野良芸人、苦難のりこえ、いま「社長」。個人事務所だからつかめるビッグマネーがある。――さらば青春の光・森田哲矢さん【上京物語】

インタビューと文章: チャン・ワタシ 写真:なかむらしんたろう

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進学、就職、結婚、憧れ、変化の追求、夢の実現――。上京する理由は人それぞれで、きっとその一つ一つにドラマがあるはず。東京に住まいを移した人たちにスポットライトを当てたインタビュー企画「上京物語」をお届けします。

◆◆◆

今回「上京物語」に登場いただくのは、さらば青春の光・森田哲矢さんです。

2008年に大阪でコンビを結成。全国約三千組がコントの頂点を争う「キングオブコント2012」で2位に輝き、順調と思われた矢先、大手事務所を退所。心機一転フリーランスとして上京するも、今度は相方・東ブクロさんのスキャンダルが発覚してしまいます。大きな後ろ盾を失くし、業界内外からの信頼も失墜。そんな向かい風のなかで、個人事務所「ザ・森東」を構えられました。

しかし、その実力、世間は放っておきません。一筋縄ではいかない芸人人生を送りながら、変わらぬおもしろさでファンから愛されつづけ、「キングオブコント」の決勝進出回数では史上最多を更新中、単独ライブは東名阪いずれもチケットが即完する人気コンビです。

巧妙なコントの台本づくりを担う森田さんに、これまでの芸人生活を振り返りつつ、上京当時のお話や相方・東ブクロさんのこと、三人四脚で歩んできたマネージャーさんのこと、住んできた街についてうかがいました。

「東京で何があっても、このまま大阪にいるよりは苦しくないやろって」

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――今日は上京時のお話をうかがいたいと思っています。

森田哲矢さん(以下、森田):僕が上京したのは、2013年です。当時大阪で同棲していた彼女と一緒に東京にきたんですよ。

そのときは事務所を辞めて、結構ゴタゴタといいますか、ネットニュースによくない記事が載るような感じになってしまいまして。レンタカーのハイエースにダンボールを詰めこんで、夜逃げのように一晩かけて東京にきたのを覚えています。

――当時、相方の東ブクロさんとは、どんな話し合いをされていたんでしょうか。

森田:ずっと「東京に行くしかないよな」と話していました。いま思えば自分たちを過信していたんですけど、なんせ大阪には自分たちの仕事がない、思うように仕事ができない絶望感みたいなものがあって。そんな話をしていた矢先に、事務所を退所することになったんです。

彼女に報告したら、「私、もう東京の転勤先、決めたで」って。僕はそれまで口では東京に行くって言ってたんですけど、具体的にいつ実行するっていうのはなかったんです。

――では、実際に上京したきっかけは彼女さん……?

森田:まあまあ、一歩踏み出せたのは彼女のおかげかもしれないですね。相方がいつも言ってくるんですよ(笑)。「こいつ、転勤が決まった彼女についてきただけなんですよ」

――ははは(笑)。東京でまたイチから活動を始めることに不安はなかったですか?

森田:上京する前に、芸人の先輩たちから東京での仕事の話をよく聞いていたんです。みんな東京のすばらしさに目をキラキラさせながら「きたほうがええよ!」って言うんですよ。だから自分たちの現状を考えて、上京すべきだと純粋に思えました。

――こっちは苦しいぞ、大変だぞ、みたいなことは?

森田:まったくなかったですね。語られたとて、いま(大阪にいたころ)のほうが絶対苦しいと思っていました。

東京でなにが待ちうけていようが、このまま大阪にいるよりはマシやろって。芸人仕事だけで食えなくてバイトをすることになっても、苦ではないなって。

とはいいつつも、頭の中ではビッグマネーがちらついて(笑)。ベタなサクセスストーリーを思い描いていましたね。

「中央線はやめておけ」先輩たちからの助言

――東京で実際にアルバイトはされたんですか?

森田:上京してすぐに冠番組が決まったんです。それで生活ができていたので、バイトはしませんでした。でも、一度検討したんですよ、稼ぎたいというよりはゴシップ収集目的で。僕、芸能人が大好きなんです。

後輩がとある高級焼き肉店で働いていて、なんでも芸能人がお忍びでむちゃくちゃ来ると。「今日はあの女優とあの俳優が……!」みたいな話をよく聞いていたんで、週1回でいいから俺も働かせてよって後輩に頼んだんです。「じゃ聞いてみます! 店長もお笑いファンなんで!」と言うから楽しみにしてて。

後日「どやった?」って聞いたら、「店長、森田さんのこと知ってたんですけど……好きじゃないからダメらしいっす」と。

――ふふ(笑)。

森田:えぇ⁉︎ って(笑)。「さらばの森田さんが働きたいって言ってるんですが」「ああ、森田? 俺あいつ嫌いやねん」って。知ってもらえてたことで、逆にそんなダメージ食らうことあんねやと。そんなことでバイトは東京にきてからしてないですね。

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――上京して最初に住んだ街はどちらでしょうか?

