定期借地権付きで大使館の旧館跡地に誕生
東京都心のなかでも港区は大使館が集まる国際色豊かなエリア。各国の大使館員も多く暮らすことから、インターナショナルスクールも点在している。
フランス大使館のアドレスは港区南麻布。約2.4haの敷地には、道路に面するビザ棟、奥に位置する事務所棟、大使公邸が立ち並んでいる。
今回、訪問した「プラウド南麻布」が立つのはフランス大使館の敷地内。日仏交流150周年記念事業として現在の大使館を新築する際、旧館跡地に建てられた定期借地権付きマンションだ。借地期限は通常、50年にすることが多いが、このマンションでは先々まで安心して暮らせるよう 10 年長い 60 年に設定されている。さらに借地期限満了後の解体にあたる準備費用の積み立ても必要なく、住む人たちの負担が軽減されている。
設計・施工は新フランス大使館と同様、竹中工務店が担当。大きな庇のあるエントランスや外壁素材などに大使館のコンセプトを継承しながら、敷地全体の調和がはかられている。
森の自然を最大限に活かしたコモンスペース
そんなマンションの最大の魅力が、目の前に広がる広大な森だ。大使館が立つ土地はかつて尾張徳川家が所有。江戸時代から守り継がれた約1haの森がそのまま継承されている。
地上7階建ての建物はその森を優しく包み込むように弓なりのフォルムを描き、コモンスペースには都会の自然を最大限に楽しめる工夫がされているという。
期待に胸を高鳴らせながらエントランスに入ると、出迎えくれたのはコンテンポラリーアート。このマンションのためにつくられた作品とのことで、洗練された雰囲気にフランスらしさが感じられる。
圧巻はエントランスホールだ。二層吹抜けの開放的な空間は大きな窓一面に森の緑が映り、ダイナミックな絵画のよう。形も色もさまざまなインテリアの造形美がその美しさを引き立てている。
さらに羨ましいのは森と建物をつなぐウッドデッキのガーデンテラスだ。水盤越しに緑を楽しんでいると鳥のさえずりや風のそよぎが五感に響き、リゾート地を訪れたようなゆったりとした気分になる。
森が生み出す景観は南西側の住戸からも堪能できる。こちら側の住戸の広さは90㎡台から120㎡台が中心。バルコニーは奥行き3mとゆったり取られ、ルーフバルコニー付きのペントハウスもあるそう。都心に住みながらリゾートライフが叶えられるというわけだ。
ワインセラーのあるパーティールームはテレワークでも活躍
豊かな森の自然に抱かれたマンションの住み心地はいかがだろうか。理事会の時間を借りて、理事のみなさんに伺ってみた。
まず魅力として挙がったのは やはり緑に囲まれた豊かな環境だ。
「フランス大使館の森が目の前にあることで、都心にいながら静かにゆったり暮らせます」
という意見に、全員が大きく頷いた。
共用施設やサービスも充実し、住人に活用されているという。
その一つがエントランスホールに隣接するパーティールームだ。このスペースは貸切の時間以外は自由に使うことができる。
「私の勤務先では出社日が月1回しかなく、それ以外はテレワーク。気分転換したいときには、パーティールームで仕事をしています。合間にガーデンテラスに出ると、リフレッシュできる。大抵、2〜3人の方が使っていて、自然と親しくなりました」
朝から12時まではカフェメニューも用意され、仕事の合間や出勤前にコーヒータイムを楽しめる。テイクアウトのみだが、軽食の販売もしているそうだ。
このパーティールームにはキッチンと冷蔵庫があるほか、調理道具や食器までそろっているのが珍しい。さらに目を引くのが、レストランにありそうな本格的なワインセラーだ。隣がフランス大使館というつながりからフランスワインを中心に常時20本前後が並び、好みの1本を買うことができる。
「コロナ禍前にはここでよくパーティーを開いていました。スペースが広く、お鍋やフライパン、ガスオーブンもあるので一から料理をつくることができて助かります」
「レストランのシェフを招いてケータリングパーティーを開いたことがあります。プロの味をカジュアルに楽しめるのは嬉しいですね」
セラーに並ぶワインは委託するコンシェルジュサービス会社が発注。ワイン好きが喜ぶような銘柄をそろえているため、マイセラーとして利用している人もいるそうだ。
エントランスロビーの右手にはライブラリーもあり、こちらもゆったりとした雰囲気だ。さらにもう一つ、憩いのスペースには屋上のビューデッキもある。ソファに腰掛けると大使館の森がちょうど目線の高さで広がり、東京タワーをはじめ都心のパノラマも満喫できる。
「ビューデッキは普段は飲食禁止なのですが、神宮外苑花火大会の日は例外。居住者が集まって、みんなでワイワイと花火鑑賞をするのが恒例です。花火大会の後にパーティールームで懇親会を開くこともあり、マンションに住む方々との交流を育むよい機会になっていました」
共用施設ではゲストルームも評判がいい。ベッドルームの横にはガラス張りのジャグジーが設置され、木々の緑を眺めながらバスタイムを楽しめる。来客の宿泊スペースとしてはもちろん、ここで旅行気分を味わう居住者もいるとか。
