ロックバンド「OKAMOTO'S」のボーカル、オカモトショウさん。ニューヨーク出身の彼が「愛すべき地元」と宣言するのは、豪徳寺です。
世田谷区の豪徳寺〜梅ヶ丘エリアには、顔の見える飲食店が立ち並ぶ商店街のほか、世田谷八幡や豪徳寺などゆったりと時間を過ごせる場所も。オカモトさんは、そのバランスの良さが好きだと言います。
お気に入りの飲食店や、子どものころの思い出の店などを教えていただきました。
祖父母の代から世田谷が軸
―― 世界的ミュージシャンであるお父様のお仕事や、ご自身のバンド活動を通して、いろんなエリアを旅してきたオカモトさん。いちばん好きで長く暮らした街が「豪徳寺」なんですね。
オカモトショウさん(以下、ショウ):理由はシンプルです。うちの母の地元が豪徳寺〜梅ヶ丘エリアだったんですよ。俺、実は父と日本では一緒に暮らしたことはないんです。父が仕事で来日する数週間の間だけ。母方のおじいちゃん・おばあちゃんの代から豪徳寺〜梅ヶ丘が地元だったから、俺にとっても地元になりました。
―― 豪徳寺や梅ヶ丘エリアは駅こそ違いますが、割と徒歩圏内で歩けますよね。
ショウ:そうなんです、そうなんですよ(食い気味にくるショウさん)! 経堂くらいまではすぐ歩けちゃうし、便利っすね。まぁ、でも住んでいる人間としては、結構細かくエリアが分かれている感覚ですよ。松陰神社前や若林も徒歩圏内だけれど、もはや別世界って認識。太子堂まで行ったら、もっと違うかな。
―― そんな豪徳寺〜梅ヶ丘エリアの魅力プレゼン、早速どうぞ!
ショウ:まず、豪徳寺は商店街がすごく強いですね。古くからやっているお店が未だに残っているし、そこまでガツガツ商売をしなくても成り立つんでしょうね。ホントかどうかわからないですけど、地主の方が結構優しいらしくて、「長年賃料も上げてない」なんて噂を聞いたことがありますよ。
―― すごい、地域密着の情報……!
ショウ:ガツガツしなくていいとなると、それぞれのお店にも個性が出てくる。個性が出ると、地元の人に愛される。だから、商店街がしっかりと機能していると思うんです。最近は若い人が「九百屋 旬世」という八百屋さんを始めたりしてね。ここ数年で若年層がちょっとずつ流入している印象があります。
個性豊かな飲食店と、世田谷八幡と、豪徳寺
―― 豪徳寺も、少し前に一気におしゃれになった松陰神社のように、気概がある若い方が店を構えるようになったんですね。
ショウ:ネパールカレーの「OLD NEPAL TOKYO」も! もともと、あそこにOPENするお店は入れ替わりが激しくて長く続かなかったんです。けど、OLD NEPAL TOKYOがイメージを変えてくれました。歴代のお店はみんな居抜きでやってたんだけど、外装を変えて明るい雰囲気にリノベしてね。ちゃんと別の場所でビジネスに成功しているオーナーだったから、いつもお客さんが並んでいて大盛況! 味もおいしいので、おすすめです。
―― そんな事情があったとは。他にもおすすめ、ありますか?
ショウ:俺のイチオシは、蕎麦屋の「しおて」。もともとはミシュランガイドにも掲載されていた「あめこや」というお店だったのですが、突然店を閉めるという話になって。店主に話を聞いたら、「蕎麦を極めたかったら、農業からやらないといけない! って気持ちになった」というのが、閉店の理由で。
―― すごい気合い……!
ショウ:で、店主が農業を始めたので、お弟子さんたちが同じ場所で同じメニューで引き継いだのが「しおて」です。相変わらず、おいしいです。
―― ショウさんは、いろいろとはしご酒するタイプなんですか?
ショウ:俺、ここ数年でお酒は飲まなくなったんです。ご飯を食べにいったり、コーヒーを飲みにいったりすることが多かったかな。おすすめの喫茶店は「世田谷珈琲游」。ファーストウェーブのコーヒーチェーンと、個人店の間みたいな感じがして、味があるんですよ〜。あと、串カツ田中の地下にある「Quintet」も雰囲気があって、コーヒーがおいしい!
―― (調べながら)とても雰囲気良さそうですね。
ショウ:豪徳寺周辺は、パン屋も強いんですよ。一番有名なのは「uneclef」かな? 俺、そこの素朴なイングリッシュマフィンが好き。いつも並んでいるからなかなか買えないんですけどね。おしゃれな雰囲気です。
ショウ:「墨繪」というパン屋も、夕方に売られるりんごとペカンナッツのパンがおいしい。少し歩くけど梅ヶ丘にある「パン・ド・ラサ」も、なんてことない食パンやフランスパンが安くておいしいんです。……俺、さっきからおいしいしか言ってないですね(笑)。
―― 大丈夫です! 魅力的なお店がたくさんあるんですね。
ショウ:そうそう。探してもらったら、老舗でも新しいお店でも、きっともっといっぱい素敵な飲食店が見つかると思います。
あとはね、世田谷八幡と豪徳寺が、めちゃめちゃ至近距離に並んでいるところもポイントが高いんですよ。豪徳寺の駅から徒歩10分圏内に、広い神社とお寺があるんです。
俺が休日遊びに行くときのお決まりのコースは、駅から出たら真っ先に大好きな「IRON COFFEE」に立ち寄って、そこから世田谷八幡か豪徳寺まで歩いて行くこと。豪徳寺は招き猫で有名で少し混み合うことがあるけど、世田谷八幡が静かでいいっすよ。木々に囲まれて、ジャパニーズコロッセオみたいな立派な土俵があって(笑)。お祭りの時期になると、農大の相撲部の人が相撲とってくれたりして。
―― 土俵がコミュニティースペースになっているんですね。
ショウ:そうそう。世田谷八幡のすぐ近くに「たこ坊」というたこ焼き屋さんがあるんですけど、そこの塩胡椒たこ焼きもおいしいのでおすすめです。
幼少期の思い出が詰まったお店も
―― 食べ歩きの話が出ましたけど、ショウさんは小さいころからよく買い食いをしていたんですか?