森田五反田です。僕、ずっと五反田まわりを転々としてるんです。

若手芸人って、中央線沿いに住みがちなんですよ。それで僕も最初はそのあたりを検討したんですけど、やめといたほうがいいよって色んな先輩からアドバイスをもらって。

――そうなんですか!?

森田中央線沿線は、芸人・バンドマン・役者たちが、朝まで愚痴を吐きながら飲んでる街や! と聞いて。あの辺のガード下には、俺のほうがおもろいのに! いい曲つくってんのに!  演技上手いのに! ってついボヤきたくなる闇の空気が漂ってると(笑)。

じゃあどこにしようかって考えているとき、先輩のオジンオズボーン篠宮さんが五反田周辺に住んでて、「めっちゃいいよ」ってすすめてくれたんです。あと僕、学生時代ダウンタウン信者やったんですけど、松本さんがテレビでエッチな話をするときに「五反田」って言っていたのがずっと頭に残ってて。僕もエッチな店が好きなんで、じゃあ五反田にしよって。

――それが理由だったんですか(笑)。

森田:いや実際、ほんとうに便利な街なんですよ。品川にも羽田空港にも行きやすいから地方営業のときに楽ですし、山手線沿いで目黒も恵比寿も渋谷も近い、飲み屋もたくさんある。めちゃくちゃ便利じゃないですか。

でもいざ家を決めようとしたとき、いかがわしいイメージがあったんでしょうね、彼女に「なんでそこまで五反田がいいの?」って言われました。それも「いやいや、ホント便利らしいよ?」で押し返して(笑)。結局、彼女の職場へのアクセスもいいってことでふたりで納得して五反田に住んだんですよね。

「どこ住んでんの?」にニヤニヤしながら答えられる五反田の魅力

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――その後、五反田周辺で引越しを重ねられたんですか?

森田:しばらくして、彼女にフラれまして。家賃を一人で払っていくのがきつくて部屋探ししてたら、部屋から徒歩30秒のところに「9畳で6万円」の物件があったんです。五反田にしては格安だったので即決めて引越しました。

そこに2年住んで、また別の五反田の部屋に引越すんですけど、せっかくやったら住んでた部屋をそのまま事務所として使おうってことで。だから、いまの事務所はもともと僕が住んでいた部屋なんです。

――何度か引越しをされてみて、住む部屋にこだわりはできましたか?

森田:やっぱり、ちょっと広く見えるほうがいいなあと最近は思ってますね。女子に「広〜い!」って言われるような。実際に広くなくてもいいんです。そう見えれば。

それでいうと前の部屋(現事務所)はよかったんですよ。外観はなかなか味のあるマンションなんです。階段なんかもう、刑務所の階段ちゃうんかっていうくらい汚くて。でも部屋に入ったら、リフォームされてるおかげで意外に広くて綺麗なんです。一旦ハードルを下げといてのそれやからいいんですよね。

いま住んでる部屋も一見ボロくて、エントランスが公民館みたいなんですよ。と思って入ったら、部屋は思った以上に広い。「広〜い!」って言ってもらってます(笑)。

――自宅には芸人仲間もよく遊びにこられるんでしょうか。

森田:きますきます。よくくるのは、BKB(バイク川崎バイク)さん、ニューヨーク・屋敷ですね。去年のワールドカップの日本代表試合は、ライブ終わりに銀シャリ・橋本さんやミキ・昴生とうちで一緒に観戦しました。

――次はどんな街に住みたいですか?

森田:いやあ、やっぱり五反田ですね。恵比寿や六本木も人生で一度くらい住んでみたいけど、結局僕は五反田が好きです。なんせ嫌味がないんですよ、五反田って

実はハイソな街なんです。タワーマンションが建っていて、家賃相場もわりと高い。でも、「どこ住んでんの?」って聞かれたとき、「五反田です」ってニヤニヤしながら答えられるというか。中目黒辺りも憧れますけど、ちょっと洒落てますし、こんな出っ歯で関西弁のやつに「中目っすわ」って言われたら鼻につくと思うんですよ(笑)。

五反田って言えば、人によっては「なんや、スケベやな!」で終われる。だからいいなあと思うんですよね。そこは住んでみて気づきました。

周りに解散をすすめられるなか響いた、鶴瓶さんの言葉

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――コンビのお話もお聞きできればと思います。上京されたその年に、個人事務所「ザ・森東」を設立されました。

森田:個人事務所は、ある番組の企画の中で設立したんですよね。スタッフさんが「こいつらフリーやから、なにさせてもええやろ」みたいな雰囲気でいろんな経験をさせてもらったんですが、じゃあもう事務所も番組でつくろうか、という話になったんですね。

――個人事務所の社長は森田さんですね。社長、副社長は相撲で決められたとか。

森田:「どっちが社長やる?」ってなって、じゃあ日本古来の勝負方法、相撲をとって決めようかって。

――なるほど。

森田:一回社長になってみたかったんですよ。そもそもこの世界に入ったきっかけが、でっかく稼ぎたいけど、俺のポテンシャルじゃ企業の社長になるのは無理やと思ったからなんです。自分が億を稼ぐにはもう芸人しかないんじゃないかって。

憧れたけどあきらめた道だったので、小さくても自分の会社をつくれたっていう感動はありましたね。

――東ブクロさんのスキャンダル時のお話を詳しくうかがっても……?

