不動産の売買や相続で必要になる「不動産登記」は、私たちの財産を守るうえで重要な役割を担っており、入手した土地や建物が誰の所有物なのかを明確にするものです。しかし、日々の生活の中で不動産登記にかかわる機会はほとんどなく、その内容や意味を充分に理解している人は多くありません。そこで今回は不動産登記について、登記簿に記載されていることや読み方といった基本的な内容から、その必要性や取得・閲覧・登記費用など、一歩踏み込んだ内容をご紹介します。あわせて、自分で不動産登記にチャレンジしようと考えている人のために、必要書類についてもまとめてありますので、ぜひ参考にしてください。
不動産売買や相続時によく耳にする「不動産登記」という言葉。まずは、“基本のき”から理解を深めていきましょう。
登記(とうき)は行政手続きの仕組みの一種で、土地や建物ごとの所在・面積・所有者・担保の有無(抵当権)等の権利関係を公示したものです。権利義務を公に示すことにより、権利を法的に主張することができます。不動産登記のほか、商業登記や船舶登記、成年後見登記など、さまざまな種類があります。
不動産は、民法(第86条第1項)で定義されるとおり、土地や土地に定着する建物・橋・石垣といった、動かすことのできない財産を指す言葉です。なお、不動産以外の現金や商品などの資産を動産といいます。不動産は動産よりも価値が大きいことが多く、権利関係も複雑な場合が多いため、不動産登記や契約書の締結などもより慎重に進めなければなりません。
登記とは、権利関係などを公に明らかにするために設けられた制度のことで、商業登記や法人登記、船舶登記などさまざまな種類があります。今回ご紹介する「不動産登記」も登記の一つで、入手した土地や建物が誰のものなのかをはっきりさせるために行われています。
不動産登記を行うと、法務局が管理する公の帳簿に「どこにある、どのような不動産(土地・建物)なのか」「所有者は誰なのか」「どの金融機関から、いくらお金を借りているのか」といった情報が記録されます。こうした情報は一般に公開されていて、手数料を支払えば誰でも閲覧ができ、登記内容が記載された登記簿謄本(登記事項証明書)の交付を受けることもできます。
登記簿謄本(登記事項証明書)は一つの不動産(1筆の土地※・一つの建物)ごとに一つ作成され、「表題部」と「権利部(甲区)」、「権利部(乙区)」の三つに分かれています。
※土地登記簿上で、土地の個数を表す単位。1筆(いっぴつ)、2筆(にひつ)と数える
1)どこにどのような不動産があるのか知りたい場合には「表題部」を見よう
表題部に記載されているのは土地・建物に関する情報で、表題部を見ればどこにどのような不動産があるのかがわかるようになっています。
表題部に記載される情報
土地…所在、地番、地目(宅地、畑、雑種地など)、地積(面積)、登記の日付など
建物…所在、家屋番号、建物の種類(居宅、店舗、事務所など)、構造(木造、鉄骨造など)、床面積、登記の日付など
2)不動産の所有者を知りたい場合には「権利部(甲区)」を見よう
権利部(甲区)に記載されているのは所有権に関する情報で、所有者の住所や氏名、不動産を取得した日付や原因(売買、相続など)なども明記されています。そのため、権利部(甲区)を見れば、「Aさんが10年前にBさんから相続した」など、不動産を手に入れるまでの経緯がある程度わかります。
また、ローンの支払いが滞るなどして差押えを受けた場合、その内容も権利部(甲区)に記載されます。他人に差押えられている不動産が流通することはそれほど多くありませんが、不動産の購入を検討する際には、念のためチェックしておくといいでしょう。
3)その他の権利を確認する場合には「権利部(乙区)」を見よう
権利部(乙区)に記載されているのは、抵当権や地上権、地役権など所有権以外の権利に関する情報です。権利部(乙区)に何らかの権利が登記されていると、不動産を購入しても利用が制限されてしまうことがあります。不動産を購入する前に、どんな権利が登記されているのか確認しておきましょう。
登記簿謄本(登記事項証明書)を取得しようと思ったら、以前はその不動産を管轄している登記所(法務局や法務局の支局など)へ出向くか、郵送でやりとりをするしかありませんでした。しかし、今では登記情報がオンライン化されており、法務局の「登記・供託オンライン申請システム」の「かんたん証明書請求」からインターネットで交付の請求をして、最寄りの登記所の窓口か郵送で受け取ることができるようになりました。
また、登記簿謄本の内容を確認するだけなら、「登記情報提供サービス」を利用してインターネットで閲覧できます。公的な証明書には使えませんが、PDFでダウンロードも可能なのでとても便利です。
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登記簿謄本ってオンラインで取得できるの? 実際にやってみた!
