給与からの天引きなどで納めた所得税が本来の税額より多かった場合、確定申告することで払い過ぎた分の還付を受けられます。この還付金が受けられるケースのひとつが、住宅ローンを組んだ場合の住宅ローン控除です。還付金でいつ、いくらの所得税が戻ってくるのでしょうか。住宅ジャーナリストの大森広司が解説します。
還付とは、納め過ぎた所得税を確定申告によって返してもらうこと。返してもらうお金を還付金と呼びます。
会社員は毎月の給与から所得税が天引きされていますが、なんらかの事情で所得が少なくなる場合は確定申告をすることで所得税の還付を受けられます。このように還付が受けられる確定申告を還付申告と呼び、納め過ぎが発生した年の翌年から5年間が申告の期限です。
還付金を受け取れるケースにはいくつかあります。例えば1年間に自分や家族にかかった医療費が10万円を超えた場合は、超えた分の金額を所得から差し引ける「医療費控除」が受けられます。また生活に必要な家具や衣類などの資産が災害や盗難によって損害を受けた場合に還付が受けられるのが「雑損控除」です。
同様に、住宅ローンを組んだ場合も「住宅ローン控除」により還付の対象になります。住宅ローン控除とは、住宅ローンの年末残高の0.7%相当分が13年間(中古住宅は10年間)にわたり所得税から控除される制度のこと。2025年12月31日※1までに新居に入居した人が対象になります。
なお、住宅ローン控除を利用するには、住宅の床面積が50m2以上※2など一定の要件があるので注意してください。
※1省エネ住宅ではない一般の新築住宅は2023年12月31日まで。ただし、2023年12月31日までに建築確認を受けたもの、または2024年6月30日までに建築されたものは除く。
※2特例居住用家屋または特例認定住宅等の場合、床面積が40m2以上でも控除を受けられますが、合計所得金額が1000万円以下であることが、適用要件となります。
特例居住用家屋…床面積が40m2以上50m2未満で、2023年12月31日以前に建築確認を受けた居住用家屋
特例認定住宅等…床面積が40m2以上50m2未満で、2023年12月31日以前に建築確認を受けた認定長期優良住宅と認定低炭素住宅
通常の確定申告は毎年原則2月16日から3月15日までの期間中に税務署に書類を提出して手続きします。還付申告の場合はこの期間にかかわらず申告が可能ですが、住宅ローン控除は入居の翌年の確定申告期間中に手続きするケースが一般的なようです。
なお、住宅ローン控除の還付申告は入居の翌年に1度だけ行えば、次の年からは勤務先の年末調整で手続きが可能になります。
還付金は申告の際に書類に記載する預貯金口座に振り込まれます。振り込まれる時期はケースにもよりますが、申告手続きからおおむね1カ月から1カ月半程度です。なお、自宅のパソコンを使って申告するe-Tax(電子申告)で手続きした場合は、申告から還付金の振り込みまで3週間程度となっています。
住宅ローン控除の還付金額は年額でローン残高の0.7%ですが、だからといって6000万円借りれば42万円戻ってくるわけではありません。というのも、住宅ローン控除の対象となるローン残高には「上限4000万円」などという制限があるからです。この場合、住宅ローンを4000万円以上借りたとしても、還付金は最大で「4000万円×0.7%」で28万円。13年間では最大で364万円までとなります。
なお、ローン残高の上限が4000万円になるのは、住宅が省エネルギー基準(省エネ基準)を満たしている新築住宅(買取再販を含む)のケースです。省エネ基準を満たしていない住宅の場合は上限が3000万円になります。逆に省エネ基準よりも性能水準が高いZEH(ゼッチ)基準を満たしている住宅は4500万円、さらに長期優良住宅や低炭素住宅に認定された住宅は5000万円に上限がアップします。
これらの上限は2022年~2023年に入居した場合のもので、2024年~2025年に入居した場合は500万円~1000万円低くなり、ただし、令和5年12月31日までに建築確認を受けたものまたは令和6年6月30日までに建築されたものは、借入限度額を2000万円として10年間の控除が受けられます。また、中古住宅の場合の上限は、省エネ基準以上を満たす住宅の場合が3000万円、その他の住宅の場合が2000万円です。
また、住宅ローン控除はあくまでも所得税の還付制度なので、すでに納めた所得税以上の額は還付されません。仮に住宅ローン残高が4000万円でも、所得税額が20万円なら所得税からの還付金は20万円までです。ただし所得税から還付しきれなかった額は、翌年分の住民税から9万7500円を上限に控除され、納税額が減税されます。
では実際にどのくらいの金額が還付されるのか、試算してみましょう。
下記の試算条件で計算すると、入居1年目の住宅ローン年末残高は3580万円(金額は概算。以下同)となり、控除率0.7%をかけると25万600円です。このケースでは納めた所得税と住民税からの控除額の上限の合計額が26万1600円と試算されるため、少ない金額のほうの25万600円が1年目の還付金額となるのです。
2年目以降も同様に計算しますが、住宅ローン年末残高は年々減少し、その0.7%の額のほうが所得税と住民税からの上限の合計額をつねに下回るため、ローン残高の0.7%に相当する金額が還付金額となります。
こうした計算の結果、13年間の控除額の合計は280万700円と試算されました。
【試算条件】
年収:600万円(13年間変わらないものとする)
家族構成:夫、妻(専業主婦)、子1人(6歳未満)
住宅価格:4000万円(建物価格2000万円)※消費税別
住宅ローン借入額:3600万円(固定金利1.50%、35年返済、ボーナス時返済なし、2022年10月返済開始、2022年末時点のローン残高:3580万円
【還付金額】
1年目:25万600円
10年間合計:280万700円
下記の試算条件で計算すると、入居1年目の住宅ローン年末残高は5390万円(金額は概算。以下同)です。単純に控除率0.7%をかけると37万7300円ですが、長期優良住宅の場合の還付金の最大額は「5000万円×0.7%」で35万円なので、1年目の還付金額は35万円となります。
2年目以降も4年目までは同じ還付金額ですが、5年目以降は「年末ローン残高×0.7%」の金額が35万円より小さくなるため、還付金額は年々小さくなります。
こうした計算の結果、13年間の控除額の合計は416万2100円と試算されました。
【試算条件】
年収:800万円
家族構成:夫、妻(専業主婦)、子1人(6歳未満)
住宅価格:6000万円(建物価格4000万円)※消費税別。税率10%
住宅ローン借入額:5400万円(固定金利1.50%、35年返済、ボーナス時返済なし、2019年12月返済開始、2019年末時点のローン残高:5390万円)
【還付金額】
1年目:35万円
13年間合計:416万2100円
このように、住宅ローンを組むと借りた金額に応じて還付金が受け取れますが、実際に還付される額は納めた所得税額によっても異なります。還付申告の際には申告書で還付額が計算できるようになっているので、しっかりと確認して手続きしましょう。