開放的空間と免震構造を両立した「建築作品」の暮らし心地

加賀レジデンスの外観

加賀レジデンスのスクエアで美しい外観。物干しはバルコニーのガラス手すりの内側に隠れるように配置されているため、一見すると洗濯物がそれと分からず、生活感を感じさせない
物件名:
加賀レジデンス
所在地:
東京都板橋区
竣工年:
2008年
総戸数:
246戸

スクエアな外観同様、内部も梁、柱のないフラットな空間

埼京線に乗って池袋から約5分の場所にある十条駅。西口駅前には明治30年代から店が集まり始め、現在約200店が軒を連ねる十条銀座商店街の入口があり、大きなアーケードが掛けられた、懐かしい風情が続く。そしてその周囲には、一戸建て、マンションなどが集積する住宅街。池袋からわずか2駅とは思えない、穏やかな住環境だ。

十条銀座商店街

東京有数の活気あるお買い物エリア、十条銀座商店街

今回取材した加賀レジデンスは、十条駅西口から徒歩約9分。中低層のマンションが立ち並ぶ閑静な住宅地が広がる、板橋区加賀二丁目の一角にある。ちなみにアドレス名の「加賀」は、江戸時代、この地に加賀藩の下屋敷があったことが由来だという。

その歴史は、令和の現代にも継承されている。下屋敷の庭園につくられていた築山の一部が史跡として一丁目の加賀公園に保存されているほか、当時の面影を残す名称が、地名や公共施設名として点在。こうした歴史的背景から、加賀一・二丁目では板橋区から「屋外広告物を掲出する場合は、歴史的な変遷が感じられる由緒ある地域として、品格にふさわしい景観の創出を担うこと」が求められている。

加賀レジデンスの外観は、そんな地域性にふさわしく優雅だ。縦ラインの戸境壁と横ラインの床、淡いブルーのガラス手すりが規則的に交差する。柱や梁などがなく、室外機置き場もデザインの一部として取り込まれている。付近に立ち並ぶ中~大規模マンションのなかでも、とりわけ存在感が強い、美しいマンションだ。2010年には、一般社団法人日本建設業連合会により、日本国内の優秀な建築作品に与えられるBCS賞を受賞している。

加賀レジデンスの外観

「加賀学園通り」沿いに立つ。付近には、「加賀二丁目公園」「加賀中学校」「金沢小学校」など、加賀藩下屋敷にちなんだ名称が多くみられる

加賀レジデンスのエントランス

正面エントランスを入り、コンシェルジュカウンター前の空間を撮影。高級アパレルブランドのショップのような雰囲気

加賀レジデンスのエントランスロビー

エントランスロビー。シンプル&シャープな印象

管理組合理事長のIさんが加賀レジデンスを購入したのは8年前。それまでは近隣の賃貸マンションに住んでいた。

「これだけ洗練されたデザインですから、もちろん存在は知っていました。そろそろマイホームを買うタイミングかなと思っていたところ、たまたま中古で売りに出されていたので、『マンションの内部はどうなっているんだろう?見てみたい!』と興味もあり、見学したんです。
驚いたのは、室内の開放感でした。特殊な構法で梁や柱が出ておらず、とてもフラットな空間だったんです。家具のレイアウトの制約がなさそうだな、という印象をもちました。しかも天井高は約2.5mあり、床から天井付近までがガラス窓で、日がたっぷり入り込む。賃貸と分譲はこうも違うのか、と痛感しました。条件も良く、ほぼ即決しましたね。
ただし、ガラス面が広いので既製のカーテンだと合わなさそうで、費用がかさむかも…という思いもほんの少し心をよぎったのですが(笑)」

