街なかで、外壁が植物に覆われている建物を見かける機会が多くなりました。オフィスビルやホテル、カフェなどの壁面緑化は、建物だけでなく、街の景観も素敵にしてくれます。そこで、わが家も壁面緑化をしてみたい、と考えている人に、役立つ情報をお届けします。関東エリアを中心に造園や外構、屋上・壁面緑化の設計・施工を手がけるビッグアイランドの堀口昇さんにお話を聞きました。
壁面緑化とは、オフィスビルや商業ビルなどの建物の外壁を植物で覆うことです。政府が2007年5月に「2012年までの6年間で建築面積1,000m2以上の国の庁舎に建物緑化を集中的に進める」という方針を発表して以来、今もその取り組みは続けられています。また、植物の緑が建物を美しく演出すること、建物の個性となって話題づくりや集客に効果が期待できることなどから、民間の建物での壁面緑化も多くなっています。
壁面緑化を行うことで、また、壁面緑化の建物が増えることで、環境や景観などにさまざまなメリットがあります。これは、造化やフェイクの植物ではなく、呼吸をしている本物の植物を使った壁面緑化ならではのもの。どのようなメリットがあるのか、具体的に見てみましょう。
郊外よりも都市分の気温が高くなるヒートアイランド現象。暑くなればエアコンの過剰使用から、CO2排出量のアップにつながります。ヒートアイランド現象を緩和するにはさまざまな対策がありますが、壁面緑化には建物の表面温度を低下させる効果や、壁面からの熱が削減されることで空調への負荷の削減効果があります。
壁面緑化には建物への断熱効果と保温効果が期待できるため、冷暖房の稼働を抑えて、省エネにつなげられます。
壁面の植物が水と光を得て光合成を行うことで二酸化炭素が吸収され、酸素が放出されます。植物によって建物周辺の空気が入れ替わり、浄化されます。
緑が美しく配置された建物は、街の景観も美しくします。壁面緑化は、道路や周辺の建物からも視界に入るため街全体の印象をアップする効果があります。
ビルや舗装道路などコンクリートに覆われた都市部で、街路樹や公園などの緑が目にはいるとホッとするもの。緑には心に安らぎを与える効果があります。壁面緑化の建物が増えると、その街にいるだけでストレス緩和が期待できます。
建物の外壁の緑化には、吸音性能も期待できます。植物の吸音性能はそれほど大きくなくても、植栽の基盤に土壌が使われていると、外の騒音が外壁を通って部屋に伝わるのを軽減できます。
建物の外壁は日当たりの良い面が紫外線の影響で早く劣化します。壁面を植物で覆うことで、紫外線防止になり建物の劣化防止につながります。
壁面緑化そのものがデメリットになるわけではありませんが、メンテナンスを怠ることで植物が枯れて景観が悪化するのは避けたいものです。
また、植物の選び方によっては落葉が道路脇の排水溝をつまらせたり、管理を怠るとツルが隣の建物や電線に巻き付いたりなどのトラブルも。メンテナンスフリーの壁面緑化はないと考えて、維持管理をしっかり行うことが大切です。
「分譲マンションの場合、壁面緑化が可能かどうかは管理規約次第ですが、一戸建ての場合は壁面緑化も屋上緑化も取り入れることができます。もし、『わが家の壁面にグリーンを施工したい』と思われるなら、大切なのは緑化することでどんな暮らしをしたいのか、わが家のライフスタイルはどんな形なのかを考えること。それによって、施工方法や育てやすい植物が違ってくるからです」(堀口さん、以下同)
例えば、共働きで忙しいのでメンテナンスの時間はかけられない、逆に本格的に植物とかかわりたいなど、それぞれのライフスタイルや希望によってプランは違ってくるそう。
「子どもがいるなら『花育』として水やりをまかせたり、食べられるものを育ててみるのもいいでしょう。壁面緑化で暮らしをどうステップアップできるかを考えることが大切です」
わが家にはどんなプランがぴったりなのかをイメージするため、まずは壁面緑化の種類を知っておきましょう。
壁面緑化の主な種類は下の3種類です。多く見られるのが壁面や壁際を植物が伝い、徐々に成長していく登はん型といわれるタイプ。ツタの葉に覆われた古い住宅などもこのタイプです。なお、詳しくは後述しますが、一般住宅やマンションでは安全面から避けたほうがよい施工方法もあります。ここでは、基礎知識として3種類を覚えておきましょう。
フレームやネット、ワイヤーを外壁に設置。植物が成長することで、徐々に壁面緑化が完成していきます。年月の流れとともに変わっていく建物の表情も楽しめます。
外壁の上部などにプランターなどを設置して植物を下に垂らすタイプ。ふんわりと壁を覆う植物が、風に揺れる様子は雰囲気があって良いものです。
植物が育っているパネルをはめ込んで施工するタイプです。イメージ通りに緑を配置・移動しやすいほか、植物がある程度育っているので完成形までの時間が短くてすみます。
