
住宅ローンの滞納がつづくと借入先(銀行など)から督促状が届くなどし、遂には残った住宅ローンの一括返済を求められることになる。場合によっては不動産が競売にかけられてしまい、その住宅は手放すことになってしまう。
手放したくなければ、ローンの支払いが苦しいと感じたタイミングで銀行などに返済スケジュールや返済方法の変更を相談したり借り換えを検討したりしてローンの返済を続けられる環境を整えることが重要だ。
記事の目次
住宅ローン滞納のあと起こることとは?
滞納1カ月をめどに督促状が届く
住宅ローンを滞納し続けると、銀行などから督促状が届く。それを無視しているとあとで詳しく説明するように「期限の利益の喪失」の通知や「代位弁済」の通知が届いたあと、裁判所から「競売開始決定」の通知が届く。
競売によって売却されてしまう
滞納が続くと最終的にあなたの住宅は「競売」によって売却され、そこから銀行や保証会社がローンの残債を回収することになるのだ。
この競売という手続きは法律によってプロセスが明確にされているので、ローンを滞納しているあなたには何もすることがないし、トラブルに巻き込まれる恐れもきわめて低い。
任意売却という方法もある
一方、競売によらず一般の不動産市場であなたの住宅を売却し、それでローンの残債を清算する方法もある。それが「任意売却」と呼ばれるものだ。
法律に則った処理という意味で競売を「法的処理」と呼ぶとすると任意売却は「私的な処理」といえる。
一般には、任意売却の方が競売よりメリットが多いとされることが多いが、いわゆる任意売却専門と称する不動産会社の中には悪徳業者もおり、法的な背景をもたない「私的な処理」だけにトラブルの可能性もある。ローン残債のある物件を売却する際には、事前に住宅ローンの債権者(銀行、保証会社など)の合意が必要となるが、不動産業者ができることは宅地建物取引業法が認める通常の売却業務だ。銀行、保証会社など(債権者)との交渉はあくまでもあなた(債務者)自身が行わなければならない点を押さえておきたい。

フェイズ0.住宅ローン返済が「苦しい」と思ったらまずやること。やってはいけないこと
まずは銀行に相談だ
あとで詳しく触れるように住宅ローンの滞納がつづくと銀行などローンの借入先から督促状が届く。それを何度も無視していると、遂にはローン残債の一括返済を求められる。そもそも毎月のローン返済にも窮しているわけだから、この段階で一括返済に応じられるわけがない。従ってここまできたら、その住宅は手放すことになってしまう。
手放したくなければ、実際にローンを滞納するもっと前の段階、つまりローンの支払いが苦しいと感じたタイミングで、とにかく銀行などローンの借入先に相談することが肝心だ。
お金の専門家で元三井銀行支店長、現不動産オーナーの菅井敏之(すがい・としゆき)氏にローンの返済がきついと感じたときにすべきこと、してはいけないことを聞いてみた。
銀行は返済方法変更の相談に応じてくれる
菅井氏によればローンの支払いが苦しい事情を銀行に説明すれば、返済スケジュールや返済方法の変更の相談に応じてくれるという。
「20年、30年とローンの返済を続けていくわけですから、その間にはいろいろなことがおきます。職を失うこともあるし、事故や病気で収入が一時的に下がることもあるでしょう。そのあたりは銀行もよくわかっていますから、ローンの返済が苦しいと感じた段階で銀行に相談すれば、返済スケジュールや返済方法を変えてもらうことは可能です」(菅井氏)
銀行などに相談して返済期間や返済額を変更してもらうなど、ローンの返済を続けられる環境を整えることができれば、住宅を手放す可能性を低く抑えることができる。
「銀行は杓子定規で融通がきかないとか、返済スケジュールや返済方法の変更に応じてくれるはずがないとか思っている方もなかにはいるようですが、それは誤解です」(菅井氏)
担当者には正直にすべてを話す
逆に、この段階でやってはいけないことは、住宅ローン返済が苦しいからといって無担保ローンなどに手を出し、それを住宅ローン返済にあて、あらたな債務を増やしてしまうことだ。住宅の売却によってローン残債を清算しようとする際、債務の数が多ければ多いほど話が複雑になる。
