東京だけど「東京」っぽくない。自然と食が豊かなアナザー東京、地元・西多摩のこと|文・長塚健斗(WONK)

著: 長塚健斗

西多摩が、僕のホーム

僕は東京23区外である、あきる野生まれ、あきる野育ちのミュージシャン/料理人だ。隣接する福生や青梅、奥多摩などを含めた「西多摩」が僕の地元だと思っている。

都心の駅からJR中央線、青梅線、武蔵五日市線へと乗り継いで1時間ほど。都心に住む方でも、キャンプやバーベキューなどで訪れたことがある方は多いかもしれない。

小学生の頃から、とにかく地元でよく遊んだ。小学生といえば、公園や市民プ―ルなどで遊ぶイメージが一般的にあるけれど(もちろん僕らもよく行った)、僕らは、専らキャンプとかバーベキュー三昧。

東京といえど、西多摩あたりは一軒一軒の敷地が広く、畑や庭をやっている人も多い。家によっては囲炉裏があるぐらいだ。自宅の庭に、親戚が集まってパーティーをすることもあった。順番に、友達のお庭でバーベキューみたいな、そんな幼少期。

中学からは中高一貫の私立に行っていたので、行動範囲が少し変わってあきる野以外にも足を運ぶようになった。そんなわけで、今回はあきる野だけでなく、西多摩の魅力的なスポットを、僕の個人的な想い出と共にご紹介できればと思う。

夏だ!あきる野だ!サマーランドだ!

「あきる野といえば……」で思い浮かぶもの、地元民としてはたくさん浮かぶけれど、とてもわかりやすいところでいえば「東京サマーランド」!

サマーランドは昔、僕の祖母が働いていたので、幼少期からよく行っていた。午前中はいろんな種類のプールに入って、午後は遊園地的なエリアで遊び尽くす。波があるプールとか、小学生にとっては神的存在(笑)。

日本最大級の流れるプール、ウォータースライダーなど、種類もいろいろある。遊び疲れたら、焼きそばとかラーメンとかフードコートで、みんなでわいわいごはんをしたり。中高生のいろいろな青春の風景が凝縮されたような場所だ。

クラインガルテン野良坊は最重要スポット

先述の通り、僕らの地元の遊びといえばキャンプ。中学時代からずっと行っている最高のキャンプ場「養沢センター・クラインガルテン野良坊」はとにかくおすすめ。あきる野にある、キャンプ場兼グランピング施設のような感じで、ログハウスがあって、バーベキュー場があって、川でも泳げる。中学生から今に至るまで、毎年の夏の楽しみはこの場所だった。

夏になったら、友達と行く計画をするのだが、それこそ今でも毎年行っている。ツール類が揃っているので、自分のキャンプ道具がまだ持てなかった頃でも楽しめた。高校時代は、男友達7、8人ぐらいで行って明るいうちはバーベキュー。

買い物リストをみんなで作って買い出しして、「俺らはこっちやっとくわ~」「俺ら野菜切っておくわ~」みたいな感じで、みんなバーベキュー慣れしているので話が早い。僕は今も音楽と並行して、料理人の仕事をしているけれど、思えば当時から料理担当だったし、バーベキューを自然と仕切っていた。

夜になると、夢の話とか「俺、将来はこういうふうになりたいと思ってるんだよね」みたいな話を夜通し語り合う。当時はまだ、お酒が飲めないからみんなジュースを片手に熱く語る。星があって、蛍が舞って、森の匂いと川のせせらぎ。これぞ青春だし、100点満点の想い出ができた。

キャンプの帰り道は、「秋川渓谷 瀬音の湯」一択

僕が大学生くらいの時に、クラインガルテン野良坊をちょうど下ったところに「秋川渓谷 瀬音の湯」という温泉兼宿泊施設ができた。そこの温泉がとにかくめちゃくちゃ良い。

自然の中に囲まれていて、場所も内容も完璧すぎる。この数年で、「温泉総選挙」の「うる肌部門」では、全国1位に3回(2019年・2020年・2022年!)も選ばれているらしい。キャンプ場帰りにそのままここの温泉に入って帰るっていうのが今でもマストコースになっている。

常にサウナにはまっている僕が、サウナで初めて整ったのもこの場所だった。昨年の夏も、キャンプから瀬音の湯のコースのすばらしさを友人に伝えるべく、5、6人を連れて行ったほど。地元には良い温泉がいくつかあるけれど、見晴らしの良さとクオリティという点で、瀬音の湯が一番好きだ。日常のそばに、こうやって大自然があるのが、つくづく西多摩らしいなと感じている。

澤乃井酒造→奥多摩湖→小山製菓というドライブルート

名水百選にも選ばれるほど、水質に恵まれた西多摩には、まだまだおすすめのドライブコースがある。都内からでも行きやすい奥多摩散策を個人的におすすめしたい。

都内から奥多摩に向かう途中、澤乃井酒造が日本酒の試飲もできる施設「澤乃井園」をすごくいいロケーションのところに作っている。澤乃井酒造は、奥多摩にある東京都内では最大の酒造だ。澤乃井園は、酒蔵見学(事前申し込みが必要だけど無料)、利き酒などが体験できる。友達を連れている場合はみんなに試飲してもらって、運転の僕はコーヒーで我慢(笑)。

そのあと悠然と広がる奥多摩湖を見て、チルして、帰り道に青梅の「小山製菓」でお土産を買うのがお決まりのルートだ。奥多摩湖は、湖なのと山々に囲まれているのでとにかく静か。夜のドライブにもおすすめのスポットだ。そのあとに寄る小山製菓は、何を隠そう僕の親戚が営んでいる。

