家探しや家づくりで必ず目にする「間取り図」。でも、平面図だとどんな空間になるのかをイメージしにくいという人も。そこで、間取り図の見方の基本や、間取り図からどんなことが分かるのかを解説。また、建築会社に間取りのイメージを伝えたり、自分の希望が反映された間取り図になっているかを確認したりする際に、知っておきたいポイントを一級建築士の一色玲児さんに聞きました。
間取り図を見て、「おおまかな部屋のつくりはイメージできるけど、いまいち見方が分からない……」と思っている人も多いはず。でも実は、間取り図にはさまざまな情報が集約されています。まずは、間取り図から読み取れる要素をチェックしていきましょう。
「間取り図」は部屋の広さや配置、窓やドア、収納の位置などを確認できる平面図のこと。すでに完成している分譲マンションや建売住宅の場合は、物件概要と間取り図からその物件の基本的な情報を知ることができます。ゼロからプランニングしていく注文住宅や、既存の間取りプランを変更していくリフォームやリノベーションの場合は、施主と設計者が間取り図を使って家のプランをすり合わせていきます。
「間取り図をパッと見て分かるのは、部屋の位置や広さ、部屋数、収納の位置、方角、窓やドアの位置や数など。じっくり見ていくと、家族の動線や日当たり、通風などもイメージできます」(一色さん、以下同)
具体的に間取り図から読み取れる要素は、次のとおりです。
間取り図を見ると、なにやら数字が書かれています。これは部屋全体や各部屋の幅を示したもの。例えば、「タテ2700×ヨコ3600mm」と記載されていれば9.72m2、約6畳の部屋となります。
また、リビングから見てどの方向にキッチンがあるかなど、部屋の配置もつかめます。キッチンや浴室、洗面室、玄関の配置がどうなっているかで、家事のしやすさがイメージできるほか、朝起きてから身支度をして家を出るまでどこをどう通ることになるかなど生活の動線も見えてきます。日光が入ってくるのはどの時間帯か、家の中に風が通るかもイメージできるでしょう。
上記のような記号の数や位置を見ることで、窓やドアの数と位置を確認できます。「リビングは引き違い窓」「キッチンは滑り出し窓」といったように、どの記号が使われているかによって、ドアや窓のタイプまで見極められます。冷蔵庫や大型棚など、家具家電の配置を考えるうえでも役立つでしょう。
間取り図から収納スペースがどこに設置されているのか、またどの収納タイプなのかも表示で確認できます。
ここで知っておきたいのが、間取り図の書き方には厳密なルールがないこと。「記号や線の使い方、最初に提案する間取り図にどこまで盛り込むかは設計者によって違ってきます。ラフプランにドアの開閉の向きや、収納の中の仕様など詳細が書かれていなくても、プランニングをしながら決めていくことなので心配はいりません」
一方で、次の要素は間取り図から読み取りづらいので注意しましょう。
間取り図は情報の宝庫ですが、読み取れないこともあります。例えば、その空間でどれくらい開放感が感じられるかは、天井高や床面積の数字だけではイメージしづらく、窓はタテ長なのか正方形なのか、正確な形は分かりません。
例えば、下は一戸建ての間取り図の一部。赤く囲んだ「A」の部分は窓ですが、平面図では窓の幅は分かっても、腰の高さから上にある窓なのか、床から開いていて庭に出入りができる掃き出し窓なのかは分かりません。また、「B」のようなリビング階段はLDKに圧迫感を与えないか、ちょっと気になります。
「間取り図で分からない情報は建物を真横から見た図面(立面図)や、断面図で補うことができます。下の立面図は、上の間取り図の窓がある壁面側の立面図。リビングとダイニングの窓の大きさが確認できます。間取り図に書かれているリビング階段は踏み板と踏み板の間が開いていてリビングからキッチンが見えるデザイン。圧迫感がなくキッチンにリビングの窓からの光も入ります。間取り図では分かりませんが、建築会社や建築家によっては空間のイメージをCGで用意したり、模型をつくったりしますから、それで確認することができます」
ここからは、実際に間取り図の見方をレクチャーします。下の間取り図は、1階建て注文住宅の1階部分です。この間取り図のどこをどう見ると、どんなことが分かるのでしょうか。
まずは、部屋プラン全体のイメージがつかめます。この1階部分は、ほぼ正方形で凹凸の少ないシンプルなプラン。LDKは間仕切りのないオープンな空間になっています。間取りはゲストルームとLDKの「1LDK」。つまり、浴室や洗面室などの水まわりは1階にあることが分かります。
間取り図をぐるりと囲んでいるラインが敷地の境界線。隣地や周辺の道路や河川などとの境界を示すものです。これで土地の形が分かります。
Nが指すほうが北なので、LDKは北と東に窓があるプラン。午前中はリビングの東側とゲストルームの窓から日差しが入りそうです。北側も敷地が広くとってあり、その向こうは道路で、光を遮る高層の建物がなければ北側の窓からの採光も期待できます。
住戸内の間仕切りや壁の間の距離も分かります。単位は「mm」が使われています。壁の内側ではなく、壁の厚みの真ん中(壁芯)からの距離を示す数字です。
扉の位置や種類が分かります。引き戸は横にスライドさせる襖など。開き戸は扇形のラインで内開きか外開きかが分かります。この扇形の部分には家具は置けないので注意しましょう。
家の中をどう通るか、間取り図に線を書き込んでみるのがオススメ。この間取り図では、キッチンと玄関を結ぶルートが2通りあるのが分かります。また、料理をしながら洗濯、お風呂の掃除などの家事動線が一直線で同時進行しやすいこともイメージできます。
窓の位置や数、開閉の仕方が分かります。矢印が差している窓は外に開く片開きの窓です。
