全国の若者へ。クリエイターを目指し、地方から東京へ来る意味――ONE MEDIA代表 明石ガクトさん

取材: 徳谷柿次郎 文:河合力 写真:飯本貴子

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今も昔も、成功を夢見て地方から東京にやってくる若者は数多くいます。なかでも、多くの人々に届く映像や音楽をつくりだすクリエイティブ業界は、特に上京者が多い印象です。その背景には、地方と東京での環境の差、あるいは源泉となる文化・カルチャーの“量”に違いがあるように思います。だからこそ、東京が選ばれる。

 

ミレニアル世代向けの動画メディア「ONE MEDIA」を率いる明石ガクトさんも、地方出身クリエイターのひとりです。


 

「ONE MEDIA」はInstagramを中心にカルチャーやニュース、ジェンダー、エンターテインメントなど、さまざまなジャンルのメッセージを独自のビジュアルストーリーテリングによって伝えています。
「動画の時代がくる!」と言われて久しいですが、ONE MEDIAは国内の動画メディアではいち早く、2014年6月に創業しました。

 

静岡県静岡市出身の明石さんが上京したのは19歳。かつては自身も東京という街に憧れ、東京の持つ引力に引き寄せられた存在です。

 

そんな明石さんは静岡でどのようなカルチャーに触れ、どんな理由で東京に来たのか。そして彼は、地方と東京のカルチャーの差についてどう捉えているのか。動画業界で注目されるクリエイターの考えに迫ります。

 

カルチャーとの接点は、意外にも「図書館」

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――明石さんは、19歳のときに静岡から上京されたんですよね。よく「地方には文化や芸術、カルチャーが少ない」という声も聞かれます。明石さんは、静岡にいたころどのようにそれらと関わってきたんですか?

明石ガクトさん(以下、明石):最初の関わりでいうと、中学生のころですかね。近くにツタヤなどのレンタルショップもあったのですが、僕がよく行ったのは市立南部図書館でした。というのも、家のエアコンがかなりの旧式で、母親に「電気代がかかるから使うな!」と言われてたんです。図書館はエアコンが効いていて涼しいので、よく通ったんですよ。

 

――図書館ですか!? それはちょっと意外でした。

明石:それなりに大きな図書館なのですが、なぜかアラーキー(写真家の荒木経惟さん)の写真集とかも置いてあるんです。ずっと活字モノばかりでは飽きるし、なんたって下心満載の時期だから、そういう写真集もつい見ちゃうわけですよ。で、最初のきっかけはそんな感じだけど、写真集を見ているうちに「アラーキーの写真は、女性の裸と花を同列に捉えているんだな」とか、そういう気づきを得はじめたんですね。

 

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――明石さんにとって、図書館がカルチャーとの最初の接点になったんですね。

明石:高校生になると『谷島屋』という本屋で雑誌を読み漁ってましたね。あとは洋服にハマって。当時流行した「裏原系」っていうストリートファッションですね。静岡は『STUSSY(ステューシー)』の本社があったりして、わりと裏原系のショップや品物がそろっていたんです。だから、学校帰りによく通いました。

ただ、当時は店員さんが商品を売ってくれないことがあったんですよ。相手が僕らのような高校生だと、たとえ在庫があっても(笑)。

 

――それはどういうことですか? お金がなさそうだから……とか?

明石:いや、お金があっても売ってくれないんですよ。ようは、客としての「格」を見られているので、店員さんに一目置かれないと買えないんです。

「高校生には売らないよ」という空気があって、それでも僕はなんとしてもその服が欲しいわけです。だから、必死に洋服やストリートカルチャーについて勉強したし、スケボーにも乗りましたよ。本当は「転んだら嫌だなあ」とか思いながら。

あとは、有名ないちご大福をおみやげに持っていったりして(笑)。そうやって認められようとしたんです。

 

――すごい関係性ですね(笑)。

明石:今は絶対そんなことないですけどね。当時は、洋服やストリートカルチャーを勉強することが、何かしらのコミュニティに参加する、あるいはコミュニティを形成する行動になっていたんです。あるときはそれが「テレビを見ること」だったのかもしれないし、90年代の高校生の僕らにとっては服だったわけで。

ストリートファッションが、地方都市の中で熱狂するひとつのカルチャーだったんです。

 

高3で感じた上京する意味。勝負をするなら「現場」の近くにいるべき

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――話を聞いていると、静岡時代から文化やカルチャーには頻繁に触れてきた印象です。その後、どうして上京しようと決めたんですか?

明石:たしかにファッションをはじめ、モノは静岡にそろっていました。だから、その部分で東京に興味を持ったわけではないんです。ただ高校3年のころから、ちょくちょく東京に遊びに行くようになって、その時の体験が「こっちで勝負しないとだめだ」と思うきっかけになったんですよね。

 

――どんなものだったんですか?

