住んだら見えてきた、「秋葉原」という神立地の魅力

著者: 長谷川賢人

f:id:Huuuu:20201029162924j:plain

「えーっ、住むところあるんですか?」

たしかに秋葉原は、暮らしが想像しにくい街かもしれない。問われるたびに僕は、秋葉原がいかに便利で楽しい場所か、しばし力説する。たいてい表情が明るくなるのは公私で移動することが多い人か、カルチャーが好きな人か、サウナを愛する人である。

「住めば都」という言葉があるけれど、言うなれば秋葉原は「都に住む」感じ。あまり知られていないだけで、秋葉原の生活は快適なのだ。

 

秋葉原は、あのころのインターネットそのものだった

f:id:Huuuu:20201029163045j:plain

あれは2004年……高校2年生のころ、よく学校の屋上で母がつくってくれたお弁当を食べていた。たらこやしらすの入った卵焼きの健やかな黄色。でも、僕の学校生活は変化に乏しい鈍色だった。

知り合いが全くいない私立高校へ進学したが、2年次のクラス替えでせっかくできた友人たちと離れてしまい、新しいクラスメイトと馴染めなかった。

いじけた僕を、この世につなぎとめてくれたのがインターネットだった。小学6年生でマンガ『まもって守護月天!』のシャオリンにときめきを覚えて以来、二次元キャラや声優への興味が加速。中学2年生でドリームキャストでネットにつながってから、夜ごとファンサイトの掲示板に入り浸り、テキストサイトを読み耽り、2ちゃんねるを追いかけていた。 

 

f:id:Huuuu:20201029163126j:plain

店員が制服やコスチュームをまとって接客してくれるメイド喫茶やコンセプトカフェも、すっかり秋葉原の景色のひとつになった。秋葉原で初めてのメイドカフェである「キュアメイドカフェ」の開店が2001年だから、このカルチャーも20年に達しようとしている

当時の秋葉原は僕にとって、ひと潜りすると見たことのない世界が広がっていく、インターネットそのものだった。

泥のような学校生活と対極的に、ピンク色の内装で彩られた「カフェ メイリッシュ」に入れば、可愛いメイドさんが「おかえりなさい」と迎えてくれる。裏路地では、いかにも怪しげなソフトウェアを並べる出店がにぎわう。アングラ感という言葉がしっくりきた。

 

f:id:Huuuu:20201029163924j:plain

「ピンキーストリート」という着せ替えフィギュアにもハマった。秋葉原だとパーツごとに買えるので、少ない小遣いからやりくりできるのが、いっそう楽しかった

ギャルゲーとアキバカルチャーに思春期を費やし、同人音楽や同人ゲーム、自作PC、オーディオと触手を伸ばしながら僕は熱を上げていく。

「中国製スピーカーの内部配線を変えると音が良くなる」とか、「ガレージキットの着彩を良くするためには鍋で一度煮るべし」とか、興味のない人には全くどうでもいい知識が増えることが、面白くて仕方がなかった。

訪れるたびに味わう、「夢の国」のような高揚感。実家のある三鷹から、交通費を節約するために片道2時間かけてもママチャリで通えた。

 

f:id:Huuuu:20201029164008j:plain

このころの中央通りには屋台も多くあった。フランス式ホットドッグの「ソフラカドッグ」は、生地がフランスパンのようで美味しかった。今、Google検索で100件もヒットしないが、夢ではないはず……

時は飛んで、2018年。編集者・ライターとして独立し、仕事も軌道に乗り出したころ。自分のなかに、ほのかな乾きを感じた。潤す何かを求めて、漠然とした憧れを叶えるべく、秋葉原に事務所を構えた。

メインストリートである中央通りからも近い場所で過ごすようになり、2年半が経つ。その後、自宅も徒歩圏内に移し、晴れて秋葉原の住人となった。高校生の僕に「大丈夫、お前は未来で秋葉原に住めるってよ」と、励ますような気持ちだった。

 

