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マイホームを手に入れるときに、親や祖父母から現金や土地などの贈与を受ける人は多いでしょう。今回は贈与を受ける前に知っておきたい「相続時精算課税制度」について、制度概要や利用するメリット・デメリット、利用時の手続きなどについて、税理士の池田里美さんに教えて頂きました。
住宅を取得するとき、頭金分として親や祖父母から贈与を受ける人が増えています。その際に“オトクな制度”として「相続時精算課税制度」という制度を見聞きしたものの、詳細がわからないという方もいるかもしれません。
「相続時精算課税制度とは、親や祖父母からの贈与について、贈与額が贈与者一人あたり合計2500万円になるまで贈与税が非課税になる制度です。贈与財産の種類に制限はなく、現金だけでなく不動産などでも利用できます。贈与回数や年数にも制限はありません」(税理士 池田里美さん。以下同)
さらに、2024年1月1日以後に贈与を受けた財産については、1年あたり110万円の基礎控除も適用されます。相続時精算課税制度を選択していても、暦年贈与(暦年課税)と同じように基礎控除年110万円までの贈与なら、贈与税の申告をする必要がなくなったのです。
例えば、父親(贈与者)から1年に1110万円ずつ、3年間贈与を受けた場合、1年目と2年目は、各年の贈与額1000万円(1110万円-基礎控除110万円)から特別控除額1000万円を控除するので子(受贈者)に贈与税はかかりません。
そして、3年目に初めて、贈与額1000万円から特別控除額2500万円の残額500万円を引いた「500万円」に対して税率20%の贈与税が課税されるのです。

相続時精算課税制度は、以下を満たす場合に利用が可能です。
・親や祖父母などの贈与者が、贈与をした年の1月1日時点で60歳以上
・子や孫などの受贈者が、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上※
・贈与者と受贈者の関係が、親子か祖父母と孫であること
※2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳以上
ちなみに、控除額の上限は贈与者ごとに2500万円です。例えば、父から2500万円、母から2500万円、祖父母4人からそれぞれ2500万円、合計1億5000万円の贈与を受けても、すべての贈与者について相続時精算課税制度を選択すれば贈与税がかかりません。
一方、基礎控除110万円は、「子や孫などの受贈者1人当たり」に対する控除です。例えば、両親と祖父母4人からの贈与が同じ年に行われた場合、基礎控除110万円はそれぞれ6人からの贈与額を基に按分(あんぶん)して計算することになります。

また、制度の選択は贈与者ごとに行います。例えば、父からの贈与は相続時精算課税を選択し、母からの贈与は暦年課税(詳細は後述)を選択することも可能です。
注意したいのは、相続時精算課税制度を選択して受けた贈与はすべて相続財産となる点です。例えば、相続時精算課税を選択した後1000万円贈与を受けた場合、特別控除額2500万円の枠内で贈与税はゼロですが、贈与者が亡くなると、相続財産として相続税の対象となるのです(年間110万円の基礎控除は除く)。
ただ、相続する財産総額が相続税の基礎控除額(※)に収まる場合は、どのタイミングで財産をもらっても最終的に相続税の支払いは発生しないので、相続時精算課税制度を使って早めに贈与を受けてもよいでしょう。
※相続税の基礎控除:計算式は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」。この場合の法定相続人とは、相続税法で定められた相続人で、たとえば被相続人に相続放棄をしていない配偶者と子ども2人がいる場合は、配偶者+子ども2人=3人が法定相続人となる

相続時精算課税制度で注意したいのが、この制度を使って生前贈与を受けたときに2500万円までは贈与税はかかりませんが、相続時には、この制度の利用以降の生前贈与と、相続発生時の手元財産との合計額で相続税が計算される点です。

相続時精算課税を選択した後、特別控除枠の2500万円を超える額の贈与を受けて贈与税を納めた場合はどうでしょう。下図のように贈与税を修めた分も相続税の対象になりますが、相続税額が確定した時点で納めた贈与税は相続税に充当されます。相続財産が相続税の基礎控除内だった場合などは、還付により戻ってくることもあるのです。
「例えば、今住んでいる親名義のマンションにずっと住み続けたいと考えている方は、制度を利用して早めに贈与してもらうのも1つの手です。2500万円を超えた金額分には贈与税がかかりますが、購入するより安く済むケースは多く、ずっと住み続けられる安心も得られます」