森田:あ、はいはい、いいっすよ(笑)。

――東京に拠点を移して、これからやってくぞ! というタイミングでの不倫報道でした。しかも、お相手は先輩の奥さん。当時相方としてどんな風に感じていましたか?

森田すげえことするやつおるなー! くらいの感じでしたね。芸人って、どっか型破りじゃないとアカンのじゃないかって思っていたところもあったんで。もちろん迷惑をかけた方がいますし、聞いたときは「勘弁してくれよ!」って思いましたけど、そこまで気にしていませんでした。

でも、徐々に周りが怒りだして。「え、ヤバいやんあいつ」みたいな空気が流れていたんです。先輩たちも「それは絶対アカンやん」って言いだして、僕ものっかって「それはアカンで、ほんまにっ!」とは言いましたけど(笑)。

――ほかに声をかけてくれた芸人仲間はいました?

森田:声をかけてくれたとはまた別の意味なんですけど、「解散したほうがいいんちゃう?」って、めっちゃ言われましたね。でも、笑福亭鶴瓶さんが「絶対解散したらアカンで」って言ってくださったんですよ。

鶴瓶さんが定期的に大阪で開催されているトークライブに、まだそんなに面識のない僕らをわざわざ東京から呼んでくれたんです。その前にあった「キングオブコント2013」で僕らのことを観てくださっていたみたいで、「一番おもろかった」って言ってくれて。

ネタとトークをやらせてもらったあと、打ち上げのときに声をかけてくれました。「味方になるのは、相方のお前だけやからな」って。その言葉は結構響いてますね。

社長も副社長もマネージャーも同じ給料の個人事務所「ザ・森東」

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――「型破りじゃないと」とおっしゃいましたが、森田さん自身はどうですか?

森田:僕はもう、ほんとうに普通ですよ。良くも悪くも判断がつく人というか、常識人であるような気がします。東ブクロほどミステリアスで、予想外のことをやらかす感じはないですね。あいつはなにを考ているのかまったく分からないんで(笑)。

――11年間一緒にいる相方でも?

森田:分かんないです分かんないです。なに考えてるかさっぱり分からんやつってたまにいるじゃないですか。そういう人間の隣にずーーーっとおって行き着いた答えは、「なに考えてるか分からんやつは、なにも考えてない」ということです。

打ち合わせ中もマスクしたままずっと黙ってスマホを触ってるんです。そんなやつがよう体壊すんですよ。なんのためのマスクやねん!

――(笑)。

森田:あんなにスマホを触っているのに、いざ僕が電話したら全然出ないですし。おもろいやつです、ほんとうに。尾行したいですもん、1日をどう過ごしてんねやろなって。

――そんな東ブクロさんと森田さん、そしてマネージャーさんと三人四脚で「ザ・森東」は活動されています。現マネージャーさんとはどのタイミングで一緒になられたんですか?

森田:上京してすぐにいただいた冠番組の仕事が終わって、さあこれからどうしようかっていうときに、それまでスケジュールを管理してくれていた制作会社の方が退社されることになったんです。

もともと知り合いだったヤマネさん(現マネージャー)も転職先を探しているタイミングだったので、「僕らのマネージャーになってくれませんか?」ってお願いしたら了承してくれて。まあ、この人もギャンブルが好きやから。

マネージャー:ははは!

――そこで意気投合されたんですね(笑)。

マネージャー:口説き文句がかっこよかったんです。「マネージャーで1億円稼げる人ってなかなかいないですよね。 一攫千金を狙って、いまのうちに乗っかりませんか」って。だから、僕に1億円稼がせてくれる男たちなんですよ。

森田:うちは全員給料が同じなんで。マネージャーが1億円稼ぎたかったら、僕らに3億円の仕事を持ってきてもらえればそれで済むんです(笑)。

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カメラを向けると、バイク川崎バイクさんの“BKBポーズ”をとる森田さん。「今このポーズをすり込んでる最中なんで。これは『BKB』じゃなくて『さらば(SARA「B」A)』のBですから」


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お話を伺った人:さらば青春の光・森田哲矢

古坂大魔王

1981年、大阪府生まれ。2008年8月に「さらば青春の光」を結成。大手事務所を経て、2013年に独立。個人事務所「ザ・森東」を構える。芸人がコントの実力を争う「キングオブコント」の決勝進出回数は史上最多、「THE MANZAI」「M-1グランプリ」など漫才の大会でも決勝進出する実力派コンビ。毎年単独ライブが開催され、2019年(東名阪ツアー「大三元」)のチケットは即完売。初著書、『メンタル童貞ロックンロール』(KADOKAWA)も発売中。

Twitter:@saraba_morita

著者:チャン・ワタシ

チャン・ワタシ

1990年生まれのフリーライター。お笑いと高円寺がすき。

note:https://note.mu/hoshinc

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編集:ツドイ