明石:東京に来て、初めて僕らが熱狂しているモノと場所がリンクしていると分かったんです。新宿の大ガードとか、東京にある何気ない交差点とかを見て、「ストリートファッションって、こういう場所で着られるために生まれた服なんだな」と。つまり今までは、ストリートファッションの“ストリート”が何か分かっていなかったんですね。

実際に東京を歩くと、スケボーのスポットの近くに有名なスケボーショップがあったり、そのあたりで若いスケーターがたくさん遊んでいたり。場所とモノ、場所と店、場所とカルチャーがリンクしていることを痛感したんです。

 

――その場所でカルチャーが生まれた必然性を感じたというか。

明石:そうです。しかもその必然性は、遠い地方で、あるいはECや通販でモノを買っているだけでは分からない。実際に“現場”に来て初めて感じるもので。それを目の当たりにしたとき、文化やカルチャーを極めるなら、こっち側に来なきゃダメだと自然に思ったんです。勝負をするなら、現場の近くにいることが重要だと。

その現場になりやすいのが東京であって、この時の考えが上京という選択につながったんですよね。

 

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――上京後はどのような暮らしを?

明石:1浪してから上京して、一人暮らしを始めました。物件探しの勝手は全然分からないし、親も頼れず……不動産屋に言われるがまま、京王線のつつじヶ丘駅から徒歩20分くらいのところに住んだんですよ。だけど友人は同じ家賃でもっといいところに住んでいるし、「これはマズイ」と4〜5カ月ですぐに引越しました。20歳くらいまでは、目黒や高円寺にも住んでましたね。

高円寺では、当時からこんな感じの風貌だったので、週に3、4回職質されるんですよ(笑)。面倒だなあとは思いつつ、でもそんなとこで「東京に来たんだな」と感じていました。

 

――東京の街に溶け込むのが早かったんですね。その後はいろんな街を転々としたんですか?

明石:いや、高円寺の後は、3年前に結婚するまでずっと恵比寿に住んでいました。引越しも恵比寿の中を転々として。例外は、ONE MEDIA創業期の2014年くらいですかね。年間の売り上げが5万円くらいしかなくて、創業メンバーと代々木でルームシェアをしてたんです。もういろいろ大変すぎて、当時の記憶はほとんどないんですけど(笑)。

その後、会社が落ち着いてからはまた恵比寿に戻って、それ以降、結婚するまではずっと恵比寿に住んでました。

 

東京は、「何者でもない自分」を相手にはしてくれない

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――今の話は東京が持つ「環境」の面だと思います。一方で、「人」を求めて上京する若者も多い。たしかに東京にはさまざまな分野の最前線にいる人が集まっていますが、そういった意味で、東京に行く価値として「人と出会う」という面もあると感じますか?

明石:たしかに東京に来れば、各分野の第一人者や才能の持ち主に出会えるかもしれません。でも、仮に“何者でもない自分”が、ある分野のすごい人と出会っても、相手にしてもらえるとは限らないですよね。だから、東京は人と出会うチャンスはたくさんあるけど、何者かになっていないと誰にも相手にしてもらえない場所だと思うんです。そこは、ある意味で残酷というか。

むしろ東京で孤独を感じて、地元に帰る人もたくさん見てきました。僕も売り上げが5万円のころはすごく孤独でしたし……。ただ、その中で牙を研ぐからこそ、人々に刺さるものに進化していく気がするんですよね。

 

――実体験も含めて、ですね。

明石:東京に来て、誰かと出会ったからといって、何者かになれるとは限らない。そもそも何者かになっていないと、誰も相手にしてくれないんです。

じゃあ自分自身で何者かにならなければいけないんだけど、そのために東京は刺激に満ちた良い場所とも言えます。目指すべき人、ベンチマークになる人がたくさんいますから。そこには東京に来る意味があると思いますよ。

ですから、上京を考える若者に伝えるなら、東京に来る目的は「現場の近くで空気を感じること」。そして、いろんな人を見て刺激を受けながら「孤独と向き合って牙を研げ」。これが僕なりのメッセージですかね。
東京で誰かを見て、孤独と戦って耐えた人は、きっと何者かになりやすいと思いますから。

 

デジタルの進化によって、“ディグ”の時間は確実に短くなった

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――ちなみに、今の若いクリエイターやそれを目指す人たちについて、どう見ていますか? 例えば今はSNSで誰もが発信できる時代なので、「何かを伝えたい」「何者かになりたい」という気持ちは強くなっていそうな気もします。

明石:どうなんですかね……。むしろ昔の若者に比べると「何かを発信したい」とか「伝えたい」という思いは、逆に弱くなっている気もしますよね。もう、おっさんみたいな発言ですけど(笑)。

 

――なるほど。そういった傾向を感じますか?