壁面緑化でよく使われるのはツル科の植物。登はん植物ともいわれます。「季節もの」の植物と、一年中楽しめる「常設もの」の植物があります。
「夏の間だけ日陰をつくりたいなら朝顔やゴーヤ、ひょうたんなどがいいでしょう。これらは登はん力(ツルを伸ばす力)があり、ひと夏で1階の窓を覆うくらいの高さまで育ちます。すぐに伸びるので達成感がありますし、ゴーヤなど実がなる植物を選べば家族で料理も楽しめます。日陰ができるだけでいいのか、花や実も楽しみたいかを考えると、植える植物を選びやすくなりますね」
なお、立地条件や日照、風通しなどによってうまく育たない場合もあるそう。そんな場合は、翌年、植える位置や植物を変えるなど試行錯誤してみるのも楽しいでしょう。
「一年中緑の葉が繁っていたり、落葉してもツルは残り翌年また葉が出てくるタイプの植物です。常に緑が楽しめるのはアイビーやムベ、香りのよいジャスミン、棚で育てるイメージがありますが壁面でも育てられる藤、実を楽しむならキウイなどがいいですね。常設ものの植物には、近隣からの目隠しになるメリットもあります」
ツル科の植物にはこのほかにたくさんの種類があります。ホームセンターや街のフラワーショップでは手に入りにくいものが多いので、屋上や壁面の緑化を手がける造園会社に相談するのがおすすめです。
「壁面緑化の施工法といえるかはわかりませんが、エスパリエという壁面際に樹木を植えて、その枝を壁に誘引し、平らに刈り込んで育てる方法もあります。これも壁面を緑で覆う一つの方法です。リンゴの木などを年月をかけて少しずつ育て楽しむことができます」
「施工方法の選び方は好みと予算、植物の世話にどれだけ手間をかけられるかでしょう」と堀口さん。
まずは、ひと夏を楽しもうという場合は、地面から2階のベランダ下などへネットやロープ、ワイヤー、ひもなどを張り、植物を育てる方法が手軽でしょう。
「この場合、木や植物をプランターで育てるのか、地植えにするのかで手間が違ってきます。プランターに植えた場合、土が乾きやすいので季節によっては毎日水やりをする必要があります。メンテナンスに自信がないなら、地植えのほうが成長もスムーズですしおすすめです」
また、本格的に施工するなら壁際に鉄枠をつくり、ワイヤーなどを固定し、そこに植物を誘引する登はん型。建物に直接ツルなどが這わないため、建物への影響が少なくて済みます。
ベランダの外側にプランターを設置して植物を吊るす方法(下垂型)はリスクがあると堀口さん。
「ベランダの手すりにプランターを固定する金具は市販されていますが、手すりの幅は住宅によって違います。手すり幅に合わせて調整できる金具もありますが、落下などのリスクはあります。また、外側に植物を吊るすのはおすすめしません。落下事故のほか、水やりをすると土のまじった水がポタポタ落ちてバルコニーの外側が汚れますし、風で揺れればフェンスに傷がつきます。手すりに置くプランターは小さいので、毎日の水やりも大変です」
施工が可能であっても、メンテナンスに手間がかかったり、落下などのリスクがあるケースも。施工方法を選ぶ際には、施工後のこともよく考えておきましょう。
壁面緑化にかかる費用はケースバイケース。施工方法や施工面積、選ぶ植物や地域によっても目安が違ってきます。
ホームセンターで買えるネットやロープを使って施工する登はん型なら、1万円以内のDIYで完成させることも可能。ですが、ワイヤーを外壁に打ち込んだり、鉄枠を外壁に施工する本格的な工法の場合、複数の施工会社に見積もりをとって目安を把握するのがおすすめです。
購入したマンションであっても、自由にできるのは住戸(集合住宅のうちの専有部分)の中だけ。バルコニーもその住戸の人が専用で使えますが、専有部分ではなく廊下やエントランスと同様の共用部分です。
バルコニーで外壁緑化ができるかは、マンションごとの管理規約によります。ほとんどのケースで、外壁に穴を開けるような施工はできませんし、10~15年ごとの大規模修繕の際には撤去しなければなりません。
「管理規約でバルコニーの壁面緑化が禁止されていないのなら、マンションのバルコニーの場合、木で枠をつくり、そこにワイヤーをひっかけて植物を育てる方法はあります。しかし、外壁やバルコニーそのものを傷つけないなど、ノウハウが必要。専門知識や技術がない人が行う場合は、プランターで植物を楽しむのがいいでしょう」
プランターも高層階や風の強いところでは、倒れたり、強風で跳ばされる危険性があります。室内に観葉植物を置いて楽しむのがおすすめです。
壁面緑化には環境や省エネなどのメリットがある
一般の戸建てでも壁面緑化が楽しめる
マンションの場合は管理規約次第だが、共用部分への施工のため制約が多い
壁面緑化をすることで、どんな暮らしの楽しみ方をしたいかを考えると施工方法や植物を選びやすい