リフォームやリノベーションで設計事務所に依頼するとメリットがあるのは、どのようなケースなのでしょうか?また設計料はいくらくらいかかるのでしょう。リフォームやリノベーションを検討する際に知っておきたい依頼先のこと、わかりやすく解説します。一級建築士のYuu(尾間紫)さんに話を聞きました。
記事の目次
リフォーム、リノベーションを依頼先できる会社の種類は?
リフォームやリノベーションを請け負う会社はさまざま。それぞれ、どのような特徴があるのでしょうか?
リフォーム会社やリノベーション会社
リフォームやリノベーションを専門に行うのがリフォーム会社、リノベーション会社です。間取り変更や設備の交換、外壁や屋根のメンテナンスなど幅広い工事内容を請け負い、リフォーム後のメンテナンスや定期点検などのシステムも整っている会社が多くあります。ただし、営業エリアは会社によってさまざま。全国に支店や支社を展開する営業エリアの広い会社もあれば、自社のある市町村とその周辺などで施工を行う地域密着型の会社もあります。
工務店
複数の職人さんをまとめて、工事を行うのが工務店。多くが地域密着型で新築住宅の建築を行っていますが、中には近隣の県や市、町に支店を設けて広い営業エリアで請け負う会社もあります。会社によって、リフォームやリノベーションも請け負っています。長く営業を続けている会社は地域からの信頼が厚く、不具合が出た時ときの修理などにフットワーク軽く対応してくれる傾向にあります。工務店で建てた家の場合、将来のリフォームも依頼しやすい点がメリットです。
ハウスメーカーのリフォーム部門やグループ会社
注文住宅や新築の建売住宅を手がけるハウスメーカーが、社内にリフォーム部門を設けたり、グループ会社としてリフォーム専門会社を持って、住宅を引き渡した後のメンテナンスやリフォームを引き受けるケースも見られます。もともと新築のノウハウがあるため、大規模なリフォーム、リノベーション、建て替えなどにも強く、自社で建てた家の場合は工法や構造を熟知している安心感もあります。現在住んでいる家や、中古で購入する家を設計・施工したハウスメーカーに、リフォームを依頼できる体制が整っているか確認しておくといいでしょう。
設備メーカーと提携している会社
キッチンやシステムバス、トイレなどの設備メーカーと提携しているリフォームショップです。設備メーカーのショールームなどで工事店を知りたいというと紹介してくれます。メリットはそのメーカーの設備情報に強いこと。時には割り引きも期待できます。
提携ショップには、設備交換のみなど小規模な工事を請け負う会社から、水回りの移動や間取り変更、外壁や屋根など大規模な工事も請け負う会社まで、さまざまな規模があります。
設計事務所
建築士や建築家が建築物の設計を請け負っているのが設計事務所です。設計事務所によって、住宅の設計を多く手がけるところや、店舗や公共施設、ビルなどがメインのところがあります。構造やデザインなど得意な分野がそれぞれ異なることが多く、デザインテイストも設計事務所によってさまざまです。住宅のリフォームやリノベーションを依頼するなら、住宅の新築設計やリフォームの実績が多いところがいいでしょう。
設計事務所は設計だけ?リフォーム会社との違い
リフォームの依頼先に、設計事務所に向いているのはどんなケース?
リフォームを請け負っているさまざまな会社の中から、設計事務所を選ぶのはどのようなケースでしょう?どんな人が向いているのでしょうか?
「設計事務所は得意分野に突出しているところが多いのが特徴です。デザインや性能において優れたアイデアや技術を持っているところも多く、ほかには無い個性的なデザインを実現したり、高性能な家にリフォームしたりすることができます。
ごく一般的なリフォームでは物足りない人、こだわりの家づくりをしたい人は設計事務所に依頼するのが向いているといえるでしょう。また、その設計事務所の作品や、その建築家が好きという場合も、そこに直接依頼すれば、夢を叶えやすくなります」(Yuuさん、以下同)
設計事務所にリフォームやリノベーションを頼むと何をしてくれるの?
