次にくる住みたい街はここだっ! ~向島編~

次にくる住みたい街はここだっ! ~向島~

首都の新たなランドマーク、東京スカイツリーが華々しくお目見えしたのが2012年5月。あれから2年、展望デッキへの入場ゲートには行列が絶えず、併設の商業施設「ソラマチ」も客足衰えずと、いまだ活況を呈しているようです。

下町に多くの観光客を呼び込むことに成功した東京スカイツリー。
では、そのおひざもとに広がる街は今どうなっているのでしょうか? 「スカイツリー特需」が街に発展や変化をもたらしているのか?

というわけで今回は、スカイツリー周辺の街「向島」を歩いてみました。

東京スカイツリー開業から2年。そのおひざもとを訪ねる

1958年、芝公園に東京タワーが完成し、おひざもとである浜松町や虎ノ門が発展したように、東京スカイツリーの登場によって界隈の街が活性化するのではないか?
東京の新たなランドマークには、少なからずそんな期待も込められているのではないでしょうか。

そこで今回は、スカイツリーの北側に広がる向島を訪ねてみました。向島といえば明治期には100軒以上の料理店が並び1000名以上の芸妓が常駐した花街。現在は往時の名残をわずかにとどめる、趣ある下町の風景が広がっています。

まずは、隅田川のほとりから曳舟駅にかけて歩いてみましょう。

そびえたつ東京スカイツリー。周辺の街からは、いつでもその姿を仰ぎ見ることができます
そびえたつ東京スカイツリー。周辺の街からは、いつでもその姿を仰ぎ見ることができます
周囲を川に囲まれた向島。水辺にはきれいな遊歩道も整備されています
周囲を川に囲まれた向島。水辺にはきれいな遊歩道も整備されています
一方で、昔ながらの肉屋さんや魚屋さんが並ぶ「ザ・下町」な雰囲気の商店街も。昼間は静かな通りですが、提灯がともる夕方には今晩の夕食を求める主婦の姿が見られました
一方で、昔ながらの肉屋さんや魚屋さんが並ぶ「ザ・下町」な雰囲気の商店街も。昼間は静かな通りですが、提灯がともる夕方には今晩の夕食を求める主婦の姿が見られました

そこに広がっていたのは、コンパクトな通りに肩を寄せ合う下町ならではの生活環境。仰ぎ見るスカイツリーが新しい時代を感じさせつつも、足が地に着いた昔ながらの暮らしが今も変わらず営まれているといった印象です。
少なくともここ向島には、平日でも多くの観光客でにぎわうスカイツリー直下の喧騒は、まったくといっていいほど届いていませんでした。
しかしそれは「街の変化についていけず取り残されている」といったネガティブなものではありません。街行く人々の表情を見ていても、なんというか、ゆとりを感じさせるんですよね。なお、その理由は後ほど判明します。

花街の面影をとどめる見番通り。界隈には今も料亭が残り、芸妓も存在。伝統文化を守っています
花街の面影をとどめる見番通り。界隈には今も料亭が残り、芸妓も存在。伝統文化を守っています
1805年に造成された都立庭園「向島百花園」。建物や池、石碑を巧みに配した美しい意匠と四季折々の自然がなんとも心地よい、地元のオアシスです
1805年に造成された都立庭園「向島百花園」。建物や池、石碑を巧みに配した美しい意匠と四季折々の自然がなんとも心地よい、地元のオアシスです

「空き店舗」を有効利用! 商店街の一大プロジェクト

今回、界隈を取材していて特に興味をそそられたのが、東向島1丁目から向島5丁目にまたがる「鳩の街通り商店街」。かつては花街の中心として発展を遂げ、昭和中期以降も地域密着型の商店街として下町の生活を支え続けてきた歴史ある通りです。

じつはいま、この商店街におもしろいムーブメントが起きています。商店街の中には、さまざまな事情から使われなくなった建物も数多く存在しているのですが、最近そうした空き家に区外からやってきた人たちが住み着き始めているようなのです。

空き店舗活性化に取り組む「鳩の街通り商店街」
空き店舗活性化に取り組む「鳩の街通り商店街」

そんな動きの旗振り役となっているのが「鳩の街通り商店街振興組合」。通りに目立ち始めた空き家を区内外からやってくる「新しい力」に託し、商店街を活性化させる取り組みを積極的に推進しています。例えば、使われなくなった集合住宅を商店街が一括で借り上げ、希望者に安く貸し出す「鈴木荘プロジェクト」。2008年のオープン以来、お店を開きたい若者やギャラリーを持ちたいクリエイターなどが殺到し、今もほぼ満室です。

商店街の中ほどにある「チャレンジスポット!鈴木荘」。区内外からやってきた若者が集結し、お店やギャラリーを営んでいます
商店街の中ほどにある「チャレンジスポット!鈴木荘」。区内外からやってきた若者が集結し、お店やギャラリーを営んでいます

よそ者を温かく受け入れる、オープンな下町

しかしながら、なんとなく下町というと昔ながらの地縁を大事にする一方、個人的には「よそ者には冷たい」なんてイメージもあります。じっさい、住み心地はどうなんでしょうか?

