池本洋一(以下、池本): 毎年恒例の「2015年 みんなが選んだ住みたい街ランキング関東版」が3月にリリースとなりました。今日は、昨年9位から今年5位にランクアップし、現在もめまぐるしい再開発が行われている武蔵小杉に集まっていただきました。関東に居住する20代~40代の男女3000人が対象のアンケートをベースに得点形式のランキングを実施している住みたい街ランキングですが、昨年に引き続き「吉祥寺」が1位。実は去年、吉祥寺が356点だったのに対し、恵比寿が309点と差があまりなかったんです。それが今年は吉祥寺が100点近く恵比寿をつきはなして、結局は不動の1位になりました。この点についてどう思われますか?
三浦展(以下、三浦):ここ最近の吉祥寺の変化でいうと、2013年にドン・キホーテ、2014年に京王キラリナ吉祥寺のモール、ヤマダ電機(LABI吉祥寺)、都内最大級のユニクロができたりと、いわゆる吉祥寺らしいオシャレな個店というより、カジュアルなショッピング環境が駅前にそろいましたよね。
池本:そうした商業施設ができたことが、街の魅力を底上げしたということでしょうか?
三浦:街を訪れる人の数が増えたことで、吉祥寺の魅力を知る人が増えたのかもしれませんね。ユニクロに買い物に行ったついでに吉祥寺をブラブラしたときに、雑貨店や飲食店が充実していて、来てみたらやっぱり吉祥寺いいよねと。カジュアルなショップが増えたことで、吉祥寺を訪れる人の分母が広がったのかな。
武田憲人(以下、武田):『散歩の達人』でも今年の1月号で吉祥寺の特集をやりましたけど、相変わらず好調です。中央線沿線では一番と言ってもいいくらい反響があります。観光ガイド的に読まれる方も多いですね。全体通した累計でいうと、吉祥寺特集は鎌倉特集に次いで好評な印象です。
池本:総合ランキングでも1位ですが、性別ごとにみても男性が2位で女性が1位、ライフステージごとも、シングル・DINKS・ファミリーすべてにおいて、やっぱり吉祥寺が1位なんですよね。
三浦:どの世代からも支持されるのは、間違いなく強みですよね。
武田:井の頭公園の存在も大きいですよね。
三浦:確かに、井の頭公園がなければ圧倒的な1位ではないかもしれない。
武田:井の頭公園はどの世代にもアピールできますよね。散歩エリアとしても魅力的です。園内ではアーティストが音楽や作品を披露していて表現を楽しめる場でもあるので、若い世代が刺激をうける何かがありますよね。公園だけじゃなくて、喫茶店とか飲み屋もしかりで、高円寺ほどディープではないですが、中央線沿線にある街の“オモシロエッセンス”をぎゅっと集めたような街が吉祥寺なんじゃないかな。
三浦:そういう意味でいうと、恵比寿が2位なのはなんででしょう?
池本:IT企業の進出があるような気がしますね。ガーデンプレイスのなかもIT企業が増えています。割とクリエイティブな企業が恵比寿に移っているのかなという印象です。あとは、昔ながらの面影を残しつつ商店街の新陳代謝が結構あって、新しいリノベ系のカフェも出来てきているんですよね。
三浦:歩く方向を変えるだけでも、恵比寿ってだいぶ違いますよね。広尾の方向、ガーデンプレイスの方向、代官山の方向、恵比寿の商店街を出て坂をのぼっていく方向と、それぞれ表情が全然違う。恵比寿銀座からちょっと入ると緑の多い住宅地だったりして、ある程度自然も楽しめそうですよね。あとは、ガーデンプレイスの広場の魅力も大きい。吉祥寺も大きな公園がありますし、オープンな広場っていうのは街のランドマークになりますよね。
池本:吉祥寺と恵比寿は盤石のトップ2なのですが、ランキングのなかで目黒が去年の11位から4位に浮上しました。なぜだと思われますか?