設計事務所では、依頼者からの希望や相談ごとを受けて、リフォームやリノベーションのプラン(設計図)を作成します。その後、施工会社の選定や設計通りに施工が行われているかの施工監理も行うのが一般的です。
【設計事務所にリフォーム、リノベーションを依頼した場合の流れの例】
※流れや業務内容は設計事務所によって異なります。
(1)リフォーム、リノベーション内容の相談
どのようなリフォームをしたいのか、現在の住まいで困っていること、不便なことは何か、予算はどれくらいかなどを設計事務所に相談します。既存の住宅の図面があれば相談時に持参するといいでしょう。ラフプランを作成し、イメージのすり合わせを行う場合もあります。
(2)現地確認、プランの作成
現状の住まいの状態を確認し、プランの打ち合わせを行います。同時に設計・監理業務委託契約を締結します。
(3)図面作成
間取りや採用する設備機器、内装・外装デザインなどを決めていき、工事や見積もりに必要な設計図面を作成します。
(4)施工会社選定、見積もり依頼
施工会社選びでは、その設計が実現できる技術力と予算との兼ね合いを検討する必要があります。そのため、その設計事務所と付き合いがある施工会社から選んで、見積もりを取り検討するといった流れが一般的です。複数の会社に見積もりを依頼して相見積もりをとって選ぶケース、施工会社が指定されるケース、施主が施工会社を指定できるケースなどもあります。
(5)工事請負契約を結び着工
施工会社が決まったら、工事請負契約を結び、工事着工です。通常、工事監理(設計図書の通りに実施されているかを確認する業務のこと)は、設計事務所が行います。
(6)完成、引き渡し
工事が完了したら施主、施工会社、設計事務所でチェックを行い、問題がなければ引き渡しとなります。
リフォーム会社に依頼した場合との違いは?
設計事務所に依頼した場合は、設計と監理は設計事務所と契約し、工事は施工会社と契約することになります。つまり、契約先が分かれているため、2社との契約のための手間が必要です。リフォーム会社に依頼した場合は、設計と施工をまとめて発注することになるため契約は一度で済むのが一般的です。
リフォームやリノベーションを設計事務所に依頼するメリット、デメリットは?
設計事務所のメリットはプランの自由度の高さ
リフォームやリノベーションを設計事務所に依頼すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。第一に挙げられるのはデザインの自由度です。
「設計に特化しているのが設計事務所の仕事。そのため設計の技術力が高く、また、住宅設備や内装材、建具などを仕入れるメーカーに制約がないため、間取りもデザインも完全なオーダーメイドでリフォームができます。個性的なデザイン、好きなデザインを叶えたい人は、設計事務所に依頼することで理想や夢を実現できます」
既製品では建具や収納、キッチンや洗面台などに好みのデザインが見つからないこともあります。その場合、オリジナルでデザインしてもらえることも。
もう一つのメリットは、設計と施工を担当する会社が分かれていることで、現場をしっかり監理してもらえること。
「リフォームの完成度は、設計はもちろん、施工の技術や品質に大きく左右されます。設計事務所に施主の代理人としてしっかりと現場の監理をしてもらえれば、リフォームの完成度は格段に上がります。
またデザインにこだわる設計事務所なら、内装材や建具、建材のおさまりなど隅々までこだわることで、デザインの良さが映えるリフォームになります。高性能な住まいをつくるのが得意な設計事務所なら、断熱材の入れ方なども細かく指示をしてくれるので安心です」
完成まで時間がかかることがあるのがデメリット
施主も設計事務所も、デザインや性能にこだわりがあるため、プランが確定するまでの打ち合わせに時間がかかりがちなのが設計事務所にリフォームやリノベーションを依頼した場合の特徴です。早く完成させたい場合は、それがデメリットになるでしょう。
「人気のある設計事務所の場合は、プランニングに入るまで順番待ちになることもあります。また、それぞれ得意分野があるため、デザインの好みなど、相性が合わなければ打ち合わせもうまく進みません。ハウスメーカーのように住宅展示場がないので、自分の価値観や好みに合った設計事務所を探すのは大変です。でも、出会えれば良い結果が生まれます」
リフォーム会社に依頼するメリットは?
こだわりのデザインや性能を実現しやすい設計事務所への依頼。でも、打ち合わせに時間がかかる傾向や、相性や好みに合う設計事務所を探す難しさなど、ハードルの高さを感じてしまう人もいるかもしれません。
では、リフォーム会社に依頼する場合は、どのようなメリットがあるのでしょうか。リフォーム会社は多くの依頼を受けてきたノウハウがあるため、デザインや間取りなどの提案が幅広い点がメリット。会社によっては、職人さんのマナー教育、技術教育も行き届いていたり、仮住まいへの引越しサービスなどの紹介をしてくれたりすることもあります。大手のリフォーム会社なら、相性が合わないと感じたときに担当者の変更が可能なのもメリットです。
設計事務所への依頼を考えているけれど、なかなか好みの事務所に出会えない、という場合は、リフォーム会社やリノベーション会社にも依頼先探しを広げてみるのもいいでしょう。
設計事務所に依頼するリフォームは高くなりがち?