区分 | 手数料額 | |
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登記事項証明書(謄抄本) | ||
書面請求 | 600円 | |
オンライン請求・送付 | 500円 | |
オンライン請求・窓口交付 | 480円 |
提供される情報の種類 | 手数料額 |
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全部事項(不動産・商業法人)情報 | 331円(消費税・地方消費税含む) |
所有者事項情報 | 141円(消費税・地方消費税含む) |
不動産登記は不動産を取得(購入、相続、新築など)したときだけでなく、登記内容に変更が生じた場合にもしなければなりません。
不動産を購入、相続するなどして取得した場合には、所有権が自分に移ったことを示すために「所有権の移転登記」をします。また、建物を新築した場合や、まだ登記されていない建物を購入した場合には、表題部を新しくつくる「建物の表題登記」と、権利部の甲区欄を新しくつくる(所有権を初めて登記する)「所有権の保存登記」をします。
転勤などで住所変更があったときや、結婚などで姓が変わったときには、登記名義人の「住所・氏名の変更登記」をします。
不動産の所有者が亡くなって相続が発生したときには、不動産を相続した人が「所有権の移転登記」をします。
住宅ローンを払い終わっても、設定されている抵当権を金融機関が抹消してくれるわけではありません。住宅ローンを完済すると、金融機関から住宅ローンの支払いが終わったことを証明する書類が送られてくるため、受け取った書類を使って、不動産に設定されている抵当権を抹消する「抵当権の抹消登記」をしましょう。なお、不動産の購入時に抵当権を設定するのは、不動産を購入した本人ではなく融資をした金融機関です。
建物を取り壊したときには「建物の滅失登記」をします。
不動産登記は司法書士にお願いするのが一般的です。司法書士から言われた書類を用意し、必要事項を記入して手渡せば、ほとんどの手続きが終了します。あとは、登記完了の連絡を待つだけですが、ここでは司法書士がどこで・どのような手続きをしているのか、大まかな流れを紹介したいと思います。
なお、新築の一戸建てを建築・購入した場合には、新たな登記簿を作る「建物の表題登記」が行われます。表題登記は建物図面が必要で、土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。
登記の大まかな流れと解説
1)申請書と必要書類を作成・準備して、不動産がある場所を管轄する法務局に提出する
登記に必要な申請書と書類を準備して、不動産がある場所を管轄する法務局に提出します。不動産の登記には、売買や譲渡、相続などで所有権が移動する際に行う「所有権の移転登記」や、新築の建物を建築・購入した際に行う「建物の表題登記」や「所有権の保存登記」、建物を取り壊した際に行う「建物の滅失登記」などさまざまな種類があり、必要になる書類はそれぞれ違います。
2)登記官が申請内容を確認・審査する
登記の申請書が提出されると、法務局で登記の事務を取り扱っている登記官が内容を確認し、申請した内容に間違いがないか、法律上問題ないか、必要な書類がそろっているのかなどを審査し、必要に応じて現地調査が行われます。
3)登記簿に新しい情報が登記される
登記官による審査の結果、申請内容に問題がなければ登記簿に新しい情報が登記されます。
4)登記識別情報通知書や登記完了証が発行される
売買や譲渡、相続などで、登記簿に新たな所有者の情報が登記されると、登記識別情報通知書が発行されます。登記識別情報通知書は従来の登記済証(権利証)に代わる、12ケタの英数字の組み合わせで構成されている符号で、登記名義人となった申請人に通知されます。不動産の売却時などに必要で、とても重要な書類になるため大切に保管しておきましょう。
また、申請した登記が完了すると、その旨が記載された登記完了証が発行されます。登記完了証は再発行されませんが、登記識別情報通知書のような重要な書類ではありませんので、紛失・処分しても問題ありません。
登記の申請に必要な書類は登記の種類によって違います。その違いをまとめてみました。
登記の内容にかかわらず用意しなければならないのは、委任状や本人であることを証明する次のような書類です。
委任状 | 代理人になる司法書士や土地家屋調査士に委任する際に必要で、自分で不動産登記をする場合は不要です |
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登記申請書 | 登記の内容によって記入する内容が異なります。申請書は法務局のホームページからダウンロードできます |
本人確認書類 | 運転免許証やマイナンバーカードなど、本人であることを証明する書類です |
登記の種類や仕組みについてもっと知りたい場合には、以下のページで詳しく紹介しています。一読しておくと、さらに理解が深まりますよ。
不動産登記法とは? 登記の種類や申請書、相続にかかわる改正などをわかりやすく解説
