「地役権」とは「ある一定の目的の範囲内で、他人の土地を自分の土地のために利用する権利」のこと。でも他人の土地を自分のために利用するってどういうこと? なぜそんな権利が必要なの? 地役権に詳しい司法書士の清水さんに教えてもらいました。
地役権とは、一定の目的のために、他人の土地を利用する権利のこと。どんなときに地役権が使われるかというと「一番多いのは、他人の土地を通ったほうが駅に出やすいなど、通行のために他人の土地を利用する場合に地役権を設定するケースです」と清水さん。これを通行地役権と呼ぶことがあります。
このとき、通行するために他人の土地を利用する側の土地を「要役地」、利用される側の土地を「承役地」と呼びます。
通行の目的以外では、水道管やガス管の埋設目的や、承役地(上図B)に高い建物が建つと要役地(上図A)の日当たりが悪くなるので高い建物を建てないようにする目的(日照地役権)などがあります。
通行地役権と似たような権利に「囲繞地(いにょうち)通行権」というものもあります。この二つの違いを見ることで、さらに地役権がわかりやすくなると思います。
囲繞地通行権とは公道に接していない土地(袋地)を所有する人が、周囲を取り囲む土地(囲繞地)を通行できる権利のことです。囲繞地の所有者にとって最も損害の少ないところを選んで通行できます。
では通行地役権と何が違うのでしょうか。大きな違いは、通行地役権の場合、承役地(上図B)を通らなくても要役地(上図A)から公道に出ることができますが、囲繞地通行権では袋地のため、他人の土地を通らない限り公道に出られないことです。さらに契約や登記などの違いについても下記にまとめてみました。
通行地役権 | 囲繞地通行権 | |
---|---|---|
契約の要件 | 当事者の合意 | 袋地に備わる権利なので、契約は不要だが、実際は契約することが多い |
通行できる範囲 | 当事者の合意で決定 | 囲繞地にとって損害が少ない範囲 |
登記 | 必要 | 不要 |
通行の対価料金 | 当事者の合意で決定 | 必要 ただしもともと公道に接していた土地の分筆(※)によって袋地になった場合は不要 |
通行が有効な期限 | 当事者の合意で決定 | 期間の制限はない |
このように(通行)地役権はほとんどが当事者同士の合意で決まるのに対して、囲繞地通行権は民法によって袋地の所有者に当然に認められる権利です。地役権は当事者同士の合意ですから、「合意さえできれば、例えば通行範囲を車で出られる幅にしたり、通行料金を無料にしたりということも可能です」。ただし、繰り返しますが当事者同士の合意が必要です。承役地の所有者が、要役地側の求める範囲や利用料金などに応じてくれれば可能、ということになります。
いつまで地役権を設定するかは、契約で設定しますが、設定した期限内でも地役権が消滅する時効があります。「地役権の行使を妨げる事実が生じたときから20年で地役権が消滅します」。この行使を妨げる事実とは、例えば通行地役権の場合、合意した通行部分に建物が建つ等、事実上通行できない事実が生じたかどうかで判断します。これを「地役権の消滅時効」といいます。
当事者同士が合意できたら、地役権設定の登記を行います。「登記をしないと、例えば承役地の土地所有者が売買などで変わった場合、それまでの合意内容を新所有者に対抗できない(地役権が設定されていることを主張できない)ケースがあります」。登記をすれば、要役地・承役地とも次の所有者は(期限内であれば)引き続き設定されている内容を順守しなければなりません。つまり、土地の所有者が変わったから通行できなくなる、あるいは今まで通行料をもらっていたのに支払われなくなった、といったことを防げます。
逆に言えば、購入した土地の登記簿に地役権が設定されていた場合、それを順守しなければなりません。
地役権設定の登記申請には下記のような書類を用意します。当事者が登記してもよいのですが、素人では書類や図面の作成が難しいので、司法書士にお願いすると良いでしょう。
地役権の登記で必要になる主な書類は下記の通りです。
登記原因証明情報 | 当事者の合意内容をまとめた契約書など |
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登記識別情報または登記済証(無い場合は本人確認情報) | 登記簿上に記載されている土地が、承役地の所有する土地であることを示す書類 |
印鑑証明書 | 3カ月以内のもの(承役地の所有者) |
地役権図面 | 承役地のどの部分に地役権を設定するのかを示した図面 |
代理権限証明情報(委任状) | 司法書士などに依頼する場合に必要 |
まずは土地の登記簿で地役権が設定されている土地かどうかを確認しましょう。また現地を必ず見に行くようにしましょう。登記簿に記載されていなくても、長年使用することで地役権が認められる場合があるからです。「使用する側が自ら道路を敷き、10年か20年間(使用者の善意、悪意により異なります)継続的に使用し続けていた場合、時効によって地役権を取得できるケースもあります」。これを「地役権の時効取得」といいます。この場合、知らずに承役地側を購入すると、あなたは要役地の所有者の通行による使用を拒否できない可能性もあります。購入前なら購入の再検討をしたほうがいいでしょうし、購入後は今後のトラブルを防ぐためにもすみやかに地役権を登記しましょう。
また日照権確保のための地役権の場合、現地を見ただけでは分かりにくいでしょうから、こちらは登記簿を確認したり、仲介している不動産会社に確認しましょう。
地役権設定は登記後でも、期間や使用料金などの変更することが可能です。ただし変更するには当事者同士で改めて変更する事項に合意する必要があります。時期を延ばしたり、使用料金の変更などは承役地の所有者次第です。
地役権が設定されている土地は評価減の要素と言われていますが、その評価はケースバイケースなので、購入時に土地の売主から使用状況や前年の固定資産税の課税明細などを見せてもらって判断したほうがよいでしょう。
通行地役権のように、設定することで要役地側は暮らしが便利になります。承役地側は契約内容次第で一定の収入を得られます。契約や登記をしないでご近所さんだからといって口頭などの合意で済ませてしまうと後のトラブルを招きがちですし、上記内容をまずは理解し、難しい手続きは司法書士などに任せてスムーズに地役権の登記を行いましょう。
地役権とは、一定の目的で、他人の土地を自分の土地のために利用する権利のこと
当事者同士の合意によって契約を結び、登記を行う。登記を怠るとトラブルが発生し得る
地役権の設定された土地を購入する場合は登記簿と現地の確認が重要