学生時代の甘い暇と仙台市泉区泉中央

著: くどうれいん 

ひとり暮らしをするつもりなんてなかったのだ

まさか自分が仙台に住むことになるとは思わなかった。岩手県の実家から県内の大学にのんびり通うものだと信じて疑わなかったわたしは、大学受験の日付を間違えて、落ちた。でかい石をひっくり返された虫のように、ぴゃ~とあたふたし、当事の先生方のご尽力もあってどうにか入れてもらえた大学が宮城県仙台市にあった。わたしは仙台でひとり暮らしをすることになった。

いまだからこそ未受験不合格のことを作品にして文芸誌に載せたりしているが、当事は真っ青だった。まわりの同級生たちのように、都会に出たいともひとり暮らしをしたいとも望んでいなかったわたしのひとり暮らしは、ほぼ強制的に始まった。

あこがれの仙台シティ、現実の泉中央

既に都市に暮らしている人には分かってもらえない感覚かもしれないが、盛岡の、それも合併前は村だったエリアに住んでいるわたしからすれば、仙台は大都会だ。おじいちゃんが手売りしてくれる切符から、Suicaでピ! になるし、仙台にはサイゼリヤもミニストップもある。22時以降も終電はあるし、パルコもあるし、地下鉄もある。人生がこうなっちゃったからには、みちのくシティガールとしてぶいぶい言わせようじゃないの。仙台、はじめまして!

息まいて引越した場所は、仙台市泉区の泉中央だった。だまされた。と思った。引越しの車内から見える景色には田んぼがたくさんあったのだ。仙台はすべて夜景の街だと思っていたので拍子抜けした。仙台市は思っていたよりものすごく広いということ、わたしの引越す先はほぼおとなりの大和町といっていいほど仙台市のはじっこだったということをわたしはそのときはじめて知った。

懐かしくなってきたな。折角なのでひさびさに行ってみよう。

ひさしぶり、泉中央

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泉中央は仙台駅から仙台地下鉄南北線で9駅、16分かかる。盛岡の実家も盛岡駅から電車で20分だったのでなんとなく落ち着いた。わたしは移動が好きだ。

八乙女という駅で車両が地上に出るとき、その眩しさに毎回興奮した。ユアスタ、と呼ばれるユアテックスタジアム仙台が見えてくると、泉中央に着いたなあと思う。試合と時間が被るとベガルタ仙台のサポーターに揉まれることになるこの駅を使っていたのに、結局学生時代ユアスタには一度も行かなかった。

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泉中央駅に着いたときの、ちょっと薄暗い感じがわたしにはちょうど良かった。バスターミナルのことを東北ではバスプールとよく言ったりするが、泉中央のバスプールはちょっとプールっぽさが高いと思う。

駅を出てどうしても通りたくなるのがこの天井。

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よく分からないがスケルトンのピラミッドから出てくる階段があり、好きだった。

振り向くと、

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ArioとSELVAという二つのショッピングビルがある。わたしからするとこの並びがまさに、ザ・泉中央という感じだ。家族連れの買い物はArio、デートや服の買い物はSELVA、という使い分けのように思う。土日になるとにぎわうこの場所で、親孝行しなきゃなあ、とぼんやり思った。

学生時代の甘い暇と七北田

駅から少し歩くと七北田公園がある。入学したばかりのころ、仙台が地元の人に「くどうさんは県外出身?」と聞かれ、びっくりしていたらそれはわたしが七北田のことを「ななきただ」と読んでいたからだった。正解は「ななきた」。最後の「田」、どこ行ったんじゃい。なんとなくいまだに不服でならない。

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とにかく、暮らしているところからそう遠くないところに、大きい公園があるというのはとても素晴らしいことだった。森もいいけれど、手入れをされた芝生の大きな公園はいいなあ。コロナウイルスの影響で休校と言われてすぐだったこともあってか、たくさんの子どもたちがめいめいに遊んでいた。がたいのいいお兄さん二人はラグビーボールを蹴ってはキャッチしていた。ラグビーがここまで。時代だ。

学生時代、暇になるとここに来た。誰もいない早朝の公園の遊具にまたがって、ぼんやりとするのが好きだった。不思議と実家で見上げるよりも空が広くて高いような気がしていたのだが久しぶりに訪れたらそうでもなくて、あれは学生生活という陰鬱とした甘い暇がそう見せたのか。

七北田公園にはいくつかエリアがあって、小さい子が遊ぶ遊具がたくさんあるところ、球技をやるところ、水遊びができるところ、健康器具のところ、がある。

健康器具のところには謎の使用方法のオブジェのようなものがにょきにょきとあり、ベテランのシニアの皆さんが、本当にそれで合っているのか?という使い方で健康を増進している。例えばこれ

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福引? と思ったら、あながち間違いではないようだった。あ~のびるのびる、脇、脇これ、おお~。

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学生の時も、お金がないときはこの公園に来てだべっていた。夏場は近くを流れる七北田川の浅瀬で水鉄砲をしたり、芝生でフルーツポンチをつくったりもした。