南側の玄関アプローチに「+0」、道路境界線に「-750」とあります。これは、庭よりも道路が750mmマイナス、つまり低くなっているということです。
提案されたプランにどれくらい収納スペースがあるか、下のように間取り図の収納部分に色を塗ってみると分かりやすくなります。必要な場所に必要な広さの収納があるかを、今の家と比べてみましょう。
方角の違う2カ所に窓などの開口部があれば部屋の中を風が通ります。窓が1カ所の場合は、室内ドアを開けたときに風の通り道があれば通風が確保できます。
注文住宅やリフォーム、リノベーションでは、希望の暮らし方がかなう家をつくりたいもの。わが家のこだわりポイントが実現できそうか、間取り図でどう確認すればいいのか、ケーススタディで見ていきましょう。
「もうすぐお子さんが生まれるファミリーのためのプランです。料理をしながら子どもの様子を見たい、キッチンカウンターとダイニングテーブルを一直線に並べたい、という要望をかなえたほか、子育て時期への配慮を盛り込んでいます」
料理をしながらリビングにいる子どもを見守るなら、対面式キッチンが基本。さらに、キッチンからAのように矢印を伸ばしてみて、壁や柱にぶつからない位置なら視界に入ります。透明の定規などを当ててみると分かりやすいですね。このプランでは、ゲストルームにベビーベッドを置いてもキッチンから子どもの様子が分かります。
子どもが小さい頃は洗濯ものが毎日大量。料理をしながら洗濯やお風呂の用意をして、と複数の家事を同時にすることになります。家事を行う場所を線でつないでみましょう。このプランのBのように間仕切りがなく、一直線、またはリビングなどを通らない短い線でつなげられれば効率的です。
キッチンカウンターとダイニングテーブルを一直線に並べたため、キッチンからリビングへ移動するときはダイニングテーブルをぐるっと大まわりする必要があります。急いでいるときなど、テーブルの角に体をぶつける心配も。「こんなふうに通れたらもっとラクに動ける」と思って書き入れた線がCです。
「キッチンカウンターを壁から離したアイランドタイプに変更。キッチン、洗面室、玄関、リビングの回遊が短い距離でできるプランにしました」
「同じフロアに段差をつけて空間をゆるやかに分けるスキップフロアや、開放感が出る吹抜けが施主の希望。コの字型のキッチンや、冷蔵庫を見せたくないという要望も実現しています」
リビングや玄関ホールなどから冷蔵庫が見えないかを確認したのがAのライン。気になる場所から直線を引いて、その直線上に冷蔵庫が配置できていれば冷蔵庫は見えません。
独立性の高いコの字型のキッチンですが、間仕切りを一部なくしてリビング・ダイニングとの一体感を出しています。Bはテレビの位置。シンクの前に立つと正面にテレビ画面があり、料理をしながらテレビを見たいという希望もかなえられています。
このプランは、リビングとダイニングに段差がついているスキップフロア。ダイニングからリビングへは段差を上るのでしょうか、それとも下りるのでしょうか。それが分かるのはCの「1F+-0」「1F-150」という表記。+-0のダイニングに対して、リビングは-150mm。つまり15cm低くなっています。
タテの空間がイメージしにくい間取り図ですが、吹抜けはDのように破線で示され、設けられる位置が分かるようになっています。天井までの高さが明記される場合もあります。
最後に、間取り図をつくるときのポイントを解説します。自分の希望するイメージを伝えるために活用しましょう。
建築会社や建築家に家づくりの希望を伝える際、自分で作成した間取り図でイメージを伝えたい、という人もいるでしょう。最近では、パソコンやスマホで簡単な間取り図がつくれるフリーソフトやアプリも多く展開されています。
間取り図作成ソフトはさまざまなものがありますが、専門知識がなくても使えそうなのは、あらかじめ用意されたさまざまな広さの部屋のパーツを組み合わせて、部屋や水まわり、収納のレイアウトのイメージ図をパズル感覚でつくっていくタイプ。家族で楽しみながら家づくりのイメージをふくらますことができそうです。
「1畳は91cm×182cmですから、方眼紙の1目盛りを91cmと考えると、2マスを1畳分の広さと考えてみます。すると、6畳の部屋なら12マス、10畳の部屋なら20マス、トイレは2マス、1坪タイプの浴室は4マスを目安にして、フロア全体のスペースにおさめていくという方法もあるでしょう」
しかし、間取り作成は実際にやってみるとなかなか難しいのだそう。
「使いにくそうな無駄なスペースができたり、構造などの制約で実現できない間取り図ができてしまったりします」
自作の間取り図は、どんな家で暮らしたいかをイメージする際のおおまかなものと考えたほうがよさそうです。
どんな間取りの家を建てたいのか、そのイメージを伝えるには、要望を書き出してみるのがオススメです。
「『広くて明るい家』などの漠然としたイメージでも、『子ども部屋はリビングの隣にしてほしい』など明確な希望でも、要望すべてを伝えていただければ、設計のプロはそれを形にしていきます。ただし、予算や広さなどの制約もありますから、要望の優先順位を決めておくことがポイントです」
家のイメージを共有するために、設計をする人と施主をつなぐツールのひとつが間取り図。家族のイメージのすり合わせにも欠かせません。部屋数や広さ以外にもさまざまなことを読み取って、理想の家を完成させましょう。
間取り図からは部屋数や配置、方角、収納など、家の基本情報が分かる
窓の高さなど、タテの空間についてはイメージしづらい
間取り図に慣れたら、家事動線や通風、採光など暮らしやすさにかかわるポイントも見えてくる
正確な間取り図の作成には専門知識が必要。アプリやソフト、手書きで作成する場合はおおまかなイメージを伝えるための間取り図と考えよう