入居時は妻と二人暮らしだったが、現在はお子さんが生まれてファミリーに。共用施設のキッズルームの存在が助かったという。

加賀レジデンスのキッズルーム

キッズルーム。ここも専用住戸と同じく、天井高2.5mで床から天井までガラス窓が入っている

加賀レジデンスのライブラリー

ライブラリーラウンジ。本棚の本はほとんど住人から寄贈されたもの

加賀レジデンスに設置されているECサービス

生鮮食品に特化したECサービス、クックパッドマートの受け取りボックスが設置されており、特に共働き家庭に好評。現在、50世帯以上が利用しているという

「近隣には公園やポニーに乗れる動物園、石神井川沿いの遊歩道など、子どもと安全に遊べる場所がたくさんあるのですが、雨が降った日は出かけづらくなります。そんな時にキッズルームは重宝しましたね。そこで同じように子どものいるファミリーと顔見知りになり、そこから交流の輪も広がりました」

東日本大震災で確認した免震構造の実力

もうひとりお話をうかがった管理組合理事のSさんは、2008年の新築分譲時に購入した。魅力を感じたのは建物の耐震性だ。

加賀レジデンスの管理組合理事

取材に応じていただいたお2人

加賀レジデンスのアトリウム

1階のアトリウム。エントランスに面している明るい空間。右側に入るとキッズルーム、ライブラリーラウンジなどの共用施設がある

加賀レジデンスの共用廊下

マンション内の共用廊下・コリドー

「私は免震構造であったことが大きなポイントでした。家族や財産を守るためにも、マンションの堅牢性を重視したんです。はからずも2011年の東日本大震災で、免震構造の実力を知ることができました。私はあの時、オフィスにいたのですが、在宅していた妻いわく『もちろん揺れたけれど、ゆらゆら、という感覚で関東のほとんどの地域で感じられた強い揺れはなかった』とのこと。棚の上のモノは何一つ落下しなかったし、金魚を飼っていた水槽の水もこぼれなかったそうです」

その後もたびたび大きな地震は起きているわけだが、揺れ方はゆっくりで心理的な恐怖を感じることはほぼないそうだ。この地震の大きな揺れを免れる仕組みは、加賀レジデンスを企画・設計・施工した、鹿島建設が開発した独自の壁式免震構造のたまものだ。壁式構造は、従来、中低層建物に適用されていたが、鹿島建設独自の技術で14階建ての高層化を実現した。Iさんが室内を見た時の第一印象である「梁や柱のないフラットな空間」も、この独自構造がもたらしている。

「ちなみに、ここの近隣には、災害発生時に給水ステーションになる『板橋給水所』もあるんです。まだお世話になった経験はありませんが、マンション購入前、住環境を調べているときに存在を知り、心強く感じました」(Sさん)

自然災害が激甚化している昨今、マンションが立つ地盤の強さや過去に自然災害が起きた事実はないかなどを調べるため、自治体が公表しているハザードマップを確認する人も増えている。それに加えて、Sさんのように視野を広げて住環境をチェックすることも大切だろう。「災害時」「給水所」などのキーワードで検索すると、地元自治体の給水所の情報が確認できるので、気になる方は調べてみてもよさそうだ。

大規模修繕工事に向けて立ち上げられた「特命チーム」

また、Iさん、Sさんは、管理組合の一員として、マンションの防災対策にも取り組んでいる。

「力を入れているのは、このマンションのオリジナルの防災情報を集めたA4判の冊子編集です。マンション内の避難経路、周辺の一時避難場所などをまとめています。あまりにページ数を増やして“大作”にしてしまうと、いざという時に適切な情報を見つけづらくなるかもしれないので、必要な情報を厳選することを意識しています。
また、マンション内には防災倉庫も設置されていて、総戸数246戸、1住戸当たり2人居住と想定し、水や非常食を一定量備蓄しています。緊急時配布方法、ストックの管理なども洗い直しを進めているところです」(Iさん)