「銀行に相談するときは、こうした複数の債務もふくめ、担当者に正直にすべてを話すことが大事です。あとになってわかると信頼関係にひびがはいることもあります」(菅井氏)

余裕があるなら借り換えをするのも方法
住宅ローンの返済がつらいと思ったら、いまのローンより金利の低い住宅ローンに借り換えて月々の支払いを軽くするのもひとつの方法だ。
現在借りているローンを別の金融機関から新たに借りた条件のよい住宅ローンで一括返済し、ローンを入れ替える。現在のローン残債を全額借り換えた場合、現在の住宅ローンよりも金利が低ければ、その分、毎月の返済額を抑えることが可能になる。
ただ、借り換える際には融資手数料や、新たな抵当権設定登記費用、印紙税などの諸費用がかかるし、現在の住宅ローンの完済に伴う抵当権抹消費用もかかる。こうした諸費用を考慮しても借り換えにメリットがあるか慎重に検討する必要がある。
また借り換えができるのは、実際に収入が減る前の段階までだ。職を失ったり病気になったりした場合、借り換えは非常に厳しくなる。借り換えを検討するのは、収入が安定していて余裕のあるうちに行うのがいい。
フェイズ1.銀行などから督促状がくる
最初の滞納
では決められた住宅ローンの返済日に口座から引き落としができなかった場合、あなたにどんなことがおこるのだろうか。
ここではまずまったく銀行に相談をせず督促にも応じずに滞納を重ねた場合にどうなるかを再現してみることにしよう。
最初の滞納に対しては、銀行などから電話やメールで入金を促す案内がくるので指定された期日までに滞納分を入金すれば問題はない。ただ滞納に厳しい銀行などもあり、たとえ数日の滞納でも、その分の延滞利息や遅延損害金を請求される場合があることは知っておきたい。
2回目、3回目の滞納
ローンの滞納が2カ月分をこえると文書(葉書や手紙)による督促状があなたの元に届くようになる。
督促状には滞納期間のほか、毎月の返済額に遅延損害金(滞納に対するペナルティ)が加算された請求額が書かれている。銀行などによっては文書による督促だけでなく、電話で督促する場合もある。
いずれにせよ3回目の滞納ぐらいまでは、滞納が発生していることへの注意喚起を促すのが目的のため、これ以降、滞納者に届く文書にくらべると「やさしい」表現になっている。
3回以上滞納すると滞納分の一括支払いを求められる
滞納3回目ぐらいまでは督促状の内容もそれほど厳しいものではないが、4回目の滞納を迎えるあたりから、次第に厳しい内容になる。
この段階までに自主的に累積した滞納分と遅延損害金の支払いに応じられれば大きな問題にはならないが、それができないとこれまでの滞納分と損害遅延金の一括支払いを求められる。同時にこの段階でいわゆる「ブラックリスト」に名前が載ってしまうことになる。
ブラックリストに載るとは
「ブラックリストに載る」とは下記の信用情報機関の名簿に事故情報として名前が載ることを指す。
その信用情報機関とはつぎの3つ。
- 全国銀行個人信用情報センター
- 株式会社シー・アイ・シー
- 株式会社日本信用情報機構
一度ブラックリストに名前が載ってしまうと、5年~10年間は削除されることがなく、その期間はクレジットカードの利用ができないという不便なことが起こる場合もある。カード決済ができないと生活に支障がでる人は多いだろう。また新たなローンを組むことができなくなるので、改めて住宅を購入することはもちろん、クルマを購入するのも難しくなる。
滞納が2回3回と重なると、その影響がさざなみのように生活全般に広がっていくので注意が必要だ。
督促状は銀行からのメッセージ
この段階での注意点を菅井氏に聞いてみると、滞納者には銀行からの督促状をまったく無視し担当者とコンタクトさえとろうとしない人が多く見受けられたという。