電車9路線にアクセスできる神立地

f:id:Huuuu:20201029164200j:plain

フリーランスのライター稼業は、仕事先が毎日のように変わる。朝イチに六本木、翌日は渋谷でインタビュー、ふいに五反田で打ち合わせ……。

Googleマップに行き先を入力するたび、秋葉原は稀に見る「神立地」なのだと思い知る。めちゃくちゃ電車に乗りやすいのだ。徒歩圏内の近隣駅も合わせると、9路線にアクセスできる。

メインの秋葉原駅からは、山手線、中央・総武線各駅停車、京浜東北線、東京メトロ日比谷線、つくばエクスプレス。そして、岩本町駅(都営新宿線)、末広町駅(東京メトロ銀座線)も歩いてすぐだ。15分あまりかかるが、湯島駅(東京メトロ千代田線)、上野御徒町駅(都営大江戸線)も射程といえる。

銀座線は乗り換えも頼もしい。三越前駅(東京メトロ半蔵門線)、日本橋駅(東京メトロ東西線、都営浅草線)、銀座駅(東京メトロ丸ノ内線/有楽町線)、新橋駅(新交通ゆりかもめ)と接続が良く、どこへ行くにもどこから帰るにも便利。

 

f:id:Huuuu:20201029164327j:plain

JRの路線図を改めて眺めると、秋葉原の交通の要所っぷりがうかがえる。千葉方面の玄関口であり、北にも南にも出やすい。これに地下鉄が重なって、日本屈指の神アクセス立地の出来上がりだ

長距離移動にも適している。秋葉原から2駅先は東京駅と上野駅であり、新幹線もすぐに乗れる。空の便は浜松町駅を経由して、東京モノレールで羽田空港へ。東京駅からのリムジンバスを使えば、成田空港にも行きやすい。

交通が一際強いだけでも、僕のような働き方には大いにプラスがある。

 

日課のアキバ散歩で「時代」を感じる

f:id:Huuuu:20201029164441j:plain

秋葉原には、いつも「時代」が表れている。

季節ごとに切り替わるアニメ、ゲームやマンガの新発売、アイドルや声優の新曲リリース、話題の新作家電、うっかり惹かれる変なガジェット……ふらふらと散歩をすれば、昨日までと違うことを何かしら発見できる。

 

f:id:Huuuu:20201029164515j:plain

看板でおおよその年代がわかったり、作品の流行り廃りが一目瞭然なのも、時代を映す街らしくて好きだ。アイドルマスターシリーズ15周年おめでとうございます

この「ふらふらと散歩」の距離感も、ほどよい。

調べてみると、AKB48劇場があることで有名な「ドン・キホーテ秋葉原店」を起点とするなら、一般的に“アキバ”と親しまれるエリアは300mほどの円にすっぽりおさまってしまう。もはや、電気とアニメの国立公園みたいなものだ。

 

f:id:Huuuu:20201029164607j:plain

一般的に“アキバ”と親しまれるエリアは「千代田区外神田」に属する。地名上に「秋葉原」も存在するのだが、その範囲はとても狭いうえに、隣接する台東区だったりする。歴史を調べてみたくなる面白みがある

ぎゅっと面白さが詰まった街を、着の身着のままで歩けるのも気楽でいい。「服を買いに行く服がない」という文句は、秋葉原では通じにくいように思う。

 

f:id:Huuuu:20201029164659j:plain

ディスカウントショップ「あきばお〜」のごちゃごちゃ感は、昔から楽しい。もっとも、今の秋葉原は一般性が高まったように思う。オタク趣味が受け入れられ、飲食店も増え、海外からの観光客も増えたせいかしら

そこかしこでコスチュームに身を包んだカフェ店員がチラシを配り、アニメキャラのTシャツを着た人たちが行き交っている。野暮ったい服だったとしても、それはそれでアキバらしい色の一つになる。あらゆる人が同じ空間に馴染んでしまう。

雑多なんだけれど、雑然とはしていない。それも秋葉原らしさのひとつといえそうだ。

 

サウナー垂涎の施設が徒歩圏内に

f:id:Huuuu:20201102020314j:plain

1週間ばかりサウナに入らないと不調を覚える僕には、秋葉原は素晴らしい拠点である。 

秋葉原にもらくスパ1010神田といった温浴施設はあれど、隣街の神田、御徒町、上野が徒歩圏内なのだ!言わずもがな、サウナーにとっては東京屈指の楽園エリアのひとつだろう。

スパリゾートプレジデント、サウナ&カプセルホテル北欧、「オリエンタル」グループの他にも、30分ほど散歩すれば鶯谷のサウナセンターにだって着いてしまう。総武線に7分乗れば名店の多い錦糸町が広がり、日比谷線で湯乃泉草加健康センターにも行きやすい!