設計事務所はリフォーム会社よりも高い?
リフォーム会社やリノベーション会社に依頼するよりも、設計事務所に頼むと、費用が割高になる、という話を聞いたことはありませんか?実際はどうなのでしょう。
「設計費用がかかるから割高になる、と考える方も多いのですが、リフォーム会社に依頼した場合も、設計にかかる費用は実際には人件費として発生していて、リフォーム代金に含まれています。また設計事務所の中には、ローコストの設計が得意なところもあり、安く理想のリフォームを実現することも可能です。
設計事務所に頼むと高くなるイメージがあるのは、設計料が別立てになっているので高く感じる、ち密な設計を行えばそれだけ手間と技術が必要になり費用も高額になる、設計事務所に依頼する人は、もともとデザインや性能にこだわったコストのかかるリフォームを求める人が多く、そのため総費用が高くなる傾向があるからです」
設計料ってどれくらいが相場?
設計事務所に設計を依頼する場合、設計料や監理料の金額はどれくらいかかるものなのでしょうか。
設計監理料の算出方法として提示されることが多いのは下の2種類。
・工事費×10〜20%
※リフォームの場合の目安
・基本料金+施工面積×m2単価
※基本料金やm2単価は設計事務所によって異なる
「設計監理料は、小規模な工事の方が工事費の総額に対する割合が大きくなるなど、工事の規模によって異なることがあります。設計事務所によっては、小規模なリフォームは引き受けないこともありますから、設計を請け負ってもらえるのか、設計監理料はどのような計算方法なのかなどを、事前に必ず確認しましょう」
なお、ラフプランまでは設計料が無料だったり、最初から有料だったり、設計事務所によって費用がかかる範囲が異なります。どこまでが無料で、どこから費用がかかるのかを依頼する前に確認することも必要です。
設計事務所選びや依頼するときの注意ポイントは
依頼する設計事務所を選ぶときに重視したいことは?
設計事務所はそれぞれに個性があるため、自分の価値観や好みに合っているか、相性は良いかが大切です。リフォームやリノベーションをした知人や友人からの情報、WEBにアップされている施工事例や施主の体験談などを参考に、自分が希望するリフォームが叶えられそうかを考えながら、依頼先選びをスタート。
「設計事務所には得意分野がありますから、自分のやりたいリフォームと方向性があっているかがまず重要。希望の性能を満たすことができるか、デザインの好みやテイストが合っているかなどをよく確認しましょう。
そのためにもまずはWEBなどでその事務所の特徴をよくチェック。初回の面談では、リフォームやリノベーションの方向性や、相性が合うかをお互いに確認することが大切です。その際には、どこまでが無料で、どこから費用がかかるのか、設計監理料の計算方法や概算なども確認しておきましょう」
そのほか、施工会社は決まっているのか、見積もりを取った上で選ぶのかといった施工会社の選定方法、設計と工事の契約時期のほか、不具合など何かあったときに誰がどういう形で保証をしてくれるのかも確認しておくと安心です。
相性が良く、施主の立場に立って公正な予算管理や現場監理をしてくれる優れた設計事務所に出会えるよう、依頼先は妥協せずに探すことが大切です。
リフォームやリノベーションのイメージを的確に伝えるには?
自分が叶えたいリフォームやリノベーションのイメージを伝えることは、依頼先がリフォーム会社でも設計事務所でも変わりはありません。
「どんな暮らしをしたいのか、漠然とした夢でもいいですから、事前にまとめておくといいと思います。気になるデザインがあったら、その写真やイラストなどを用意しておくとイメージが伝わりやすいですね」
完成後、満足できるリフォーム、リノベーションにするには、依頼先選び、事前の重要ポイントの確認、希望のプランを的確に伝えることが大切。なお、予算内で全ての希望が実現できない場合もあるので、リフォーム箇所の優先順位を家族や設計事務所と相談しておくことも必要です。
●取材協力
Yuuさん(本名:尾間紫)
一級建築士事務所Office Yuu代表
一級建築士、インテリアコーディネーター、既存住宅状況調査技術者。長年リフォーム業界の第一線で数多くの相談、設計、工事に携わってきた。その経験を活かし、住宅リフォームコンサルタントとして幸せなリフォームを実現するためのノウハウを自身のwebサイトで発信するほか、セミナー講演や執筆、人材育成研修などで活躍中
取材・文/田方みき