利便性と豊かな自然を兼ね備えた港北ニュータウン
横浜市都筑区は緑区と港北区を再編成し、1994年に誕生した行政区。この区の総面積の約半分を占めるのが港北ニュータウンだ。街の開発に着手してから半世紀経った現在、住みやすい街として定評を得て、若いファミリー層を中心に人口も増加している。
人気の理由としてまず挙げられるのは、交通利便性の高さだろう。街の開発に伴い、横浜市営地下鉄のブルーラインとグリーンライン2路線が相次いで開通。横浜駅はもちろん、都心へもアクセスしやすい。さらに、街のなかには第三京浜道路の都筑ICがあり、東名高速道路の青葉ICも至近。車での移動も軽快だ。
2つめの理由は生活利便性にある。例えば、センター北駅には、観覧車がトレードマークの「モザイクモール港北」、駅直結の「ショッピングタウン あいたい」、映画館のある「ノースポート・モール」といった大型商業施設があり、センター南駅にも「港北 TOKYU S.C.」「サウスウッド」などが立ち並んでいる。日常の買い物から休日のレジャーまでタウン内ですべて完結する充実度だ。
一方で、豊かな自然も港北ニュータンの求心力になっている。タウンが位置するのは多摩丘陵の東端。開発の際には「自然環境を最大限に保存するまちづくり」「ふるさとをしのばせるまちづくり」が基本方針に掲げられた。これに沿って導入されたのが「グリーンマトリックスシステム」である。
「グリーンマトリックスシステム」とは、公園や保存樹林帯、水景、歴史的遺産などを緑道で結ぶ都市計画の手法。タウン内には約15kmに及ぶ緑道によって緑のネットワークが構築され、約90haもの自然資源が保存されているという。
確かに、街を歩くとそこかしこに緑があふれ、広々とした公園も多い。
利便性と自然がしなやかに融合するところが港北ニュータウンの大きな魅力というわけだ。
森のような緑が包む住人自慢のビオトープ
そんな港北ニュータウンの一角に立つのが、「ライオンズ港北ニュータウンローレルコート」だ。約8600m²の敷地には7〜8階建ての4つの住居棟が輪をつくるように並び、221世帯が暮らしている。
このマンションの大きな特色となるのが、港北ニュータウンのグリーンマトリックスを再現したランドスケープだ。敷地の緑化率は3割に及び、その多くに緑道と同じ植生の山野草が取り入れられている。つまり、マンション内でも豊かな自然を楽しめるというわけだ。
では、その住み心地はいかに?
管理組合の現理事長、松本崇志さん、3年前の4期で理事長を務めた佐藤泰弘さん、4〜5期の理事、岩本美加さんにお話を伺った。
「緑の心地よさは日々感じますね。特にこのマンションでは山野草を植えているので、植栽というより本物の自然に近い。生活していても落ち着きます」(佐藤さん)
確かに、マンション内を巡ると、エントランスの前や住居棟脇の通路などあらゆるところに緑があふれている。普段、街なかでは見かけない草花も多い印象だ。
ただし、居住者の自慢は緑だけではない。
案内されたのは敷地の北側。中庭に設置された円形ベンチの中央にはこんこんと水が湧く“泉”があり、その水はゆったり蛇行するせせらぎへ。そして流れ着くのが “ふれあいの池”と名付けられたビオトープだ。
このビオトープに沿って緩やかに起伏のある雑木林が広がり、木漏れ日があたる小径がつくられている。その情景は里山の懐かしい景色そのもの。マンションの敷地にこんな自然空間があるとは驚きだ。
多様な生き物が棲むマンション内の自然空間
“池”と“森”が織りなす屋外空間では、多彩な植物や生物に触れることができる。例えば、取材時、ビオトープを彩っていたのは水生植物であるアサザ。可憐な黄色い花が水面に浮遊するように咲いてなんとも幻想的だ。
「水のなかにはメダカ、ヌマエビ、タニシ、あとドジョウもいます。雑木林にはクワガタなどの昆虫も棲んでいますし、ヒヨドリなどの野鳥もよく見かけますね。カルガモの産卵場所になっているようで、親鳥に続いて小さな雛たちが泳いでいることも。たまに孵化しない卵もあって、マンション内の子どもたちとお墓をつくってあげたこともありました」(佐藤さん)
そんな自然を守るため、理事会では例年、ビオトープ担当の理事を選出。ビオトープと植栽のメンテナンスを委託する「東邦レオ」と連携しながら、自然環境の維持・保全に当たっている。4期と5期の理事会でこの役職についたのが、小学生2人のお母さんである岩本さんだ。
「子どもも私も虫などの生き物が大好き。子どもたちは中庭やビオトープの周りでよく遊んでいますし、私も時間があるときに虫を探したり、草花を眺めたりして楽しんでいます。マンション内に自然とふれあえるスペースがあるのは、とても貴重でありがたいですね」
ビオトープ担当を中心に行っている取り組みの一つに水草取りがある。水草が茂り過ぎて水中が見えないほどになると、理事、住人有志、さらにマンションの管理スタッフも一緒になって足を濡らしながら草取りをしているそうだ。