所有権の移転登記で必要な書類は売買と相続で異なるほか、売買の場合には売主と買主で異なります。
売主 | 登記識別情報通知書・従来の登記済証(権利証) | 売買の目的となる不動産を取得した際に入手した書類で、かつては登記済証(権利証)が交付されていました |
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印鑑証明書・実印 | 発行から3カ月以内のものが必要です | |
住民票 | 登記簿の住所と印鑑証明の住所が違う場合に必要です | |
抵当権抹消書類 | 抵当権がついている不動産を売却する場合に必要です | |
固定資産税の評価証明書 | 登録免許税算出のため添付します | |
買主 | 印鑑証明書・実印 | ローンを利用する場合に必要です |
住民票 | 所有者の現住所を証明する書類になります | |
印鑑 | 認印で構いませんが、ローンを利用する場合には抵当権設定時に実印が必要です |
被相続人(亡くなられた方)の戸籍謄本等 | 出生から死亡まで連続した戸籍謄本等や、登記簿上の住所及び本籍地の記載のある住民票の除票(または戸籍の附票)などが必要です |
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登記識別情報通知書・従来の登記済証(権利証) | 売買の目的となる不動産を取得した際に入手した書類で、かつては登記済証(権利証)が交付されていました |
住民票(相続人) | 新しく名義人になる人の住民票が必要です |
戸籍謄本(相続人) | 法定相続人全員の戸籍謄本です |
固定資産税の評価証明書 | 登録免許税算出のため添付します |
印鑑証明書・実印(相続人) | 遺産分割協議書による相続登記などで必要になります |
その他 | 遺言状や遺産分割協議書などが必要です |
新築の一戸建てを建築・購入した場合には、新たな登記簿をつくる「建物の表題登記」が必要で、次の書類が必要です。
住民票 | 所有者の現住所を証明する書類になります |
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建物図面等 | 現地を測量して作成した図面で、建物がある限り法務局に備えつけられます |
確認済証・検査済証 | 申請する建物が建築基準法に適合していることを証明する書類で、役所で発行されます |
建物の表題登記と同時に行う「所有権保存登記」については、以下のページで詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
所有権保存登記とは? 所有権移転登記と何が違う? 税金や必要書類までプロが徹底解説
住宅ローンを利用して不動産を購入した場合にするのが「抵当権の設定登記」、住宅ローンの支払いが終わり設定されている抵当権を抹消するのが「抵当権の抹消登記」です。
抵当権の設定登記 | 印鑑証明書・実印 | 発行から3カ月以内のものが必要です |
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登記識別情報通知 | 従来の登記済証(権利証)に代わるものです | |
抵当権設定契約書など | 金融機関が用意する書類です | |
抵当権の抹消登記 | 登記識別情報通知 | 従来の登記済証(権利証)に代わるものです |
登記原因証明情報 | ローンを完済したことを証明する書類で、金融機関が発行します | |
登記事項証明書 | ローンを借りていた金融機関の登記事項証明です |
抵当権についてもっと知りたい方は、以下のページで詳しく紹介していますので、ぜひご確認ください。
抵当権とは? 不動産も相続できる?基礎知識を専門家が分かりやすく解説!
建物を取り壊したときに行う「建物の滅失登記」に必要なのは以下の書類です。
建物図面等 | 対象となる建物の登記簿謄本・建物図面などです |
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建物滅失証明書・業者の印鑑証明 | 建物を解体した業者が作成する証明書で、業者の印鑑証明も必要です |
相続登記には罰則があるだけでなく、不動産を相続してから時間が経過すると、新たな相続人が発生してしまい、相続登記に必要な戸籍、住民票といった書類の収集が困難になることがあります。また、遺産分割協議に手間取り、多くの時間と費用を要することもあるため、不動産を相続した場合には、早めに登記を済ませておきましょう。
相続登記にかかる費用や必要書類などについては、以下のページで詳しく紹介しています。自分で申請する場合のポイントやメリット・デメリットも解説していますので、相続登記を始める前に読んでおくと参考になると思いますよ。
不動産に設定された抵当権を抹消するのが「抵当権の抹消登記」です。ローンの返済が終わると、金融機関から抵当権を解除したという証明書類が届くため、その書類を基に抵当権抹消の手続きをします。