というわけで、8年前にここに移り住んできたというご夫婦にお話しを伺ってみました。ちなみに、おふたりは築90年近い建物の2階に住み、1階でカフェ「こぐま」を経営しておられます。

「カフェ こぐま」オーナーで、鳩の街の住人でもある山中さん夫婦。ここに移り住んで8年目です
「カフェ こぐま」オーナーで、鳩の街の住人でもある山中さん夫婦。ここに移り住んで8年目です

「果たして下町のコミュニティになじめるのだろうか……。最初はそんな不安もありました。でも、実際に住んでみたらすんなりと自然に入っていけましたね。新参者でも温かく見守ってくださるけど、過度にベタベタしない。その程よい距離感が、私たちにとってはすごく心地よかったです。下町というと濃密なコミュニティが築かれていて、合わない人にとっては疲れるイメージがあったのですが、まったくそんなことはありません。私たちの抱いていた下町像は、ちょっと古かったのかもしれません」(妻の明子さん)

「商売をやりながら住む、というのも良かったと思います。1階にカフェを開いたことで、最初から商店街とのつながりができましたし。それに、最初は『こんな人通りの少ないところでカフェなんて大丈夫?』と心配して気にかけてくださったり、お店に足を運んでくださったりする方もいて。当時はそうした温かい声にとても支えられました。新しく移り住んできた人たちに対して、すごく『受け入れ態勢』がある街だと思います」(夫の正哉さん)

当初の心配はどこへやら。すっかり街に溶け込んだご夫婦は、今では商店街の組合員としても活動。「鳩の街」活性化の一翼を担っているとのことです。

一方、こちらは3カ月前に向島へやってきた長谷川さん。前述の「鈴木荘」で、自転車雑貨「千輪」を営んでおられます。「ここは古いものがそのまま地元の人に愛され続けている街。それでいて、新しい人たちも柔軟に受け入れてくれる懐の深さがあります。じつは最初は外からの人間は冷たくされるんじゃないかと心配していたのですが、仲良くなったお客様がキュウリを差し入れてくれたり、本当にやさしい方が多いですね」
一方、こちらは3カ月前に向島へやってきた長谷川さん。前述の「鈴木荘」で、自転車雑貨「千輪」を営んでおられます。「ここは古いものがそのまま地元の人に愛され続けている街。それでいて、新しい人たちも柔軟に受け入れてくれる懐の深さがあります。じつは最初は外からの人間は冷たくされるんじゃないかと心配していたのですが、仲良くなったお客様がキュウリを差し入れてくれたり、本当にやさしい方が多いですね」

最近、「鳩の街」では空き家活用と商店街の活性化をさらに推し進めるべく「100店プロジェクト」を発足。現状の50店舗を倍増させる計画を練っているそうです。そのために、希望者を募って空き店舗の見学ツアーを行うといった具体的な活動もあり、新しい人の流れはさらに加速しそう。このまま新しい人が増えて商店街が活性化していけば、それを見てさらに住みたいと思う人が増える。そんな良いサイクルが生まれそうな予感がします。

東京スカイツリーの観光特需に頼らず、住民主導で街を盛り上げていく。向島の人々からは、そんな心意気を感じました。「自分たちで街をつくっているんだ!」という誇りが自信につながり、先般感じた心のゆとりにつながっているのだと思います。

心地よい暮らしを叶える、「すてきなおせっかい」

では、向島に長く暮らす人たちは、地元をどうとらえているのでしょうか? 浅草で生まれ、結婚後に向島へと移り住んできた広告ディレクターの三井千賀子さんにお話をうかがってみました。

さっそくですが、ズバリ、向島の良さって何でしょうか?