ショウ:いや、小さいころは買い食いは禁じられていたんですよ〜(笑)。小さいころからの思い出の店は、商店街にある「おもちゃのとばり」というおもちゃ屋さんかな。我が家のおもちゃは全部、とばりで買っていました。
―― 街のおもちゃ屋さん、って感じの趣がありますね。
ショウ:この間久しぶりに行ってみたら、今も残っているみたいで、嬉しかったです。50円ぐらいでシャボン玉とか売ってて、買っちゃいましたね〜。意外と大人になってもテンションあがるもんです(笑)。
―― 公園もあるし、晴れた日に飛ばしたら面白そうですね。
ショウ:梅ヶ丘の「HANACHO」という花屋も子どものころからの馴染みの店ですね。母の日にお花を買ったり、初めて自分で育てるためのサボテンを買ったりしました。街の花屋さんの割に、いろいろそろっているんです。ちょっと変わった南国系のお花が多くて。
それから昔、4年ほどバイトをしていた「デリカテッセン トミナガ」。地域密着のお店でもあり、ホテルなどにも卸しているお店だったんですけど、とにかく、ヴァイスヴルストという白ソーセージ がめっちゃおいしいです。
―― (写真を見ながら)うわぁ、おいしそう。
ショウ:ハムで言うと、俺が好きなのは、ビーフピスタチオというハム。滑らかな細かいお肉の中に、ブロック肉みたいなのとピスタチオが入っていて、これもめっちゃおいしいです。もちろん、料理に使いやすいベーコンもおすすめで。しっかりダシが出ます。
―― 4年もバイトを続けるなんて、相当居心地が良かったんですか?
ショウ:そうですね。個人店だと、お客さんともマニュアルではない会話ができる。「トミナガ」の前にチェーン店でバイトしていたからこそ、なんか、楽しかったんですよね。
忙しい日々でも、散歩するだけでちゃんと心が安らぐ街
―― 上京して、いざ憧れの下北沢に住もう!と思ったら、家賃が高くて断念した……みたいな話もよく聞くんですよ。そんな人にもおすすめできるエリアですか?
ショウ:そうですね、意外と安い物件ありますよ! 大学もあるから、5万5000円ぐらいの一人暮らし向きの物件もある。何より、このエリアは、上馬や下馬まで行かない限り、絶対どこかの駅の近くになるから。それは便利ですよね。あと、何より世田谷の台所、「スーパーマーケットオオゼキ」があるので。
―― でた、オオゼキ! 世田谷区民の方、みんなオオゼキ愛を叫ぶんです。いいですよね、鮮度も接客も。
ショウ:オオゼキはマジで最高です。あんなに新鮮な野菜や魚を、毎日ちゃんと安く仕入れてくれているんだから。チェーンだけど、店舗ごとにちゃんと個性もある。個人的には、上町店の雰囲気と品ぞろえが一番好きですけどね(笑)。
―― 取材を通して、地元愛が伝わってきました。改めて、オカモトさんは豪徳寺〜梅ヶ丘エリアのどこに強烈に惹かれていますか。
ショウ:すごく散歩のしがいのある街なんですよ。田んぼ道をそのまま舗装しているので、区画整理が全然できていないんです。だから車で通ろうとすると道が細くてめちゃくちゃ大変なんですけど(笑)、散歩にはもってこい。どの道に入っても、知らない道を行く感覚だから、本当に歩くだけで楽しくて。
ショウ:しかも、どの路地にも「人が住んでいる匂い」みたいものをしっかり感じる。みんな同じデザインの家とか、チェーン店とか、そういうのが少ないエリアだと思って。いちいち細かく、人がこだわって、つくったり、育んだりしてきた街だなと思います。
―― 自然もあって、都会的な雰囲気もあって、下北沢や三軒茶屋など、カルチャーがある街にも近いのも魅力ですよね。
ショウ:そうですね。自転車を使えば、梅ヶ丘からなら、下北沢も三茶も7分、8分で着きます。簡単に街に行けるけど、ローカル感もあるエリアって、すごく魅力的っすよ。
商店街にもちろん人はいるっちゃいるけど、ちょっと抜けたら静かになるし、夜はなんとなくの明るさはあるけれど、だいぶ静かだし。とにかく、バランスがいいですよね。東京にいながらも、ちゃんと息を抜いて、スイッチオフできる街です。忙しい人にこそ、いいんじゃないかな。
お話を伺った人:オカモトショウ
4人組ロックバンド「OKAMOTO’S」のボーカリスト。ニューヨーク出身、世田谷区育ち。2021年9月29日に9枚目のオリジナルアルバム「KNO WHERE」をリ リース。キャリア初のソロアルバム「CULTICA」も発売中。
聞き手:小沢あや
コンテンツプランナー / 編集者。音楽レーベルでの営業・PR、IT企業を経て独立。Engadget日本版にて「ワーママのガジェット育児日記」連載中。SUUMOタウンに寄稿したエッセイ「独身OLだった私にも優しく住みやすい街 池袋」をきっかけに、豊島区長公認の池袋愛好家としても活動している。 Twitter note