来年に迫っている第1回の大規模修繕工事に向けた準備も大きな課題とのこと。

「長期修繕計画では、築15年目に外壁塗装、防水工事などを主な項目として大規模修繕工事を行うことになっていまして、第1回目工事は2023年を予定しています。理事会は理事10名で構成されているのですが、大規模修繕工事が議案となってきた2020年ころ、建築や修繕に関する知見をもっている人がいなかったそうなんですね。工事をどのように進めればいいのか、手探りの状態だったそうです。もちろん管理会社のサポートはありますし、不可欠なのですが、できるだけ管理組合が主体となって取り組みたい。そのためにはどうすれば良いかを議論されたと聞いています」(Iさん)

第三者の観点からアドバイスをもらえるように、外部のコンサルを入れてはどうか、という意見もあったそうだ。

「しかし、このマンションは計246戸の大規模であり、もしかしたら住人のなかに建築に関する知識をお持ちの方がいらっしゃって、力を貸してくれるかもしれない。そう考えて有志を募ってみたところ、4名の方が手を挙げてくださったということです。建築関連会社にお勤めの40代の現役世代の方や一級建築士も含まれていて、強力なメンバーが集まりました。
2020年、その方々で、理事会とは別に『大規模修繕委員会』を結成。現在に至るまで3~4カ月に1回のタームで打ち合わせをしています。今の課題は設計、施工会社の選別。丸投げするのではなく、住人目線からの透明性の高さがポイントです。皆さんからいただいた大切な修繕積立金が、工事のどの部分にどのくらい充当されるのかなど、見える化してもらえる会社を軸に選定していくことになると思います。
デザインや構造に惹かれてこのマンションを購入した住人は多く、愛着やこだわりをもっている人は多いので、大規模修繕工事に対する関心は高いはず。竣工時から継承されているマンションの世界観を踏襲する工事が進められれば良いですね」(Iさん)

加賀レジデンスの立体駐車場

正面に見えるのは機械式立体駐車場。ルーバーで囲まれたスタイリッシュな施設だ

加賀レジデンスの立体駐車場

駐車場を背にして見上げて撮影。表通りからは見えないアングルだが、こちらも美しいデザイン

お菓子づくりからスタートした住人交流の輪

Sさんは別のトピックとして、コミュニティー形成の促進につながりそうな動きを紹介してくれた。

「加賀レジデンスには、ゲストルームやパーティールーム、ライブラリーなどの共用施設があるのですが、コロナ禍以降、使用が敬遠されがちになり、空きが目立っていたんです。理事会としては、もちろん感染対策に留意しながらも、せっかくの施設がほぼ使われない状態になってしまうのはもったいなく、何かほかの用途に使えないかなど模索していました」

加賀レジデンスのパーティールーム

パーティールーム。奥にキッチンが付いている

加賀レジデンスのパーティールーム

パーティールームのキッチン手前のダイニングテーブル。上には天窓と照明があり、明るい

そんな折、タイミング良く住人からひとつのアイデアが出てきたという。

「昨年の秋ごろ、ある方から『パーティールームを借りて、住人間の知り合いの輪を増やすことを目的に、月1回程度、ケーキやお菓子づくりの教室を開きたいのですが』とのお申し出があったんです。聞けばその方はお菓子づくりの腕がプロ並みで、これまでは自宅を使って少人数を集め、プライベートで小さな教室を開いていたとのこと。
コミュニティー形成の一助としてパーティールームを使い、1度に5人程度まで人数を制限して開催するという条件を申し出ていただき、理事会としても問題ないと判断しました。
昨年から始まって、少しずつ口コミが広がっており、参加希望者が増えているそうです。教室を開催されている方は材料費以外、特に会費は取らず、ほぼボランティアのような形で行ってくださっていて、理事会として本当に感謝しています。この成功事例をきっかけに、今後も同様の提案があれば、柔軟に対応していきたいですね」(Sさん)

加賀レジデンスのイベント

カップケーキづくり教室のひとコマ。生徒全員が集中して取り組んでいる(画像提供/加賀レジデンス管理組合)

