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住宅価格の上昇や、人生100年時代のライフプランを背景に「残価設定型住宅ローン」が注目されはじめています。残価設定型住宅ローンは登場したばかりで、商品性もまちまちなので、利用を検討する際には、それぞれの商品性の違いや注意ポイントもしっかり把握しておく必要があります。
みなさん、こんにちは。
正直FPヒッシー先生こと菱田雅生(ひしだまさお)です。
近年、住宅価格の上昇が続いています。特に都市部では、ひと昔前の感覚ではなかなか手が届かない水準まで値上がりしていると感じている人も多いのではないでしょうか。
返済期間を40年や50年にすることで月々の返済額を減らしてやっと手が届く。
夫婦それぞれがローンを組む「ペアローン」にすることでなんとか買える。
ということで、40年ローンや50年ローン、ペアローンなどの利用者が増えています。
しかし、40年や50年といった超長期ローンだと、定年退職後も返済が続く可能性が高まりますし、ペアローンだと、夫婦の一方の収入が減ったり離婚したりした場合に困ることになる可能性があります。
そんななか、国の「新たな住生活基本計画(全国計画)」の中にも取り上げられて、少しずつ注目を集めているのが「残価設定型住宅ローン」です。
自動車を買うときの「残価設定型クレジット(以下、残クレ)」の住宅版とイメージするとわかりやすいかもしれません。ただし、自動車の残クレとはかなり異なる点が多いタイプもあるので注意が必要です。
今回は、この新しいタイプの住宅ローンの仕組みやメリット・デメリット、利用する際の注意点について、整理してみましょう。
まずは、車の残クレから考えてみましょう。
残クレとは、数年後の下取り価格、つまり「残価」をあらかじめ設定しておき、車両価格からその残価を差し引いた金額を分割で支払っていく仕組み。月々の負担が軽くなる一方で、契約満了時には、残価を支払って買い取る、車を返す、新しい車に乗り換える、といった選択をすることになるのが一般的です。なお、毎月の支払い分だけでなく、返済を据え置く残価分にも金利(利息)がかかるのが通常です。
現在、住宅金融支援機構が導入する見込みの「残価設定型融資保険」を利用した残価設定型住宅ローン(2026年7月時点ではまだ取り扱いなし)は、車の残クレと考え方の出発点が似ています。将来のその家の価値である「残価」に着目し、これを住宅ローンの仕組みに組み込むものです。
住宅の購入価格から、一定期間後の住宅の売却想定価格(残価)を差し引いた分を分割して返済することで(金利は月々の返済と返済を据え置いている残価にかかります)、毎月の返済負担を抑えることができます。
期間終了後は、金利を払って住み続ける、売却してローンを完済する、残価部分を精算・再ローンで住み続ける、など、柔軟な選択で将来の住み替えや返済額の軽減に備えられる仕組みになっているようです。
一方、現在すでに三菱UFJ銀行や楽天銀行、モーゲージバンク(住宅ローン専門のノンバンク系金融機関)の日本住宅ローンで取り扱われているのが、JTI(一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)と連携した残価設定型住宅ローン(以下、JTI型)です。
これは、最初から「残価を差し引いた金額だけを返済する」というよりも、通常の住宅ローンに、将来の一定時期(残価設定月)以降、いつでも使える2つのオプションが付いた仕組みになっています。
JTIは、協賛企業(2026年9月現在、大手10社を含む33の住宅事業者)が建てた認定長期優良住宅に対して、購入から50年間の毎月の買取価格(残価)を、工事が完了した時点で査定し、購入者と金融機関に買取り保証を提供します。
当初に借り入れた住宅ローンの残高が「残価」と一致した月以降、いつでも以下の2つのオプションを行使することができます(行使しなければ普通の住宅ローンのまま返済が続きます)。オプション料は借入金額にかかわらず定額(2026年7月現在税込5万5000円)です。
残価設定月は個々の物件ごと、借入額ごとに異なりますが、退職時期の前後を目安に設定できる場合が多くなっています。

■返済額軽減オプション
住宅ローンの残高がJTIの保証する残価まで減ったあと(残価設定月)、このオプションを行使すると、ローンが新型リバースモーゲージに転換されます。
転換後は、JTIの保証する残価以上に原本を返さないことにより、月返済額が大幅に圧縮されます。これにより、収入が減少する老後の返済負担を抑えることができます。もちろん、余裕があれば、追加で返すことは自由です。

■買取オプション
新型リバースモーゲージに転換後は、住宅売却の際、ローン残高で家を買い取ってもらえます。オーバーローン(家を売っても、ローン残高が残ってしまう状態)を防げるため、住み替えや債務者死亡による一括返済などの状況で活用可能。オプションを使わず、市場で売却することも可能です。