明石:はい。たぶん、昔は自分の承認欲求を満たす場がなかったんですよ。だから、それがエネルギーとして溜まっていった。でも今は、ツイッターやインスタグラムに投稿すると“いいね”がつくので、ある程度は満足できてしまうんです。だから、意外とエネルギーは溜まりにくい。

何かを発信しようというパンチの勢いは、僕が20歳のころに比べると弱いように感じることもありますね。

 

――若者とカルチャーとの関わりという面ではどうでしょうか。昔は本でもCDでも手に入れるまでの苦労がありましたが、今はデジタルによって簡単に行き着けますよね。

明石デジタルによって、好きなものを探す“ディグ”※の時間が短くなったのはたしかですよね。今の子はお金をかけずにネットで探せるし、試聴もできれば口コミも見れる。ハズレを引きにくくて、時間効率もいいですよね。昔は何軒もお店をハシゴするのがザラで、時間はかかるし、ハズレを引くこともあった。

※ディグ…「dig(=掘る、掘り起こす、発見する)」という単語に由来し、「(音楽などを)探す」という意味で使われる

 

――そういう経験はなくなっていきますよね。

明石:僕、初めてCDを買ったのが小学校のときで、TRFの『BOY MEETS GIRL』という曲が大好きだったんですよ。それで、静岡のCDショップに行って、ジャケット裏に書いてある収録曲を見ながら『BOY MEETS GIRL』のCDを買ったんですね。

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明石:ただ、いざ聞いてみると、『BOY MEETS GIRL』が12分くらいの楽曲になっている。本当はそんな長くないんですよ。いつまでたってもボーイとガールがミーツしない(笑)。要は、TRFの曲をテクノ風にアレンジしたリミックスアルバムだったんですね。

 

――求めていたものとは違ったと(笑)。

明石:でも、CDを買ったお金は戻ってこないわけですよね。今の若者たちは、きっとこういう経験はしないだろうなと。

 

――しなくていい失敗もあると思いますが、失敗から学ぶことも多くありますもんね。

明石:じゃあその差がどういう形でどこに影響するかは分からないんですけど、こういう経験がバックグラウンドにある人のパーソナリティ、その人から生まれるクリエイティブと、それを背負っていない人のものは、何かしらの違いがある気もします。それは世代差としてどこかに表れてくるかもしれませんね。

 

地方と東京、これからクリエイターを目指す人たちに向けて

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――これからもデジタルは発達していくと思います。それによって「地方とクリエイティブ」はどう変わっていくのでしょうか。

明石:僕はまず、地域の価値が再構築されると思うんですよね。例えば5G(第5世代移動通信システム)をはじめとした通信技術の発達、あとはVRなどによって、遠隔でのコミュニケーションはどんどんスムーズになるはず。すると、今までその場所に行かなければできなかったことも、行く必要がなくなるかもしれません。

それこそ、東京にずっといなければならなかった人が、週1日、どうしても必要なときだけ東京に行けば良くなって、残りは本当にいたい場所から、テクノロジーを使ったやりとりで済ませられるような。「その場所に行く意味」が変わってくると思うんですよ。だとすると、住む街をはじめ、それまでとは違う地域の価値が見え始める。

 

――行かなくてもできることが増えることで、地域の価値が再構築されると。

明石:そうです。一番考えられるのは、地方都市への人の分散ですよね。これまで、たとえ景色や環境の良い地域でも、東京とのアクセスが不便だと、どうしても人が集まりにくかった。でも、東京に行く必要性が減れば、そういう地域に人が集まるかもしれません。僕だって、本当は今すぐ福岡に住みたいですもん(笑)。福岡大好きなんですよね。

 

――東京に集中するという流れが変わるかもしれませんね。明石さんも福岡に拠点を移すかもしれないし。

明石:むしろ、東京にいる面白い人たち、最前線の人たちが地方にやってくる時代になるかもしれないですよね。だとすると、先ほどの「目指すべき人」「ベンチマーク」が地方に増えてくるとも言えます。それは、これから地方で何かをやろうとする人にとって、ひとつの可能性になりますよね。

 

――なるほど。地方にいても、誰かに刺激を受けて何者かになるチャンスは増えてくると。

明石:はい。ただし、そうは言っても時間は有限です。地方に人が来る時代を待つのもいいけど、どうしても時間がかかります。たとえ地方に分散したとしても、やっぱり面白い人が一番集まっているのは東京だと思うんですよね。そして、いろんなカルチャーの現場になるのも東京のはず。

だからこそ、これからも東京でチャレンジする意味はあり続けると思います。クリエイターにとって大切なのは、カルチャーが生まれる現場の近くにいることですから。

 

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お話を伺った人:明石ガクト

明石ガクト

2014年6月、ミレニアル世代をターゲットにした新しい動画表現を追求するべくONE MEDIAを創業。独自の動画論をベースに各SNSプラットフォームのコンテンツパートナーとして動画を配信、圧倒的なエンゲージメントを達成している。2018年からショートフィルム制作や山手線デジタルサイネージでのコンテンツ展開も行い、モバイル以外の領域にもその活動を広げている。ONE MEDIAでは、2018年8月より大きなリニューアルを行い、IGTVに特化したオリジナル番組をローンチさせた。個人の活動としても、2018年アドテック東京にて「Brand Summit Best Presenter Award」を受賞。NewsPicks Bookから自身初となる著書『動画2.0』を出版。
Instagram(ONE MEDIA):https://www.instagram.com/onemediajp/
ONE MEDIA:https://onemedia.jp/
Twitter:@gakuto_akashi

取材:徳谷柿次郎
文:河合力
写真:飯本貴子
編集:Huuuu inc.