。私は辛党なんですが、ここのみたらし団子は大好物。贈り物にしても本当に喜ばれるんです」

 

今回ご登場をいただく古里雅美さんが絶賛する喜八洲の「みたらし団子」は、珍しい「俵型」。これは「焦げ目が均等になり、さらにタレがよりからみやすいように」と進化した形状なのだそう。

 

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俵型「みたらし団子」は北海道厚岸産の昆布でだしをとり、香川県産たまり醤油と白ざら糖を使ったタレが絶品

 

確かに北海道産の上質な昆布でだしをとったといううま味たっぷりな甘じょっぱいタレが、炭火で焼いたアツアツの俵型団子をしっかりとまとい、餅粉と米粉の香ばしさを封じ込めています。串焼き感覚で味わえるので、お酒が好きな人にも好まれる理由がよく分かります。

 

彼は人気DJ。思いやりがある性格に惹かれ、十三で同棲

 

古里雅美さんは2009年までこの十三に住み、彼氏と出会い、結婚を機に故郷の兵庫県たつの市へと帰りました。現在、1日3組限定の旅館「千鳥亭」の女将をやっています。

 

古里「家族経営の小さなお宿です。十三を去ったのは、実家である老朽化した旅館を建て直したいと考えたから。このままでは、なくなることが目に見えていたので、私たちの世代でやりなおそうと思いました。オーベルジュスタイルに変え、改装にはたっくさんお金を使いました。夫はそれまでDJでしたが、いまはターンテーブルではなく、まな板を前にして魚をさばいています」

 

十三で同棲を始めた「夫」とは、7歳年下の古里俊幸さん(37歳)。90年代から2000年代にかけて「DJ FUL」の名で大活躍したアーティストです。人気DJユニット「T-SKRABBLE DJ'S」の一員であり、単独で世界最大のDJコンテスト「DMC WORLD」の2007年度JAPANファイナリスト(関西ブロック優勝)にも輝いた凄腕。その名は世界へと轟き、マイケル・ジャクソンを追悼するトリビュートMixにも参加しています。

 

古里「DJ FULはモテる人でね。すごい人気で、いつも女性に囲まれていました。でも、私とつきあってから、ほかの女性とはいっさい遊ばなくなったんです」

 

そんな、おノロケにもほどがある古里さんもまた「DJ CHAMI」の名で活動するDJでした。2007年から関西テレビで放送されていた、藤井隆やFUJIWARAが次世代スターを紹介する番組『フジヤマ☆スタア』にDJ CHAMIがレギュラー出演していたことを憶えていらっしゃる方も多いのでは?

 

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古里雅美さんは「DJ CHAMI」の名で活躍するDJだった

 

古里「スチャダラパーさんの影響で、DJをはじめました。そしてクラブでDJをやっていたら、関西テレビの方から『レギュラー出演しないか』と声をかけられたんです。テレビ番組のレギュラーだなんて、あまりにもいただいたお話が大きすぎて不安になり『どうしたらいいの~』と、DJ FULに相談したんです。すると、とても親身になって相談に乗ってくれて、それがきっかけで、おつきあいを始めました。十三に転居したのは、彼が十三に住んでいたから。一緒に暮らして、彼がDJの練習をする姿を後ろで見ていて……そんな時間が幸せでした」

 

ミニシアターにライブハウス。十三はサブカルチャーが充実

 

恋愛がきっかけで十三に移り住んだという古里さん。しかしながら十三には、もともと思い入れが強かったのだそう。

 

古里「ずっと十三の雰囲気が好きで、よく通っていたんです。いいアーティストばかりが出演するライブハウスがあるし、マイナーだけれど上質な作品が上映される映画館があるし、サブカルチャーにどっぷりハマっていた私にとって、十三は天国のような街でしたね」

 

そう、十三の特徴のひとつに、サブカルチャーの充実があります。例えば「ナナゲイ」の愛称で親しまれる、大阪では数少ないミニシアターのひとつ第七藝術劇場。映画ファンと地元商店街による市民出資型映画館であり、何度も閉館の憂き目に遭いながらも、そのたびに十三に住む人々に支えられて存続しているのです。

 

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古里「私はミニシアター系の映画が大好きで、本当によく観に来ました。忘れられないのは『放送禁止』という映画を観ていた時、バーンと、急にトラブルで上映がストップしたこと。ちょうど怖いシーンだったので、びっくりして心臓が止まるかと思いました。ナナゲイは十三の、というか関西の宝だと思うのです。ずっとあり続けてほしいですね」

 

続いて、古里さんがよく通ったというのがライブハウス。30年以上この地にあり、関西の音楽シーンをリードし続けるLIVE BAR 「ファンダンゴ」。ウルフルズを輩出した名門として誉れ高いお店です。

 

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古里「音楽の聖地ですよね。ここは大好きだったモダンチョキチョキズの濱田マリさんがバイトをしていて、ステージ上だけではなくスタッフもビッグなので、行くたびに緊張していました。自分が初めて出演した時は、感激で胸がいっぱいになりました」

 

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さて、この記事を取材しているさなか、残念ながら「ファンダンゴ」は2019年7月末で現住所での営業を終えるとのニュースが。コンクリート打ちっぱなしのクールな内装、サイケデリックなステージの背景画など、未経験な方はぜひお急ぎを!