一方で、財産総額が相続税の基礎控除を超え、相続税が発生する可能性がある場合は、他の税制を利用した方が節税につながるかもしれません。自分がどちらなのかわからない方は、相続時精算課税制度の利用前に税理士に相談することをオススメします。
贈与されたお金を住宅取得のために使うなら、相続時精算課税制度にこだわらず「住宅取得等資金贈与の非課税の特例」という非課税制度を利用する方法もあります。
住宅取得等資金贈与の非課税の特例とは、2026年12月31日までの間に、両親や祖父母から住宅取得資金として贈与を受けた場合、一定の金額が非課税となる制度です。非課税限度額は建物の種類によって異なり、一般の住宅は最大500万円、省エネ等住宅の場合は最大1000万円となります。
住宅取得等資金贈与の特例制度は、
・相続時に贈与税が非課税となった贈与分を精算しなくてよいこと
・暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらを選択しても利用できることが、相続時精算課税制度との大きな違いです。
住宅取得のために資金贈与を受けるなら、まずはこの特例制度の利用を検討するとよいでしょう」

相続時精算課税制度のメリット・デメリットはどのような点でしょうか。
「大きなメリットは、親や祖父母が何の話し合いもないまま亡くなったときの相続よりも、もめる可能性が低くなる点です。生前贈与は“渡す側”と“もらう側”の意向を直接確認できるので、お互いや周りも納得しやすくなります。
このメリットを活かすためには、制度を使うときに当人同士だけで決めず、相続人全員と話し合う機会を持つとよいでしょう」
他のメリットには、相続税の節税効果があげられます。
「例えば、親名義の賃貸物件や投資物件の家賃収入は親の財産になるため、相続時までに財産が大きくなると相続税が発生します。これらの物件を、相続時精算課税を使って早めに贈与すれば、家賃収入は子どもの財産となるため、その分は相続税の節税につながります」
さらに、値上がりする可能性がある財産の贈与についても節税効果があります。例えば、住宅や株式などの財産は贈与時点での評価額になるため、贈与時よりも相続時に上がっていれば節税効果が得られます。ただ、価格は下がる可能性もあり、その場合はより多く税金を払うことになるため、必ず節税できるとは限りません。
相続時精算課税制度は、一度選択すると、制度の利用を撤回することができません。
相続時精算課税制度を選択すると、暦年贈与が使えなくなります。暦年贈与であれば、1年間の贈与額が110万円までなら贈与税の申告が不要でしたが、相続時精算課税では、110万円以下の贈与でも申告が必要でした。
しかし、2024年1月1以降についてはこのデメリットが改善されます。暦年贈与が使えなくなるのはそのままですが、相続時精算課税制度の累計2500万円までの非課税枠とは別に、年110万円までの基礎控除枠が新しく加わります。2024年以降は、相続時精算課税制度を選択していても、年110万円までなら贈与税・相続税ともにかかりません。詳細は税理士に相談してください。
一方、相続時精算課税制度を利用して土地を贈与すると、相続時に小規模宅地等の特例が使えなくなります。小規模宅地等の特例とは、自宅の土地のうち330m2までは評価額が80%減額される制度で、評価額が減額されることで相続税の負担が軽くなります。ただし、相続直前に子が親と同居しているなど、いくつかの要件を満たす必要があります。
「土地価格が高い都市部の方は、小規模宅地等の特例を使わないと多額の相続税が発生するケースがあります。親の家に同居している方は、小規模特例を使えば相続税がかからないこともあるので、深く考えずに相続時精算課税制度を選択することは避けた方がよいかもしれません」
他には、諸費用が高くなる点です。建物や土地を相続する場合は登録免許税のみですが、贈与の場合は登録免許税と不動産取得税が必要になります。さらに登録免許税の税率は、相続時が原則0.4%、贈与は2.0%となります。税額は不動産価格によって変わりますが、例えば、不動産の価額が2000万円の土地の登録免許税は、相続では8万円、贈与では40万円となります。