地元の人はほぼ知っているであろう老舗和菓子屋で、創業は1970年。親戚であることを差し引いても、純粋に「酒饅頭」と「すあま」がおいしくて、酒饅頭は、自分が所属する音楽レーベルEPISTROPHがプロデュースするBar「phase」(日本橋)でも取り扱っている。表面を焼いても、おいしい。

この味のために地元に帰りたくなる「デモデダイナー福生店」

23歳ぐらいだろうか、大学と並行しながら料理人としてレストランで働くようになっていた。大人に近づくにつれ、また地元の友達と遊ぶようになって訪れたのが「デモデダイナー福生店」だった。

一言で伝えるならば、「アメリカにあるハンバーガー屋をそのままやってます」みたいなお店。コーラを頼んだら、当たり前にベンティサイズが出てくるし、店内はずっとアメリカンな曲が流れている。そして、ハンバーガーのサイズが大きいし、めちゃくちゃ重い。とにかくジャンクで重い!それが逆にたまらない。

毎日11時半ぐらいにオープンするけど、開店前から近くにある横田基地の人たちや地元の人で行列ができる。僕がいつも頼むのは、マッシュルームチーズバーガーかスモーキーベーコンエッグか、ゴルゴンゾーラのどれか。見た目も味も、ザ・ジャンク!なところが好きで、いつからか、ここに行くために地元に帰るようになったほどだ。

そしてこれは余談だが、この店のあるエリアは基地の存在もあってか欧米のカルチャーを感じられるショップや飲食店がたくさんある。豊かな自然だけでなく、こうしたエリアの影響を受けて育った個性的な感性を持つミュージシャンや俳優がたくさん輩出されているということはあまり知られてないことなのかもしれない。

無性に寄りたくなる「韮菜万頭(にらまんじゅう) 福生店」

デモデダイナーと並んで欠かせないのが、16号沿いの「韮菜万頭(にらまんじゅう) 福生店」。名前の通り、ニラ饅頭が旨い地元の人気店だ。ニラ饅頭をメインとした中華料理屋なんだけど、店構えはちょっとアメリカンな雰囲気も漂っていて、なんというかめっちゃラフなお店。ラフすぎて居心地がよくて、いとこの家族とよく行っていた。

ここではニラ饅頭とチャーハンを頼んで、みんなでわいわい食べるみたいな。最近はデモデダイナーほど行けていないけれど、ここも地元に帰ったら「なぜかよくわからないけど、どうも寄りたくなる」みたいな、いい意味で地元感あふれる場所だ。

「食」から感じ取れる、西多摩の可能性

ミュージシャンと料理人と二足のわらじで活動していく中で、今年はシェフワンという若手料理人のコンテストに出場している。エントリーのテーマが、「地元を盛り上げるフェス飯」だったこともあり、自分にぴったりだった。出場にあたって改めて地元の人たちと話し合う中で、一料理人として、西多摩の「食」の豊かさを再認識する機会になった。

僕が考案したのは「西多摩ジビエの山わさびバーガー」のレシピ。奥多摩で捕れる鹿肉100%食べ応え抜群のパティ、多摩川の源流で育った山わさび、名産の柚子など、愛する地元・西多摩の食材をフルに味わってもらえるハンバーガーを作った。フェスで踊り疲れた胃にもガツっと響くような、そんなイメージで。

そのレシピでは使わなかったけど、魅力的な地元食材はまだまだある。奥多摩に伝わる幻のじゃがいも「治助芋」、秋川牛や豚肉の「TOKYO X(トウキョウエックス)」など、ブランドとして着実に評価されてきているものも増えている。

小さい時に、近所のおじさんが畑で育てていたトウモロコシが、今考えても感動するくらいにおいしかった。そんな記憶も、自分がいま料理をやっていることにつながっている気がする。

西多摩の魅力を知らせたい。そう思う、僕なりの理由

人生の多くを西多摩で過ごしてきたのに、未だに知らない食材がたくさんある。若い作り手さんが最近引っ越してきたりもしているので、そういう方々が丹精込めて作っているものも含めて僕らしく紹介できたらいいなと思っている。

なぜそう思うようになったかというと、自分の父をはじめ、親戚や知人たちが「自分の地域に貢献することが当たり前」という感覚でいるからだ。小さい頃から自分の身の回りには地元の商工会や組合、ロータリークラブの人たちがたくさんいたし、今でも「今年の夏祭りはどうするか?」みたいな、「地域を盛り上げるためには何するか?」をみんなが当たり前にずっと考えている。だから義務感ではなく、自然と地元に還元できるようなことを僕もしたいと思ってきた。昨年、アーティストとして出演した福井の音楽フェスでは、料理人としても参加し、地元の食材を使ったパエリアを提供した。

自分には、音楽があって、食がある。地域創生みたいなことって、その時代その時代で変わらずテーマになり続けるからこそ、自分ができる「音楽」と「食」を通じて、西多摩には関わり続けたい。

著者:長塚健斗(ながつかけんと)

1990年東京都生まれ。2013年にWONKを結成し、ボーカルをつとめる。所属レーベルEPISTROPHではオリジナルブレンドコーヒーシリーズやフレグランス、調理道具等のプロデュースも行う。出演映画「ひとりぼっちじゃない」が公開中。6月1日にはWONKとアルファ ロメオとのコラボシングル「Passhione」をリリース。

編集:小沢あや(ピース)