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住宅の購入に際し、住宅ローンは年収の何倍を借りられるのか気になっている人も多いのではないでしょうか? この記事では、実際に住宅ローンを組んでいる人が年収の何倍を借りているのか、理想は何倍なのかを、ファイナンシャルプランナーの鈴木さや子さんに伺い解説します。年収別の借入可能額の目安やいくら借りるかを決めるときの注意点などもあわせて解説しますので、参考にしてみてください。
住宅金融支援機構では、物件の種類別に年収の何倍を借りているのか(年収倍率)を調査しています。まずは、そのデータをチェックしてみましょう。
住宅の種類 | 所要資金 | 年収倍率 |
---|---|---|
土地付き注文住宅 | 4903万円 | 7.6倍 |
マンション | 5245万円 | 7.2倍 |
注文住宅 | 3863万円 | 7.0倍 |
建売住宅 | 3603万円 | 6.6倍 |
中古マンション | 3037万円 | 5.6倍 |
中古一戸建て | 2536万円 | 5.3倍 |
物件価格が高額になるほど、年収倍率が高くなる傾向があるとわかります。年収倍率が高くなるということは、年収に対してより多くの住宅ローンを借り入れていることを意味します。
「なお、過去10年間、年収倍率は上昇傾向にありましたが、2023年度は横ばいもしくは減少しました。これは、2022年からの賃金上昇が影響していると考えられます。実際に、2023年の民間企業の賃上げ率は3.6%と大きく上昇しており、結果的に年収が増加したため、年収倍率がやや下がった可能性があります」(鈴木さん/以下同)
「住宅ローンの借入額を決める際、多くの人は年収の何倍借りられるかという『年収倍率』を意識します。しかし、実際には年収倍率よりも、年収に占める年間返済額の割合を示す『返済負担率』で考えるほうが現実的です」
返済負担率は、以下の計算式で求めます。
返済負担率(%) = 年間返済額 ÷ 年収 × 100
年間返済額は、住宅ローンの借入額だけでなく、カーローンやその他の借入も含めて計算するのがポイントです。
「返済負担率を計算するときは、額面年収ではなく手取り年収で計算し、25%以内に抑えるのが理想的です。この範囲内に収めると、住宅ローンを返済しながらも生活に余裕をもちやすくなります。
とくに、子育て世帯や今後教育費がかかる家庭では、できるだけ返済負担率を低めに設定することが、将来的な安心につながります」
それではなぜ年収倍率ではなく返済負担率で考えるべきなのか、その理由を鈴木さんに伺いました。
年収倍率は、額面年収に対して住宅ローンの金額がどれだけかをシンプルに示す指標です。つまりこれはあくまで住宅ローン単体での目安でしかなく、ほかの借入がある場合でも考慮されません。そのため、実際には返済が苦しくなる可能性があります。一方、返済負担率は、ほかの借入額も含めて算出します。
「例えば、自動車ローンや教育ローン、カードローンなど、さまざまな借入がある場合、それらの返済も含めてトータルで考えなければ、月々の実際の返済負担を見誤ってしまいかねません。年収倍率だけを参考にすると、住宅ローン以外の借入負担が見えないまま借入上限額を考えてしまい、実態に合わない予算で物件を検討してしまう恐れがあります」
住宅ローンの審査時、金融機関が実際にチェックするのは「返済負担率」で、「年収倍率」ではありません。金融機関は、返済負担率をもとに借り手が無理なく返済を続けられるかどうかを判断するため、借り手も同じ指標で検討するのが現実的です。
年収倍率は、各家庭の個別の家計状況を考慮できないことも問題だと鈴木さんは指摘します。
「年収倍率では、各家庭の日常の生活費やライフイベントにかかる費用などが考慮されません。一方、返済負担率を使えば、『毎月いくら返済に回せるか』という現実的な家計状況を基準に考えられるので、それぞれの家庭に必要な支出をふまえて借入額を検討しやすくなります」
年収別の借入可能額はどの程度になるのでしょうか。
ここでは、一般的な「年収倍率7倍」の考え方と、より現実的な「手取り年収の25%以内」という返済負担率の視点から比較してみましょう。
額面年収 | 手取り年収 | 年収倍率(7倍) | 返済負担率(手取りの25%) |
---|---|---|---|
300万円 | 240万円 | 2100万円 | 1920万円 |
400万円 | 320万円 | 2800万円 | 2560万円 |
500万円 | 400万円 | 3500万円 | 3210万円 |
600万円 | 480万円 | 4200万円 | 3850万円 |
700万円 | 525万円 | 4900万円 | 4210万円 |
800万円 | 600万円 | 5600万円 | 4810万円 |
900万円 | 630万円 | 6300万円 | 5050万円 |
1000万円 | 700万円 | 7000万円 | 5610万円 |
1100万円 | 770万円 | 7700万円 | 6170万円 |