サウナーがこぞって遠征するほどの施設が生活圏内にある。この話に、俄然目の色が変わる人も増えてきて、仕事先での話題づくりにも役立っている。

 

f:id:Huuuu:20201029170054j:plain

例えば、明るいうちの午後にこんなコースを楽しむ。

まずは15分ばかり散歩して、神田セントラルホテルでサウナ。コンビニでビールでも補給しながら、とんかつの名店「丸五」へ入る。揚げ油の良い香りに包まれながら、キリンラガービールをかたむけつつ特ロースを待つ。美しく光るとんかつを堪能したら、ジューススタンドの「果寮MATSUTOMI」でライムジュースを飲んで口中をさっぱりさせる。

おや、まだ18時……。

 

f:id:Huuuu:20201029170008j:plain

あるいは、スパリゾートプレジデントでととのってから近場の「とんかつ山家」か「まんぷく」に吸い込まれ、ビールを飲みつつとんかつを楽しむ。ささいな悩みなど爆散するほどの充実感が得られる。

お察しの通り、僕はサウナ後のとんかつにハマっている。サウナ後のととのいが、とんかつの多幸感でブーストされると、ぶっ飛べます。

 

充実している「食」と「住」に、安心感が高まる周辺施設

f:id:Huuuu:20201029165458j:plain

JR秋葉原駅構内には、農産物や特産品を売る出店がいることも

楽しいだけでなく、秋葉原は十分に住みやすい街だと感じている。

日用品の買い物は楽勝だ。24時間営業のドン・キホーテや肉のハナマサがある上に、スーパーなら福島屋、成城石井、ピーコックストア、まいばすけっとが点在している。ドラッグストアもマツモトキヨシ、トモズ、コクミンドラッグといったチェーンが出店済み。

 

f:id:Huuuu:20201029165623j:plain

一昔前は「昼飯を食べるところがない」と揶揄されるくらいに選択肢が乏しい街だったが、その汚名を疑うほど飲食店は増えた。ラーメンやカレーは激戦区の様相になっている。

 

f:id:Huuuu:20201029165652j:plain

家系ラーメンの「武将家 外伝」で刻みタマネギをトッピングをして、スープに沈めてからライスに乗せると危険な旨さだ。夜中の4時まで営業する「ごっつ」も危険だし、独自のスパイスラーメンを出す「卍力」も中毒性が高くて危険である。

ラーメンではないが、朝6時から開いている「みのがさ 神田和泉町店」で食べる春菊天そばとミニカレーのセットもたまらない。

 

f:id:Huuuu:20201029164810j:plain

そして、僕が猛烈に推しているのが、末広町駅すぐそばにあるジューススタンドの「果寮MATSUTOMI」だ。もはや「飲むフルーツ」と言いたくなるくらい、果実そのままの美味しさにひたれる。

 

f:id:Huuuu:20201029164931j:plain

会って以来、健やかなる時も病める時も、毎日のようにここのジュースを飲み、美味しさに救われてきた

季節ごとに変わる旬のセレクトなら、桃、ナガノパープル、スイカ、マスクメロン、和梨あたりは外せない。店頭の看板から季節を感じられるのもいい。

レギュラーメニューでは、コクのある甘みにとろける「いちご」、酸味のバランスが後引く「キウイ」も良いけれど、僕は「ライム」の「甘さ控えめ」をよくお願いする。

 

f:id:Huuuu:20201029165218j:plain

ライムは注文ごとに皮をむく。ジューサーにライムと氷、風味の異なるシロップ2種を適宜加える。シロップは果物の味を引き立て、ジュースとして飲みやすくする狙いがあるそうだ

f:id:Huuuu:20201029165252j:plain

果寮MATSUTOMIは、店のすぐ裏手にあるフルーツパーラー「フルーフ・デゥ・セゾン」の系列店。青果卸業を営むオーナーが手掛けるだけに、仕入れには自信があるわけだ。パーラー基準の逸品揃いを、手軽に楽しめる