三浦:南北線と目黒線がつながって横浜からのアクセスがよくなったことが大きいかもしれません。あと、ランキングをよく見ると目黒を含め、吉祥寺以外は東京の南西エリア。全体的に人気が南にシフトしている気がします。
池本:街に根ざしたカルチャーの変遷も関係あるかもしれないですよね。ちょっと古いですが原宿の竹の子族や裏原系ブランドが隆盛し、その後、渋カジで渋谷にと、流行が少しずつ移動。代官山や恵比寿にも、オシャレなカフェや美容室などが増えた。そして、IT企業が、六本木や恵比寿にオフィスを構えるなど、さまざまな人たちが移ってきました。では、ここにきてなぜ目黒など南のエリアにシフトしてきたのか?人気の街は不動産の賃料が上がっていくじゃないですか。だから新しく何かをしようとする人が入りにくくなっていきますよね。それで、南下傾向があるのではと。もう一つは羽田の国際化とか、品川がリニアの始発駅になるので交通面でも新しいネタが増えていますよね。
武田:あとは、目黒駅から徒歩7分くらいのところにある、東京都庭園美術館もリニューアルオープンしましたよね。僕のまわりでも結構待ち望んでいる人がとても多くて。ほとんど女性なんですけどね。また、庭園美術館のまわりを囲む国立科学博物館附属自然教育園も規模が大きく、美術館とガーデンの2つの役割を兼ね備えている。目黒はポテンシャルが高いなと思います。
池本:なるほど!上位の街には共通して、公園やガーデンといった大きなオープン広場がありますね。また、新しい潮流が生まれている風土もあるかと。起業家たちのコミュニティ「HUB Tokyo」や、会員制のシェア工房「Makers' Base」、新しいタイプのコワーキングスペースやスタートアップ企業もできましたよね。新しいことをクリエイトするセンスを持った人たちが仕事や生活をしていると、そこに引っ張られるかたちでオシャレなカフェができたりして、街の雰囲気も変わってきたということもあるかもしれませんよね。
三浦:確かにそれはいえるかもしれませんよね。目黒にはオシャレな立ち飲み屋とかビストロみたいなものが増えてきているような気がします。
池本:去年池袋が3位で注目されていましたが、ここにきてランキングが9位に下がりました。一方、「今後、地価が値上がりしそうと思う街」ランキングでは7位に入っています。東池袋駅直結に豊島区の庁舎が完成し大規模マンションも建設されましたが、これからも伸びそうでしょうか?
三浦:オリンピックに向けての国家戦略特区に豊島区は入ってないじゃないですか。いま、国家戦略特区に認められるように動いているらしいので、それによっては池袋の開発もより一層進むのかなと。
池本:池袋は副都心線の開発によってかなりオシャレな地下街が誕生するなど、かつての昭和な雰囲気から変貌しつつありますよね。西口を中心に女性向けのファッションビルも建ちましたし、東京芸術劇場もリニューアルオープンしている。街としてかなり変化はしていますね。また、「埼玉県民が選ぶ住みたい街ランキング」では、なんと3位にランクインしています。池袋の人気を支えているのは埼玉県民、といっても過言ではないかもしれないですね。
池本:続いて、最近話題の絶えない武蔵小杉ですが、5位にランクイン。さらに、「神奈川県民が選ぶ住みたい街ランキング」では、調査以来ずっと横浜が1位だったのですが、今年は武蔵小杉が1位になりました。神奈川県民人気に支えられている街といってもいいかもしれません。
三浦:生活利便性が高いエリアになりましたよね。駅に近いタワーマンションが好きな層にアピールできているのではないかと思います。人気を支えているのは、おそらく平均年齢35歳くらいのファミリー層で、ほとんどが、神奈川県の西部から引越して来た人たちなのではないでしょうか。夫の勤め先からそんなに遠くはなく、不動産価格もそこまで高くもない。さらに、商業施設も駅前にそろっている。子育て期は生活に欠かせない施設がコンパクトにまとまっているってすごく重要だと思うんですよね。生活エリアにどれだけそろうかが評価点になる。
池本:ただ、先ほど上位の街に共通だと話していた大きなオープンスペースや公園が少ない。駅近のショッピングモール「グランツリー武蔵小杉」の屋上が公園代わりになって、にぎわっています。いまの子育て世代ってあえて公園で仲間を見つけなくてもいいのかもしれないですよね。皆集まる場所が決まっているという安心感が必要なわけで、携帯とかLINEが主なコミュニケーション手段なので、ママにとって寂しくないというのがあるんだと思います。