 

コスプレイヤーからレースクイーンへ

 

こうしてお話を聞いていても分かるように、古里さんはサブカル育ち。多彩なカルチャーに影響を受け、生き方にも、その影響がおおいに反映されていました。

 

古里「はじめはファミコンでした。小学生のころにファミコンに夢中になり、『将来はゲームをつくる人になりたい』と思うようになりました。『桃太郎電鉄』シリーズを開発されたさくまあきらさんのことを幼いころからチェックしていて、例えば少年ジャンプなら、ドラゴンボールよりも真っ先に『ジャンプ放送局』(さくまあきら氏が構成していた読者投稿ページ)を読む。そんな子どもでした。さくまさんにファンレターを書いたこともあります」

 

短大進学のために兵庫県から大阪へ出てきてからの古里さんは、ゲーム好きが過熱。格闘ゲーム「バーチャファイター」のコスプレイヤーとして一躍、名を馳せました。コスプレの文化がまだ定着していなかった時代、衣装の細部まで手づくりしていたと言います。

 

そうして短大在学時代はさらに活動が熱を帯び、ゲーム雑誌のイメージガールやレースクイーン、イベントコンパニオン、さらには現在で言う「地下アイドル」的な活動も。上京してプリクラの会社に就職後、独立起業。ゲームクリエイター、DJ、レースクイーンという三つ巴ライフが始まるのです。古里さんが十三にやってきたのは、そんなアツい暮らしを送る真っただ中でした。

 

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古里「レースクイーンって朝が早いんですよ。私が早朝に出かけると、朝に仕事が終わるお水の女性たちと商店街ですれ違うんです。そしてお互い『おつかれさま』って挨拶をしあって、かすかながら友情を感じることもありましたね」

 

酒場で語らい、ときには喧嘩。ふたりの絆は強くなった

 

そう、十三と聞いて、まず大阪の人たちが想像するのが、呑み屋街の光景ではないでしょうか。

 

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十三は駅の西部と東部に商店街が広範囲に延びており、いくつも路地が枝分かれし、大小の飲食店が櫛比(しっぴ)しています。そして、その多くはお酒が楽しめるお店。赤ちょうちんが灯り、ネオンがまたたくその様子は、映画監督のリドリー・スコットが『ブラック・レイン』のロケ地に選ぶほど魅力的です。

 

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「十三」駅の西側に広がる「栄町商店街」。昭和の歓楽街の雰囲気をいまなお残し、映画やドラマの撮影に使われる場合も多い

 

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十三は東西に長い長いアーケード商店街が横たわり、たとえ雨が降っても支障なく買い物を楽しめる

 

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東口と西口を結ぶ高架トンネルも味わい深い

 

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駅の東口からスタートする「十三駅前通商店街」

 

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駅の西口を出て176号線をまたぐと「十三トミータウン」。「トミー」とはこの街のキャラクターである「しょんべん小僧」の名前

 

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十三の待ち合わせスポット(?)「見返りトミー君」像

 

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古里「私たち、すっごくお酒を飲むんです。十三にいるあいだは、ずっと酔っぱらっていましたね。カウンターで一緒になった、ぜんぜん知らない人とも話をして、おごって、毎日のように宵越しのお金がなくなるまで飲んでいました。めちゃめちゃな生活だったけれど、楽しかったですね(笑)。うん、青春時代でした」

 

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彼氏と夜ごと飲み明かした日々を振り返る古里さん

 

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古里さんは目を細め、往時をかえりみます。酒場のカウンターで彼とお酒を飲むうちに理解が深まり、愛を育んでいったようです。

 

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古里「ふたりで飲み歩いて、酔ううちに不満の言いあいになり、喧嘩して……それがいつものパターン。ただある日、大きな喧嘩が原因で私が怒って家に帰らなかったことがあったんです。一日経って戻ってみると、彼が荷物をまとめていて、出ていこうとしていたんです。『俺、あかんな』って言いながら。そして引き留めたら、プロポーズされたんです。『僕が君をつなぎ留められるのは結婚しかない』って」

 

そうしてふたりは2009年に結婚し、古里さんはおよそ100年の歴史を誇る旅館の四代目として跡を継ぎました。

 

古里「彼がまさかDJをきっぱりやめて、包丁を握ることになるとは思ってもみなかったです。旅館を再建したいという夢を必死で一緒にかなえてくれようとしています。結婚前に『もしも疲れたら、必ずマッサージをしてあげる』という約束も、ずっと守ってくれているんです。こんなにいい人に巡り合えたのも、十三という街のおかげだと思っています」

 

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怒涛のようにくるくるとさまざまなシーンを巡って、意中の人と故郷へ帰ってきた古里さん。まるでターンテーブルでまわるレコードのような人生です。

 

正直に言って十三が女性誌で「おしゃれな街」として紹介されることは、まずありません。しかしながら女と男が出会って、語りあい、愛を深めあうことができるのは、意外と十三のような気さくな街ではないかと思うのです。

 

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著者:吉村 智樹

吉村智樹

京都在住の放送作家兼フリーライター。街歩きと路上観察をライフワークとし、街で撮ったヘンな看板などを集めた関西版VOW三部作(宝島社)を上梓。新刊は『恐怖電視台』(竹書房)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)。テレビは『LIFE夢のカタチ』(朝日放送)『京都浪漫 美と伝統を訪ねる』(KBS京都/BS11)『おとなの秘密基地』(テレビ愛知)に参加。

Twitter:@tomokiy Facebook:吉村 智樹