庭が欲しいけれど敷地に余裕がない、マンションだと庭が楽しめない、と諦めることはありません。一戸建てなら屋上を、マンションならルーフバルコニーを緑化することで緑や花を楽しむことができます。わが家で屋上緑化をするメリットや補助金・助成金について紹介します。また、屋上緑化の楽しみ方などを、関東エリアを中心に造園や外構、屋上・壁面緑化の設計・施工を手掛けるビッグアイランドの堀口昇さんに聞きました。
屋上緑化とは、デパートなどの商業ビルやオフィスビル、公共施設の屋上に植物を植えること。屋上のある一般の戸建てでも施工が可能で、屋上庭園や屋上ガーデンなどとも呼ばれます。分譲マンションの場合、屋上は共用部分です。管理組合や個人で屋上に植物を植えられるかどうかは、マンションごとの規約によります。分譲マンションの居住者の場合、マンションの管理規約で禁止されていなければ、ルーフバルコニーやベランダを使った緑化は個人で施工することができます。
屋上緑化は緑の少ない都心部などでは、地球温暖化やヒートアイランド現象の緩和に効果があるものとして、期待されています。
国土交通省も、屋上緑化について下記のようなさまざまなメリットを挙げています。
・夏の暑さによる建物内の室温の上昇を抑える
・音を吸収、反射する樹木が騒音を低減する
・緑の空間が豊かな安らぎ感を生む
・身近に情操教育、環境教育の場になる
・火災延焼防止や火災からの建物の保護
・ヒートアイランド現象の緩和
・エアコンにかかる電力の低減など省エネルギーの推進
・空気の浄化
・屋上で雨水を受けることで、都市への雨水流出の遅延、緩和
・都市に自然的環境をつくり、うるおいや安らぎを生む
・下水汚泥や廃コンクリート、廃発泡スチロール等のリサイクル資材の有効活用が可能
・酸性雨や紫外線による屋上の防水層の劣化を抑制する
・熱で建物が膨張、収縮することによる劣化の軽減
・夏の断熱効果、冬の保温効果で省エネにつながる
・商業ビルなどでは屋上ビアガーデンなどへの活用が集客効果につながる
・商業ビルやオフィスビルなどでは従業員や地域住民の憩いの場となる
一般住宅の屋上緑化の場合も、規模は小さくてもこれらのメリットに貢献できるといえます。
では、屋上緑化にデメリットはあるのでしょうか?
考えられるのは屋上やバルコニーでの施工経験が少ない造営会社などに依頼した場合。壁や床に傷をつけたり、排水処理がうまくできなかったりで建物に影響することがあります。
また、植物の手入れを怠った場合に、屋上やルーフバルコニーの景観が荒れてしまい、目にするたびにうんざりすることも。自分がどれくらいメンテナンスに時間を取れるかを考えてプランニングすることが必要です。
戸建ての屋上や、マンションのルーフバルコニーにガーデンをつくる場合、どのような方法があるのでしょうか?
「プランターをきれいにレイアウトする方法と、土を置いて庭をつくる方法があります。芝は土に天然芝を植える方法もありますが、手間のかからない人工芝を使うケースも多いですね。最近の人工芝は質が良く、見た目にも自然なものが出てきています」(堀口さん、以下同)
「向いているのは乾燥に強い植物。例えば、オリーブのような常緑の高木のほか、ミスキャンタスなどの草類、紫色の花を咲かせるツルニチニチソウなどがオススメです。ホームセンターなどで手に入らない場合は、造園などを手掛ける専門の会社に依頼するのがいいでしょう」
そのほか、冬になっても葉を落とさない常緑キリンソウや、日陰でも育ちやすいタマリュウ、料理にも使えるローズマリーやミントといったハーブ類など、屋上緑化に使用できる植物はさまざまです。
緑化を推進するため、屋上緑化に対する補助金・助成金の制度を設けている自治体があります。制度の有無は自治体によって異なり、また、制度があっても施工規模、プランターが対象になるかならないかなど、自治体ごとに細かな条件があります。補助金・助成金の限度額も異なります。
例えば、同じプランターでも東京都江東区の「みどりのまちなみ緑化助成制度」の場合、プランター1基当たり容積50リットル以上が助成金支給の条件の一つですが、台東区の「台東区民間施設緑化推進助成金」の場合は1基当たり0.4m2以上と規定されています。
補助金・助成金の限度額は30万円程度が上限の自治体が多いなか、杉並区の「屋上・壁面緑化助成」の場合は屋上緑化と壁面緑化を合わせて100万円が上限です。
補助金・助成金制度の利用を考える場合、各自治体の条件をクリアする必要がありますから注意しましょう。
自治体 | 必要施工面積 | 助成金額 | 備考 |
---|---|---|---|
東京都江東区 | 1m2以上 | 工事費の2分の1まで 1m2当たり1万5000円(土厚30cm未満)円、または3万円(土厚30cm以上) ※助成限度額は30万円 |
プランターは1基当たり容積50リットル以上 |
東京都台東区 | 1m2以上 | 工事費の2分の1まで 1m2当たり2万円 ※助成限度額は30万円 |
プランターは1基当たり容積0.4m2以上 |
東京都杉並区 | 3m2以上 | 工事費の2分の1まで 個人の場合1m2当たり2万5000円 ※助成限度額は100万円(屋上・壁面の合計) |
プランターは1基当たり容積50リットル以上 |
屋上緑化で補助金・助成金を利用する場合、事前に自治体のホームページや担当部署の窓口で確認し、条件をクリアするプランで施工することが必要です。屋上庭園や壁面緑化の施工経験が豊富な地元の造園会社なら、補助金や助成金取得の条件やダンドリについても詳しいので、相談するといいでしょう。