1200万円 | 840万円 | 8400万円 | 6740万円 |
1300万円 | 910万円 | 9100万円 | 7300万円 |
1400万円 | 980万円 | 9800万円 | 7860万円 |
1500万円 | 1050万円 | 10500万円 | 8420万円 |
「この表からわかるように、年収倍率と返済負担率で考える場合、年収が高くなるほど借入可能額の差が大きくなります。とくに年収900万円以上では1000万円以上の差が生じており、物件選びや資金計画に影響が出る可能性があるでしょう。そのため、理想的な借入額を検討するときには、返済負担率で考えることをおすすめします」
住宅ローンは、人生でもっとも大きな借入になることが多く、その決断が今後数十年の家計を左右します。ここでは、借入額を決める際に、とくに考慮すべきポイントを見ていきましょう。
住宅ローンは長期間の返済が必要となるため、将来の収入変化を見据えて計画することが重要です。とくに共働き世帯では、子育てなどでどちらかの収入が減少する可能性も考慮しましょう。両者の収入をフルに計算して借入額を決めるよりも、一定の余裕をもたせた計画を立てることが安心につながります。
また、将来的な転職による収入減少の可能性など、今後のキャリアプランも考慮したうえで検討するとよいでしょう。
住宅ローンを選ぶときに、とくに注意したいのが金利変動リスクです。変動金利型のローンでは金利が上昇すると返済額が増えるため、事前にリスクを理解し、慎重に検討することが重要です。
「最近では金利が上昇傾向にあり、2025年3月からメガバンクを中心に短期プライムレート(※)も引き上げられました。今後さらに金利が上昇する可能性があるため、変動金利型を選ぶ場合は借りすぎに注意し、金利上昇時の対策もよく考えておく必要があるでしょう」
(※)短期プライムレート:銀行が優良企業に1年未満の期間で融資する際の最優遇金利のこと。住宅ローンの変動金利を決めるときに使われる
住宅ローンの返済期間は、毎月の返済額と総返済額に大きく影響します。返済期間を長く設定すれば毎月の返済額は減りますが、その分、利息が増え総返済額が増加します。
「返済期間は定年退職までに完済できる範囲に設定すると安心です。収入が安定している現役時代に完済できるような返済計画を立てることが大切です」
住宅ローンを組む際は、借入をする年齢も重要な要素です。とくに50代以降で検討する場合、収入減少や健康リスクなどを考慮する必要があります。
「できるだけ70歳までには完済できる計画を立てることがおすすめです。また、50代以降は病気のリスクがとくに高まるため、3大疾病付きの団体信用生命保険なども検討しましょう」
住宅ローンを組む際は、審査に通ることだけでなく、将来にわたって安定して返済し続けられるかを最優先に考える必要があります。ここでは、無理なく返済していくための注意点を紹介します。
最近は住宅購入時に頭金をまったく入れない、いわゆる「フルローン」で借入をする人も増えてきました。しかし、フルローン(頭金なし)は借入額が大きくなるため、毎月の返済負担や、変動金利で組んだ場合の金利上昇リスクが高まります。そのため、住宅ローンの借入時には、10%〜20%程度の頭金を入れるのが理想です。
「頭金が物件価格の10%以下だと金利を高く設定する金融機関もあるため、最低でもそれ以上の頭金を用意することをおすすめします。そうすることで、金利面でも有利になり、返済負担を軽減できます」
住宅ローンの返済方法には、毎月の返済のほかにボーナス時にまとまった返済をおこなう「ボーナス払い」があります。この方法を利用すると毎月の返済負担を抑えられますが、ボーナス時に大きな出費が必要になるのが問題です。
「ボーナス払いは、景気や会社の業績悪化などでボーナスの額が減少した場合に、返済が難しくなるリスクがあります。住宅ローンは長く払い続けるものなので、その間にボーナスが出ない会社に転職する可能性もあるでしょう。
将来ボーナスが減ったりなくなったりしたときに、住宅ローンの返済に大きな影響を与えないためにも、ボーナス払いはできる限り避け毎月一定額で安定的に返済できる方法を選ぶことをおすすめします」
住宅ローンのボーナス払いについてもっと詳しく→
住宅ローンのボーナス払いはやめた方がいいの?変更したいときの対策や利用時の注意点などを解説
最後にあらためて鈴木さんに、住宅ローンの借入額を検討している人に向けてのアドバイスを伺いました。
「住宅ローンを借りる際は、現在の年収や支出だけでなく、将来のキャリアや家族構成などライフプランの変化も考慮したうえで、無理のない金額を設定しましょう。『家』だけに資金が集中してしまうと、旅行や趣味、子どもの教育費といった大切な支出に対応できなくなります。
また、変動金利を選ぶ場合は、金利上昇時に返済額が増えた場合をシミュレーションしておくと安心です」
物件価格が高額になるほど、年収倍率は高くなる傾向がある
理想の借入額は、年収の何倍ではなく、返済負担率で考えるのが現実的
借入額を決めるときは、現在の収入だけでなく、将来のキャリアやライフプランも考慮しよう