「住宅ローンの返済がさらに苦しくなって実際に滞納が起きてしまっても、多くの滞納者が銀行に相談にいかない。これは非常にもったいないことだと思います。とくに3回目の滞納までの督促状は、相談にきてくださいねという銀行からのメッセージと捉えてほしいですね」(菅井氏)。
せっかく銀行が返済スケジュールや返済方法の変更の相談に応じてくれるというメッセージを送っているのに、それを無視するのは損だ。

フェイズ2.ローン残債の一括返済を求められる
滞納4回目あたりで「期限の利益の喪失」の予告がくる
最初の滞納から3、4カ月がたち、滞納分の一括支払いを求める督促にも応じないと「期限の利益を喪失しますよ」という内容の通知が銀行から届く。そこには「このままの状況を放置しておくと銀行は法的な手続きをとる」というような文言が記載されている場合も多い。
「期限の利益」を喪うとは
そもそも「期限の利益の喪失」といわれてもピンとこない人がほとんどだろう。では「期限の利益」とは何か。
たとえば返済期間35年で3000万円を借り毎月10万円返済する契約をしたとしよう。その後借り主からすぐに全額返済してほしいと要求されたらどうするか。そんな債権者の理不尽な要求からあなたを守ってくれるのが「期限の利益」だ。期限の利益に守られているあなたは全額返済する必要はない。契約どおり毎月10万円づつ35年という「期限」まで返済を続ければいい。
「期限の利益の喪失」とは、あなたがローンの滞納によってこの契約を破ったため「期限の利益」を喪うことを意味している。簡単にいえば、これ以降あなたは借り入れた3000万円を分割で払えなくなる。銀行など債権者から求めがあれば一括返済しなければならなくなるのだ。
滞納5回以上でローン残債の一括返済を求められる
滞納が5回をこえたあたりで予告ではなく「期限の利益の喪失」したことを伝える文書が届く。これ以降はローンの滞納分だけを支払おうとしても銀行などは受け取ってくれず、あなたは住宅ローン残債の一括返済を求められることになる。
一方この段階になると住宅ローンに保証会社による保証が付いている場合は、銀行などローンの融資元が保証会社に対して残債の支払いを求める。保証会社は支払いに応じると同時に債務が保証会社に移ったことを知らせる「代位弁済通知」をあなたに送ってくる。
滞納6回から7回で「代位弁済通知」がくる
「代位弁済」というのは「利益の期限」と同様、法律用語だ。「代位弁済」とは保証会社銀行などが債務者であるあなたに代わって住宅ローンの残額を銀行に支払うこと。それを行ったという知らせが「代位弁済通知」だ。これ以降、あなたの住宅ローンの残債を返済する相手(債権者)が銀行から保証会社に変わる。従って返済に関する交渉は銀行ではなく保証会社との間で行う。
なお、代位弁済通知がこない場合は、銀行などが保証会社を利用していないので、引き続き銀行などローンを借りた金融機関から一括返済を求められることになる。

フェイズ3.差押から競売へ
ローン回収の第一歩が「競売の申立」
銀行や保証会社から「期限の利益の喪失」と「代位弁済通知」が届き、それでもあなたが銀行や保証会社と連絡をとらず、ローンの残債を一括返済できないでいると、債権者(銀行などの金融機関や保証会社)は、ローンの対象となっているあなたの住宅を売却し、ローンの残債を回収しようと動き出す。その第一歩が裁判所への「競売の申立」だ。
この申立ては、競売の対象となるあなたの住宅の所在地を管轄している裁判所に書面で行われる。あなたの住宅が東京23区か諸島部にあれば東京地裁の本庁に申立てられることになる。
競売開始決定通知と差押
ここでいう競売は、正式には「不動産競売」と呼ばれる。民事執行法という法律に則って行なわれる手続きで裁判所のホームページでは以下のように定義している。
「不動産競売手続は、債権者の申立てにより目的不動産を差し押さえてその不動産を売却し、売却代金から配当を受けて債権の回収を図る手続」
債権者が行った競売の申立(もうしたて)が適法だと認めると、裁判所は不動産執行手続きの開始とあなたの不動産を差押えることを書面等で宣言する。これが競売開始決定と呼ばれるものだ。