マンションの住戸についていて居住者が専用的に使えるルーフバルコニーやバルコニー(ベランダ)の緑化の場合、居住者が補助金・助成金をもらえるかは自治体によって異なります。また、共用部分のマンション屋上に管理組合で屋上庭園を設ける場合なども対象になることがあります。詳しくは、各自治体に確認しましょう。
なお、分譲マンションの共用部分である屋上を緑化する場合、補助金・助成金を受け取るのは居住者個人ではなく管理組合です。また、施工、または撤去の際などに支払われるお金ですから、屋上緑化をしていて環境に貢献している分譲マンションの購入で補助金・助成金がもらえる、というわけではありません。
屋上緑化で気をつけたいのは「排水」の問題です。新築時や新築して間もない場合、屋上の防水処理や排水口も機能しているので心配ありませんが、築年数がたった戸建ての場合、屋上の防水工事などをしたうえで施工する必要があることも。
建物は重たくなるほど地震の際の影響が大きくなります。そのため建築基準法で、建物の種類や部分ごとの積載荷重の上限が決められていますから、屋上に重たい土を入れる場合などは特に、積載荷重に配慮したプランを行う必要があります。
「戸建ての場合は、設計図書があるといいですね。重さのあるプランターは柱や梁の通っているところに置くプランにするなど、建物への負担を軽くする配慮ができます」
マンションの場合、ルーフバルコニーもバルコニー(ベランダ)も共用部分。マンションによってはガーデニングや緑化が管理規約で禁止、制限されていることがあるため、まずは管理規約を確認しましょう。施工の工程表の提出が必要な場合もあります。
バルコニーは本来、災害時などの避難経路となっている場所です。避難ハッチをふさいだり、避難の邪魔になる大きなものを置かないこと。また、10~15年に一度の大規模修繕の際には、全てを撤去できるような施工を行う必要があります。
人工芝やウッドパネルなどをバルコニーの床面に置く場合、強風で飛ぶことがないよう、施工会社と十分相談をしましょう。プランターの設置も落下事故などを起こさないよう、フェンスよりも低い位置に限るなどの配慮が必要です。
屋上やルーフバルコニーで緑を楽しむには、メンテナンスをしっかり行うことも必要です。
大切なのは排水の確保です。プランターを置くだけの場合でも、底にある水穴から土や小石が流れないようにすること。そして、屋上やバルコニーの排水口(ルーフドレン)は、月に一度は掃除をして、排水がスムーズになるよう気をつけましょう。
落葉する樹木や花を配置した場合、落ち葉や花がらをこまめに取り除くことで、見た目の美しさを保ち、排水口のつまりを防ぐことができます。
屋上もルーフバルコニーも風で飛ばされそうな軽いプランターは置かないようにすること、パラソルや椅子、テーブルなどは使わないときにはしまっておくことが大切。広さに余裕があれば、収納できる物置を設置するといいでしょう。
わが家の屋上緑化を行った人は、どのような工夫や楽しみ方をしているのか、実際の施工例からご紹介しましょう。
休日にゆったりとくつろぐリゾートのような空間をイメージしたルーフバルコニーの緑化。タイルを張った床は、子どもがプールや三輪車で遊ぶスペースになっているそう。木製ベンチの一部は畳1枚分の広さを確保し、昼寝や子どものままごとにも使えます。背の高い樹木が周辺からの目隠しにもなっていて、よりくつろげる場所に。
ドイツ人夫婦の希望で、限られた面積のバルコニーにモダンな和風庭園をデザイン。施主が持っていた灯籠を活かし、プランターに景石(けいせき)を置くことで趣きが増しています。木製プランターには自動かん水タイマーを使用し、ドイツへの帰国中でも土が乾く心配がありません。
マンションのベランダに土や石、植物を配置したガーデン。椅子に座って眺めたときに美しいよう、植物や水鉢の高さが計算されています。フェンスにあしらった黒竹御簾垣(くろちくみすがき)を通して海を望むことができます。
「屋上緑化で大切だと思うのは、緑化をゴールにするのではなく、そこから暮らしの楽しみを広げることです。ですから、プランを考える際には、どんな暮らしをしたいのかをイメージするといいでしょう。屋上やルーフバルコニーが変化することで、新しい生活が生まれます。
例えば、下の写真はわが家のルーフバルコニー。ウッドデッキを設けたことで、テントを張ってキャンプをしたり、テーブルと椅子を置き、緑に囲まれて家族で食事をしたりという楽しみ方ができるようになりました。子どもたちは植木の陰に隠れながら、水鉄砲で対戦したりもしています。緑はきっかけで、その先に楽しい暮らしが待っているのが屋上緑化の醍醐味です」
広い屋上やルーフバルコニーではなく、数個のプランターを置いただけのコンパクトなバルコニーでも、椅子をひとつ置くだけで空間が変わります。
「椅子やテーブルには、こちらでくつろいでくださいというメッセージがありますから、小さな椅子があるだけで、『そこに座ってお茶を飲む空間』『家の中から椅子のある風景を楽しめるガーデン』になります。
屋上緑化で第二のリビングをつくる、といった表現がありますが、それほど大変なことをしなくても、何かを楽しめるイメージが形になれば良いのではないでしょうか」
自然環境や省エネにもメリットがある屋上庭園
個人の戸建ての屋上や、管理規約次第ではマンションのルーフバルコニーでも屋上庭園が楽しめる
自治体によっては緑化にかかる工事費の一部に補助金・助成金が出る制度がある
排水や土の重さなどに配慮する経験豊かな施工会社に依頼することが大切
排水口の掃除など、日頃のメンテナンスを忘れずに