生命保険の死亡保障を考えるときは、
「いま自分が死んだとすると、残された家族は金銭的にどの程度困るのか」
というところを出発点にすべきです。
比較的多くの人が、社会人になったり、結婚したりするタイミングで死亡保障のついた生命保険に加入したのではないかと思いますが、ケガや病気などに備えるための医療保険や傷害保険ならまだしも、死亡保障は入社や結婚を加入タイミングと考えるのは、必ずしも適切ではありません。
一般に、本当の意味で死亡保障が必要になる時期は、子どもが産まれた瞬間からだといえます。世帯主である夫が万一死んでしまうと、残された子どもが困るからです。遺族年金などで最低限の生活はできるかもしれませんが、そのような公的な保障だけでは資金不足になる可能性があります。そのような事態に備えるために死亡保障はあるのです。
とはいえ、世帯主が万一死んだとしても、残された家族が金銭的に困らないのであれば、死亡保障の必要性はありません。世帯主死亡後の金銭的困窮の有無を冷静に見積もって、死亡保障の加入の是非を検討することが大切なのです。
当然ながら、死亡保障の必要性は、その人と家族の置かれた環境によっても異なります。しかし、基本的に数千万円もの死亡保障が必要な人はそれほど多くはいません。特に、住宅ローンを組んだ際に団体信用生命保険(以下、団信)に加入した人なら、なおさら死亡保障の必要性は低くなります。団信への加入は、生命保険(死亡保障)の絶好の見直しチャンスです。見直しによって保険料負担を軽減できるなら、住宅ローンの返済に回せるお金が増えて、将来の家計にとって大きなプラスになるでしょう。
ちなみに、原則として、18歳未満の子が1人いる妻に対しては、夫の死後、子が18歳到達年度末まで(ほぼ高校卒業まで)年間で約100万円、18歳未満の子が2人いる妻には年間で約123万円の遺族基礎年金が出ます。夫が厚生年金加入者なら、さらに死んだ夫の年収の10%前後の遺族厚生年金が毎年受け取れるのが通常です。
したがって、18歳未満の子どもが2人いるサラリーマンの妻に対しては、年間150万~200万円程度の遺族年金が出るのです。団信に入っていれば、夫の死によって住宅ローンの返済もなくなります。妻が少しパートでも働けば、生活費くらいはなんとかなるでしょう。子どもが小さい場合、将来の教育費として1人あたり1000万円程度の保険金が受け取れれば十分かもしれません。そして、子どもの成長とともに必要保障額は下がっていき、子どもが高校生や大学生になるころには必要保障額はほとんどなくなると考えてもよいでしょう。
というのも、子どもが高校生以上になっていれば、世帯主に万一のことがあった際に保険金が出なかったとしても、子どもが本当に勉強をしたいのであればアルバイトをしながらでも学校に通うことはできます。団信に入っていれば住宅ローンはなくなりますし、妻には遺族厚生年金が出ます。子どもが大きければ、妻が働ける時間も長くすることができるはずです。したがって、死亡保障が最低限必要な時期は、子どもが生まれてから高校生になるころまでと考えておくとよいでしょう。
もちろん、万一の際に残された家族には多くのお金を残したいと思うのであれば、多額の死亡保障を長期間契約していてもかまいません。しかし、保険というものは、その根本的な仕組み上、確率論上は加入者が必ず損をするようにできています。保険への過度の加入は家計運営上、貯蓄効率の悪い家計体質にしてしまいます。これを機会に、現在加入している保険の必要性を冷静に考えて、見直しをしてみてください。
イラスト/杉崎アチャ