「メダカの泳ぐ姿が見えるようになると網を持った子どもたちがやってくるのですが、メダカは生態系の一部。『獲らないでね』と注意したり、イラスト入りの注意書きを張ったりということもしています」(岩本さん)
山野草で構成される植栽の管理にも独特の難しさがある、と話すのは、「東邦レオ」のスタッフ、島田美渚さんだ。
「マンションの植栽に山野草を取り入れている例は少なく、しかも、ここは種類がとても多いんです。一般的には雑草として抜いてしまう植物も、里山の風景を生み出す植栽として大切にされています。樹木の実生(種から自然と発芽した植物)なら抜くべきかどうかの判断をしやすいのですが、地際の草花は見極めがしにくい。そのため、雑草抜きは経験豊富なベテランのスタッフが担当し、細心の注意を払って行っています」
樹木の剪定についても一度にバッサリとは切らず、自然の樹形を維持するよう何回かに分けて行われる。もちろん、季節によって樹勢は変化するため、臨機応変に対応しながら木に優しい剪定を心がけているそうだ。
ビオトープが子どもの好奇心と人のつながりを生む
こうしたマンション内の自然を活かして、さまざまなイベントも行われている。
その第一弾が入居前に行われた植樹祭だった。入居を予定する人たちが集まり、自分たちの手で幼木を植えたのだという。
「自分たちが植えた木が育っていると思うと愛着がもてますね。住人同士の顔合わせの場にもなって、和やかなひと時でした」(佐藤さん)
入居後も毎年数多くのイベントが開催されている。
その一つが「いきもの観察会」。生物の研究者などを講師に招き、レクチャーを受けながらビオトープにいる生き物を顕微鏡で観察する。ふれあいの森の昆虫を採集して調べたり、スマホやタブレットで使える顕微鏡を工作したりと、毎年、工夫がこらされている。先着順の申し込み制にしていたが、毎回、すぐに定員に達するほど盛況だったとか。
「メダカ・ヌマエビの放流会」も、竣工以来、定期的に開催されてきたイベントだ。メダカはボウフラをエサにするので蚊の対策になり、ヌマエビは増えた藻を食べるのでビオトープの環境保全に役立つことから放流をしている。 バケツからメダカやヌマエビを掬ってビオトープへと放すというのは、子どもにとっては貴重な経験になるだろう。
「ビオトープイベントには、子どもたちの好奇心の芽を伸ばし、ビオトープや自然への愛着を育んでほしいという思いが込められています。ゴミを捨てない、草花や生き物を大事にするということは、イベントを通して体感してもらうのが一番なんですね」(佐藤さん)
自然を前にすると参加者同士も打ち解けやすく、コミュニティ形成にも役立っているそうだ。
こうしたビオトープイベントのほかに、マンション内では夏休みのラジオ体操、秋のハロウィンイベント、冬にはクリスマス会なども開かれている。これらの機会にも住人同士の輪が広がって住み心地はさらに向上していたが、昨年来のコロナ禍でイベントは軒並み中止に。
「危惧しているのは、これまで育んできたマンションへの愛着や、人と人のつながりが希薄になってしまうこと。住人同士が顔を合わせて気軽に話ができる、そんなマンションであってほしいので、イベントが大事だと実感しています。つながりがあれば災害など万が一のときにお互いに助け合うことができる。防災面でもコミュニティは欠かせません。もちろん、考え方はさまざまなので必要に応じてアンケートを取るなどしながら、今の状況が落ち着いたときには少しずつ元の状態に戻していきたいですね」(松本さん)
そんな“復活”に向けたトライアルとして、今年5月にはエントランス前の生垣の補植が住人参加で実施された。
「密を避けるため、理事とこども部会のメンバーに限り、人数も絞って行いました。私も参加しましたが、帰宅する度に植え込みに目が行き、『いいなぁ、きれいだなぁ』と。自分が植えたと思うと愛着はひとしおなんです。こういう機会はやはり大切にしたいと改めて思いました」(松本さん)
さらに、この秋にはハロウィンの飾りつけを行ったほか、「秋の展覧会」として工作・川柳・写真などの展示も予定されている。
「感染対策を鑑みた非接触形式で、なおかつご高齢の方など住人が広く参加できるような工夫をして開催を目指しています。例えば、リモートや防災などマンション生活をテーマにした川柳を募集して掲示したり。私もサンプルで初めて川柳をつくってみましたが、面白かったですね」(佐藤さん)
なお、従来、イベントの運営には管理組合の下部組織にあたる「こども部会」があたってきたが、今年9月に名称を「住まいるの会」へと変更。子育て世帯に限らず、全居住者を対象に活動する組織に生まれ変わった。 住まいるの会はこども部会同様、住人有志が活動の主体となり、岩本さんは運営メンバーの1人に名を連ねているそうだ。
自然エネルギーで管理コスト削減と快適な住空間を実現
羨ましいほどの環境を備えているのがこのマンションだが、気になるのは維持・管理のコスト。率直なところ、管理費は割高だったり?