三浦:いわゆる“おそろ世代”ですよね。学生時代に友達とおそろいの服を着ていたとか、学食に行く時間を待ち合わせたりとかっていうのが自然な世代がママになっている。もしかするとグランツリーの屋上は女子大のカフェテリアみたいなものかもしれませんね。
武田:うちで連載している武蔵小山在住のイラストレーターは、ママ友たちとわざわざ武蔵小杉へ行くそうです。子育て中のママたちにとって武蔵小杉は、足を伸ばしてでも行きたいコミュニティがある場所として認知されているようですね。
池本:武蔵小杉の駅周辺は工場だったところが開発されてマンションが建っています。そうした歴史の片鱗ともいえるかもしれませんが、武蔵小杉には味のある横丁が残っていますよね。先ほど、吉祥寺を訪れる人が増えているのではと話していたように、武蔵小杉もグランツリー目当てで来たけれど、実はは横丁があったりカフェにきたりとか、初めて訪れた人たちにとっての新しい発見が残されている点は武器かもしれないです。まだ賃貸の賃料がそこまで高くない、というのもうれしいポイントですよね。
池本:今年からスタートした「穴場だと思う街ランキング」ですが、総合ランキングで28位だった北千住がダントツの1位でした。
三浦:6路線通っているのでどこにでも行けるのが大きいですよね。東京スカイツリーができて、改めて北千住を知った人が多いのではないでしょうか。来てみたら近い!っていう発見があって、マルイやルミネ、個店もたくさんあって面白そうだと。知らないなりに来てみたらいいところだって感じやすい街ですよね。
池本:たまたま北千住の観光案内所に行ったら、リノベカフェとかリノベ居酒屋を紹介していて、「リノベ」というくくりでスポットを伝えていたんです。そういう街の変化をつかんで紹介している街って、意外に多くないですよね。
武田:「穴場だと思う街ランキング」上位の街のなかでは、北千住は観光的な要素が強いですね。立派な銭湯も多いですし、古い町屋なども残っている。昔ながらの街並みをそのまま残しているところに文化度の高さを感じます。
池本:2位につけた赤羽ですが、こちらも交通利便性がいいですよね。JR、埼京線、湘南新宿ラインなど6路線に加えて、上野東京ラインが開通しました。池袋駅まで10分、新宿駅まで15分、東京駅までも17分くらい。ここ最近赤羽を舞台にしたドラマなんかも放送されて、メディアで特集されることが増えた印象ですが、どのあたりが評価されているのでしょうか?
三浦:やっぱりシブい飲み屋ですかね。「まるます家」とか昔ながらの横丁の個店が強い。
池本:そういう「赤羽といえばここ」みたいなフラッグシップがあると人が集まってきますよね。吉祥寺にも「いせや」という老舗の焼き鳥店がありますが、そこを目指して行く人もいますよね。
武田:赤羽の飲み屋は東京中から人が来ます。朝から営業している居酒屋もたくさんあるんですよね。
池本:メディアの影響もあって従来の客層と違う客層が来ることで、老舗の飲み屋が最先端っぽく見えるというか。一方で、駅チカにはファミリー向けの商店街もリニューアルされて、いい二面性が出てきていると。
武田:私は清澄白河が来てほしいと思います。現代美術館ができたくらいから次にくると言われ続けていますが、最近ブルーボトルコーヒーが進出したり、ほかにもおしゃれなカフェやリノベした建物も増えている。由緒正しい下町として歴史もあって、感度の高い人たちも増えていますね。住んでいてじわじわ楽しくなる街だと思います。
三浦:大きなショッピングセンターや、いわゆるおしゃれな街はないけど長く住めるような落ち着いた雰囲気の街が上がってきてほしいと思いますね。毎日暮らして静かに楽しいところ。西荻、神楽坂、谷根千はもちろんですが、蒲田とか北品川とか下町としてポテンシャルがあるエリアがもっと注目されてほしい。あと、経堂や松陰神社も面白いですよね。情報発信してないから注目されにくいのでしょう。あとは、東京の中心からやや東側のCET(セントラル・イースト・トーキョー)と呼ばれる、神田、日本橋周辺の地域も今後伸びて欲しい。レストランやギャラリー、建築事務所などクラフトマンシップを受け継いだ若手が古いビルをリノベして移り住んでいるんですよ。
池本:僕は品川を中心としたVゾーン、蒲田、大森、大井町、五反田、大崎あたりは次にくるんじゃないかと思います。五反田も街のイメージが少しずつ変わってきて、バルとかも増えているんですよね。大崎も再開発で変わってきていて、そこに訪れた人が「いい店あるじゃん」みたいな発見が増えてくるのかなと。あとは門前仲町から東陽町、砂町あたりの古き良き商店街がある街も注目されてほしいなと思います。中野が象徴的ですが、もともとあったポテンシャルに交通の利便性とか再開発が加わると、その街が一気にブレイクスルーしますよね。