「一番はやはり人ですね。向島のみなさんは本当に穏やかでフレンドリーなんです。どのお店に入っても、店主の方が気さくに話かけてくださいますし。浅草にも長く住んでいましたが、浅草のチャキチャキした雰囲気とはまた違ったスローな下町の空気感があります。お店同士の横のつながりも強くて、ライバル店同士なのにすごく仲が良い。そうした独特のおおらかさって、たぶん昔からここに暮らす人たちがつくってきたものなんでしょうね」

前述の山中さんご夫婦もそうでしたが、誰に話を聞いても必ず出てくるのが「人が魅力的。だから心地よく暮らせる」という言葉。暮らしに便利な街はほかにもたくさんありますが、暮らしていて「心地よい」と思える街ってじつはそんなに多くないんじゃないでしょうか。人と人が穏やかにつながる向島は、そんな暮らしを叶えてくれる稀有(けう)な街なのかもしれません。

「関東大震災や東京大空襲で何度も焼け野原になったかつての下町では、人と人が助け合わないと生きていけなかった。そんな習慣がここには今でも残っていて、新しい人がやってきたときなんかでも、ついおせっかいを焼いてしまうんだと思います。それは決して押し付けがましいものではなくて、いわばすてきなおせっかいですね。例えば、東向島珈琲というお店があるんですが、新しく越してきた人がそこへ行くとマスターが地元の人を紹介してくれるんです。ほかにも『とりあえずそこに行けば、地元の知り合いがすぐにできる』っていうお店がたくさんあるので、見知らぬ土地からやってきた人にとっては心強いですよね」

「墨田区を23区で一番住みたい街に」。地元クリエイターが、まちづくりに参加

一方、墨田区全体に目を向けると、またべつのおもしろい動きもみられます。
それは、墨田区を根城に活動するクリエイターたちによる「まちづくり活動」。じつは近年、東京の東側、とりわけスカイツリーのおひざもとである墨田区界隈に、デザイナーやイラストレーター、写真家、映像作家、空間デザイナーといった若いクリエイターたちが続々と集まり始めているようなのです。感度の高い彼らは、スカイツリー誕生を契機とする「何かが始まりそうなワクワク感」に引き寄せられているのかもしれません。

じつは、先ほどお話をうかがった三井さんもそうした動きを察知していて、昨年、地元の新旧クリエイターを集めた「すみだクリエイターズクラブ」を発足。「すみだを23区で一番住みたい街にする」べく、クリエイターの力を活用したまちづくりやコミュニティづくり、さらには地元の人々に街の魅力を改めて感じてもらうための活動にも力を入れています。

例えば今年8月には「すみだ水族館」とコラボし、かつて墨田区界隈を巡り歩いたといわれる「金魚屋台」を再現。街角で金魚を展示し、道行く地元の人々に涼を届ける”出張水族館“を実施しました。

また、先日は水族館を閉館後に貸し切り、地元住民などを集めた納涼会も開催。

美しい水槽を前に浴衣でビール。これほど楽しい納涼会はほかにないんじゃないかと思うほど盛り上がっていました
美しい水槽を前に浴衣でビール。これほど楽しい納涼会はほかにないんじゃないかと思うほど盛り上がっていました

「もともとこのあたりに住んでいる人は、これまであまり東京スカイツリーやソラマチとの接点がありませんでした。そこで、水族館の中で区民が集まるパーティーができたら面白いのではないかと考えたんです。最初はまさか本当に実現するとは思いませんでしたけど、水族館サイドも快くOKしてくださって。聞けば水族館側にも『下町ともっと関わりたい、地域密着型の水族館になりたい』という想いがあったようです」(三井さん)

なお、この納涼会には当初の想定を上回る300人以上が訪れるなど大盛況だったとか。
次はどんな仕掛けで地元をおもしろくしてくれるのか? 地元クリエイターの活躍に、これからも期待したいところです。

今回、取材を通じて感じた向島の魅力をまとめると

・昔ながらの下町の魅力が残る
・向島百花園や隅田川など、癒やしスポットの存在
・観光需要に頼らず、自ら街を盛り上げる商店街
・新しい住民を受け入れるオープンな空気とすてきなおせっかい
・地元クリエイターによる「街を楽しくする」仕掛け

といったところではないでしょうか。

このエリアは、東京スカイツリーの誕生で、その近隣にも熱い視線が注がれています。
じっさい開業効果で周辺の地価は沸騰、新たな住民も増え続けていているとか。日本全体の人口が目減りするなか、2040年までに墨田区の人口は10年比0.6%に増加するという試算もあります(国立社会保障・人口問題研究所)。
また、向島エリアの最寄りにあたる曳舟駅の周辺では大規模な再開発計画があり、タワーマンションや商業施設の建設が進められているようです。

しかし、そんなフィーバーぶりの裏で流れる静かな時間もまた、この街の大きな魅力だと思います。下町の心地よいコミュニティの中で昔ながらの暮らしを営み、夏は祭りや花火を楽しむ。そして、気が向いたら東京スカイツリーにも足を延ばしてみる。そんな暮らしって、なんだかすてきですよね。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:藤本和成

公開日 2014年10月22日
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