この競売開始決定はあなたの住所に送られてくるので、必ず開封して確認することだ。
競売開始決定が通知されると、競売の手続きが本格的に動き出し、これ以降あなたの不動産は債権者(銀行や保証会社など)の同意なしに勝手に売却できなくなる。
三点セットを作成のための調査は拒否できない
つぎに裁判所は、執行官や評価人(不動産鑑定士)にあなたの住宅の詳細な調査を命じる。
調査のために執行官や評価人があなたの住宅に立ち入りを求めてくるが、これは拒否できない。不在を装ったりしても専門業者に錠をあけさせ立入調査を行う権限を持っているので意味がない。
この詳細な調査を基に、買受希望者に閲覧してもらうための資料、いわゆる三点セット(物件明細書、現況調査報告書、評価書)が作成される。
売却基準価額の決定
裁判所は、三点セットの作成と同時に評価人にあなたの住宅の不動産価値の評価を求め、それに基づいて売却基準価額を定める。
売却基準価額は、あなたの不動産を競売で売却する際の基準となるものだ。「価格」ではなく「価額」と呼ばれる点に注意。この売却基準価額から、その10分の2に相当する額を差し引いた価額を買受可能価額といい、買受可能価額以上の金額でないと入札できない決まりになっている。
第1回目は「期間入札」で
ここまでの準備が整うと裁判所は、売却の日時、場所、売却の方法などを定め(売却実施処分)、あなたにも通知が届く。売却の方法には期間入札、特別売却などいろいろあるが、第1回目の売却方法としては、定められた期間内に買受希望者が入札をする期間入札が選択される。
あなたの住宅が競売によって売却されることが公になる日を「公告日」という。同時に先に触れた三点セットがだれでも見られるようになるので、この日は「閲覧開始日」とも呼ばれる。
これ以降あなたの住宅の「三点セット」は管轄の裁判所の閲覧室で見ることができるほか、不動産競売物件情報サイトBITで見ることができ、三点セットのダウンロードも可能になる。
入札から立ち退きまで
期間入札は決められた期間(通常は1週間)の間に買受希望者が入札書を提出し、買受可能価額以上でもっとも高い金額で入札した人が落札し、代金を納付した時点で事実上所有権がこの人に移転する。
したがってあなたが競売の対象となった住宅に合法的に住めるのは、このあたりまでだ。いつまでに立ち退きをするという明確な期限はないが、新しい所有者から立ち退きを求められたら立ち退かざるを得ない。
権利がないのに競売不動産に住み続けた場合は、新しい所有者が裁判所に申立てをすれば、確定した引渡命令を得ることができるから、あなたは執行官によって強制的に立ち退かされることになる。
競売開始決定から立ち退きまで6カ月から1年程度かかる
裁判所から競売と差押の開始決定が送られてきたあと、あなたがいま住んでいる住宅から立ち退くまでにかかる期間は、手続きがスムーズにいった場合は6カ月から1年程度。途中で手続きが停止したりするともっとかかる場合もある。
さらに負債が残ってしまう場合もある
ローン残債の額によっては競売による売却代金だけでは完済できない場合がある。あなたがローン残債の一括支払いを求められたときの金額(ローン残債)が4000万円だったとしよう。この住宅が競売によって4000万円以上で売れれば一件落着。あなたは住宅を喪うことになるが、債務も帳消しになり、場合によっては競売による売却代金の一部が手元に残る可能性もある。
逆に競売で3500万円でしか売却できなかった場合は、500万円が負債として残ってしまうことになる。あなたは住宅を喪った上に残り500万円の支払い義務を負うことになるのだ。
残った負債の支払い方法は債権者(銀行や保証会社など)と交渉することになる。どうしてもこの負債が払えない場合は「破産」という選択もあるが、「ブラックリストに載る」以上のさまざまなデメリットがあるのでよく考える必要があるだろう。

「任意売却」と「競売」の違い
競売は住宅ローン滞納処理の標準に
ここまでは、まったく銀行に相談をせず督促にも応じずに滞納を重ねた場合にどうなるかをシミュレートしてみた。