「私はフィットネスジムをよく使っています」
と話すのは女性理事。
「マンション内にあるので気軽に利用できてありがたいですね。同じ時間帯に誰がどのマシーンを使うかがだいたいわかるので、バッティングしないように配慮し合って気持ちよい汗をかくことができます」
暮らしの安心感を生む防災活動とコミュニティ
管理組合の活動も精力的に行われている。
例えば、豊かな自然環境を守るため、管理規約とは別に植栽保全のガイドラインを作成。毎期、植栽担当の理事を決め、樹木の維持・管理に取り組んでいる。
防災も同様だ。理事会とは別に年2〜3回、防災勉強会を実施して、独自の体制を整えているという。その好例がアクションカードだろう。
「防災マニュアルをもとに役割分担をしておくのは一つの方法ですが、実際に災害が起きたときにマンション内にその人がいるとは限りません。そこで、マンション内にいる人たち全員で助け合えるよう作成したのがアクションカードです。カードには役割分担と行動の指示が書いてあるので、その通りに動きながら災害本部を立ち上げるという流れを組んでいます」
管理室に置かれたアクションカードの実物を拝見すると、情報・物資、救護・衛生、安全・設備の3班で色分けされ、それぞれの役割がわかりやすく書かれている。さらに裏面には「地下倉庫から粘着テープを1階ロビーに運ぶ」といった具体的な行動が示され、これなら誰もが的確に動くことができる。防災体制の強化で安心感が一層、高まったそうだ。
ちなみに、安心という点ではフランス大使館の敷地内に立つことにもメリットがあるという。警備が手厚いだけでなく、住戸の売却や所有する住戸を貸し出す場合には、新たな居住者の身分証明書などをフランス大使館に提出する取り決めがあるのだとか。
もちろん、コミュニティの醸成も暮らしの安心感を高める要素になるだろう。先述した屋上での花火鑑賞会のほかにも、多彩なイベントを催して住人同士の交流を深めている。イベントはコロナ禍で中止となったが、今後は状況をみながら復活させる予定とのことだ。
犬を飼う住人が多いことから、管理組合下にはペット委員会も立ち上げられている。新規入居者は飼育申請書の提出が必須で、マンション内で飼われているペットファイルもつくられているとか。また、入居時にはマンション内でのルールを伝えて徹底してもらい、飼う人と飼わない人が気持ちよい関係をつくれるようにしている。トラブルを避けるために、ペット共生事業を行う企業「ライフアシスト」のサポートも受けているそうだ。
「以前はペットを飼う人たちの交流会も定期的に開かれていました。愛犬と一緒に集まって公園で遊ばせたり、カフェでお茶をしたり。そのお陰で知り合いが増え、今は個別に交流する方が多いですね」
散歩コースは歩いて5分ほどの有栖川宮記念公園が定番。愛犬と暮らしやすい環境が整うのも、このマンションの魅力といえるだろう。
国際色豊かな地域交流で暮らしが楽しく豊かに
マンション内のコミュニティに加えて、地域との交流も盛んだ。このマンションは南麻布富士見町会のエリアにあり、町会のさまざまな催しが接点になっているという。
その活動拠点となる町会会館があるのはマンションの真横。コンクリート造のモダンな建物は、フランス大使館の建て替えに合わせて新築したそうだ。
町会ではどのような活動が行われているのだろう。2007年から会長を務める清原元輔さんにお話を伺った。
「私たちは1923(大正12)年に創立した歴史ある町会です。町会エリアにはフランス大使館、パキスタン大使館、中国大使館の社宅、米軍関係者向けの宿泊施設『ニュー山王ホテル』などがあり、国際色豊かな点も特色としています。コロナ禍以前には夏の盆踊り大会などのイベントも行い、なかでも毎年9月の秋の例祭は町会を挙げてのお祭りとして大変盛り上がります」
秋の例祭は2日にわって挙行され、両日とも町会のお神輿が明治通りをはじめ街を巡行する。
「初日はフランス大使館の大使公邸にお神輿が入り、ケーキ、パン、ワインなどが担ぎ手をはじめ町会の人たちに振舞われます。とても和やかですよ。2日目は『ニュー山王ホテル』で米国海軍第7艦隊ブラスバンドによる演奏会のほか、ホテルの広場で子ども向けの催しもあってこちらも歓迎ムードいっぱい。地域交流とともに国際交流の機会にもなっています」(清原さん)
町会の例祭に参加するマンション住人は多く、理事会のメンバーからはこんな感想が挙がった。
「大使館の隣に住んでいても滅多に中には入れないので、非常に楽しかったですね。広々とした庭でのビュッフェスタイルのもてなしにも感激しました」
「お祭りを通じて近隣の方々とも交流がもてて、今ではご近所に知り合いが増えました。みなさん、素敵な方ばかりで、町会の輪を日々感じています」
歴史ある森が生み出す環境はもちろん、地域へと広がる住人同士のコミュニティもまた、このマンションの得がたい財産になっているようだ。