土地の名義変更をしなければならないが、どこへ行けばいい? 誰かにお願いできる? 自分でやれる? 費用はどれくらいかかるの? そんな不動産 土地の名義変更の基本的な知識について、司法書士の清水歩さんに教えてもらいました。
土地や家屋、建物などの不動産の所有者は、法務局の登記簿で管理されています。相続や売買などで土地の所有者が変わった場合は、登記簿の名義を変更しなければなりません。法務局で所有権移転の登記申請を行うと名義を変更することができます。
なぜ戸籍の変更時のように市区町村の役所ではなく、土地の名義は法務局で管理するのかというと、ひと言でいえば土地は大きなお金と結びつきやすいからです。
例えばAさんがBさんに土地を売って売買契約を結んだとしても、AさんからBさんへ土地の名義変更をしていなければ、その土地の所有者はAさんのママです。もしAさんが悪意をもって(Aさんが土地の所有者という状態で)Cさんにも土地を売って売買契約を結べば、AさんはBさんとCさんから売却代金を取得できます。
土地の名義変更は原則として先に登記した人が所有権を主張することができます。上記では売買で例えましたが、相続でも離婚時の財産分与でも原則は同じ。ですから同様の面倒ごとが想定できます。もちろんこのような例は少ないのですが、ないとは言い切れません。そんな面倒に巻き込まれないためにも、土地の所有者が変わったら、すみやかに土地の名義変更をしたほうがよいのです。
土地を登記すると以前は「登記済権利証」、今は「登記識別情報」が法務局から発行されます。これがいわゆる土地の権利証と呼ばれているもので、土地の売買の際に必要になります。もし紛失した場合でも、司法書士や公証人が作成する本人確認情報を添付すれば土地の売買手続きは行えます。
土地の名義変更は、(後で説明しますが)必要な書類の作成や煩雑な作業が必要です。そのため多くの場合、司法書士に依頼し、法務局への登録をしてもらいます。
土地の名義変更が必要なケースは、主に「売買」「相続」「贈与」「財産分与」の4つがあります。
売買
土地の所有者が別の人に土地を売った(逆に土地を買った)際は名義変更を行います。手続きは売り主・買い主が基本的に共同で申請しますが、実際の進め方としては当事者間でどちらが主導的に行うかを決めて手続きを行うことになります。多くの場合、不動産会社に仲介を依頼するので、たいてい不動産会社が司法書士を紹介してくれるなど名義変更がスムーズに進むようサポートしてくれます。
相続
「相続」の場合は、土地の所有者である方がお亡くなりになっていますから、その土地を引き継ぐ人(相続人)が名義変更の登録作業を行います。戸籍謄本や遺産分割協議書など必要書類が多岐にわたることから、司法書士を探して進める人が多いです。
贈与
土地を贈与する側とされる側が基本的に共同で申請します。この場合も当事者同士で話し合い、どちらが主体的に動くのかを決めるとスムーズです。
財産分与
夫婦の離婚などで「財産分与」として土地の名義変更を行う場合も、基本的に共同で申請します。とはいえ離婚が原因となると何度も会って一緒に進めるのはやりにくいでしょうから、この場合も当事者同士で話し合って、どちらが主体的に進めるか決めておくとよいでしょう。
土地の名義変更を司法書士に依頼することは、法律で決まっているわけではありませんから、自分たちでやることもできます。ただし、先述したように必要な書類の作成が面倒ですし、煩雑な作業が発生します。自分たちでやれるかどうか判断するためにも、まずは土地の名義変更にはどんな手続きが必要なのかを見ていきましょう。
1. 法務局で申請書類をもらい、作成する
土地を管理する法務局へでかけ、土地の名義変更に必要な書類(下記参照)をもらいます。
⇒画像、もしくはコチラをクリックするとPDFでご覧いただけます。
この場合の権利者とは土地を購入した人、義務者とは土地を売った人を指します。
添付する書類について補足すると、
●登記識別情報または登記済証 いわゆる土地の権利証。義務者(売る側)が用意します。
●登記原因証明情報(別図参照) 義務者が権利者にその土地を売ったことを証明する証書。義務者が用意します。
●代理権限証書 義務者と権利者が司法書士へ登録作業を依頼した事を証明する委任状を指します。
●印鑑証明書 義務者の印鑑証明書です。
●住所証明書 義務者と権利者の住民票です。
●課税価格 その土地の「固定資産の評価額」を指します。東京都の場合なら都税事務所で「固定資産評価証明書」を取得すれば金額がわかります。
●登録免許税 登記する際にかかる税金です。課税価格に対して一定の税率がかけられますが、登記原因によって税率は異なります。税率は土地の売買が15/1000(つまり1.5%)、相続は4/1000(同0.4%)、財産分与や贈与は20/1000(同2%)となります。
2. 当事者間の調整や戸籍謄本の取得
上記の登記申請書を作成するに当たり、当事者間の調整や戸籍謄本の取得が必要になります。