滞納の発生から競売に至る過程(フェイズ1からフェイズ3)は、いまや民事執行法などさまざまな法律に則って行われる「住宅ローン滞納処理の標準的な方法」と呼ばれるようになった。法律に則って行われることから「公的処理」と呼ばれることもある。
以前は競売といえば一般人はもちろん一般の不動産業者もタッチできないような「闇の世界」とされてきた。とくに競売で売却された物件に居座って立ち退き料などを要求する「占有屋」の存在は、競売物件の価格が一般の不動産市場より大幅に低くなる要因となり、「競売にかかると安く買いたたかれる」というイメージが出来上がってしまった。
しかし最近では、とくに競売の根拠となる民事訴訟法及び民事執行法やその施行規則などが社会の変化に合わせて改正が繰り返され、たとえば先に触れた「占有屋」を排除する仕組みも確立されてきている。
そのため一般の不動産業者が競売を再販売する目的で仕入れ先のひとつと考えたり、一般人が投資用や居住用に買い受けたりするのも普通になっている。それに伴い競売による実際の売却価額は、市価と同等かそれ以上になるケースも出てきている。
債権者の同意の下で「任意売却」する方法もある
ここで知っておいてほしいのは、住宅ローン滞納処理の方法が競売による売却だけではないという点だ。
あなたが3回目の滞納をしてしまったあたりのタイミングで銀行などローンの借入先と相談の上で、「期限の利益の喪失」の通知や「代位弁済」の通知を出される前に、住宅を売却し、ローンを一括返済するという方法がある。
この方法は、競売による住宅ローン滞納処理が法律に則った強制的な処理であるのに対して、あなた(債務者)と銀行や保証会社など(債権者)との間で任意に行うローン滞納処理であるという意味で「任意売却」と呼ばれることがある。
任意売却のメリット・デメリット
任意売却と競売のもっとも大きな違いは、任意売却が一般の不動産市場であなたの住宅を売却し、それによってローン残債を清算しようとするのに対して、競売は不動産競売という特殊な市場で売却し、ローン残債を清算しようとする点だ。
そのため任意売却では、買い手にはあなたが住宅ローンを滞納した結果、売却に至ったという事実を知られることがない。住宅ローンを滞納したのを周囲に知られたくないという人にとって任意売却は大きなメリットがあるようだ。
また通常の不動産取引とまったく同じであるため、売出価格にあなたの意志をある程度反映させることができる。
さらには買い手を選ぶことができるため、親や親戚などにいったん買い取ってもらって住み続け、将来、買い戻すという方法も選択可能だ。また立ち退く際の引っ越し代も出してもらえる場合がある。
一方、任意売却にもデメリットがある。
たとえば売出価格にあなたの意志を反映させることができるといっても、狙った価格が高すぎて売却に時間がかかれば結果的に市場価格より安く売却せざるを得ない場合もある。このあたりは普通の不動産売却でもありがちなことだ。低すぎれば銀行や保証会社など債権者が「うん」といわず任意売却という選択肢を選べなくなってしまうこともある。
またローンの滞納だけでなく税金など公金の滞納がある場合など、複数の債権者がいる場合は、交渉が複雑になり、そもそも任意売却ができない可能性もある。
さらには私的な処理なので詐欺などトラブルに巻き込まれる怖れもある。

任意売却のメリット・デメリット
- 競売に比べプライバシーが守られる
- 売出価格を決められる可能性がある
- 親戚や知人に買ってもらえるかもしれない
- 場合によっては家賃を払って住み続けられるかもしれない
- 引っ越し代が出るかもしれない
- 時間がないので狙った価格で売れない可能性もある
- 複数の債権者がいる場合、交渉が難航する怖れがある
- 私的な処理なのでトラブルの怖れもある(任意売却で不動産会社が受け取れるのは通常の不動産売却と同じ仲介手数料のみ。それ以外の「手数料」と称するものはすべて違法だが、それを求める悪徳な業者もある)
競売のメリット・デメリット
ここで任意売却とくらべたときの競売のメリット・デメリットもまとめておこう。