朝方いっしょにシーソーに乗ったチナツはもう結婚して、お子さんがそろそろ1歳になる。

そして、七北田公園に来るときはいつも、このパン屋さんが目当てだった。アドゥマン、という。一口かじるごとに「く~!」と叫ぶようなおいしいパンがたくさん並んでいる。毎日毎週というわけにはいかなかったが、自分へのご褒美で何度か足を運んでいた。落ち着きのある家具で座ってゆっくりイートインもできるし、テイクアウトして七北田公園で食べるのもすきだった。混んでいて入れないこともしばしばあった。

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カマンベールと生ハムのクロワッサンサンド。クロワッサンのサンドイッチを食べたのは人生でこのお店が初めてで、あまりのおいしさに強くこぶしを握り締めた。しょっぱいパンも甘いパンも硬いパンもやわらかいパンも、みんな抜群においしい。おいしいパンとコーヒーとでかい芝生とインターネット環境があれば、住むところはどこでもいい。(どこでもよくはないくせに)

泉中央の奥にある、妙なセレブっぽさのこと

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大学に歩いて行けた方がいいという理由で、泉中央からバスで15分ほどのところにわたしは住んでいた。桂・高森、寺岡・紫山と呼ばれるエリアである。このあたりは、なんというか「白金感を出そうとしている」という感じがした。アウトレットモールがあり、立派なマンションがたくさんあり、お城のようなホテルがあり、道がとにかく広い。人工芝の中にある花壇には「フェアリーフォレスト」と看板があった。道行く人を見ていても、なんとなくお金持ちが多い感じがした。雑種の犬がいないし、マダムはみなスカーフを巻いていた。桂には生ハムとワインとペルシャ絨毯と花屋さんのコーナーがやたらと広いグリーンマートというスーパーがある。しかし、そもそも人通りが少なかったのでマダムたちと交流することもなく4年間過ごしてしまった。学生マンションがなかったので、交通費が高いか家賃が高いか苦渋の決断で、コンロが3口ある後者を選んだ。結局あまり出歩かず自炊ばかりしていたので正解だった気がする。

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住んでいた家から近いところに宮城県図書館がある。

UFOか? と思うような謎のフォルムの図書館で、やけにがらんどうとしていて、短詩コーナーの取りそろえも悪く、使い勝手はそんなに良くなかったけれど、なぜか落ち着いた。せわしなくない、というか、放っておいてくれるかんじが気持ちよかった。窓が大きいので初夏なんかは最高だった。

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「ヘビに気をつけよう」

池や木々の多い図書館の近くは、ヘビやクマがしょっちゅう出た。近くのうちの大学にもカモシカがよくいた。駐車場に熊が出た! と学内アナウンスがあったがそれは恰幅のいい教授でした、みたいなうわさもあったりした。

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今思えば授業の空き時間にいつでもアウトレットモールに来られるというのはとても面白い環境だった。アウトレットのテナントでアルバイトをしている同級生もいた。最初こそ大喜びして友人たちと見て回ったが、もちろんほしいものを買うには自分でアルバイトをしなければいけないと実感したのと、ほんの少しの距離を歩くのすら面倒になり通う頻度はどんどん少なくなっていった。それでも、平日のがらんとしたアウトレットを買うでもなくゆっくり歩きまわるのはぼんやりした夢を見ているようで良かった。

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アウトレットモールにはTapioという商業施設が併設されていて、こちらはアウトレットよりもカジュアルなブランドや、大きなフードコートや、海外の食品を扱うお店などが入っていた。リッチな感じを出そうとしている吹抜けのエリアがあって、そのがらんどうが好きだった。

道が広くてマンションも高層だが、人が全然いなくて空も同じだけ高い街だった。どの店も平日は閑古鳥で、セレブっぽいが妙なところだった。

おすすめするしおすすめしない泉中央でのひとり暮らし

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折角なので、住んでいたマンションの近くにある公園にも行ってきた。

登ると案外高くて怖いジャングルジムと、ドラえもんでしか見たことのなかった土管。同じマンションに住んでいる友人とここでしょっちゅう夜に集まってスミノフを飲んだ。

ひとり暮らしの足跡を巡ったら、もっと懐かしさに駆られるかと思ったがそうでもなかった。ひとり暮らしをしていた時の自分よりも、今の自分をもっと気に入り始めているからかもしれない。


ひとり暮らしをするひとに「泉中央がおすすめだ!」と声高に言える自信はない。ひとり暮らしが愛おしかったのか泉中央が愛おしかったのかわたしにはもうわからない。けれど、わたしは泉中央の大きい建物や公園が、むわーん、とただそこにあって、人がそんなに多すぎないところが大好きだった。

わたしは泉中央でたくさん暇だったからたくさん日記を書いた。その日記が今、全国の書店で売られていると思うと夢を見ているようだ。

だから泉中央に来ると、むわーん、とする。むわーん。

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泉中央駅までの歩道橋がUFOみたいだといつも思っていたこと、思い出した。


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著者:くどうれいん 

くどうれいん 

岩手県盛岡市出身在住。会社員をしながら作家活動をしています。マガジンハウス社POPEYEにて『銀河鉄道通勤OL』連載中。著書に『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD,2018)『うたうおばけ』(書肆侃侃房)が発売中。Twitter

編集:ツドイ