加賀レジデンスのイベント

お子さんを対象にした教室も開催(画像提供/加賀レジデンス管理組合)

加賀レジデンスのイベント

教室でつくられたカップケーキ。商品として売れそうな出来栄え!(画像提供/加賀レジデンス管理組合)

エントランス前のイルミネーションで魅力向上を

また、理事会では、コミュニティー形成の一環として、住人全員の目に触れる場所を整備し、より愛着を持ってもらう取り組みも始めた。以前は11月になるとエントランスロビーにクリスマスツリーを置き、子どもたちに自由にオーナメントの飾り付け体験をしてもらう恒例行事があったが、コロナ禍によって中止に。
その代替案として、昨年末に植栽会社さんから提案されたのが、建物外のエントランスアプローチ右側の樹木のクリスマスイルミネーションを、より華やかな装飾に変えることだった。管理組合の備品としてLED電球を新規に購入する必要があり、経費はかかるが、完成予想の質の高さからイルミネーションの更新を決断。昨年12月に実施した。

「結果は大成功で、多くの住人から高評価をいただきました。近隣の方も写真を撮られたりしていて、加賀レジデンスの新たな魅力になると期待しています。あまりに好評だったので、年が明けても引き続きイルミネーションを点灯させていたんですよ」(Iさん)

加賀レジデンスのエントランス

2021年12月から約2カ月間にわたって行われたエントランス前のイルミネーション点灯。穏やかな気分で帰宅できそう(画像提供/加賀レジデンス管理組合)

さらに、敷地の南面道路に配置されていたシンボルツリーも更新。竣工以来、住人に親しまれていたエゾマツの生育状態が悪化してしまったことから、今年、2022年2月に「ドイツトウヒ」に植え替えた。ドイツトウヒはヨーロッパの北部~中部を原産とするモミノキの仲間で、クリスマスツリーに使われる定番の樹木。成長が楽しみですとIさんは話した。

加賀レジデンスのシンボルツリー

植え替えられた新・シンボルツリーのドイツトウヒ

石神井川

近くを流れる石神井川の両岸は桜並木。写真奥に見えるのが加賀レジデンス

ソフト・ハード両面から、一段と美しく、快適なマンションへ

最後に、今後、加賀レジデンスをどんなマンションにしていきたいかを聞いてみた。

「DX化がひとつのカギになると思っています。既にプロジェクターを使って、理事会の打ち合わせに必要な資料はすべてスクリーンに映す方法に切り替え、それまで膨大な量を消費していた紙資料を大幅に削減していますが、合わせて、リアル対面とオンラインのハイブリッド理事会に移行したいと思っています。そのため集会室のWi-Fi環境を整備しました。
また、共用施設の使用料支払いや予約状況などの確認システム、月々の理事会活動報告、総会で配布する資料などのデータベースに住人がアクセスできる仕組みの構築も直近の目標です。既に受け皿となるプラットフォームは管理会社さんのほうでもっているので、後は、理事会としてどんな項目にアクセスできるようにするか精査する段階。来期中の実現を目指しています」(Sさん)

「物件の質を落とさずにどれだけコストを削減していくかも理事会に課せられたミッションと考えています。将来、仮に管理費、修繕積立金の値上げをすることになった場合に備え、コストカットの実績を積み上げ、バランスを取って住人の皆さんの納得度を高めていきたいですね」(Iさん)

ソフト面でも魅力の向上を目指す加賀レジデンス。ハード面の更新では、来年2023年に前述した大規模修繕工事が控えている。ソフトとハード両面から、一段と美しく、快適なマンションに進化していきそうだ。

加賀レジデンスの銘板

※今後のイベント開催、共用施設の使用は新型コロナウイルス感染症対策のため上記の通りではありません

構成・取材・文/保倉勝巳 撮影/吉田 武

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