銀座のイタリアンとコラボして「食×マンション」の可能性を追求
コロナ禍による自粛が続き、おうち時間が長期化した。となるといつにも増して楽しみになるのが「食」だ。宅配、出前が盛況となり、その利便性を改めて実感したが、半面、だからこそ、美味しいものを街のレストランで食べられることの価値も再確認した人は多いだろう。
そんな時世において、マンション1階の共用施設内で本格イタリアンレストランを開店、大人気を博しているのが、プラウドタワー東雲キャナルコートだ。
管理組合理事長(2021年6月取材当時)・副島規正さんにお話を聞いた。
「以前から好評だった1階カフェラウンジの店舗を更新して、2021年1月に再スタートしたんです。こだわったのは味。レンジでチンする類いではなく、厨房できちんと調理した食事を提供したいと。そこで、コロナ禍でやむなく一部店舗の閉店に追い込まれた銀座の創作ダイニングレストランに入店してもらいました。銀座のレストランと同等に料理人が腕を振るえるようにミーティングを重ね、1600万円程を投じて厨房全体の設備をリニューアルしました。さらに家賃、光熱費は無料に設定。管理組合にロイヤリティーを納めるといった契約もしない代わりに、原価率を高めて、利用者である住人には手ごろな値段でバリエーション豊富なメニューを出していただくようにお願いしました」(副島さん。以下コメントはすべて同じ)
銀座で腕を磨いたダイニング店の食事が、たっぷりのボリュームでランチ800円台~で食べられる。外出自粛の折、マンション内で安心して食事が楽しめると評判になり、すぐ繁盛店になった。以前の店舗と売上は同等とのことで、多くの住人が満足していることがうかがえる。江東区東雲アドレスは、もともと、近隣にレストランが少ないエリアだ。それだけに、コロナ禍収束後も、集客力は変わらないと見込んでいる。
さらに2021年2月からはキッチンカーも導入。ラウンジのイタリアンのメニューと被らないジャンルのキッチンカーがやって来る。便利なのが、専用アプリでモバイルオーダーができること。待ち時間なしで頼んだ料理を受け取れて、熱々のまま自宅に持ち帰れる上、密を避けられるため感染対策の面でも優れている。
子育てファミリーにありがちな困りごとを解決する「顔認証システム」
食以外の領域でもマンションの魅力向上に取り組んでいる。イタリアン開店から遡ることおよそ半年、2020年6月には「顔認証システム」を導入した。
「竣工時、このマンションのエントランスには非接触型 キーが導入されていました。差し込む必要はありませんが、センサーにかざすためにキーを取り出さなければなりません。このマンションは乳幼児を育てているファミリーが多く暮らしているのですが、その層の住人にとっては、特にエントランス前でカギを取り出す作業が面倒だったんです。例えば、小さなお子さんが2人いる、買い物バッグが大きい、ベビーカーがあるなど、エントランス前では両手がふさがっているシチュエーションが多く、解錠が大変ですからね。
その改善策として、かばんやポケットにキーデバイスが入っていれば、オートロックドアが開くタッチレスキーを検討していたのですが、コスト面で折り合いがつかず…。また、新たなデバイスを配布する必要があることや、紛失するリスクもありました。その後も対策はないかと探し続け、私がたどり着いたのが顔認証でした。ビットキーというベンチャー企業に出合い、開発を低予算でお願いしたのですが、この企業にとって、うちが既築の分譲タワーマンションで初の導入ということで、当初は実証実験を兼ねて実施してみたのです。理事会で検証を重ね、ブラッシュアップして、低コストで実用的なものになったことから本格導入に踏み切りました」
導入した顔認証システムは、エントランスにタブレット端末を設置することで使用できる上、大掛かりな工事が不要で、低コストだったことも導入に踏み切った理由とのこと。
「判定にかかる時間はごくわずか。タブレットにいちいち顔を寄せる必要はなく、ウォークスルー状態で通り抜けられてストレスがなくなりました。顔の登録も簡単で、専用アプリをインストールしたスマートフォンや、エントランスに設置されたタブレット端末からでも可能。大人は一度の登録で済みますが、成長する子どもは数年ごとに登録し直す必要があるそうです。ちなみに化粧した状態で登録し、スッピンでもドアは開くそうです」
また、顔認証システムとほぼ同時期に、駐車場のゲート開閉システムを車体のナンバー認証システムに更新した。プラウドタワー東雲キャナルコートは、都心では希少な自走式駐車場を備えており、機械式と違って入出庫待ちの時間がなく、ストレスが少ないこと、機械式と比較するとメンテナンス費用が非常に安く済む、といった強みがあったが、リモコンによるゲート開閉が不要のナンバー認証システム導入によって、さらに魅力が増したというわけだ。
マンション内買い替えの多さが物語る居住満足度の高さ
このように着実に機能強化を進めているプラウドタワー東雲キャナルコートだが、半面、こうした数々の取り組みの財源はどうなっているのだろうか。
