実家を二世帯住宅に建て替えたり、親子で力を合わせて二世帯住宅を新築したりする場合、どのような資金計画があるのでしょうか。親子リレー返済や親子ペアローンといった言葉を聞きますが、どう違うのでしょうか。それぞれの特徴や、利用する際の注意ポイントを解説します。
親子リレー返済とは、1つのローンについて、最初に親が返済していき、途中で子が引き継いで返済していく方法です。親から子へ返済のバトンが渡されていく返済方法なので、親子リレー返済と呼ばれます。
一方、親子ペアローンとは、親と子が別々にローンを組む方法です。ローン契約は2つで、親と子はそれぞれ自分のローンを返済していくかたちになります。
一般的な親子リレー返済と親子ペアローンのメリット・デメリットは以下のとおり。
親子リレー返済 | 親子ペアローン | |
---|---|---|
メリット | ・親が高齢でもローンが組みやすい ・収入合算で借入金額を多くできる ・返済割合に応じた住宅ローン控除がそれぞれ受けられる ・ローン事務手数料などが1件分で済む ・親が団信に加入できる場合、親が亡くなればローンの全額がなくなる(ただし、機構団信の場合、80歳で加入できなくなるので、子が加入するのが一般的) |
・単独で借りるよりも借入金額を多くできる ・住宅ローン控除を別々に受けられる ・団信を別々に加入できる |
デメリット | ・団信の加入が1人なので、子が加入していると、親が亡くなってもローンはなくならない ・子は連帯債務者になるので、親が返済中も他のローンを組みにくくなる |
・ローン事務手数料などが2件分必要になる ・親が亡くなっても、子のローンはなくならない ・親の年齢によっては親のローンは返済期間を長くできない |
親子リレー返済の大きなメリットの1つが、親が高齢でも、子の年齢で返済期間を設定できることでしょう。
例えば、通常の【フラット35】の場合、申込時の年齢は「満70歳未満」という条件がありますが、親子リレー返済にすると、70歳以上の人でも申込みが可能になります。後継者になるための要件は、以下のとおり。
(1)申込本人の子・孫など(申込本人の直系卑属)またはその配偶者で定期的収入のある人
(2)申込時の年齢が満70歳未満の人
(3)連帯債務者になる人(1名のみ)
そして、親子リレー返済の返済期間は、後継者の年齢で設定することができます。
例えば、申込本人が60歳だと、通常の【フラット35】の場合は返済終了が80歳までというルールがあるので、最長20年返済となりますが、親子リレー返済の後継者が30歳だった場合は、最長35年返済で組むことができるのです。
さらに、1本のローンを収入合算して借りるかたちになるので、親子の収入を合算できる分、多くの金額を借りることができます。1本のローンなので、事務手数料などのコスト負担も1本分で済みますし、住宅ローン控除は、返済の割合に応じて2人とも受けられます。
なお、団体信用生命保険(団信)は、どちらか一方が加入することになります。親が団信に加入して親が亡くなった場合はローンの全額がなくなりますが、子が団信に加入した場合は、親が亡くなってもローンはなくなりません。なので、親が団信に加入するのが得策でしょう。
ただし、機構団信は、80歳の誕生日の属する月の末日をもって保障が終了します。親が80歳になると団信の保障が切れてしまうので、子が団信に加入することで団信の保障をつけることはできます。それでも、親が80歳を超えて亡くなった場合は、団信によるローンの相殺は行われないことになります。
親子ペアローンは、親と子が1つの物件の持ち分に対するローンを別々に組むイメージです。例えば、5000万円の物件のうち、3000万円部分を親がローンを組み、残りの2000万円部分を子がローンを組むかたちになるのがペアローンです。
これは、夫婦でペアローンを組むのと同様、それぞれが別々にローンを組むかたちになるので、それぞれが住宅ローン控除を受けられますし、それぞれが団信に加入できます。ただし、あくまでも自分が組んでいる部分に対する住宅ローン控除と団信になりますので、親が先に亡くなったとしても、団信で相殺されるのはあくまでも親のローンの部分のみになります。
なお、返済期間はそれぞれの年齢で判断されるのが通常なので、親の年齢が高い場合は、親のローンの部分は返済期間を長く組めない可能性があります。また、2つのローンを組むことになるので、事務手数料などが2件分発生する点にも注意が必要です。
そもそも、親子リレー返済は、【フラット35】での取り扱いが中心で、銀行独自のローン商品では取り扱っているところが非常に少ないのが実情です。逆に、親子ペアローンは、【フラット35】では取り扱いがなく、銀行独自のローン商品での取り扱いとなります。
2023年2月現在、【フラット35】の金利は、借入期間21年以上35年以下、融資率9割以下で、年1.880%の水準まで上がってきています。一方、変動金利型で最も低いところは年0.3%前後で、まだ上昇していく気配はありません。
将来の金利水準がどうなるかはわかりませんが、当面の利息負担を抑えたいのであれば、親子ペアローンで変動金利型を利用するのも1つの方法でしょう。逆に、今後の金利上昇リスクを最初から回避しておきたいと思うなら、【フラット35】で親子リレー返済か、親子ペアローンで固定金利型を選ぶのがよいでしょう。
また、親が高齢で長期の返済期間を設定できない場合など、状況によっては、親子ペアローンよりも親子リレー返済のほうが返済計画を立てやすいケースもあると思います。どちらにせよ、安心して返済していけるような返済計画を立てられる選択が重要でしょう。
なお、親子でローンを返済していく場合、住宅の持ち分割合と実際の資金負担の割合が同じになっていないと、親から子へ、または、子から親への贈与の問題が発生する可能性があります。持ち分割合の設定については、税務署などに相談しながら、適切に登記をすることが大切です。
そして、将来、親が亡くなって相続が発生したときには、親の持ち分を相続人が相続することになりますので、相続人が複数人いることが予想される場合は、親に遺言書やエンディングノートを作成してもらって、遺産分割でもめないようにしておくことも重要でしょう。
親子リレー返済とは、1つのローンを最初は親が返済し、途中で子が引き継いで返済していく方法
親子ペアローンとは、親と子が別々にローンを組む方法
親子リレー返済は親が高齢でも子の年齢で返済期間を設定できる
親子ペアローンは、親と子それぞれが住宅ローン控除を利用できる
イラスト/杉崎アチャ