抵当権の抹消登記をしなくても日常生活に問題はありません。しかし、不動産の売却などをする場合には抵当権の抹消手続きをしなければならず、ローンを完済してから時間が経過すると、手続きに必要な書類をそろえるのに手間と時間がかかってしまいます。また、ローンを利用した金融機関が破たん・再編などでなくなっていると面倒なことになるため、早めに抵当権の抹消登記を済ませておきましょう。
登録免許税は登記を受けることに対して課税される税金で、売買、相続、贈与、抵当権抹消など、登記の種類によって費用が異なります。
・売買時の所有権移転登記に必要な登録免許税
土地…評価額の1.5%(2026年3月31日までに登記をする場合)
建物…評価額の2%だが、一定の条件を満たす住宅用家屋は0.3%などの軽減税率あり。長期優良住宅の場合は0.1%(2027年3月31日までに登記をする場合)
・相続時の所有権移転登記に必要な登録免許税
土地、建物ともに評価額の0.4%
・贈与時の所有権移転登記に必要な登録免許税
土地、建物ともに評価額の2%
・抵当権抹消登記に必要な登録免許税
抵当権が設定されている建物と土地、それぞれ一つにつき1000円
(土地の場合は1筆を一つの土地として計算します)
不動産登記に関する登記の手続きは司法書士に依頼しますが、表示の登記については土地家屋調査士に依頼します。その際に支払う報酬の額は、登記の内容ごとにそれぞれの事務所が報酬額を決めています。そのため、不動産登記に必要な費用は、地域や事務所によって大きな開きがあります。
・所有権移転登記 相続 6万円~8万円
・所有権移転登記 売買 4万5000円~6万5000円
・所有権保存登記 2万円~3万円
・抵当権抹消登記 1万5000円~2万円
・住所・氏名の変更登記 1万2000円くらい
また、司法書士が金融機関などに赴いて、代金の決済にも立ち会う場合には交通費が、面識のない売主の本人確認情報の作成が必要な場合は関連費用が、それぞれ別途で必要になります。
建物表題登記 8万円くらい
不動産登記は司法書士や土地家屋調査士に依頼しないといけないとお考えの方は多いようですが、登記所に出向いて手続きをすれば、自分で不動産登記を行うことができます。自分で不動産登記をすれば、司法書士や土地家屋調査士に支払う報酬が不要になるため、費用をかなり抑えることができます。登記にはさまざまな種類があり、内容によってはかなり専門的な知識が必要になりますが、事前準備をしっかりとして、不動産登記にチャレンジしてみるといいかもしれません。
1.司法書士を通さないと取引のリスクが高くなる
不動産取引では、売主が本物の売主なのか、取引に違法性がないのかなど、法律の専門家として取引をチェックすることも司法書士の役割になります。そのため、司法書士を通さずに自分で不動産登記をすると、地面師(不動産所有者を装って売買代金をだまし取る詐欺手法)による不動産詐欺などを見抜けなくなる可能性があります。金額の大きな取引や万が一のリスクを回避したい場合は、専門家に依頼したほうが安心でしょう。
2.金融機関の了承が必要になることも
住宅ローンを利用して不動産を購入する場合は抵当権の設定が必要で、金融機関が取引の安全性を確保するため、司法書士への依頼を求めてくるのが一般的です。自分で不動産登記をしたいとお考えの場合には、事前に金融機関などに相談しておくといいでしょう。
3.建物の表題登記には図面が必要
建物の新築時などに行う建物の表題登記も自分ですることができますが、建物図面や各階平面図などの書類が必要になります。作成には専門的な知識が必要になるため、自分で表題登記をするのは難易度が高いといえるでしょう。
最後に、不動産登記にまつわる疑問についてQ&A形式でお答えします。
→A.再通知はできません。
登記識別情報は登記完了時のみに通知されると定められているため、紛失を理由に登記識別情報通知書を再発行してもらうことはできません。何らかの問題において登記識別情報を提出できない場合は、登記官による「事前通知」手続きや司法書士等による「本人確認情報」の作成によって本人確認手続きを行うことになります。紛失や失念を防ぐためにも、登記識別情報は第三者の目に触れない場所で厳重に保管しましょう。
→A.2004年の不動産登記法改正で7つの変更がなされました。
具体的な改正点は、以下になります。
改正ポイントに限らず、不動産登記に関しては専門的な知識が必要となり、戸惑う部分も多いもの。不明点がある場合には、司法書士や土地家屋調査士に相談するのが安心です。
※この記事は、2024年8月現在の情報です
登記簿謄本(登記事項証明書)は「表題部」と「権利部(甲区)」、「権利部(乙区)」に分かれており、不動産の所在、種類、所有者、取得の経緯、関係するさまざまな権利などが確認できる
登記簿謄本(登記事項証明書)は一般に公開されていて、手数料を支払えば誰でも閲覧・交付を受けることができる。また、必要書類を準備すれば、自分で不動産登記をすることができる
不動産登記は不動産を取得したときや、住所や権利関係などに変更が生じたときにしなければならず、そのままにしているとトラブルに発展することがある
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