東京都の中央部に位置する立川市。駅前にはデパートをはじめとするショッピングスポットが集まり、かねてより多摩エリアに住む人たちにとって「都心への玄関口」「買い物や遊びに行く街」として発展してきました。一方で、豊かな水量を誇る玉川上水が流れ、水と緑にも恵まれた都市として知られています。
そんな立川ですが、街に対する注目度も上がってきている模様。関東に住む人を対象にした「住みたい街ランキング 2015 関東版(リクルート住まいカンパニー調べ、以下同)」では、「今後注目が集まり、地価が値上がりしそう」と思う駅のランキングで立川駅が12位に。さらに、「不動産のプロがおススメする街ランキング 2014 関東版」では総合6位に登場しているのです。
じつは立川は、駅前を中心に大規模な再開発が行われており、より暮らしやすい街へと変化しているそうなのです。これは、今後さらに人気が高まるポテンシャルを秘めているかも……。 というわけで、立川を徹底取材し、魅力とされるゆえんを探ってみました。
立川といえば商業や文化、さらにはアクセスまで、さまざまな点で多摩地区の中核をなす都市。まずはその特長を、ざっくりとまとめてみました。
なお、立川市の家賃相場は以下の通り。
[アパート]1K・1DK 5万5000円
[マンション]1LDK・2K・2DK 8万100円
同路線のターミナル駅である新宿と比較すると、新宿はアパート1K・1DKで6万7000円、マンション1LDK・2K・2DKで16万7900円と、マンションにいたっては倍以上異なります。(SUUMO賃貸・家賃相場2015年2月25日時点)。都心並みに充実した商業施設に恵まれていながら、かなり割安。リーズナブルに暮らせる街といえそうです。
では、さっそく街を散策してみましょう。
商業施設の多さから生活利便性の高い立川ですが、休日を楽しむプレイスポットや住人同士のコミュニティを育むスペースも充実しています。
例えば立川駅近くには、約180haの「国営昭和記念公園」があります。もともと、旧米軍立川基地だった場所の一角を整備し、昭和58年に開園。多摩エリアを象徴するスポットとして知られており、毎年380万人もの人が訪れているそう。とくに、年に数回の無料入園日には、多くの人でにぎわうようです。
園内は「みどり」「森」「水」「広場」「展示施設」など、それぞれのテーマをもとに5つのエリアに分かれており、9つあるプールやバーベキュー場をはじめ、野外ライブやスポーツ教室が実施されるスペースも充実。ほかにも、総延長14kmのサイクリングロードやドッグラン、武蔵野の農村風景を再現した「こもれびの里」では、昭和30年代の暮らしや文化を再現した展示を観賞することができます。
また、スポーツエリアでは、フランスが発祥の球技「ペタンク」や輪投げのように馬蹄を投げる「ホースシューズ」といったスポーツを楽しめるエリアもあり、世界の珍しいスポーツをプレイすることができます。さらに、2013年からは、行列ができる店や予約がとれない人気店を集めた食のイベントも開催され、話題を集めました。また、大地震や災害時の広域避難場所としての機能も併せ持っています。
さらに、立川駅南口から徒歩10分ほどのところには「子ども未来センター」があります。市民のにぎわいが生まれる場にしようと、旧立川市役所を改修し、2012年に誕生。地域活性化の拠点として活用されています。
子ども未来センターの利用用途は「子育てや教育相談の窓口」「市民団体によるプログラムやイベントの実施」「施設貸出」「立川まんがぱーく」などさまざま。
なかでも、大人から子どもまで人気なのが施設内にある「立川まんがぱーく」です。大きな窓から陽光が注ぎ込む開放感たっぷりの空間には、約4万冊の漫画を収蔵。15歳以上の大人400円・小中学生は200円と格安利用料で、平日は10時から19時(土日祝日は20時)まで、1日中滞在することができます。
「立川まんがぱーく」を提案、現在も運営を担当している、合人社計画研究所の福士真人さんは、「これまで立川を舞台にした漫画やアニメは多くあり、これまでもアニメに絡めたイベントが多数催されていたことから、こうした施設が受け入れやすかったのかもしれません」と振り返ります。現在ではプロの漫画家さんを招き、小学生から中学生を対象に漫画の描き方講座なども実施しているそうです。