「それはないですね。ビオトープをはじめ共用部には自然エネルギーがフルに活用されていますから」と答えてくれたのは佐藤さん。
聞けば、このマンションには井戸が設置され、せせらぎやビオトープなどにはその地下水を使っているのだという。植栽の水やりにもやはり地下水を使っているそうで、つまり水道代はゼロ!
「地下水のくみ上げや水を循環させるための動力は、屋上のソーラーパネルが生み出す太陽光エネルギーで賄われています。共用部の照明などの電気にもやはり太陽光エネルギーを活用。自然エネルギーを有効利用する、いわゆるパッシブ手法によって、維持・管理のコストカットが実現されているんです」(佐藤さん)
しかも、くみ上げた地下水は断水時のトイレ用水や生活用水として利用することが可能。太陽光エネルギーは余剰分を蓄電池に蓄え、停電時などにはエレベーターや共用部のWi-Fiなどに優先的に供給される仕組みもつくられているというから心強い。
住戸内についても、自然の力で快適な環境を生み出す「新・パッシブデザインシステム」が採用されている。
ポイントは“風”。例えば、サッシは開けた状態で固定でき防犯面も安心な自然換気ストッパーが付き、給気口も大口径だ。室内ドアには扉が閉まった状態でも空気が流れる通気ルーバーを備え、玄関ドアもやはり換気機能がついている。
「風通しはすごくいいですね。わが家の場合、夏でもエアコンなしで過ごせるほど。窓には断熱性の高いエコガラスがついていますし、バルコニーにはグリーンカーテン用のフックも取り付けられています。入居の際にはゴーヤ、朝顔、フウセンカズラのいずれかの種が無償で配布され、うちはゴーヤを育てました」(佐藤さん)
節電に対する工夫も画期的だ。このマンションでは「ネクストパワー」による一括受電システムを採用。マンション全体で購入した高圧電力を低圧に変電したうえで各住戸に分配することで電気料金の低減がされている。
使用電力に関しても“見える化”を遂行。カフェテラスにあるモニターでマンション全体の電気使用量などを掲示するほか、専用サイトから自宅の電気使用量も確認できるのだとか。使用量はランキング方式で掲示され、節電に貢献すると電気料金が割引になるサービスも行われているそうだ。
ほかにも、環境にやさしい電気自動車の普及に対応できるよう、充電コンセントを設置した駐車スペースが18台分、用意されている。現在、利用は1台分のみだが、今後は増えていく可能性が高いだろう。
多彩な共用施設では教室やサークル活動も活発
200戸を超える大規模マンションだけに共用施設も充実している。
エントランス横のカフェテラスはホテルのラウンジのようにゆったり。グランドピアノのあるミュージックルーム、キッチン付きで多目的に使えるコミュニティルームなどそれぞれに趣向が凝らされている。
マンションの付帯サービスとして導入された「港北ニュータウン ラバーズクラブ」では、これらの共用施設を使って教室やサークル活動を実施。現在は感染対策を施した上で、バレエ教室、ピアノ教室、バイオリン教室、ギター教室、ヨガ教室、ボーカル・ボイストレーニングなどが開かれているそうだ。
こうしたマンション独自の魅力に加えて、利便性に富む立地に惹かれて購入を決めた居住者も少なくない。佐藤さんはその一人だ。
「マンションから一番近いのはグリーンラインの北山田駅ですが、グリーンラインとブルーラインの2路線が使えるセンター北駅も歩いて行けます。バス便なら東急田園都市線のたまプラーザ駅や鷺沼駅にも出られ、バス停はすぐ目の前。日常の買い物も便利ですね。スーパーは『ヨークマート』『ビッグヨーサン』『オーケーストア』『ロピア』などが近隣にそろっています。また、ヨークマートの前の『ホームセンターコーナン』も重宝しています」
出張などで遠方に行くときのアクセスも軽快だと教えてくれたのは松本さんだ。
「東海道新幹線の新横浜駅にはセンター北駅から乗り換えなしで行けますし、羽田空港行きのバスも出ていて1時間かかりません。ここを購入した当時は出張が多かったのでとても快適でした」
ちなみに、たまプラーザ駅からも羽田・成田の各空港へのリムジンバスが出ていて、出発の時間に応じて使い分けができるそうだ。
一方で、マンションの周辺には牛久保公園、すみれが丘公園など大小さまざまな公園が点在。子どもを遊ばせたりのんびり散歩をしたりと憩いの場として親しまれている。
「公園をつなぐ長い緑道はウォーキングするのに最高です。車道より一段下がった位置にあり、車の往来を気にせずに歩けるんです。緑に囲まれているので夏でも涼しい風が吹いて気持ちいいですよ。この夏は私も緑道ウォーキングに励み、ダイエットができました」(佐藤さん)
敷地内外にあふれる緑を楽しみつつ、便利な暮らしも送れるのがこのマンション。テレワークが普及しつつある今、求められているのはこのような住まいなのだろう。
※2021年のイベント開催、共用施設の使用は新型コロナウイルス感染症対策のため上記の通りではありません。今後の開催は未定です