シングル時代にマンションを購入したふたりが出会い、結婚。これから同居となると、マンションは2つもいりません。でも、どちらもローン返済中。売ってしまうのがいいのか、どちらかを貸すことはできるのか。さまざまな選択肢と、それぞれの注意ポイントを解説します。
夫のマンションと妻のマンション、どちらのマンションを売るのがいいのか、それとも貸すのがいいのか。それを判断するために、まずは、それぞれのマンションの不動産としての価値を確認することが重要です。
「いま売るとしたら、いくらで売れそうか」
「いま貸すとしたら、家賃はいくらで貸せそうか」
2つのマンションの現時点での価値を確認するわけです。
確認方法は、不動産ポータルサイトで売却査定を依頼したり、家賃相場を確認したり、できる限り多くの不動産会社に連絡をしてみることです。複数の会社の見解を聞くことで、だいたいの相場がわかってくると思います。
くれぐれも、1社の回答だけで判断しないようにしてください。相場を知るには1社だけの情報ではわかりません。複数の会社の情報を確認してみましょう。
不動産価格というのは、株価ほどの価格の透明性はありません。例えば、不動産会社がマンションの売り手から2000万円で買い取った物件を、すぐに他の顧客に3000万円で売ることもできてしまうのです。
証券取引所で売買されている株式の場合は、現在の株価を誰でも確認できるので、証券会社が勝手にある顧客から2000円で買い取った株式を、すぐに他の顧客に3000円で売るようなことはできません。
そういう意味では、不動産価格は中古車の価格と性質が似ています。中古車は、車種や年式、走行距離などによって、だいたいの価格帯はわかりますが、同じ車が2台3台あるわけではないので、その車の状態と、中古車会社が取ろうとしている利益額によって値決めが違ってくるわけです。
不動産価格も同様で、近隣の相場などから、だいたいの価格帯はわかるものの、同じ物件が2つあるわけではないので、不動産会社によって値決めが違ってくるのです。とにかく多くの不動産会社に聞いてみるようにしましょう。
どちらのマンションを売るのか貸すのか、考えられる選択肢を表にまとめると以下のとおりです。
夫のマンション | 妻のマンション | 新居 | |
---|---|---|---|
選択肢1 | 売る | - | 妻のマンション |
選択肢2 | 貸す | - | 妻のマンション |
選択肢3 | - | 売る | 夫のマンション |
選択肢4 | - | 貸す | 夫のマンション |
選択肢5 | 売る | 売る | 新たに購入 |
選択肢6 | 売る | 売る | 賃貸住宅 |
選択肢7 | 貸す | 貸す | 新たに購入 |
選択肢8 | 貸す | 貸す | 賃貸住宅 |
どの選択肢が最も有利かは、立地条件などの物件の状況や、ローン残高などの状況がわからないと一概には判断できませんが、売るか貸すかを考える際の判断ポイントや注意点をまとめておきましょう。
まず、先に注意点から触れておくと、売る場合は、売却価格よりもローン残高のほうが多いと、通常、売ること自体ができません。繰り上げ返済などでローン残高を売却価格より低くしておく必要があります。
貸す場合は、いま返済中の住宅ローンのまま賃貸に出すことはできないのが通常です。住宅ローンは、あくまでもマイホームを買うためのローンであって、賃貸不動産用ではないからです。一般的に、賃貸不動産用のアパートローンなどに切り替える必要が出てきますので、貸す場合は現在返済中の金融機関に相談するとよいでしょう。
貸すことを検討する際は、借り手がすぐに見つかりそうな物件なのかどうかを冷静に見極めることが重要です。借り手が見つからない状態が何カ月も続くと、収益が得られないどころか、負の財産になってしまう可能性があるからです。
売った場合と貸した場合のメリットを比較検討するなら、そのマンションから得られる経済効果の大きいほうを選ぶべきでしょう。
例えば、いま売ると2000万円だった場合、その2000万円でローン残高1500万円を完済し、余ったお金500万円を運用したとします。その運用益が今後20年30年でどのくらい得られそうなのか。
仮に、500万円を年5%で運用できたとすると、30年後には2161万円になります。30年間で1600万円ほどの収益が得られるわけです。
一方、貸した場合、家賃収入からローンの返済額を差し引き、管理費や修繕積立金、固定資産税などの維持費を差し引いて、残った金額が1万円だったとします。その毎月1万円を年5%で積立運用できたとすると、30年後には832万円になります。
金額は売却した場合の利益の半分くらいですが、マンションの価値が残っていますので、1000万円程度の価値が残っているなら、合計で2000万円程度の価値になります。借り手が今後もつくなら、ローンの完済後は収益がもう少し大きくなります。
なお、もっと正確に経済効果を比較するなら、売った場合の譲渡損失の繰越控除などの節税効果、貸した場合の不動産所得を赤字にした損益通算なども考慮する必要があります。不動産会社に相場を確認したうえで、不動産投資にも詳しい会計士や税理士、FPなどの専門家に試算してもらうのがよいでしょう。
せっかく買ったマンションを売るのはもったいない。家賃収入が得られるなら貸したいと思う人も多いことでしょう。しかし、家賃収入からローンの返済額を差し引いて、維持費なども差し引くとマイナスになってしまうケースもあります。そのようなキャッシュフローがマイナスになる賃貸経営は、避けるべきです。
不動産所得を赤字にすることで、給与から差し引かれている税金を取り戻せる節税効果も期待はできますが、その節税効果が何年もずっと続くとは限りません。賃貸経営のキャッシュフローがプラスであることのほうが重要でしょう。
したがって、そのようなケースでは、無理に貸そうとするのではなく、売ってローンを完済し、資産運用を考えたほうが、結果として経済効果も大きくなる可能性が高いでしょう。もちろん、将来のことは正確には予測できないので一概に断定はできませんが、リスクの大きさを比較して判断することも重要でしょう。
なお、先述した選択肢5~8のように、両方のマンションを売るか貸すかして、新居を新たに買うか借りるのもひとつの方法です。子どもを産む可能性や、子育てに適した環境なども考慮し、検討することも重要でしょう。
売るか貸すかを決めるために、まずはそのマンションの不動産としての価値を確認する
売る場合、売却価格よりもローン残高のほうが多いと、売ることができない
貸す場合、いま返済中の住宅ローンのまま賃貸に出すことは、通常はできない
売るか貸すかは、そのマンションから得られる経済効果の大きいほうを選ぶべき
イラスト/杉崎アチャ