まずメリットとしては、競売の場合、債務者であるあなたは、いったん競売の手続きがはじまれば何もする必要がないという点が挙げられる。銀行や保証会社との交渉をあなた(債務者)自身が直接行わなければならない任意売却とは大きな違いだ。
また、いったんあなたの住宅を競売で売却してローン残債を返済すると腹をくくれば、費用もいっさいかからないし、任意売却より長期間住んでいられる。その期間は競売が申し立てられ競売開始通知が届いてから6カ月から1年程度が一般的だ。
さらに通常の不動産取引である「任意売却」では、あなたが契約不適合責任を負うことになる。だが、競売では契約不適合責任はだれも負わない。ただでさえ経済的に苦しい生活を強いられるローン滞納者にとってこれは安心材料といえるだろう。
ではデメリットはどうか。
任意売却とくらべると売出価格が決められないというのは競売のデメリットかもしれない。ただ先にも触れたように売出価格を自分で決められたとしても通常の不動産同様、必ずしもその価格で売れるわけではない。また最近は競売も市場価格以上で落札される場合が少なくないので価格の問題は昔のように競売の決定的なデメリットとはいえなくなってきている。
もっとも、将来買い戻しをしたいとか、売却後も引き続きその住宅に住みたいなど、物件に固執する人にとっては、買い受け人を選べないというのは競売の大きなデメリットかもしれない。

競売のメリット・デメリット
- 債務者は何もする必要がない(費用もかからない)
- 法的な処理なのでトラブルの心配はない
- 契約不適合責任が免責となる
- 任意売却より長い期間住んでいられるため次の生活の準備がしやすい(競売開始通知から6カ月から1年程度)
- 売却価格を決められない(売却価額は裁判所が決める)
- 買い受け人を選べない
- 引き続き住める可能性はほぼゼロ
残債が出るのを承知で抵当権の抹消に応じてもらう
任意売却によってローン残債を清算する場合、問題となるのが住宅の売却価格がローンの残債より高いか低いかだ。
あなたの住宅を査定してもらい、想定される売却価格がローンの残り(残債)より高い、「アンダーローン」であれば問題ないが、ローンの残債より低い「オーバーローン」だと大きな問題になる。
不動産を売却する際には売る側の責任で抵当権が設定されていない状態にする義務があるが、売却金額よりローンの残債が多いと債権者(銀行など)に抵当権を抹消してもらえないという困ったことがおこる。このままでは住宅を売却してローンの返済に充てることができなくなるのだ。
そこで銀行などローンの借入先と交渉して、残債が出ることを承知のうえで抵当権の抹消を認めてもらうことになる。返済スケジュールや返済方法の変更の相談に応じてもらっているケースでは、その延長線上で交渉をすすめ、銀行など借入先の同意の下、抵当権を抹消してもらい、売却を行う。
残債は返済条件を新たに交渉で決め、これ以降、あなたが返済していくことになるのは競売の場合と同じだ。
最初の相談先を借入先の金融機関ではなく「任意売却専門業者」にするメリットはまったくない
ここまでの任意売却の流れやメリット・デメリットを理解してもらった上で注意してほしいのは「任意売却専門業者」あるいは「任売業者」と称する存在がある点だ。彼らは銀行などの債務者とローン滞納者の間に入り、代理人としてうまく交渉をまとめると主張し、言葉巧みに近付いてくる。
いまネットに「ローン滞納」とか「競売」などと入れて検索してみると、ローンを滞納したら競売を回避して任意売却しようという趣旨の記事がつぎつぎと出てくる。ローン滞納相談窓口に任せれば安心という記事も目立つ。「任意売却専門」と称する不動産業者のサイトも多数ある。
ただ、銀行で数々の事例を見てきた前述の菅井氏は、
「そもそも銀行などの担当者は住宅ローンの滞納者の代理人などといっていわゆる『任意売却業者』がたずねてきても、けっして会うことはありません。すくなくとも私が現役の銀行員であるときは、そのように対応していました」といいきる。