「築9年で累計3億1400万円の黒字を示している管理費会計が支えています。そのうち既に約1億4000万円が修繕積立金会計に移管済み。今後毎年2000万円ずつ移す計画です」
黒字を生んだ背景にあるのが、マンション管理に欠かせないさまざまな業者の見直しだ。
「竣工後、初期設定のコンシェルジュ、カフェ、カーシェアリング、植栽管理業者、そして根本である管理会社もすべてリプレースしました。サービスの質を上げつつ委託費を削減することに成功したんです。だからこそ1600万円もの厨房リニューアルのような多額の設備投資が可能になりました」
管理組合がさまざまな改革を行い、それが結果に結びついて、住人の居住満足度が上がる。この好循環が多くの理事の成り手を生むという。
「うちのマンション、理事会理事の立候補者がとにかく多いんですよ。前期である8期は10人入れ替えることになっていたのですが、その交替枠はすべて立候補者で埋まりました。実はそのとき、立候補者が15人もいて、抽選で絞らなければならなかったほど。来期は11人入れ替えで8人が立候補者に替わりそうです。立候補した人に動機を聞いてみると、ほとんどは『おもしろそうなことができそう』と話してくださいます。どんなことでも、自分が主体的に取り組んで成果が出たときの喜びは大きいものですが、それが自分の資産に直結するとなると、満足感はより大きくなりますよね」
理事だけでなく、住人の居住満足度も高い。マンション内買い替えの多さがそれを物語る。
「2012年築で、東日本大震災発生翌年の竣工だったので、当初は低層階が人気だったと記憶しています。しかし、少しずつ時間がたち、低層階から眺めの良い高層階に行きたいと考える人が増加しました。また、空き住戸が出たら、区分所有者の親や子どもが買い、マンション内近居を始めるケースも見られます。さらに、賃貸で入って気に入り、売り住戸が出たら素早く購入する方も多いですね」
東日本大震災での経験がコミュニティーづくりの原動力に
副島さんは経営コンサルタント。住人経営の管理組合を率いるのに、うってつけのキャリアだ。プラウドタワー東雲キャナルコートを購入する前は千葉県内のマンション暮らしで、理事も務めていた。
「3期・4期に輪番制で回ってきて、何もわからず会計担当理事をしました。マンション管理組合専門のコンサル(ソーシャルジャジメントシステム)が入ってから理事会活動が活発化し、マンション管理組合で理事会に携わることのおもしろさがわかりました。
プラウドタワー東雲キャナルコートを購入したのは本当に偶然でした。ららぽーと豊洲に買い物に行き、モデルルームがあったのでふらっと寄ったんですね。当時は、東日本大震災後の“計画停電”が行われていたころで、前居の新浦安はその該当地域だった。しかし、西側の都内は煌々(こうこう)と街に灯がともっていたんですね。そのこともあって『やっぱりいつか東京に住みたいな…』と思っていたこともあり、このマンションのモデルルームに寄ったところ、想像以上に良かったんです。超高層だからどうせなら高層階の南向きの部屋が良い!と思ったが、空きがなく、いったんは諦めました。しかしその直後、『キャンセルが出た』と聞き、衝動的に購入を決めたんです」
副島さんは竣工直後の1期から、途中のブランクを挟んだものの、8期まで理事長、理事を務め、長く管理組合を支えてきた。その原動力となったのも東日本大震災後の経験だ。
「震災直後、当時住んでいたマンション内にほとんど知り合いがいなかったことに気付き、大きな不安に襲われたんですね。両隣の一方はしょっちゅう住人が入れ変わっていました。もう一方は行き来がありましたが、そのくらいしか付き合いがなく、心細かったんです。やっぱりマンションには活発なコミュニティーが必要だと痛感しました。その経験をもとに、東雲ではしっかりしたコミュニティーを築くことに貢献したいと考えたんです」
これからのウィズコロナの時代、再開するイベントの数を徐々に増やしていきたいですと副島さん。ご自身では、52階にある共用施設の屋上庭園で絶景を眺め、ビールを飲みながら食事を楽しみたいと話す。
「入居当初、屋上庭園では飲食禁止だった上、子どもは走り回って危ないことから『大人限定』『人数は8名まで』『前日までに予約』としていましたが、その後、IHの鉄板でのBBQや映画上映会開催もOKなど、ルールを改定しました。現在はコロナ禍でこのような使い方はできませんが、2022年の春以降、暖かくなってきたころに再開できると良いなと考えています」
ちなみにプラウドタワー東雲キャナルコートにとって、初めてとなる大規模修繕工事は、築15~20年目に当たる2027~2032年ごろに実施予定。前述どおり、資金的には潤沢だ。
「理事会で長く一緒に仕事をしてきた元理事の住人と、大規模修繕工事が始まる前に、理事会に再度立候補するなり、有志として委員会に参加するなりして、またこのマンションのプレゼンスを上げるために貢献しようか、などと話したりもしています」
大規模修繕工事でハードの刷新が終了した後、プラウドタワー東雲キャナルコートの魅力には、より磨きがかかっているはずだ。
※イベント開催、共用施設の使用については、新型コロナウイルス感染症対策のため上記の通りではない場合があります