「売買」や「贈与」であれば義務者と権利者との調整は比較的簡単でしょうが、離婚による「財産分与」や義務者が亡くなられている「相続」は往々にして調整に時間がかかりがちです。
離婚による「財産分与」では、お互いが何度も顔を合わせるのは嫌だという場合が多く、司法書士が双方別々に会って登記内容等を確認したり、各自から戸籍謄本を取得しなければなりません。
「相続」の場合は、相続人には誰がいるのかを確定し、相続人同士による遺産分割協議書に「この土地は○○が相続します」という旨の一文があるか確認が必要です。遺産分割協議書がまだ出来ていない場合は、まずその作成から始める必要があります。遺産分割協議書には相続人全員の実印での捺印が必要ですし、土地の名義変更の申請には相続人全員の印鑑証明書と、住民票や戸籍謄本が必要になります。
「相続」では、亡くなられた方の出生から死亡までわかる戸籍謄本が必要になります。例えば秋田県で生まれて山形県で幼少時代を過ごし、東京で就職……という具合に本籍地が点々としていた場合、それらが全てつながるように戸籍謄本を用意しなければなりません。
また「贈与」の場合、贈与を受けると贈与税が発生しますが、贈与税より相続税のほうが税率は低いので、相続まで待つという方法もあります。ただし相続の場合は先述のとおりやるべきことがたくさんありますから、どちらがいいか、司法書士と相談しながら進めたほうがよいでしょう。
以上のような業務を司法書士に依頼した場合、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。清水さんによれば、案件によって費用は異なるといいます。「私の事務所の例でいえば、相続で約10万円、財産分与や贈与は贈与税の算定などの相談料も入れて約10万円。売買は権利者(買う側)がローンを組んで支払う場合、購入する土地を担保とするので、その手続きも含めて最低でも10万円といったところです。とはいえ相続では戸籍の取得や各相続人とのやりとりが増えた場合など、いずれも状況次第ではもう少しいただくことになります」
一方、期間はどれくらいかかるのでしょうか。「法務局へ申請してしまえば1週間~10日間です。ただし相続なら、先ほど言った戸籍謄本の取得や各相続人とのやりとりが増えるほど時間がかかります。そのほかも同様に、申請書類をそろえるまでにどれだけスムーズに進むかによって、期間は変動します」
基本的に、司法書士に依頼することが義務付けられているわけではないので、自分で行うこともできます。また最近では法務局で丁寧に教えてくることも多くなってきているようです。
ただし、先述のとおり手続きには時間がかかりがちです。また書類に不備があれば訂正して改めて持っていく必要があります。「例えば『吉』と『?』、『高』は“はしごだか”であるかどうかなどの確認はもちろん、『渡辺』『渡邊』『渡邉』……一字一句間違えず正確に記入しなければなりません」。その手間を厭わず、また法務局が受け付けている平日に比較的自由に動けるのであれば、自分で行ってもよいかもしれません。
「特に相続や贈与などでアドバイスも受けたいなら司法書士や税理士(税理士経由で司法書士を紹介してくれる)に依頼するといいでしょう」
名義変更自体に必要な税金は、先述したように登録免許税が必要ですが、それ以外にも名義変更の理由別に税金が課せられます。
土地の名義変更の際に発生する主な税金は以下のとおりです。
●売買・・・譲渡所得税(土地の販売主)
●相続・・・相続税(土地の取得者)
●贈与・・・贈与税、不動産取得税(いずれも土地の取得者)
「このほかに土地を売って利益が出た場合、住民税は上がりますし、購入者は毎年固定資産税を支払うことに注意が必要です」
また「一度申請が通った後に、訂正することが難しい点も、意外と見過ごされがちな注意点です」と清水さん。例えばAさんの土地をBさんが購入してBさんに名義変更の申請をしたとします。しかしもともとBさんは土地の名義をBさんの妻と共有名義するはずだったので、申請後に夫婦での共有名義に訂正しようとしても、訂正するのは難しいということです。
「申請の訂正をするには原則的にAさんに『もともとBさんの妻も名義に入れる予定だった』旨に同意してもらうなど協力してもらわなければなりません。またマイホーム購入のために銀行から融資を受けての土地の取得であれば、土地を担保として融資した銀行の承認を得る必要があるなど、非常に難しい作業になります。土地の名義変更は、会社の役員に自分の妻を追加で入れるのとはわけが違うのです」
このように、土地の名義変更の手続きには法務局への申請業務以外に、当事者間の調整業務や関係者の住民票や戸籍謄本の取得など、何かとやるべきことがたくさんあります。ケアレスミスだけでなく、注意すべき点もたくさんあります。司法書士に支払う費用を削りたいという単純な理由であれば、自分で行うことはあまりオススメしません。