本来、ローン残債のある物件を売却する際には、事前に住宅ローンの債権者(銀行、保証会社など)の合意が必要で、不動産業者ができることは宅地建物取引業法が認める通常の売却業務だ。銀行、保証会社など(債権者)との交渉はあくまでもあなた(債務者)本人が行わなければならない。しかし、あなた(債務者)が任意売却専門業者に「委任」という形をとって、本人の代理人としての役割を認める場合は、債権者との合意などを任意売却専門業者が行うことができる。債権者との交渉という、一見、難易度の高いことを任せられるとあってこの「委任」という形をとりたくなるだろうが、前述のように金融機関によっては「代理人」ではなく本人でないと交渉を受け付けないケースもある。何よりも任意売却業者が悪徳だった場合、もっと本人に有利に進められる可能性があっても、そのことに気が付けなかったり、故意にその可能性を伝えず進められてしまうこともある。
「そのような悪意のある業者は、その立場を利用してローン滞納者に近付き、物件を安く仕入れて、転売するチャンスをうかがっているのです」(菅井氏)
とにかく、ローンの支払いに困ったら真っ先に相談するべきは、債権者(銀行、保証会社など)だ。
任意売却の交渉はあなた(債務者)しかできない。最初から借入先に相談を
任意売却は一般の不動産取引と同じなので、実際の売却価格を公表する必要はない。
任意売却専門業者のなかにはコンサルタント料と称して不法な手数料をとって実際には何もしなかったり、極端な場合は詳しい説明もなく「委任」を受けた代理人と称してあなた(債務者)の物件を売却し代金の一部を着服したりするような悪徳業者もいるという。
住宅ローンの返済が苦しくなった段階で、あなた(債務者)が銀行に相談していれば、物件の売却によって一括返済するしか方法がなくなったとき、競売による処理を選ぶか任意売却による処理を選ぶかは、あなた(債務者)と銀行や保証会社など(債権者)が直接相談して決めることになる。
その結果、任意売却による処理を選ぶことになった場合は、銀行や保証会社に紹介された不動産会社を通じて売却できる。任意売却は『任意売却専門業者』でなければできない行為ではなく、どこの不動産会社でもできる。
債務者の不安に付け込む悪徳業者
住宅ローンを滞納したとき、あるいはしそうになったとき、だれにも相談できないとすると何をしたらいいかわからずパニックになってしまう人は少なくないだろう。そんなとき「任意売却専門」の一部の悪徳業者が競売を否定し、不安に乗じて「いろいろ相談にのるし、代理で交渉しますよ」といわれれば、つい頼ってしまうのも無理からぬことだ。
だがそこには、相場より安く買いたたかれたり、不当な手数料を払わされたりするなど思わぬ失敗もあることを知っておきたい。
「そんなときはとにかく銀行などの返済担当窓口に相談してください。住宅ローンは20年30年と返済を続けるわけですから、苦しいときも出てくるはずです。それは銀行もわかっていますから、とにかく安易に他人に頼るのではなく、何より先に銀行を頼ってください」(菅井氏)
ローン返済が苦しいと感じたり、実際にローンが払えなくなってしまったら、この菅井氏の言葉を再度噛みしめてほしい。

まとめ
うっかりミスは別として住宅ローンを滞納しはじめてしまうと、正常な状態にもどすことは難しい。2度、3度と滞納を繰り返すと期限の利益を喪うことにつながり、銀行などからローン残債の一括売却を求められるようになる。こうなるとローンの対象となっている住宅は競売か任意売却によって売却せざるを得ないところに追い込まれてしまう。
なんども繰り返すようだが、住宅ローンの返済が苦しいと感じたら、とにかく銀行など住宅ローンの借入先に相談するのが肝心だ。
ただでさえ難しい不動産売却、さらにお金にも困っていて時間も限られているとあれば、任意売却専門業者が提示する諸条件を正確に見極めることは難しい。
もしあなたがローンを滞納してしまったら、その後始末は銀行や保証会社と直接交渉し、自分でする以外にないことを肝に銘じてほしい。
●構成・文/冨成正樹