つまり、現役時代は通常の住宅ローンとして返済を続け、老後などに収入が減ってきたら、返済額軽減オプションを使って月々の負担を抑えたり、住み替えや施設入居などが必要になったら、買取オプションを使って家を手放したりすることができる。そんな「将来の選択肢」が付いた住宅ローンだといえるでしょう。
JTI型は、現在、銀行2行、モーゲージバンク1社が取り扱っており、当初組む住宅ローンには、【フラット35】や【フラット50】といった固定金利型だけでなく、銀行の変動金利型や固定金利選択型が利用できます。取り扱える住宅ローンや融資条件は金融機関によって異なります。【フラット35】【フラット50】以外の住宅ローンの場合は、通常の住宅ローンよりも年0.1%〜0.2%を上乗せした金利が適用されます。
「残価を設定すると、一定期間が過ぎたら家を手放さなければならないのか?」
と心配する人もいるかもしれませんが、結論から言うと、必ず手放さなければならないわけではありません。
JTI型の返済額軽減オプションやJTI買取オプションは、あくまでも「使ってもよい権利」であって、「必ず使わなければならない義務」ではないからです。例えば、老後も余裕をもって返済を続けられるのであれば、オプションを使わずにそのまま通常の住宅ローンとして返済し、完済して住み続けることもできます。
一方、退職後に収入が減って返済が重く感じられるようになったら、返済額軽減オプションを使い、毎月の返済額を軽くして住み続けるという選択も可能です。この場合、死亡時などに住宅を売却して残りを精算するかたちになるのが一般的です。
さらに、「子どもが独立したので住み替えたい」「高齢になったので施設に移りたい」「地方へ移住したい」といった場合には、買取オプションを使うことで、家を手放しても住宅ローンが残るという不安をなくせます。
つまり、住み続けるのも、住み替えるのも、家を手放すのも、自分のライフプランに合わせて選びやすくなる。ここがJTI型の大きな特徴だといえるでしょう。
このようなメリットのある残価設定型住宅ローンが、これまで大きくは広がってこなかった理由には、以下の2点が挙げられます。
1点目は、対象となる住宅が限られること。JTIの残価保証が受けられる住宅は、原則として、長期間にわたって維持管理できる体制を整えているとJTIが認めた事業者が施工する認定長期優良住宅に限られます(マンション等は対象外)。
2点目は、利用者側から見ても、提携する住宅メーカー経由での申し込みに限られたり、買取オプションを提供するJTIの証明書発行に費用(上述)がかかったり、通常の住宅ローンより仕組みが複雑だったりする点です。やはり、手続きなどが面倒なもの、仕組みがよくわからないものは避けられる傾向があります。
「住宅にかける初期費用や月々の負担を抑え、将来は手放す」という仕組みは、リバースモーゲージと定期借地権付き住宅も同様です。
リバースモーゲージとは、自宅を担保にしてお金を借り、毎月は利息だけを支払い、死亡時などに自宅を売却して元金を返済する仕組みです。多くは高齢者向けの商品で、住宅購入時から使うというよりも、老後に自宅を活用して資金を確保するためのものです。また、住宅を売却しての返済は死亡時のみになりますが、JTI型の残価設定型住宅ローンの場合はいつでも可能です。
そして、定期借地権付き住宅は、土地を購入せず、一定期間借りた土地の上に建物を建てたり購入したりする仕組みです。土地代の負担を抑えられるため、初期費用や物件価格を抑えやすい反面、契約期間が終われば原則として土地を返す必要があります。土地は自分のものにならない、という割り切りが必要です。
では、JTI型の残価設定型住宅ローンは何が新しいのか。
やはり大きなポイントは、住宅を買う段階から、将来の住宅価値に着目し、返済額の軽減や住み替えの選択肢をあらかじめ用意できる点でしょう。
リバースモーゲージは、主に老後になってから自宅を活用する仕組み。一方、残価設定型住宅ローンは、住宅を買う段階から将来の残価や住み替えを意識します。
定期借地権付き住宅は、土地を所有しないことで負担を抑える仕組み。一方、残価設定型住宅ローンは、土地と建物を所有しながら、将来の住み替えや返済額の軽減という選択肢を持てます。
つまり、残価設定型住宅ローンは、「一生住み続ける前提で買う」だけでなく、「将来の暮らし方の変化にも備えながら買う」ための住宅ローンだといえるでしょう。
JTI型の残価設定型住宅ローンの利用者にとってのメリットを整理してみましょう。
現役時代は通常の住宅ローンとして返済し、収入が減る時期に返済額軽減オプションを使える可能性がある
将来、住宅を手放す際にローンだけが残るというリスクを抑えやすくなる
残価保証や保険の対象となるには、一定の耐久性や維持管理体制が求められるため
買取オプションはあくまでオプション(選択権)のため、価値の下落によるローンが残るリスクがなくなる一方、価値の上昇のメリットは温存できる
返済額軽減後の返済額は想定家賃程度かそれより低めに設定されるので、家を手放さずにローンの支払いを続けられる
JTI型の残価設定型住宅ローンの利用者にとってのデメリットも知っておきましょう。
マンション等の区分所有物件は不可。認定長期優良住宅など、一定の品質や維持管理体制が求められるのが一般的
残価設定月、オプションの行使条件、金利、手数料などをきちんと理解する必要がある
金利の上乗せや、証明書発行などの費用もかかる
残価設定型住宅ローンは、どんな人に向いていて、どんな人には向かないのでしょうか。まとめてみました。
・長期優良住宅など、資産価値を意識した住宅を購入したい人
・将来の住み替えやコンパクトな暮らしへの移行を視野に入れている人
・老後の住宅ローン返済を軽くする選択肢を持っておきたい人
・制度の仕組みを理解し、家計や住宅の維持管理を定期的に見直せる人
・一生住み続けるつもりで、家を手放す選択肢は考えたくない人
・金利や手数料などのコストを、できるだけ抑えたい人
・対象となる長期優良住宅以外の住宅を検討している人
・毎月の返済額だけを見て、借入額を増やそうとしている人
やはり、残価設定型住宅ローンは、万人向けの住宅ローンではありません。仕組みを理解し、将来の住み替えや老後の暮らし方まで含めて考えられる人にとっては、選択肢のひとつとしては考えられる、という位置づけで理解しておくのが無難でしょう。
自動車の残価設定型クレジットに似た仕組みをもつが異なる点も多いのが残価設定型住宅ローン
JTI型の残価設定型住宅ローンは通常の住宅ローンに、将来使える2つのオプションを付ける仕組み
JTI型の残価設定型住宅ローンは住み替えや老後の暮らし方まで視野に入れて家を買う人に向いている
イラスト/杉崎アチャ
SUUMOコンテンツスタッフ