相続時精算課税制度を利用するためには、初めて贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告を行う必要があります。申告の際に提出する書類は以下の通りです。
●「贈与税の申告書」と「相続時精算課税選択届出書」
両方とも国税庁のホームページから入手できます。相続税精算課税制度を利用する場合は、贈与税の申告書の第一表と第二表の両方を記入します。
●添付書類
受贈者が贈与者の子や孫である場合には、次の書類が必要になります。
【受贈者や贈与者の戸籍謄本または抄本など】
(受贈者の氏名、生年月日、受贈者が贈与者の推定相続人である子か孫であることがわかる書類)
贈与を受ける子(受贈者)と、親(贈与者)であれば、受贈者の戸籍謄本のみで「受贈者が贈与者の推定相続人である子」であることがわかります。一方、祖父母からの贈与など、子の戸籍情報だけでは適用関係が証明できない場合は、贈与者の戸籍に関する書類も必要となります。
「申告書や添付書類を期限内に提出しないと、相続時精算課税制度が適用されず、暦年課税での贈与税が課税されるので注意しましょう。自分はどんな書類が必要なのかを早めに把握し、計画的に用意しておくとスムーズに進めやすくなります」
なお、2023年12月31日までに相続時精算課税制度を利用して受けた贈与は110万円以下の贈与でも贈与税の申告が必要でした。しかし、2024年1月1日以後に受ける贈与については年110万円までの贈与であれば贈与税はかからず、申告も不要になります。改正前後で異なるため、詳細は税理士や税務署に確認してください。
相続時精算課税制度を利用して土地の贈与を受ける場合、上記の添付書類に加え「土地の評価明細書」を提出します。
「土地の評価明細書は、土地の評価額を算出し明確にする書類です。書類は国税庁のホームページから入手できますが、評価方法が煩雑で難しいため、税理士が作成するケースが非常に多くなっています。まずは書類を入手して確認し、記入が不安な方は早めに税理士に相談しましょう」

生前贈与には、相続時精算課税制度だけでなく、暦年贈与(暦年課税)や住宅取得等資金贈与の非課税特例など、いくつかのおトクな制度があります。
「住宅取得に際して贈与を受ける場合、贈与税や相続税などの税金の問題は発生しますが、優遇を受けられる制度はあります。ただ、制度により適用条件が異なりますし、ご家庭ごとに財産総額や相続人数は違うので、わが家の場合はどの制度がおトクになりそうか、よく調べておくことがとても重要です。
しかし、多くの方が家の間取りやデザイン、どの物件を購入するかなどに気を取られ過ぎて、贈与に伴う情報収集を後回しにしがちです。その結果、思わぬ税金を払うことになったり、相続発生時に大変な思いをするケースがあります。
金銭の贈与はもちろん、親名義のマンションや土地をもらう、二世帯住宅を建てる予定がある方は、贈与や相続を見越したうえで土地や建物の登記をしたいものです。そして贈与で相続時精算課税制度を使う際には、当人同士だけでなく親族も交えて税理士に相談し、アドバイスを受けおくことをオススメします」
不動産の生前贈与についてもっと詳しく
→不動産(土地)の生前贈与に適したケースとは? 手続き・税金・必要書類も解説
→【最新版】住宅ローン控除や贈与税、税制改正でなにがどう変わる?【得する住宅税制ガイド】
贈与者1人につき贈与額2500万円までの贈与税が非課税になる制度。父・母・両祖父母の6人から贈与を受ける場合合計1億5000万円以上贈与税が非課税になることも
相続時には、相続時精算課税制度の利用以降の生前贈与と、相続発生時の手元財産との合計額で相続税が計算される。相続時精算課税制度も年間110万円の基礎控除が使える
“渡す側”の意向を直接確認できる生前贈与となるため相続時の争いを回避しやすいというメリット、一度選択すると制度の利用を撤回できず、暦年贈与が使えなくなるというデメリットがある