これがもう美味しくておいしくて、一日のどこかで果寮MATSUTOMIのフルーツジュースを飲めることが、僕の精神安定剤になっている。

 

f:id:Huuuu:20201029165326j:plain

秋葉原とフルーツには深い関わりがある。1928年(昭和3年)に秋葉原へ移転された「神田青果市場」は、1989年(平成元年)に大田区へ移転するまで営業された。電気街だけでない「青果街」という側面もあったのだ

……と、豊かすぎる食生活を送っていたせいかはわからないが、この夏のある日曜日、原因不明のめまいに襲われたことがある。部屋で突然、起き上がれないほどになった。

慌てて近隣の病院を調べてみると、急患受け入れもしている大型病院がいくつもあり、無事に診てもらえて助かった。気持ちの安全性も高まった。

 

f:id:Huuuu:20201029165914j:plain

ちなみに、秋葉原の夜は早い。多くのショップが20時ごろには閉店するので、人通りはすっかり減って静かになる。夜に空いた道を散歩するのも、ゲームの世界にいるかのようで、結構楽しい。

安全性でいうと、駅前には万世橋警察署があり、街の中央部には神田消防署もある。だから安心というわけではないけれど、住環境としては申し分ないのではないか。

もっとも、家賃は高めの部類に入るようだ。特にファミリー向けの物件は中心地にほぼなく(あるにはあるが、人気も家賃もお高め)、文京区か隣駅の浅草橋寄りになってくると、選択肢は広がるようだ。単身世帯のワンルームなら、駅チカ物件もそこそこある。

 

素直な「好き」だけを胸に

f:id:Huuuu:20201029170158j:plain

見る人によって意味が変わる、神田明神に続く男坂の階段

大前研一さんは「人間が変わる方法」として、時間配分を変える、住む場所を変える、付き合う人を変えるという3つの要素を挙げた。

30代も半ばになった僕が、思春期に抱いた情熱を慈しみながら秋葉原で暮らす。その経験は、いったい何をもたらすのだろう。

 

f:id:Huuuu:20201029170258j:plain

以前に友人と、秋葉原の路上で道行く人に酒をおごりながら、Podcastの公開録音をしたことがある。飲み会帰りの大学生たち、アマチュア無線が趣味のタクシー運転手、酒好きなメイドバーの店員さんなど、いろんな人たちと話ができた。

聞けば、誰もが何かの「好き」を持っていて、語ってくれる。実に愉快な夜だった。

 

f:id:Huuuu:20201029170344j:plain

ある日、「COMIC ZIN」の2階で好きなものを好きなまま語りかける同人誌にまみれて、くらくらとした。この情熱はどこからやってくるのかを知りたくて、カメラ関連を中心に、気づけば10冊以上も手にとっていた。どれも、面白い。

「好き」に突き動かされ、情熱を探求していける心が、いかに大切で尊いかと沁み入る。

あぁ、きっと、もっと、大人だって素直になってもいいはずなんだ。その発露が、この秋葉原という街の端々には、見え隠れしているような気がする。

 

f:id:Huuuu:20201029170415j:plain

2020年11月1日、開業130周年を迎えた秋葉原駅には、こんな言葉が掲げられていた。

「あなたの好きはここにある」

秋葉原に住むという選択は、一部には羨ましがられるほどの特権であり、「東京で暮らす」という醍醐味を知る挑戦でもあると思っている。軽やかに、自由を感じられる街だ。


著者:長谷川賢人

長谷川賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。ウェブ媒体を中心に活動する編集者 / ライター。ビジネス系のライティング、カメラメディアの運営、ミニアニメの脚本、Podcastの制作など、ジャンルレスに赴くまま尽力中。
Twitter:@hasex
note:https://note.com/hasex
Media:https://giko.life/

編集:Huuuu inc.