取材に訪れた日は平日にも関わらず、100名近くが来場していました。平日の割合は大人8割、子ども2割くらいなのだとか。3月からは平日限定で3カ月間のお得な入館パスポートも発売しており、ますますファンが増えそうです。
“街のにぎわい”を生むための仕掛けはほかにもあります。立川市子ども未来センターでは地域の市民活動団体が企画した多種多様なプログラムが毎月20種類近く実施されています。立川市の場合は”市民主体”であるというのがキモ。公共施設を拠点に、市民が市民に向けて交流や学びの場を提供するという点がユニークです。
“市民活動コーディネーター”として、こうした活動を行う市民団体をサポートをしている株式会社studio-Lの落合祥子さんにお話しを伺いました。
「最近徐々に参加者が増えているイベントのひとつに、子ども未来センターの芝生広場で2カ月に1度実施される『オトナリ at たちかわ』というフリーライブがあります。音楽ライブを実施したあとに、近隣の飲食店でのお得な特典も用意されているというものですが、参加者同士、さらには飲食店ともつながれるため、リアルなコミュニティができるイベントです。ほかにも、パパ同士がお酒を交えながら子育てについてざっくんばらんに語らう『パパノセナカ~男対話~』、日ごろから持ち歩く防災グッズについて考える『ライフポーチを作ろう』など、市民活動団体の皆さんのアイデアで、さまざまなプログラムが実施されています」(落合さん)
また、2014年3月には立川のライフスタイルにまつわる記事を配信している、地域密着型WEBマガジン「立川新聞」がスタート。「立川に惚れ!人に惚れ」をコンセプトに立川エリアのイベントや新店情報などを取材しています。編集長・戸田裕二さんは、東日本大震災後に地域とのつながりの重要性を感じ、広告代理店の社長をするかたわら、立川新聞を立ち上げたのだそう。ご自身も立川に住んで20年、街の魅力について次のように話してくれました。
「街をよくしたい、活気づけたいと考えている人がすごく多いのも立川の魅力だと思います。立川の人たちは、地元で何か活動したいと考えている人に対して、とても協力的な雰囲気なのを感じますね。地域のコミュニティも結びつきが強くて、住む人にとって実りある街にしたいと思っている人が多いのだと思います」(戸田さん)
街の設備やインフラといったハード面と、そこに住む人々が生み出すイベントやそれに伴うコミュニティなどソフト面の充実。その両面がバランスよく備わっている点も、立川の人気をじわじわと押し上げている要因なのかもしれません。
一方、住環境の変化も見逃せないポイント。冒頭でご紹介した駅前の大規模タワーマンション「プラウドタワー立川」や、DINKS・単身者向けのマンション「ルジェンテ立川」を筆頭に、さまざまなタイプの住宅設備が相次いで誕生。幅広い世代、ライフスタイルを受け入れる環境が整いつつあります。
昨年9月に子ども未来センターの真向かいにベーカリーカフェ併設型という新しいライフスタイルを提供してくれるソーシャルアパートメント「NEIGHBORS 立川」がオープン。ラウンジやキッチンといった入居者が集えるスペースを備えつつも、個々のプライバシーはしっかり確保。シェアハウスとアパートのいいとこ取りをしたような、ハイブリッドな住宅です。
最大の特長は、シングルの男女にとって見逃せない「食の提案」に特化している点。1階には表参道の人気ベーカリーとコラボしたテラス付きのオシャレカフェ「NEIGHBORS BRUNCH with パンとエスプレッソと」があります。1カ月の家賃にはカフェの利用料金1万2000円も含まれているというからおトク。住人同士のたまり場としても利用されています。
デパートをはじめとする数多くの商業施設がそろい都会的な雰囲気をもちながらも、国営昭和記念公園の豊かな自然環境もある立川。「ショッピング」「施設」「自然」など、あらゆる年代の人たちが満喫できるスポットをバランスよく兼ね備え、都心に行かなくても立川だけでライフスタイルが完結できるというほど、成熟した街へと進化していました。最近はそうしたスポットめがけて、逆に都心から人が訪れているほどです。
すでに優れた住環境をもつ立川ですが、その進化はまだ道半ば。今後のさらなる変化から目が離せない街のひとつといえるのではないでしょうか。
取材・文:末吉陽子(やじろべえ) 撮影:古末拓也